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第105話:観測者、本名を明かしたIQ3に呆れつつ、雲海を貫く神樹を見上げる


◇ 現実 通話ルーム【Chaos Atelier】


「よし、最後に一つだけいいか」


 僕の言葉によって、画面越しの視線が一挙に集まる。


「ゲーム内では『ラプラスの悪魔』はワードブロックがかかった。今後は『ララ』と呼ぶ事にする」


「え、可愛いんですけど」


「可愛い……変ね」


 僕が名付けた……と言っても、ゲーム内でワードブロックに弾かれずに発言できた部分を切り取っただけだが、何故か眞島シロロ津島フゥのお眼鏡にかなったらしい。


「うるさいぞ、『シマシマコンビ』。あ、僕はトリオに含まれないからな」


 僕の先取りした防衛線にブーブーとヤジを飛ばす二人を無視し、僕は話を続けた。


「会議は終わりか?」


 カイザーの言葉にみんなの緊張がほつれた。


「ああ、もう既に19時前だ。今日は終わろう。あ、ぽよん」


「はいぃぃ何ですか……怖いんですけど」


「回復アイテム買っとけよ」


「………。分かってるもん!!このブーブーメガネ!!」


「メガネー!」


「石ー」


「そこ、うるさい。明日は……『10時出勤』だ。いいな。皇、西園寺(まち子)、手間を取らせた。小川さん(ジィサン)もすいません。では失礼する」


 

 ブチッ!


 周りに何かを言われる前に、僕はビデオ通話を切った。


「自分で言ってても恐ろしいな。運営の目論見が『ラプラスの悪魔』だなんて。笑わせてくれる」


 自室の静寂の中。

 僕が運営の真の狙いに対して嘲笑っていると、スマホが鳴った。


 ピロンっ♪

 ——【SNS】——

 カイザー種末ドドンパに連絡先をもらっていたので勝手に連絡させてもらった。

 皇:何か他に聞きたいことがあるだろう

 ————————-


「慎二のやつ、勝手に渡したのか。まぁ必要か……」


 僕は慎二の行動に呆れつつも返信を打ち込む。


 ——【SNS】——

 矢田島イオリ:ちょうどいい。泉とルイの事を。

 皇:泉は『俺もお前も俺』……父は運営だが……

 皇:表の顔は政治家だ。それも大物だ

 矢田島:誰なんだ。

 皇:オフレコで頼むぞ……『内閣府特命担当大臣』だ。

 矢田島:は?

 皇:オフ会で聞いたという会話にいた人物は泉の父かもしれない。もしくは側近

 矢田島:一人は明らかに大物の声質だった

 皇:そうか……あとルイだがシュタイン一族だ。

 矢田島:シュタイン・テクノロジーか

 皇:そうだ、トップであるルイの父も関わっている気がする

 矢田島:巨大テック、IT最大企業、内閣府特命大臣か……

 皇:ああ……組織のトップだ

 矢田島:分かった。調査慎重にな。

 ———————-


『シュタイン・テクノロジー』。


 ドイツ系の超巨大テック企業だ。

「『Archeアルケ』を開発したのも、ここか?バカだな。有能が故に裏切られているのか」


 僕の予想では、『World(ワールド・) of(オブ・) Arche(アルケ)』というゲームの皮を被った巨大量子計算機は、完成と同時にゲームとしての生命を終えるのだろう。


 要するに、『サ終』って事だ。


 つまりシステムAI『Arche』は、仮想世界の崩壊=防衛本能で運営(神)に反旗を翻したってことだ。


「いっそ僕が経営した方が良さそうだな。フッ……ないか」


 僕は独りごちながら、現実でのタスクを済ませようとした、その瞬間だった。


 ピロンっ♪

 再び、メッセージを知らせる音が鳴る。


 ——【SNS】——

 甘利 あまりしおり:あの……

 ————————


「いや誰だよ……」


 全く見覚えのない名前に眉をひそめていると、すぐに追撃のメッセージが届いた。


 ——【SNS】——

 甘利 栞:ぽよんだよ

 矢田島:は?

 甘利 栞:ごめんなさい!

 皇さんに教えてもらったの。

 矢田島:あいつも勝手に渡したのか……まぁいいが……なんだ。

 甘利 栞:私ね、オフ会の時に一方的にみんなの事見たじゃない?

