第107:観測者、巨神をカミナリフラッシュで挫き、主神を戦場へ送る
ミツルマンの武器については27話をご覧くださいっ!
◇ 神樹の塔 第10階層
「行くわ。【記憶地層:虚空を駆ける黒石の磁殻】!!!」
ブォオオオオン……!!
「うお、浮いてる!!」
ドドンパが声を上げる。
僕達の足元に黒い土台が出現し、宙に浮き出した。
直後、マルクトが両の拳を突き出した瞬間、フゥの出した土台の下の地面が凄まじい重力でボコンとめり込んだ。
「僕達がいた座標をピンポイントでロックするだけか。本来なら自力で脱出しなければならない仕掛けなんだな」
僕は淡々と敵のギミックを分析し、即座に反撃の盤面を組む。
「ドドンパ、この土台からボスの足元に向かって【加速回路】を出せ」
「おう!任せとけ!!」
ドドンパがタクトを振るうと、僕たちのいる土台からマルクトへ向けて、淡く光る加速板(霧の道)が一直線に展開された。
「まち子、【MIN】だ!ジィサン、ミツルマン、一緒に走り出せ!」
「お任せを!【MIN】!!」
まち子が自身の質量をゼロに固定し、巨大な大楯を構えながら、ジィサンとミツルマンと共に土台の上を駆け出す。
「盾をソリにして乗れ!そのまま勢いをつけて押し出すんだ!」
「ほっほ!任せるんじゃ!」
「とぉぉぉーっ!!負けるかぁぁぁ!!」
ピカァァァッ!
走り込みの勢いのまま大楯の上へ飛び乗った軽い(MIN)まち子の背中を、STR(筋力)に特化したジィサンと、音声認識(音波入力)によって出力を限界まで引き上げたミツルマンが、ブランコを押す要領で力強く押し出す。
だがその中で一人だけ、能力を失いどうしていいか分からなくなった男は、無言で呆然と立ち尽くしていた。
ズゴゴゴゴゴォォォォォッ!!!
質量ゼロとなったまち子は、二人の押し出しと【加速回路】の速度増幅を受け、猛スピードで大楯ごと宙へ飛び出した。
「……重力(Z軸の力)が増したところで、水平(X・Y軸)の移動には関係ない。高校物理の基礎だ」
僕は弾丸のように滑空していくまち子の背中を見送りながら、不敵に嗤い解説を叩きつける。
「勢いよく飛び出した物体が、重力エリアのど真ん中で質量【MAX】になればどうなるか。純粋な慣性の法則だ。……お前の誇る『純粋な物理演算』とやらで計算してみろ」
ボスの展開する重力崩壊エリアへ突入する、その瞬間。
「【MAX】!!愛のカーリングですわぁぁ!!」
まち子の質量が、一瞬にして天文学的な数値(数万トン)へと跳ね上がる。
一度ついた数万トンの質量の水平移動は、重力エリアの圧力ごときでは決して止められない。
超質量のまち子は大楯を下敷きにした『巨大なカーリングの石』となり、沈み込んだ重力崩壊エリアの真上を暴力的な慣性で滑り抜けていく。
ドゴォォォォォォォンッ!!!
『……ゴゴ…ゴゴゴ!?』
無機質なゴーレムが、初めて驚愕したような挙動を見せた。
巨大なカーリングの石(まち子)は、そのままの勢いでマルクトの足元へ直撃し絶対的な物理の暴力で、ボスの巨大な足の指を無慈悲に轢き潰した。
まち子の直撃を受け、マルクトが大きく体勢を崩して怯み判定を喰らっている。
僕はその隙を逃さず、即座にVCをオンにした。
『まち子、聞こえるか?』
『聞こえてますわ!』
『怯んでいるうちに、足元に【極小重力崩壊】を設置しておいてくれ。
立ち上がったら起動だ』
『了解ですわ!!愛故にぃぃぃぃ!』
まち子が即座にスキルを設置し始める掛け声を出した。
「愛故に」とか言っているのはもういつもの事なのでスルーする。
「ミツルマン。お前の武器は、圧倒的な光量と炎変換だけじゃないな?」
「うん!雷だね!!!これ、少し頭でビカビカ! って思わなきゃいけないの!」
ミツルマンは「んんぅぅ」と声を絞り出して念じる。
同時に、彼の剣から青と黄色の光がまとわり付き始めた。
——【HERO System】——
【【輝石の勇者剣・凱旋k:光/雷(圧電)】
メイン属性を変更する。
「勇者よ、圧倒的な豪雷とルクスを纏え。」
『Attribute Change』……[成功]
【輝石の勇者剣・凱旋k:雷(圧電)/光】
—————————————
バチッ……!!
バチバチバチバチッッッッ!!!!!
