表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
104/127

第103話:観測者、魔王の専門知識に論破され、インフラの異常性から『悪魔』の真実を語る


「運営は、『ラプラスの悪魔』を作ろうとしているんじゃないか?」


「え、ごめんわからない!!」

「イオリ君、これから説明することはその……噛み砕いてね?」


 僕が運営が隠し持つ最大の禁忌を口にした途端、眞島シロロが即座に白旗を上げ、津島フゥが念を押すように先手を打ってきた。


 カイザーや西園寺(まち子)たちの現実リアルの姿に驚きながらも、僕は思考を強引に引き戻し、淡々と解説を始める。


「ああ、分かっている。まず、『ラプラスの悪魔』についてだ。物理学の理論で……この世の全ての原子の動きを計算できる知性がいれば、未来は100%予測できるという……」


「イオリ君?」


「……チッ。要するに、『何千万人の性格や行動パターンを全部データ化して計算すれば、未来の出来事を100%当てられるシステム』だ。奴らはこのゲームで、それを作ろうとしているんじゃないか」


 津島の冷ややかなジト目に屈し、僕は舌打ちを挟みつつ極限までレベルを下げたロジックを提示した。


「未来予測のシステム……?いやいや、いくら何でもただのゲーム会社がそんなヤバいもん作れるわけ……いや、待てよ。そういえばこのゲーム、正式リリースする前に365日ぶっ通しでLIVE配信やってたよな……?あれ、どんだけ金かかるんだ?」


「ほっほぅ。……普通のゲーム会社ではあり得ん。裏に『それだけ途方もない金を出せる大元のスポンサー』がおるかもしれんのぉ」


「………」


 慎二ドドンパが常識的な疑念からインフラの異常性に気づき、小川さん(ジィサン)が裏の巨大資本の存在を嗅ぎつける。


 そんな二人の推測を聞きながら、先ほどまで笑っていたはずのカイザーだけが、一切の表情を消して深く沈黙していた。


「はい……。お前たちも知っているように、リリース365日前よりLIVE配信をしていたこのゲーム。定点カメラの台数を知っているか?」


「えっと、分かんないや」

「始まりの町エウレカですら、20台よね確か」


 眞島は相変わらずだが、津島の記憶力は正確だ。


 僕が監視し続けた異常なインフラデータを開示しようとした、その時だった。


「えっと……もしもし……」


 通話ルームに、いつもの脳が溶けるような魔王ボイスではない、少し緊張した様子の、等身大の可愛らしい少女の『素の声』が響いた。


 ここまでずっと黙っていたぽよんの声だ。


「あ、ご、ごめんなさい!シロロちゃん、まち子ちゃん!

……イオリ君がWi-Fi切れって言うから……スマホの回線じゃPCのボイスソフト通せなくて、声が違うの!!中身はぽよんだよ!」


「ええええええええ可ぁぁぁ愛いい良い」

「ああああああぽよんさまあああああ」


「ファンの人がいるのに、ほんとごめんなさい!!!」


 黙っていたカイザーを含め、全員が口を開けてポカンとする中、眞島と西園寺(まち子)の絶叫が響く。


「ぽよん様可愛い!!すごく良い声です……」


「いや、まち子姉さんだなやっぱ。見た目MACHIだけどさ……」


「魔王ぽよん・ルル=ルシファリウスの深淵を覗いても尚、いつも通りね二人とも」


 琴葉ルナールが素直に感嘆し、慎二が呆れ、津島がやれやれと息を吐く。


(ん……?この声どこかで……現実で会っている?

 いやそんなことは……)


 僕は一瞬だけ考えたが、思い出すことはできなかった。


 今は思考を散らすべきではない。

 ノイズを振り払い、僕は画面越しに頭を下げた。


「……Vtuberとして今まで守ってきたものを壊して申し訳ない。この通りだ」


 僕が強いた制限のせいで、彼女が守ってきた『Vtuber』の矜持を壊してしまったからだ。


「ほっほっほっほ!珍しいものを見れたわい」


「上司にも形だけの謝罪しかしないか、徹底的に論破するのにね」


「明日、隕石降るぞ」


「降ってほしいわ!そしたら生で私のものに!!!」


「文華ちゃん、相変わらずだね……」


 素直に謝る僕に小川さんが笑い、眞島と慎二が気味悪がる。

 津島はブレずに隕石を求め、琴葉ルナールが引きつった笑いをこぼした。


「しょうがないよ!!でもおやつは好きだよ!大好き!」


「「推しが尊いです(わ)」」


 ぽよんのフォローに、限界ヲタク二人が再び昇天する。


「ああ……すまないが話を続けるぞ」


 僕の低い声に、皆が押し黙った。


「定点カメラだが、始まりの町から第3エリアまで、20台ずつ。第4エリアが5台だ」


「そんなあったのか」


「ほっほ、ざっと計算しただけでも数百億はかかるのう」


「ええ……今考えてみれば、おかしいにも程がある。このゲームの運営会社の公開資本金は1,000億円だ。そして、プレイヤーから取っているのは『パッケージ代の14,800円』と『月額5,000円』の利用料のみ」


