第106話:観測者、超重力に這いつくばるも、最強のシールで理不尽を強奪する
105話でも書きましたが、作品タイトル変更しました!!
物語の根幹が公開できたので、明確にしました!
◇ 神樹の塔 第10階層 [16:30]
ドドドドドドドドッ……!!
「わあ、中もすごいですね……数百人は入りそうな音楽ホールみたい。それに、なんでしょうこの音……」
ルナールが周囲を見渡しながら呟く。
僕らが中へ入ると、そこに広がっていたのは巨大な木のうろ(空洞)をくり抜いて作られたような幻想的な空間だった。
足元には柔らかな苔の絨毯が広がり、壁の幾重にも重なる葉の隙間からは美しい木漏れ日が差し込んでいる。
『神樹』と言うに相応しい光景だ。
しかし、そんな静謐な空間には似つかわしくない『何か巨大な物体が激しい衝撃を与えている様な凄まじい轟音』が、絶え間なく鳴り響いていた。
「おいおい、いきなりボスか?」
「ぽよ〜〜?!?怖いのだあああ〜〜」
「お守りいたしますわ!愛故に!」
ドドンパが嫌なフラグを立て、まち子がすかさずぽよんを庇う姿勢を取って大楯を構える。
そして僕の横では、フゥが地面にペタリと耳を当てていた。
「…………来るわよ!みんな構えて!」
「【守護大楯・黒渦】!!!!!」
シュォォォォ!
フゥの警告と同時にまち子がスキル名を叫ぶと、僕達の目の前に黒いエネルギーシールドが展開された。
「ぬぅ!【護法僧スキル:死生観・円寂】!!!!」
カァァァァン……!!
ジィサンは持ち替えていた荘厳な錫杖を地面に力強く突き立てる。
澄んだ音と共に足元へ緑色の波紋が広がり、僕達の視界の端に『Impact Buffer (衝撃吸収)』と『Last Stand (ラストスタンド)』の強力なバフアイコンが点灯した。
「おいおい……なんだあれは……」
僕の目に、信じられない光景が飛び込んできた。
巨大な岩石のゴーレムが、地面を1回、2回、3回と蹴り上げながら、重力を無視したような地面スレスレの弾丸軌道でこちらへ突っ込んでくる姿を捉えたのだ。
「大丈夫ですわ!私のシールドが皆さんをお守りいたします!!ぽよん様!貴女様には絶対に届きませんわ!」
「ほっほ!ワシのラストスタンドもあるぞい!一回は耐えれるからのぉ!どんな攻撃でも!!」
二人の頼もしい掛け声により、僕達は落ち着いてその理不尽な突進を受けることにした。
そもそも、この閉鎖空間であの巨体と速度を避けることなんて不可能だ。
例え紙一重で避けたとしても、その凄まじい質量がもたらす衝撃波だけで吹き飛ばされてしまう。
そして……。
僕達の防壁に、巨大な質量が真正面から激突した。
ドッッッッ!!
凄まじい衝撃。
だが、巨大なゴーレムはまち子の衝撃吸収シールドによって完全に勢いを殺され、鈍い音を鳴らして地面へと落下した。
「とおおおおりゃあああ!!!」
ピカァァ!!
落下したゴーレムの隙を突き、ミツルマンが光り輝く勇者の剣を振りかぶって切りかかる。
しかし、その一撃はゴーレムの表面を覆う『見えない物質的な壁』に阻まれてしまった。
ガッ!
ガンーッッ!
硬質な反発音と共に剣が弾かれる。
そして、ゴーレムは即座に立ち上がると、その巨大な体からはありえないほどの俊敏な速度で後方へとバックステップを踏んだ。
——【System】——
バトル開始:制限時間[10分]
Clan PT認証:[Clear]
PT参加中のソロプレイヤーを認証します……[Clear]
VS
【第十の騎士:地の番人】
—————————-
「なるほど、表示は3PTだが、僕達にバフがついたのはこれか……」
「ほっほ!そうだったのぉ!すっかり3PTあることを忘れておったぞい!」
ジィサンの言葉に頷く。
システムからの通知により、クラン枠とソロ枠 (ミツルマン)が戦闘領域内で統合され、僕たちがかけた全体バフが問題なく全員に共有されていることが確認できた。
「みんな一先ず2人1組で散れ!」
「……イオリ……僕は戦エナい……職業ガ無くなッタ……いや、この喋り方も、もう必要ないな……」
散開の指示を出した直後、突如カイザーがいつもの覇気を失い、素の落ち着いた声で深刻な事実を告げる。
「やはり僕の読み通りだったか……。第16スフィアで見たログは『時空剣士』のデータを吸い取っていると言う文字。あの時は50%だった。つまり、そこから5つ祠を抜けたこの場所で無くなったわけだな」
「冷静に分析してる場合かよイオリ!!次来るぞ!!!」
ドドンパの怒号が僕の耳を劈く。
巨大なゴーレム『マルクト』が両手を高く挙げる。
ドドドドドドッッ!!!