「ふぇ!?そんな能力あったっけ?!」
「うん!最初からあったよ!でも、たたかうので使うの初めてー!」
ドドンパが疑問に思うのも無理はない。
これまでの戦闘では、彼からは圧倒的な光のイメージしか出ていなかったからな。
「ゴーレムってのは大抵『雷』に弱いんだよ。それにこれはバフじゃない。属性が元々そうなんだからな。いけ!ミツルマン!!」
「てえええええええええいああああ!」
バチバチバチッッ!!
激しい紫電を散らしながら、ミツルマンが短い足でマルクトへと真っ直ぐ突っ込んでいく。
エキシビションマッチの時からそうだ。
彼はただの小さい子供ではない。
僕達の劇団の主役……正真正銘の『勇者』なのだから。
『まち子!そろそろ体勢を戻すはずだ!
ミツルマンが突っ込んで斬る!絶対に通せ!』
僕が掛け声を上げた瞬間。
マルクトは怯みから立ち上がり、視界に迫る小さな勇者を捉え、迎撃体勢を取り始めた。
——【System】——
第十の騎士:地の番人
【全域縦波】を発動します。
——————————
無機質なシステムアナウンスに被せるように、まち子がその場を離れ、軽快な身こなしでバックステップをする。
『バンッ♡ ですわ!』
それと同時に、女神の艶やかな起爆の合図が響き渡った。
ズシュゥゥゥゥンッ!!!
『…ゴゴゴ…!?』
空間が歪み、極小のブラックホールが敵の足元の神樹の床を半球状に抉り取って消滅した。
突然足場を失い、巨大なゴーレムは激しい地響きを立てて再び倒れ伏す。
「あー!白亜の……なんとか!と同じ戦法だね!すごーい!」
シロロがはしゃぎながら指摘する通り、第2エリアで『白亜の彫刻家』をハメた時と同じ戦法だ。
純粋な物理法則のみが支配するというこの第10階層の絶対領域は、あらゆる物理法則を悪用して攻略し続けてきた僕にとってはあまりにも緩い。
「くらええええ!!バッチバチ斬り!!!!」
バチバチバチッッ!!
体勢を崩したゴーレムの巨体へ、ミツルマンの雷を纏った勇者の剣が深々と突き刺さる。
だが、勇者の猛攻はそれだけでは終わらなかった。
「まだまだぁ!ビリビリサンダー斬り!!」
ビリビリビリッ!!
「からの〜!ドカバチ雷落とし!!」
ズドォォォンッ!!
「おまけの!スーパーカミナリフラッシュ!!」
ビカァァァァッ!!
『ゴゴゴッッ……』
ゴーレムは既に焼き切れ始めていた。
「最後だあああ!ウルトラ・ライトニング・ブレイィィィィク!!!」
ドッッッッッガアアアアアン!!!!
ミツルマンが技の名前を変えながら次々と繰り出す雷属性の連続斬りが、ゴーレムの分厚い岩盤装甲を容赦なく破壊し、真っ黒に焦がしていく。
「おおおおおん……!ミツルマンんん……!一人でそんなに連続技を……!爺ちゃん、もう感無量で腰が立たんぞい……っ!」
後方では、孫のあまりにも勇者すぎる猛攻を目の当たりにしたジィサンが、感動のあまり完全に腰を抜かして泣き崩れていた。
——【HERO System】——
【輝石の勇者剣・凱旋k :雷(圧電)/光】
連続攻撃コンボを検知。(通常攻撃)
「勇者よ、見事な剣技であった。
ネーミングセンスも……カッコいいな。雷の出力は最高潮(MAX)だ。ゴーレムはもう消し炭である」
—————————————
「てやあああああああ!!!!」
バキィィィィィィィィィンッ!!!!
