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第104話:観測者、現実の権力でプレイ環境をハックし、0.1秒の恐怖を語る


◇現実 通話ルーム【Chaos(カオス・) Atelier(アトリエ)会議】


『僕が……僕が父を弾劾する』


 カイザーが言ったこと。


 つまりは、実の父を会長の座から引き摺り下ろすということだ。


 並大抵の覚悟では、自分の会社を、それも自分の父親に対してそんな事ができる訳ではない。

 僕が言おうとした事の全て察した皇は……一人の息子として、そして世界を担う一角の大企業の次期総帥として、この世界(現実)を守ると決断したのだ。


 そして……。


 皇は「少し失礼」とだけ言うと、懐から何かを取り出した。

 彼が手にしたのは、裏面に『皇グループ』の紋章が鈍く彫り込まれた、一切の継ぎ目がない一枚の黒曜石のような特注のスマートデバイスだった。


「はぁ……素敵なスマートフォン……」


 津島フゥのブレない石への感嘆に、全員が内心で「スマホでもいいのかよ」とツッコミを入れたに違いない。


「僕だ。すぐに『第零監査室』をこちらへ。それと、『双鴉カラス』を飛ばす。二人を待機させておくんだ。ああ、頼む」


 それだけ言うと、皇は電話を切り、画面越しにこちらへ向き直った。


「第零監査室……会社の部署か?随分物騒な名前だな。それにカラス……フギンムニンか」

 

 ゲーム内のあの超絶ダサいポーズからなる、思考を読みキャンセルする技。

 あれは北欧神話のオーディンが使役する2羽のカラスだが、まさか現実でも使役しているとはな。


 僕がフッと笑って問いかけると、皇は淡々と答えた。


「監査室は、表向き社内の不正を監査する部署だ。だがさっきも言っただろ、基盤を構築していると。つまり僕の直属のチームだ」


(こいつ、次期総帥としてちゃんと自分の組織(手駒)を構築しているんだな……それとも、親を元から信用はしていないのか……)


「うお……映画みたいだな……」


 僕が感じたまんまの評価を胸の内に飲み込む中、慎二ドドンパが素直な感想を漏らす。


「カイザー、泉とルイの事……話しておいた方がいいんじゃないかしら」

「泉?ルイ?」

「俺もお前も俺と、無為の事だ。だが、今は他にやる事がある」


 西園寺(まち子)が見知らぬ名前を口にすると、皇は僕の疑問に短く返し、真面目な……大企業のトップとしての顔を見せる。


 そして、手元に何かの資料を持ち、読み上げるように僕たちを呼んだ。


「イオリ。いや、矢田島、種末、眞島、津島。だったかな」


「ん……」

「は、はい!」


 僕が小さく応じ、眞島シロロ津島フゥ種末ドドンパの三人が緊張した声を上げる。


「君たちは、僕のグループの末端会社の社員だったな……身を粉にして働いてくれていることは知っている。という程で行く。そんな君たちに僕からのプレゼントだ。……ただの有給じゃない。君たち4人を『次世代VR事業の特別検証チーム』へ一時的に引き抜く手配をする。つまり、今この瞬間から、このゲームをプレイすること自体が君たちの『業務』だ。給料をもらいながら、堂々と遊んでくれたまえ」


「「「「は?」」」」


 僕らのアホ面を完全に無視し、皇は手元を見ながら話を続ける。


「小川氏。お孫さんの通う小学校は『皇小学校』ですね」


「ほっほ……そうだの……この短時間で調べたのか……。恐ろしや」


「皇グループが極秘に進めている『次世代VR教育プログラム(という名目)』のモニター特待生として、ミツルマンを名指しで指名しました。今日から公休です。親御さんへは……説明する人間を送るので打診しておいて頂きたい。プレイ環境の部屋を用意しましょう。しかし、17時には必ずご自宅へお送りします」


「ほっほ!孫と昼間からゲームしてもいいんだの!」


 小川さん(ジィサン)は皇の強引な流れを瞬時に理解し、かつ自分の楽しみが増えたと豪快に喜んでいる。


「琴葉」


「は!ひゃい!」


 皇の圧に圧倒され、音羽ルナールの声が裏返った。


「僕の『カラス』が明日の朝、大量の楽器を欲しがるらしい。……心配しなくていい、琴葉。君の店は明日、皇グループの特需で在庫が空になり、君は強制的に有給だ。さらにその楽器は、君のもう一つの勤め先……特別臨時教師だったな。『皇中学校』へ特別寄付として送りつける。音楽室は機材の搬入で立ち入り禁止だ。……僕のグループで働く君たちへの、ささやかなボーナスさ」