巨大な拳にエネルギーの様なものが収縮していく。
すると空気が文字通り揺れた。
その瞬間、巨腕が地面へと振り下ろされる。
「まち子!!カイザーを守れ!!!ルナール!!特大防御バフだ!!!!攻撃は捨てても構わない!!!」
「はい!!聴いてください、【BGMジャック】!!」
そしてその瞬間に、僕のパッシブスキルが発動する。
「【システム干渉観測】」
——【System】——
警告:環境BGM領域への強制上書きを検知
ジャンル設定:演歌(BPM80)
干渉レベル:エリア・ハック(環境ルール書き換え)
対象:【Chaos Atelier】、ミツルマン
・回避率+50%
・DEF(物理防御力)+150%
・STR(物理攻撃力)-200%
・MATK(魔法攻撃力)-100%
—————————-
「……堪え時だよ。拳を握っちゃあ、この荒波は越えられない」
「ルナールさん?演歌歌手?!荒波を背負った貫禄のあるベテラン歌手みたいじゃねーか……可愛い」
「打たれてぇぇも……倒れりゃしないぃぃぃ♪……あんたの力、今はその身を守るためだけに使いな。……さぁ、耐えてみせな!」
ドドンパが的確なツッコミと解説を入れる。
しかし、可愛いとはなんだったか(哲学)。
僕がそんな事を考えてる隙に、巨大な衝撃波が僕達を貫いた。
スォォォォ!!!
ルナールのバフにより、僕達のHPゲージは依然として緑。
安全域にある。
だが、攻撃力も極端に下がっているのでこちらからダメージは与えられない。
物理攻撃は、だが。
「しゃああ、みんな行くぜええ!魔法火力を持っている奴らは攻撃だ!!畳みかけろ!ぽよんちゃん!あれだ!酩酊の奴!」
「ぽよ〜〜!わかったのだ〜!【甘姫粘魔王スキル:甘い誘惑】!」
モワワワワン……。
辺りにむせ返るような甘い香りが広がる。
「観測スキルで見極める!時間を稼げ!!」
僕は冷静に状況を俯瞰し、眼前で蠢く理不尽な巨体に向けてスキルを発動した。
「【詳細観測】」
——【Log】——
【観測ログ: 解析開始】
[対象:マルクト(地の番人)]
・状態:絶対的物理法則領域
・コンセプト:物理法則そのものを守護する巨大な岩石ゴーレム。
第10階層においては「イメージ」や「意志」という不確定な要素はすべてノイズとして排除され、純粋なステータスと物理演算のみが支配する。
[時限パッシブ]
・【質量不変の原則】:
(※戦闘残り時間8分で強制起動)起動中、精神的なバフや魔法的な補正をすべて「質量」として強制変換し、無効化する。
[固有パッシブ]
・【?????】
[アクティブスキル]
・【?????】
・【?????】
・【?????】
【フレーバーテキスト】
『この領域に不確定な幻想は不要。
純粋なる物理法則のみが世界を支配する。
神に祈るな、ただ大地を踏みしめよ。』
————————
「なっ!?時限パッシブ?これはどう言うことだ……?」
[残り時間 8:52]
(残り時間8分を切ると発動し、質量に変換して無効化?
無効化じゃない理由は……考えろ、落ち着け)
[残り時間 8:45]
(バフが『質量』となってのしかかって来ると言うことか?
つまり、バフが重力へと変わり……僕らがめりこむのか……!)
最悪の演算結果に辿り着いた瞬間、僕は背筋を凍らせて叫んだ。
「ルナール!ジィサン!まち子!スキルを解除しろ!!今すぐだ!!」
「イオリ君!ワシのバフは解除できんぞい!!」
「くっ……!!」
「おいイオリ!説明しろ!!」
「解除しましたわ!」
「私も弾くの辞めました!!」
[残り時間 8:20]
無情に時間が減りゆく中、僕はできる最大限の生存ルートを思考した。
「まち子!!お前の【MIN】は人体にかけたらバフ判定か!?」
「私にしかかけられませんのよ!!バフではなく『事象』になりますの!!」
「分かった……皆…耐えろよ……!一気に体が重くなるぞ!まち子、【MIN】をかけて即座に【MAX】だ……!攻撃が来たら、できるだけみんなを守れ……!!」
[残り時間 8:01]
「【MIN】!!」
まち子が自身の質量をゼロに固定した。
そして時計の針が『残り8分』を割った、その瞬間。
僕達にかかっていたジィサンの『Last Stand』のバフアイコンが、フッと消滅した。
無効化されたわけではない。
システムによって『超質量』へと強制変換された目に見えないバフの重圧が、上空から僕たちの体を容赦なく押し潰しにかかったのだ。
さらに、ぽよんが空間に放っていた『甘いモヤ(酩酊デバフ)』までもが「スゥっ」と消え失せ、それすらも物理的な超質量となってのしかかる。
ッッッッッッッドン!!!!
