第102話:観測者、主神(バカ)と女神(デブ)の現実を観測し、思考を停止させる。
後書きにも書きますが、85〜102話までのSFすぎてわからないという方の為にここまでの解説を載せた
【活動報告】を公開時間20:10に合わせて投稿しますので、よければそちらも読んでいただけると幸いです。
怪しい国勢調査は、カイザー以外は基礎職業を入力して抜けたが、何かのスイッチになっているのではないかと僕の不安を煽る要素だった。
◇ 第12スフィア〜第16スフィア
第11スフィアからの道程は、完全な『作業』だった。
Archeから送られたスケジュールデータと、ドドンパの『絶対座標の指揮』。
盤面が完全に掌握されている以上、簡単な作業だった。
だが、一つだけ不可解な事象が起きていた。
第12、13……そして15と、スフィアを繋ぐ『枯れた樹の祠』を抜けるたび。
ルナールが不思議そうに首を傾げ、カイザーの背中を気にしている様子を、僕は密かに観測していた。
そうして第15スフィアの中ボスを瞬殺し、祠の前に到達した直後だった。
ピロンッ♪
時計の針が、あの時間を示し、アラームが鳴り響く。
ミツルマンの専用武器の隠し効果が発動する17時。
彼の能力が大幅にダウンする時間であると同時に、現実で許された「ゲームの門限」を知らせる鐘の音でもあった。
「あ、オレ、もう帰らなきゃ!」
「ほっほ!今日の勇者の冒険はここまでだのぉ!」
「では、第16スフィアを最新到達エリアとして記録しておきましょう。ここまで来たので」
僕の提案に頷き、そのまま第16スフィアへと足を踏み入れた僕たちは、一度足を止める。
◇ 第16スフィア
ジィサンとミツルマンは冒険者端末を操作し、手を振りながらタヴの町へと転送していった。
二人が光の粒子となって消え、場が静かになった直後だった。
「……ねぇ、イオリさん」
「どうした、ルナール。祠を抜けるたびにお前が首を傾げている異変には気づいていたが」
僕が先んじて問いかけると、彼女はこっそりと耳打ちをしてきた。
「気づいてたんですね……。実は、祠を抜けるたびに、カイザーさんのアバターからすごく小さな『シュー……』っていう音が聞こえるんです。高周波のノイズみたいな……何かデータが漏れ出しているような音で」
(データが漏れ出している音……?)
絶対音感を持つ彼女にしか聞き取れないほどの、微小な異常。
先ほどの怪しい国勢調査のアンケートと、スフィアを越えるたびに彼の身に起きている見えないデータの漏出。
何かが裏で静かに、そして確実に進行しているのは間違いない。
「イオリ、どうした?」
「何かあったんですの?」
ドドンパとまち子の問いかけに、僕は短く返しつつカイザーへと視線を向けた。
「ああ……少し調べたいことがある。カイザー、何か異変はあるか?」
「ン?どうシタ!イオリk!異変と言エバ、僕様がカッコ良スギる事クラいだガ!」
僕が単刀直入に聞くと、彼は相変わらずの調子でふざけた。
(カイザー本人は気づいていない……見てみるか)
「カイザー、少しスキルを使ってお前のログを見るぞ」
「ハッハー!いいゾ!好キナだけ僕様の裸体ヲ羨望の眼差シで見たマエ!!」
僕が打診すると、カイザーはボディビルポーズの『リラックス』で無駄にポーズを決める。
ロン君もそうだが、なぜこいつらはボディビルのポーズをしたがるのか。
そんなどうでもいい疑問を切り捨て、僕はスキルを発動した。
「【詳細観測】」
——【Log】——
【観測ログ: 解析開始】
[対象:カイザー・ライトニング]
・状態:正常(優越)
・状態B:ステータス異常
・詳細:職業【時空剣士】のリソースの流出
————————
(……なんだこれは。ただの環境デバフじゃない。
カイザーの持っている『時空剣士』のデータそのものの流出?)
僕はさらに深い領域へアクセスするため、深淵の目を光らせた。
「【深淵の観測者スキル:深淵詳細観測】」
——【Log】——
[Admin_Backend_Line: D██p L@y#r C×lc%lät!øn D▲t▲ UnlØck#d]
▶︎ T@rg#t_Løg: [R██Ø%rc#_L×ak@g■_S¥q%ëncë]
┗ [Prøcëss 1]: S██c#rønïz@t!øn w!th 【Laplace's_Demon : 10%】d██ëct#d.
┗ [Prøcëss 2]: Cønf!rmïn& d██▲ !■p%t fØr dë§!g██tëd t■rgët (pr#-sëlëctëd s¥q%ën¢ë).
┗ [Prøcëss 3]: Prøcëssïn&... Sp██rës 12 tØ 16 cønƒïr██d... Prøgrëss r██ë: 50%.