「ふぇ?」


 素っ頓狂な声で肩をビクつかせる音羽をよそに、皇は手元の資料を見ながらさらに話を続ける。


「甘っ……すまない。眞島と西園寺は何も聞いていない。そうだな?」


 ぽよんの現実の素性を知らない配下2名が、ブルブルと首を横に振る。


「ぽよん、君の所属する事務所に皇グループをメインスポンサーとした、アルケの特大案件を、桁違いのギャラでねじ込もうと思う」


「案件!?ええ……確かにそんなのが入れば、私は自由におやつを……」


 皇は、現実の圧倒的な立場と財力で、全てを強引に……物理的にハッキングすると宣言したのだ。


「お前、正気か?」


「確か、『ハニ』から借り受けたアイテムの鈴は、来週の日曜日までには返却せねばならないのだろう?」


「それはそうだけど……大企業の歯車の一端でしかないと感じさせられるな……」


 僕が呆れ半分で問うと皇は涼しい顔で返し、慎二の痛切なぼやきに、社会人組の僕たちが深く頷いた。


「まち子。君は……大丈夫だな?」


「ええ、仕事はあるけれど個人事業主ですしね。大丈夫ですわ」


 西園寺が答えると、皇は手元の資料にペンでメモを書き加えていく。


 これまでの内容を全て直接文字で書いているのだろう。

 デジタルなデータでは、運営側に抜き取られる可能性があるからだ。


「では、みんなそのつもりでいてくれ」


 皇がそう言った直後、彼の背後に映る重厚な扉がノックされる音がした。


「社長」


「入れ」


「失礼します」


「阿久津。父の……会長の個人資産や金の流れは調べられるか?」


 阿久津と呼ばれた男は、40代前半かそこら。

 黒い高級そうなスーツを完璧に着こなしている。


 こいつが、第零監査室とやらの室長といったところか。


「可能な限りは」


「後ほど、明細な指示書を出す。少し待て」


 そう言うと、皇は画面越しの僕を見る。


「イオリ、父を弾劾するのに必要な項目を、教えていただきたい」


「1,000億という公開資本金の他だな。

まずは、資本金の外側で動いている、実質数兆円規模の『闇の送金ライン』。

『ラプラスの悪魔』というワードのコンテクスト調査。

そして、こんな馬鹿げたゲーム機構を作った技術力の提供元『運営会社と外部協力企業』への技術的な逆アクセス調査。最後に、会長の『非公式な接触相手』の徹底尾行、といったところか」


「あー呪文!可愛くない!」

「ぽよ〜……」


 僕がスラスラと列挙すると、眞島とぽよんが即座に思考を放棄した。

 こいつらは全く緊張感がないな。


「阿久津、聞いたな?」


「はい」


「やれ。金はいくらかかっても構わん。僕の個人口座から使え」


「は。畏まりました。使用した額、および調査内容の報告を致します。経過報告は社長がご在宅の時に直接。でよろしいでしょうか」


「ああ、頼むぞ。それと『双鴉カラス』だが、この指示書通りに手配させろ」


 阿久津は資料を受け取ると、深く頭を下げて部屋から出ていった。


「映画みたいだな……」


 お前はそれしか感想がないのか。

 僕は慎二の語彙力に内心でツッコミを入れた。


「よし、みんな……皇のおかげで、僕たちは勤務しながら『Archeアルケ』の依頼……まだ直接的にされたわけじゃないが、誘導されている真実を追うことができるようになった」


「ねぇ、イオリ君。もしかしてなんだけど………さっきバザーって言ってたよね?ゲーム内の冒険者バザーだよね」


 ぽよんにしてはよく分かっているなと思いながら、僕はその意外な質問に答えた。


「ああ……あの『冒険者バザー』のシステム。

……経済を支配すると言うのが目的なら、非常に理にかなったデータを得られるだろう。

 僕や小川さんが起こした『回復強化アイテム』や『SPスキル』の商材を利用した経済ハック。

 あれで起きた人間の感情、心理的飢餓感、それによる市場の動向。……このゲームは何千万人のユーザーがいる。

 日本だけじゃない。運営は『VRMMO』で人を一挙に集め、莫大な先行投資によるゲームの開発、『365日のLIVE配信』のインフラ、戦闘データ……システム的に生成されるクエスト……そしてこれ以外の全てのデータもだ。それを使用した巨大な量子計算機として利用する」