「買うときちょっと高いと思ったけど!!」

「買うか悩んでたものね、眞島ちゃんは」


 二人の私語を切り捨て、僕は話を続ける。


「一般のゲームなら大儲けだろう。

……だが、計算シミュレートが全く合わない。

僕はリリース前の365日間、85視点高画質定点カメラを監視し続けた。

あれを世界中に遅延ゼロで配信し続けるグローバルCDN(データ転送量)だけでも、年間数百億は下らないはずだ」


「えっ、ちょっと待って。85視点監視って言われたらイオリ君だしなってなるけどぉ……。

そのグラボ(GPU)、業務用……ワークステーション用のやつだよね?

私たちVtuberが使うハイエンドモデルでも、せいぜい3〜4画面が限界だよ!!

85ストリームを同時にコマ落ちなしで映すなんて、同時デコード支援機能がバグってるレベルの変態スペックじゃなきゃ無理!きもい!メガネ!!」


「何を言って……あ……」

 

 失態だ。

 スマホでビデオ通話に入っていたため、自室のPC環境が画面に丸映りになっていた。

 致命的な人為的ミス。


「後ろに見えてるルーター、それデータセンター用のやつでしょ!?

4K配信を85本同時に受信したら、普通のギガ光回線なんて一瞬でパンクするんじゃないかな……?

専用線引き込んでるの?電気代と回線代だけで月いくら飛ぶの……」


「ぽよんさん?ゲーム内のロールプレイから外れすぎてません?てか詳しいね?!」


「ほっほっほ!さすがは登録者100万人の『いんふるえんさ』だのぉ!」


「インフルエンサーですよ、お爺ちゃん。伸ばします最後」


 慎二が引きつり、小川さんが笑い、津島が冷静に訂正する。

 

「ああ……ごめん……そうだよね……バカって思われてるもんね……でもね、最後に一つだけ。

 横のラックに積んであるストレージ・アレイ……。

 Vtuberの数年分の配信アーカイブを全部合わせても、その1段分にも満たない気がする。

 365日分の85視点データを保存してるなら、数百テラバイト(TB)級のNASの要塞だよね、それ。個人で買う額じゃないよ……」


 全てを的確に指摘された。

 

(……チッ。本音を言えば非圧縮(RAW)データでペタバイト(PB)級の要塞を組みたかったが、数千万〜億円する。流石に一般サラリーマンの財力と自室の床の耐荷重では数百テラバイトが限界だったんだ)