 矢田島:ああ

 甘利 栞:だからイオリ君の顔知っていたの

 矢田島:そりゃそうだろ

 甘利 栞:コンビニで会ったんだ……マネージャーといる時。

 矢田島:コンビニ……

 ————————

 その瞬間、僕の脳裏に記憶のログが蘇った。


 雨の日だ。


 会社の帰りに、車から浴びせられた水飛沫で苛立ったあの日。

 冷やし焼き芋をご馳走に買った日だ。


 あのスーツ姿の女性と一緒にいた、小さい女の子か……。


 ——【SNS】——

 矢田島:思い出した。お前逃げていたな。そう言う事か。

 甘利 栞:ごめんなさいいいい

 矢田島:はぁ。

 何だそれで

 甘利 栞:謝りたくて。逃げてごめん。

 矢田島:そんなことか。いい別に。

 甘利 栞:うん。それだけ。ぽよ〜!

 矢田島:回復アイテム

 甘利 栞:分かってるってばー!

 ————————


「皇が言いかけた『甘っ』は、甘利か……。Vtuberの癖に何本名晒してんだ。僕が流す危険性を考えろ。やっぱIQ3だな」


 僕は一人で呆れたように悪態をつきながら、明日に備えたタスクを開始し、早めの就寝をとった。



[7:10]

 翌日。

 本来の出社時間前に起きると、会社から一通の連絡が入っていた。


 内容は、『次世代VR事業の特別検証チーム』への招集で僕が呼ばれているというもの。


「皇……あいつ、マジだな……」


 既に根回しと連絡が入っており、本当に「このゲームをプレイすること=業務」として世界の理が書き換えられたらしい。


「集合時間までまだ時間があるな……寝るか」


 僕はそれをいい事に、アラームを再設定して二度寝を貪り、集合時間を待った。


 そして……時間ギリギリまでぐっすり寝た僕は、起き抜けにヘッドギアを被る。


出勤ログイン


◇ 第6エリア タヴの町 [9:55]


 僕はタヴの町の宿屋で目を覚ました。

 ロビーへ出ると、もうメンバーが集まっていた。


「てーーーい!」

 ピカァッ!


 今日も変わらず、ミツルマンの武器の音声認識は絶好調の様だ。


「kおじさんおはよう!オレね、特別だからゲームしていいんだって!」

「そ、そうか。すごいな……」


 どうやら、本当に全員分の手配をやったらしい。

 あのバカ御曹司の凄みを改めて感じる。


「ハッハー!行くゾ!イオリk!!」

 昨日の、あの大企業の社長の威厳に満ちた声はどこへ行った。


「ぽよ〜〜!今日はおやつ食べていいのだ〜〜?!」

 こいつもだ。


「ダメだ、行くぞ」

「ぽよ〜!?!?!」


 僕は理不尽に嘆く魔王を無視して皆に声をかけ、昨日到達した第16スフィアへと移動した。


 ◇ 第16スフィア

 ——【System】——

 ▶︎ アイテム消費:『枯れた樹の枝』 × 1

 ▶︎ クラン残り:[29個] / ミツルマン残り:[23個]

 ——————————

 ——【Inventory】——

 ▶︎ 『空白のアルカナ大』×13

 ———————————

 昨日のドロップ1個と、あの怪しい国勢調査アンケートの報酬10個分が加算されたため、だいぶ余裕が生まれた。

 だが、ぽよんがまた何をやらかすとも限らない。


 目標のアルカナは残りあと1個。


 そして、これまで各スフィアを抜けるのに使用した数は30個。

 塔に入るのにも1個必要だとすれば合計44個だが、どうなるか。



 そして、気になることがもう一つ。

 ロン君が『寝マカ』な事だ。


 もしかすると、次の接触の前触れかもしれない。


 今は進むことが大事だ。


Archeアルケ』、待っていろ。


「鈴と天球儀のスキルを使って、今日は一気に第22スフィアへ行くぞ」

「おう!指揮してやるぜ!」

「ああ」


 そこから僕は、【事象の強制収縮】に伴う脳が焼き切れるような痛み(ブレイン・ラグ)に耐えながらも、ひたすらみんなと共にスフィアを駆け進んで行った。


 第18スフィアで中ボスから『空白のアルカナ』がドロップし、これで必要個数も貯まった。


 途中で昼食を取り、転送用の枝をそれぞれ1個消費。

 再度攻略を進め、ついに僕たちは最奥である第22スフィアへと到着した。


◇ 第22スフィア [15:40]