 僕の提示した世界のスケールに、全員が押し黙る。


「つまり『World of Arche』はゲームではなく、そのものが『擬似的ラプラスの悪魔』として運用するつもりなんじゃないかと言うことだ」


「そのよ……難しくてわからんけど、その、結局『擬似的』ってことは、さっきお前の言っていた100%の未来予測はできないんだろ?じゃあ、何ができるんだ?」


「ほっほ……『世界経済を0.1秒先まで読める』が、最大限の可能な範囲だのぉ……」


「え?たった0.1秒?何ができるの?」

「やばいわからんけど、0.1秒はやばいのか?」


 慎二と眞島がピンと来ていない顔をする中、小川さんが投資家としての重い声を響かせる。


 30年の実績を持つ彼は、金融の世界においてその時間が何を意味するのかを完璧に理解していた。


「いいか、慎二。現代の金融市場マーケットはな、人間がクリックして売り買いしてる場所じゃない。AIとアルゴリズムが『ミリ秒』単位で殴り合ってる鉄火場だ。

 0.1秒……100ミリ秒っていうのは、その世界じゃ『因果律』を支配するのに十分すぎる時間なんだよ」


 慎二が分かっているかは定かではないが、僕は構わず話を続ける。


「例えば、誰かが巨額の買い注文を出そうとしたとする。その信号がサーバーに届くまでのわずかな隙間に、システムは0.1秒先の『値上がりした未来』を確定させ、先に全ての在庫を買い占める。

 注文が届いた時には、もう価格は吊り上がった後だ。これを全世界、全銘柄、全通貨で同時にやられたらどうなると思う?」


「世界中の富が、呼吸をするたびに、合法的に、一滴もこぼさずこのシステムに吸い取られていくな」


「そう。全人類がどれだけ努力しても、この『0.1秒』という壁に突き当たって、この組織が許可した価格プライスでしか富を手にできなくなるんだ。

 それは経済予測なんて生易しいものじゃない。人類の『経済活動』という自由意志を、ただの集金装置に書き換えるってことだ」


 皇が補足し、僕が結論を叩きつけると、琴葉が困惑した声を漏らす。


「えっと、なんとなくでしかわからない……簡単にいうと?」


「世界中を相手に、株価が動く『0.1秒前』に必ず後出しジャンケンをされるってことだ。投資の世界じゃ、その一瞬があれば、文字通り国を一つ買い叩くのに十分すぎるんだ」


「……左様。投資家からすれば、それは魔法でも予知でもない。『確定した略奪』以外の何物でもない……と言う事だの」


 僕の噛み砕いた解説に、小川さんが深く、重々しく頷いた。


「イオリ、君だったのか。あの『透明な樹液』や『曇り羽根』の大暴騰事件」


「第5エリアの『凝固点降下』攻略法を編み出し、市場の『氷砂糖』と『岩塩』の大暴騰も、マスターイオリの仕業だと知った時に気づくべきでしたわね……」


 二人が思い出したかのように告げる事実は、全て僕と小川さん、そして広報的にぽよんが起こした行動だ。


 つまり……。


「僕は、運営……もといその組織の思惑通りに、しかも現実的にあり得る最高の素材データとして提供してしまったと言うことだな」


 正直、ここまで大掛かりな事案だとは思わなかったが、自分の行った『正解』の行動は皮肉にも運営の計画を助長したんだ。


 全く、僕も最近の数々の失態に加え、とんでもないやつだな。


 自嘲的に「はぁ」と、思わずため息が出る。


「でもよ、起きたことは仕方ねぇ。俺らはゲームを楽しんでただけだしな」

「そうなのだ〜!おやつ美味しいし!」

「そうだよ!可愛くしたかっただけなのに!」

「でも、隕石や鉱石、地質。全て私の心を満たしてくれたわ」

「私の音楽で、タヴの町の人たちが笑っていましたっ!嬉しかったなぁ」


 慎二のフォローを皮切りに皆が続けるが、少し方向性はずれている。

 だが、その通りだ。


「そうだ、僕たちはゲームをしながら、運営の目論見を破壊すればいい。泣かせてやるさ」


「僕の会社も痛い打撃を受けるがな……ハッハー……」


 僕の決意に皇……主神バカが泣く。


「明日から、全力で攻略しますわ!愛故に!重さで!」


「孫とゲーム時間が増えるぞい!!ほっほっほ!」



 ——-

 現実の財力(権力)と、一切ブレない狂気。


 すべてを味方につけた僕たち『カオス・アトリエ』による、システムの裏側(ラプラスの悪魔)を根底からぶっ壊すための『真のお遊戯会』が、今ここに幕を開けようとしていた。

第104話いかがだったでしょうか?


ところで、100話を突破し運営の目論見も明るみになってきたので

この作品のタイトルを変えようと思います!!


【365日ライブ配信を監視し続けた僕は至宝を蹴り飛ばす】〜運営が企む『ラプラスの悪魔』破壊〜


に変わります!!!

この104話の投稿がされた後に変更しますっっ!!

以後も「至宝蹴り(しほけり)」をよろしくお願い致します。



ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜

3/13【朝8時10分】に投稿ハック致します!


少しでも「カイザーの権力エグすぎ(笑)」「0.1秒の略奪怖すぎる……」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!


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