————————
「は……?」
僕がその文字化けした異常なログを見た瞬間、背筋がゾッとして体が震えた。
「なんだ……?これは……?」
「イオリ君顔こわーい!可愛くなさすぎる!!」
「イオリ君、何が見えたの?」
「ぽよ〜?おやつがなくなるのだ〜?」
突然顔色を変えた僕を見て、シロロとフゥが怪訝な顔をし、ぽよんがズレた心配をしてくる。
「ハッハー!イオリk!僕様がカッコ良スギたカ!!」
空気を読まないカイザーが追い討ちをかけてきたが、僕の深刻な表情を見て、スッとふざけた態度を引っ込めた。
「カイザー……断片的な情報で悪いが、100%推測で話すぞ…よく聞け」
「僕の身に何か起きているのかな」
僕の言葉に、彼は完全に素の真剣な口調で言葉を返してきた。
「もしかすると、お前の『時空剣士』の力がなくなるやもしれん……」
「ははは……サクラをクビになった後、僕だけステータスしか下がらなかったからな……なんとなく予想はしていたよ」
「確かにそうですわね……ステータスだけでなく、私はブラックホールのスキルも小さくなりましたのに……」
カイザーは薄々気づいていたらしい。
まち子の言葉通り、あの『特殊ヘッドギア』の効果である時空剣士のスキルだけはなぜか何も制限を受けていなかった。
その事実から、彼が特殊な状態に置かれていることは容易に想像がついた。
「僕が今見た情報だが……みんな、ラ█ラ█の悪魔って知って……。は?」
「キャッッ……!!」
僕がその言葉を口にしようとした瞬間、ノイズが混じり、絶対音感を持つルナールだけが酷い耳鳴りに襲われたようにその場にうずくまった。
「ルナールちゃん!!!おい、イオリ何て?お前までバグったのか……?」
「ララ……なんて事だ。まさか間に入る文字は……プ・スか?」
ドドンパが慌ててルナールを抱き留め、カイザーが隠語のような言葉で反応を示す。
「運営からワードブロックでもかけられているのか……?カイザー、何か知っているのか?」
「イズンが電話で話しているのを聞いた……」
いつもはおどけてばかりのカイザーが、地に顔を落として暗い声で呟く。
「イズン?『俺もお前も俺』のことか?」
「ああ……」
ドドンパの問いに彼が静かに頷いたのを見て、僕は決断を下した。
「そうか……そうなると……ここではダメだ。ログアウトしよう。みんなよく聞いてくれ」
僕のただならぬ気配に、全員の視線が集中する。
「ここでは、詳しくは話さない。カイザー、まち子。現実で会話をしよう」
「分かった」
「なるほど、分かりましたわ」
二人が真剣な顔で頷く。
「ドドンパ、現実ですぐ連絡する。絶対にすぐ見ろ。
ドドンパだけじゃない、みんな連絡を取れるようにした上で、スマホの『Wi-Fi』を切るんだ。キャリア通信だけにしろ。絶対だぞ」
「え?どういう事?」
疑問を口にしたシロロを、僕はこれ以上の有無を言わせない剣幕で真っ直ぐに見つめた。
その視線に圧されたのか、シロロはコクリと黙って頷き、他のメンバーも無言で同意を示す。
「ミツルマンがいないので進んでも二度手間だ。このタイミングで話す。町に戻って各自ログアウト待機だ」
「「「「「了解」」」」」
僕らは足早にタヴの町へと戻り、そのまま各自ログアウトの光に包まれた。
◇ 現実 イオリの部屋
目を開け、僕はすぐさまヘッドギアを外すと、手元のスマホのWi-Fi接続を物理的に切断した。
そして、ドドンパこと慎二へ電話をかける。
「慎二、いいかよく聞け。音羽琴葉に連絡を取り、まち子とカイザーと繋げろ。連絡先を貰うんだ」
『分かった……なぁイオリ。先に教えてくれ。
ラプラスの悪魔だっけか??なんの関係があるんだ?今回のこの現実で話すのとよ』
電話越しの慎二の声は、かつてないほどに強張っていた。
「……二度手間は非効率だ。僕も考えをまとめる時間が欲しい。すまないが後にしよう」
『ああ。連絡してくる』
ツーツー……。
短いやり取りで電話を切った後、僕はジィサン(小川さん)にも連絡を入れた。
事の重大さを察した彼は快く了承し、通話に参加してくれることになった。
〜1時間後〜
[18:35]
運営の監視リスクを絶つため、通信はキャリア回線のみに限定したスマホでのビデオ通話を指定した。
Wi-Fiを切った影響でVtuberアバターが起動できないぽよんには、音声のみの参加を指示してある。
まち子だけは少し遅れてくるらしい。
◇ ビデオ通話ルーム
予定通り、僕の作ったルームに8人のアカウントが集まった。
いよいよ世界の裏側(運営の真実)について深刻な会議を始める……はずだった。