「【MAX】!!」
凄まじい重力波が叩きつけられるのと同時、まち子が自身の質量を無限大へと引き上げ、強引に特異点の盾としてその場に鎮座した。
だが、まち子以外のメンバーは、まるで目に見えない巨人の足で踏みつけられたように、全員が地面へと激しく吸い寄せられ、這いつくばらされた。
「キャ………なっっにこ……れ」
「うあ゛あ゛……きっっつ!!」
「ぽ……ぽよ……」
「く……僕が何も……出来ないせいで……」
ルナール、ドドンパ、ぽよんが地面にめり込みながら呻き声を上げる。
そして、何もできないカイザーが己の無力を呪い、絶対的な物理の暴力を前に、指先を動かすのがやっとという絶望の淵の中。
「イオリ……君……私、可愛いい……?」
地面に顔を押し付けられながら、シロロが震える声で僕に問いかけてきた。
「は……?何を……。そ、そうか…ああ…お前は可愛い……最強にだ……」
だが、僕は彼女の狂気を思い出した。
そしてそれを信じ、捻り出すように肯定の言葉を返した。
キラーン♪
その瞬間、あのふざけたシステム音が鳴り響き、シロロの『カワイイ指数』が爆発的にチャージされる。
「えへへ……【私だけのシール帳♡】。カワイ……イ指数、6000…消費……」
シロロは地面に這いつくばったまま、手元のファンシーなバインダーのUIを開き、見えないシールを『空間そのもの』へと押し付けた。
「ゴーレム…ちゃんのパッシブ……石ころになっちゃ…え!!」
スゥゥ……ポトっ♪
システムの根幹を成していたはずの絶対的な物理法則【質量不変の原則】が。
可愛らしい効果音と共に、ただの『石ころのシール』と強制トレードされ、シロロのバインダーへとポトリと吸い込まれていった。
「うおおおすっげえええ!」
「ミツルマン、大丈夫かの?!」
「うん! ……シロロ姉ちゃんすげぇ!」
ドドンパやミツルマンが素直に賞賛する中、ジィサンは孫の心配ばかりだ。
つまり、いつも通り。
こいつ(マルクト)が絶対的な物理法則を押し付けてくるなら……僕達、カオス・アトリエは『いつも通り』の狂気でそれを上書きすればいいだけだ。
シロロにパッシブを奪われたマルクトは、こちらを嘲笑うかのように小刻みに揺れていた。
ゴゴゴ……!!
そして、巨大なゴーレムが再び両腕を振り上げ、重々しい構えを取る。
——【System】——
第十の騎士:地の番人
【局所的重力崩壊】を発動します
——————————
「局所的か……フゥ……隕石は吸い取ったか?」
「ええ……重力磁場を発生させることが出来そうだったわ」
僕はフゥの答えを聞いて、不敵に口角を上げた。
「みんな、集まれ。恐らく少人数か……あるいは足元か……極端な重力の集中デバフがかかる。フゥの出す地層の上に立つんだ」
「行くわ。【記憶地層:虚空を駆ける黒石の磁殻】!!!」
フゥが【霧穿ち掘削器】を力強く地面に突き立てる。
第4エリアで彼女が削り出した、数十億年の宇宙空間(微小重力)を旅してきた隕石の記憶が、今、神樹の最下層で極大のアンチ重力フィールドとして展開されようとしていた。
第106話いかがだったでしょうか?
ついに始まった第10階層『マルクト』のボス戦!
しかし、そこで大活躍したのは……カワイイモンスター、シロロ!!
「私、可愛い?」と承認欲求を満たして『カワイイ指数』をチャージしてしまう……イオリへ言う意味とは……!
物理には物理(地質学)を! 次回、カオス・アトリエの痛快な反撃が始まります!!
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/14【朝8:10】に投稿致します!
少しでも「やっと戦闘か!」「シロロつよ」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!