 よそから見れば、僕のこのLIVE観測用の部屋は異常だ。しかも機材でギュウギュウだ。 まさかぽよんにここまで体勢を崩されるとは思いもしなかった。


「うるさいぞ、ぽよん! Vtuberとしてどれだけ機器の知識を持っていようが僕を負かそうとするな!!」 


「ぽよ〜〜!人間kや……お婆ちゃんにそんな言い方しないでも良いんじゃないかのぉ……」


 以前、第4エリアのモグラ嬢戦で喰らったデバフ「おばあちゃん化」のロールプレイを盾に、見事に誤魔化しに使ってきやがった。


「きゃあああ、ぽよん婆様!」

「はぁはぁはぁ……最高ですわ」


「カオスだなもう」


 歓喜する眞島と西園寺(まち子)に、慎二が呆れ果てる。


「ああ、うるさい。本題に戻るぞ!!」


「イオリさんが負けてるの面白いですねっ!」

「録画しておきたかったわ」


 琴葉ルナールと津島の追撃を舌打ちで切り捨て、僕は強引に場を制圧した。


「チッ。進めるぞ。さっきの話の続きだがな。

数千万人のプレイヤーの思考と物理演算を遅延ゼロで処理し続ける独自の量子サーバーの開発と維持費、莫大な電力費。

……初期の14,800円と月額5,000円の収益 でペイできるわけがない。資本金1,000億円なんて、インフラの初期投資と維持費だけで数ヶ月でショートする額だ」


 回収できる額ではない事自体が、企業として、商品として成り立たない。

 これは道理だ。


「このゲーム会社はただの表の顔だ。カイザー、『俺もお前も俺』の父親は運営のお偉いさんと言ったな」


「ああ……そうだ」


「カイザー……」


 カイザーが答え、西園寺(まち子)は心配そうに見つめていた。


「そいつらを含め、裏には巨大な組織があるとしか考えられない。それが、運営の作ろうとしている『事象シミュレータ』の『ラプラスの悪魔』の正体だろう」


「おい、待て。事象シミュレータってなんだ。どこからそんな話が?」


 僕はオフ会を行った日に、料亭で立ち聞きした内容をみんなに打ち明けた。


『仮想空間における』『アクティブユーザーの母数が増えるほど、事象シミュレータの演算精度が向上する』『選択データ』


 その単語を繋げ、僕が導き出した答え。


 そもそもこのゲームは、ただの娯楽ではない。


 VRMMOと言う巨大な仮想空間で巨大な量子計算機を作成し、数千万人のプレイヤーの思考、行動、バザーを通じた経済データを収集。


 人間の欲望と市場動向を完全に予見・操作する「偽の(部分的な)ラプラスの悪魔」の完成を狙い、その組織の力で、現実の株価すら予測して富を独占しようとしているのではないか。


 あくまで推測の域を出ないが、結びつけるとしたらこうなってしまう。


「………」


「資本金1000億では到底無理な話だの」


 カイザーは依然として黙っているが、小川さんがまとめた。


「そして、先ほどの第11スフィアのアンケートだが……カイザーの家は一人暮らしか?」


「ああ、父も入れないだろう」


「父か……会長って事だな。いくらヤバい組織(運営の裏)があっても表向きはただのゲーム会社だ。世界的トップで父も入れない。ヘッドギアを回収できない。つまり、物理的な都合だろう」


「ひっ……なんか身震いしちゃうよ」


 ぽよんが震えた声を漏らす。


「物理的な回収が無理なら、ゲーム内から遠隔で『停止パッチ』を流し込んで機能を強制的にロックするしかない」


「アンケートは僕のデバイスを特定し、ロックオンする為か」


「私が聞いた音が……でもなぜ回収できないカイザーさんにそんなものを……」


 それはそうだ。

 琴葉ルナールがそう思うのも無理はない。


「事象シミュレータに関係なく、ただの剥奪かもしれませんわね……」


 西園寺(まち子)が続く。


「それもあるだろう。だがもっと他の理由があるかもしれない。資本金1000億だけじゃない事や、カイザーに渡す理由として。

カイザー……いやすめらぎ。お前は社長なんだろう?何か分からないのか?社外秘だろうが、ことが事だ。お前の判断に任せる」


「僕は今は、お飾りに過ぎない。もちろん基盤は構築しているが。そうだな、一つだけ言おう、と言うかそれしか分からないのだが……」


「言ってくれ」


「イオリの言う通りだ。……その世界中に張り巡らされた異常な遅延ゼロの独自回線インフラ。……僕の親父(皇グループ)が、『次世代メタバース通信事業』という名目で、数兆円を出資して敷いたモノだ。だが、これは一般に出ている話ではない。あくまで僕が独自に調べたものだ」


「皇。何も考慮せずに言うぞ。……お前の父親も絡んでいるのは間違いないだろう」


 その瞬間、カイザーはフッと笑った。

 他のメンバーは黙っていた。


「君から資本金の話が出たときに、薄々感じてはいたよ。

そうだな。そうかもしれない。なら僕ができる事は、父の間違いを正すことだ。

企業にとっては未来の株価が読めれば……莫大な利益を生む……だが世界の均衡が崩れるな」


 カイザーはどういうものかしっかりと理解している。

 もはや主神バカではない。


「お前だけだ出来るのは。僕はただのサラリーマンだ。社会的地位や富もない。だがお前は当事者であり、一番近くにいる存在だ。つまりだ……」


 僕が言いかけたときだった。

 彼の口からは決意の言葉が出た。


「僕が……僕が父を弾劾する」

第103話いかがだったでしょうか?


まさかの魔王ぽよんによる「ガチすぎるPC環境マウント」

イオリの観測要塞が異常すぎることがバレて、完全に論破されてしまいました。


推測から導き出された『事象シミュレータ(ラプラスの悪魔)』の正体。


数千万人の経済・選択データを集め、未来の株価すら予測しようとする運営の恐るべき野望。

「僕が父を弾劾する」と覚悟を決めたカイザーがかっこよかったですね!


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜

3/12【夜20時10分】に投稿ハック致します!


少しでも「ぽよん強すぎ(笑)」「カイザーかっこいい!!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