だが、開始早々にとんでもない問題が起きた。
初めてカメラ越しに見る、カイザーの現実の姿。
「………おい、カイザー……なんだそのネームは……」
画面に映る彼の左上に表示された名前……いや、肩書きを見て、僕は思わず絶句した。
そこには、こう書かれていたのだ。
『【皇Group代表取締役/次期総帥】皇 雷牙』
「え?皇G……?あれ?俺らの会社の超親会社じゃね?」
「え……」
「あら……」
「ほっほ……」
画面の向こうで、慎二、眞島、津島の社会人組が完全に凍りつき、小川さん(ジィサン)が目を丸くする。
あのダサいポーズで「ハッハー!」と笑っていた痛い筋肉バカが、僕たちの勤める会社を遥か上から支配する、超絶エリートの御曹司だったのだ。
ピロン♪
『西園寺 真知子入室しました』
「ごめんなさい、遅れてしまって!みなさん初めまして……ってあら?」
その瞬間、画面に映し出された新たな顔を見て、僕の思考は再び完全に停止した。
赤い重装甲に身を包み、「乙女の質量」などと称して規格外の巨漢アバターを揺らしていた、顔だけ美少女の『ガードガールまち子』。
だが、画面の向こうで申し訳なさそうに微笑んでいるのは、僕でも知っているほど有名な人物だった。
「ええええええ!!!待って待って!!
『MACHI』 ?!え!本物!?!?!えええええ!!」
眞島が鼓膜を破るような悲鳴を上げて発狂した。
無理もない。
彼女は、パリコレ等でも活躍する世界的な日本人トップモデル。
175cm以上の長身と、メディアの前では絶対に笑わない
「絶対的氷の美女」として一世を風靡したまま突如、業界から姿を消した、『MACHI』その人だったのだから。
(……ダメだ。
カイザーが世界的企業の御曹司で、まち子が元パリコレモデル。
情報量が多すぎて処理しきれない。一旦すっ飛ばして話す他ない……)
「か、カイザー……僕達の親会社の御曹司だということは、一旦忘れて普通に話すぞ……」
「ああ、構わないよ」
「ふふふっ、まさか子会社さんの社員さんだったなんてね♪」
「この二人と『俺』さんとはたまたま兄が小学校で知り合いになって……変な感じですよね……」
「そういう事か……一旦話を進めるぞ」
完全に素の落ち着いた声で応じる皇と、上品に微笑むまち子。
琴葉の補足を聞き、僕はどうにか思考の軌道を強引に本題へと修正した。
「マジかよ……はぁ……いやもう、割り切ろ」
「はぁぁぁ……MACHIさん変わらず……いや増してお綺麗すぎる……はぁぁ尊い……」
「ありがとうございます。普通に『まち子お姉さん』と、いつも通りでいいですわよ……いいわよ」
慎二が深いため息と共に現実を受け入れ、眞島は画面越しに拝むように限界ヲタク化している。
画面越しの二人は、僕たちよりも少し年上に見える。
一体幾つなんだろうか。
そんなことを考えていると、慎二が表情を引き締めて話題を切り出してきた。
「ところで、なんでWi-Fiを切るんだ?」
「ああ……エキシビションマッチの招待をGMから受けたと言ったろう。
そのほんの少し前、僕は現実に戻り、PCであるワードを調べた。『Tav』と。
そしてその後ログインすると、なぜかそのGMが『現実で僕が調べたこと』を知っている口ぶりをしやがったんだ」
「ほう……ヘッドギアに繋いでいる同一回線……つまり、同じWi-Fiを使用したPCでの検索履歴までもが、運営側に見られていたということか」
僕の説明に対し、皇が即座にロジックを理解して補足する。
ゲーム内ではただの主神だった男の、あまりにも頭の回転が早すぎる推察力。
「ああ……だから、ヘッドギアを繋いだ回線で重要な連絡を取るのを憚ったためだ」
「犯罪だろ、もう……。それで?本題は?」
「ああ、みんな改めてよく聞いてくれ」
慎二の問いかけに、僕は一度言葉を区切った。
画面越しの全員が、ゴクリと息を呑む気配が伝わってくる。
僕は視線を鋭くし、この世界の創造主たる運営が隠し持つ最大の禁忌を口にした。
「運営は、『ラプラスの悪魔』を作ろうとしているんじゃないか?」
第102話いかがだったでしょうか?
【活動報告更新】
『Arche』の狙いや、運営の目論見(大雑把)に解説しております。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/12【朝8:10】に投稿致します!
少しでも「すめらぎさん?!」「さいおんじさん?!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!