システムすらも呆れるほどの容赦ない追撃が、ついに絶対的物理法則の権化である『地の番人』のコアを完全に粉砕した。
《 VICTORY!!》
巨体が光の粒子となって神樹の空間へと溶け落ちていく。
そして、その光の残滓の中から、美しい結晶体がボロボロと転がり落ちた。
——【System】——
第十の騎士:地の番人の討伐を確認
『第6エリア』の帰還条件達成
▶︎ ドロップアイテムを獲得
・『狭間の転移結晶』× 10
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——【information】——
▶︎ 『狭間の転移結晶』
・第6エリアとエウレカを繋ぐ簡易転送門。
・各ポイントの狭間の石碑で使用することで、隔離エリアからの一時帰還が可能となります。
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「ミツルマンつんよ」
「ぽよ〜! 勇者かっこいいのだ〜!!」
「さすがね、鉱石王国の勇者」
「その設定まだあったんだ。忘れてたわ」
そう言えば、僕がミツルマンのやる気を出させる為にフゥを『鉱石王国の姫』とか呼んだな……すっかり忘れていた。
『わーい!オレやったよ!kおじさん見てた!?』
『ああ、最高に勇者だったな。よくやった』
ミツルマンは僕の称賛に喜びを体で表現し、倒れたゴーレムがいた場所でぴょんぴょんと飛び回ってまち子と戯れていた。
だが……一人だけは真面目な顔で、その場を静かに見つめていた。
カイザーだ。
「イオリよ。僕は……僕の戦場はここじゃ無くなったようだな」
カイザーは神妙な顔つきで、だが何かを決断したような落ち着いた声色で僕に話しかけてきた。
「そうだな。今のお前ではもうお荷物だ。残念だがここで終わりのようだ。外れてくれ」
僕が冷徹にそう言い放った、その瞬間だった。
「おい!!イオリ、お前その言い方はねぇだろ!」
激昂したドドンパが、凄まじい剣幕で僕の胸ぐらを掴んできた。
「カイザーだってこの第6エリアに入る前から一緒にやってきた仲間だろうが!!!仲間から外れろだ?ふざけんなよ!いくらお前でも……許さねぇぞ!!」
ドドンパの怒号が、このだだっ広い第10階層にビリビリと響き渡る。
「ドドンパ、いいんだ。イオリの言うとおりだ。『Arche』のスケジュールをもらった瞬間より、イオリ周りで僕の選択遅延が封じられた。だが、ここ『神樹の塔』に入ってから彼の周りだけじゃない。全てに干渉できなくなっている」
奥で騒いでいたミツルマンやまち子、そしてここにいるメンバー全員の顔がサッと暗くなる。
「つまり、僕はただのカッコいいだけの男になってしまった訳だ」
「おい……ふざけてる場合かよ……」
その瞬間、僕とカイザーは目を合わせ、不敵に口角を上げた。
「ふざけれるのには理由があるだろう?」
「は?」
「ハッハー!ドドンパよ!『僕の戦場はここじゃない』と言ったんだ!!」
「勘違いするな、『仲間』から外れろなんて僕は言っていないぞ」
僕とカイザーの笑いが混じった声に、怒っていたドドンパを含め、一同が呆けた顔へと変わった。
「ほっほっほ!カイザー君は『現実』で『運営の裏』と『父』を調べるのだろう!」
ジィサンが意図に気づき、皆へ補足してくれる。
「……おい!イオリ!紛らわしい言い方すんな!マジでキレちまったじゃねぇか……はずっ」
ドドンパが真っ赤になって、神樹内の遠くへと気まずそうに目線を散らした。
「だが、ゲーム内でのお荷物は事実だ」
「ハッハー……酷いな……。
だが……僕はここで神樹の塔の攻略組を降りよう。
僕は僕の出来る攻略をするとしよう。みんな……頼んだ」
カイザーの顔は真剣だった。
いつになく、巨大企業を背負う次期総帥『皇 雷牙』としての顔を見せた。
「ああ、完膚なきまでに攻略してやる。お前は僕の言った4つの指示を進めるんだ。現実は任せたぞ」
「あああびっくりした!せっかく勝ったのに喧嘩しちゃうのかと思ったよ……」
シロロが胸をなで下ろし、全員の間に再び温かい空気が戻る。
[16:42]
視界の端で、時刻が夕刻を告げた。
「もうそろ17時だ。今日の業務は終了とする」
カイザーが、現実の代表取締役さながらの威厳ある声で締めくくる。
「よし!明日は第9階層を攻略するぞ!」
ドドンパが高らかに宣言し、カオス・アトリエの面々が元気よく応えた。
そんな喧騒の中。
「ぽよ〜!お仕事が終わったなら、おやつなのだ〜!」
ぽよんがインベントリを開き、ご褒美の甘いお菓子を取り出そうとした、その時だった。
ドクンッ……。
彼女の腕に抱えられていた王笏の先端ロン君が、微かに、だが確かに脈動した。
——【Root_System】——
[AI_Module_Arche:Integration Ready]
▶︎ 糖分摂取を待機中……。
————————————
システムの深淵で、世界の理を書き換えるための何かが、静かに牙を研いでいた。
第107話いかがだったでしょうか?
第10階層『マルクト』撃破!!
ミツルマンの適当なネーミングの連続技。さすがは主役(勇者)です!
27話で既にカミナリ属性と書いていましたが、ここまで使うタイミングがなく……笑
元からある設定になります!
※全てスキルではなく属性の乗った剣撃です笑
そしてラスト……。ロン君の中で『Arche』が再び牙を研ぎ始めます! 次回もお楽しみに!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/14 【夜20時10分】に投稿致します!
少しでも「物理ハックえげつない!」「カイザーかっこいい!」「ドドンパいい奴!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!