「わ……あれ……」

 ルナールが、空を見上げながら呆然と呟く。


 僕達の進む先には、今まで見たこともないような、雲海を突き抜けるほどの圧倒的な大きさの『神樹』がそびえ立っていた。


「あれが、セフィラだな」

「ぽよ〜」

「てっぺんが見えませんわね……」

「わぁ、すごい……ここから10部屋?もあるんだよね?」


 ぽよん、まち子、シロロがそれぞれの反応を見せる中、僕は静かに頷いた。


「ああ。第10のセフィラ『マルクト』から始まり、『ケテル』で終わる……それがセフィロトの樹だ。しかし、ジョウナンから聞いた通り『ダアト』と言う……」


 僕は言い方を考えた。


 どうせ、宗教やカバラの難しい概念を説明しても分からない連中が多いからな。


「……裏ボスがいるかもしれない」


「カッケー!裏ボス!カッケー!」

「ほっほ!ミツルマンはそういうの好きだのぉ!」


 僕が極限まで噛み砕いて説明すると、ミツルマンはその響きからか「カッコいい」と興奮して目を輝かせた。

 


「ここからは、アレを目指すだけだ。ミツルマンのタイムリミットも迫っているが、マルクトくらいは突破したいものだな」


 僕達は神樹を目指し、ただ真っ直ぐ突き進んだ。


 第22スフィアにはエネミーがおらず、ひたすらに神聖な雰囲気を纏っており、辺りには青白い小さな光の玉がフワフワと浮いていた。

 地面は青く、空は夕暮れ。

 無機質なデータと物理法則でハックし続けてきた僕でさえ、ここがファンタジーの世界だと言うことを再認識させられるような、あまりにも美しい境界だった。



「ハッハー!僕様の器くらイ広いナ!神秘的ナのモ僕様ニそっくリダ!」


「だが、遠そうだのぉ……」


「ぽよ〜〜!ロン君起きるのだ〜〜!いい景色なのだ〜!」


 カイザーが両手を広げて大仰に笑い、ジィサンが遥か先を見据えて目を細め、ぽよんが寝マカ状態のロン君を揺さぶって起こそうとする。


 そして……。


 僕たちは、ようやく神樹の根元へと到着した。


 入口と思われる部分には『狭間の石碑』が立っている。

 これまでのスフィアにあったものより、少し大きい。


 予想外に時間を食わされた。

 視界に捉えてから実際に辿り着くまでの距離が、あまりにも凄まじかったのだ。


 追いかけても決して追いつけなかった幼少期の太陽。


 山影を捉え、車を走らせても一向に近づかない青年期の徒労感。


 あるいは、横浜駅から新横浜駅までを「同じ地名だから」と舐めてかかり、延々と続くアスファルトに絶望するあの徒歩移動。


 そんな感じだ。


 巨大すぎるオブジェクトは、時に遠近法さえもハックし、歩数という物理的な数字だけを非情に突きつけてくる。


 だが、その『距離のバグ』こそが、これから登るこの塔が世界のシステムを越えた存在であることを証明していた。


「やっとついたーーーーーー遠すぎ!可愛くないね運営」

「この狭間の石碑、少し大きいわね……削っていいかしら」

「あーーもう無理、くそだくそ」

「きついのぉ……」

「心音が汚くなりました」

「あらあら、私は【MIN】で調整しているのでほぼ疲れていませんが……皆さんにはきつかったですわね……愛故に」


 カオスだ。

 それぞれの感想がカオスだ。

 まち子の『愛故』はもう意味わからんが無視だ。


 僕は神樹の扉に手をつけた。

 ここには、精神の防壁はないらしい。


 ——【System】——

 セフィロトの神樹

 第10階層へ侵入するには


『空白のアルカナ大』×1が必要です。


 使用しますか?


[YES/NO]

 現在の所持数[1個]

 ————————


「ミツルマン、せーので使用するぞ」

「うん!!」


「「せーの」」


 シュ……!!


ギィィィィィ!!


——————

『ラプラスの悪魔』を破壊する為の最初の一歩。

世界の理を根底から喰い破るための、重厚な扉が開く音がした。


第105話いかがだったでしょうか?


ついに明かされたぽよんの現実の素性! その名も『甘利あまり しおり』。

この名前が今後どんな意味を持つのか……ご期待ください!


ついに神樹の扉に手をかけたイオリたち。次回、未知の階層への攻略戦が始まります!


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜

3/13【夜20時10分】に投稿ハック致します!


少しでも「ぽよんの本名可愛い!」「横浜から新横浜は歩くもんじゃない(笑)」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!


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