第101話:観測者、深淵の門を見据え、時空剣士の『真実』に戦慄する
◇ 第11スフィア
僕たちは第11スフィアの中ボスが潜むポイントへ、ハニから借りた鈴の音とロン君が示した方向に従って進んでいた。
その道中、先ほど出会った掲示板のドン『ジョウナン』が現状どう扱われ、どの程度の影響力を持っているのかをまち子やドドンパから聞き、実際に掲示板を覗いて確認した。
どうやら、あいつの情報なら何かと信用度が高いらしい。
念のため、カオス・アトリエとして一発で分かるようドドンパにコテハンを付けさせ、ジョウナンの書き込みに『確定』の後押しを打ち込んでおいた。
「どうだ、掲示板の様子は」
「……ああ。俺の名前見て、本物だって信用したようだな。あいつすげーな、普通に」
ドドンパがウィンドウを閉じながら感心したように言う。
「なんか、イオリ君に心酔しているように見えたわね。悪魔なのに」
「ぽよ〜!ぽよんがお外の世界で広報担当で、あの人間jはこっちの『情報管理職』なのだ〜!」
「「「「「………」」」」」
ぽよんの口から飛び出した謎のビジネス用語に、僕たちは一瞬言葉を失った。
「ハッハー!魔王!そンナ語彙を知ってイルのカ!!」
「ぽよん様をバカにしないでくださいまし」
カイザーが驚きの声を上げると、すかさずまち子が大楯を構えて威圧する。
「ぽよん様は天才なんだから!!カイザー君もリボンつけて可愛くなろ?」
「ハッハー……諦めテなかッタのカ!!」
シロロがド派手なピンクリボンを取り出してカイザーに迫る。
「カイザー、うるさいわよ。ハゲなさい」
「ハゲてくださいー!曲作りましょうか?」
「お願いしようかしら……BGMに乗って1時間リピートのハゲコールね」
フゥとルナールからの容赦のないハゲコールが続く。
「ハッハー!エグい!鬼畜ノ所業ダナ!」
「きもっ!カイザーきも!」
「ハッハー!」
ドドンパのストレートな悪口にも、カイザーは全く堪えずに謎のポーズで笑い声を上げていた。
僕はこのいつもの(頭の痛くなる)カオスな会話を背にしながら、荒野の先に揺らぐ中ボスの影を捉えた。
ピロンっ♪
だがその瞬間、僕の視界の端にメッセージの着信通知がポップアップした。
ジョウナンからだ。
——【メッセージ】——
[送信元:ジョウナン]
[件名:情報①]
テストは合格だろうか?
そして『俺もお前も俺』関連だ。
裏道にて発見。
スキルで会話内の選択肢を出した。
あんたには言っておくが、俺は『性別』次第で情報を開く能力が変動しちまう。
分かったことは、『6人目』と一緒に行動。
選択肢は『ケテル』『ダアト』。
ダアトはロックで開けなかった。
ケテルは排除、既知の為。
だが『ダアト』は現実で調べてくる。
以上だ。
定期的に送ろう。
————————————
「ほっほ、きたのかな?彼から」
ジィサンが僕の顔を見て尋ねる。
「ええ。『俺もお前も俺』が何故か動いていることと、『ダアト』という情報が」
「ダアト……ほっほ。イオリk君は分かるかな?」
「前にTavを調べた時に少し見ましたが……隠された第11のセフィラ……」
「ほっほ、ワシも気になって前に調べてのぉ……不要であったな!」
さすがは歴戦の投資家だ。
この世界の根幹設定に関する予習も抜かりない。
「……もしかすると『Arche』は『ダアト』を狙っている?通常プレイでは行けない場所であるべきです、存在するなら」
黙って聞いていたまち子が、スッと静かな声で入ってくる。
「辻褄は合いますわね」
「ああ、まち子も知っているのか?」
「ええ、お爺様と同じ理由ですわ。王冠の前に座し、『深淵の門』にされていると……」
「アビスか……。フッ、そこを覗くのなら【深淵の観測者】である僕の出番でしかないな。正におあつらえ向きって訳だ」
僕が薄暗い笑みを浮かべた、その時だった。
「おい、イオリ。会議もいいが……やろう。アレ」
ドドンパがタクトで前方の中ボスを指差した。
「ああ……」
スタートが第11スフィアで、現在時刻は既に15時前。
ミツルマンの能力ダウンとログアウト時間である、17時のタイムリミットを考えると、少しばかり焦りを覚える時間帯だ。
そんな時、あいつはまた気の抜ける事を言い始める。
「ぽよ〜、お腹ぺこぺこなのだ〜!そろそろおやつ食べたいのだ……」
「……もう少し我慢しろ。攻略中に食べるのはダメだ」
僕は冷たく却下する。
おやつ(甘味)の摂取によって発動する【3時の失踪】。
それこそが、唯一『Arche』とコンタクトを取れるかもしれない貴重な機会なのだ。
「もっとおやつを食べられない世界になるかもしれないぞ」
「ぽよ〜!?そんなの嫌なのだ〜!我慢するのだ〜〜!」
僕が適当な脅しをかけると、ぽよんは顔を青ざめさせてあっさりと頷いた。
ほんとちょろいなこいつ。
だが、時に妙に的を射た様な事を言ったりするので油断はできない。
9割は必要ないが。
「ほっほ!イオリk君、どう倒そうかの!早く進まねばいけないのだろう?」
ジィサンがゲートボールスティックを構えながら問う。
「あいつも第2スフィアと同じで重そうですね……」
僕は遠目に見える重装甲の巨体を観測し、暗黒微笑を浮かべた。
「埋めましょう」
「愛を教えて差し上げますわ」
「やーい!埋め殺〇ー!」
キラーン♪
シロロが物騒な言葉を叫んだ瞬間、あの音が鳴り響いた。
システムがシロロの言動を『カワイイ』と判定し、職業専用のMP(カワイイ指数)が貯まったことを知らせるアレだ。
「「………」」
僕とドドンパは無言で固まった。
「あ!2200までカワイイ指数戻ったー!」
シロロが無邪気に喜ぶ。
「システムバカだな」
僕が思わず毒づくと、ドドンパがニヤリと笑って横から口を挟んだ。
「カワイイってな、200種類あるねん」
「「「「「…………………」」」」」
女子陣全員の氷河期のように冷たすぎる視線が、ドドンパを射抜いた。
「テレビの流行り好きね。それに少し古いわよ」
「ドドンパ君ないわー」
「ぽよ〜!アホーなのだ〜!」
「愛故に庇いきれませんわね」
フゥ、シロロ、ぽよん、まち子から、容赦のない辛辣な言葉が突き刺さる。
「え?俺のこと嫌い?」
ドドンパが本気でショックを受けた顔をした時。
「そんなこと無いです!私は………」
ルナールが身を乗り出して否定し、途中まで言いかけて「ハッ!」とし、顔を真っ赤にして口を噤んだ。
「え!!」
ドドンパが期待の眼差しを向ける。
「ああわわわ、で、でも!少し古いのは同意です!」
「うう……」
ルナールの照れ隠しの追撃を受け、ドドンパはがっくりと肩を落とした。
「チッ……早く埋めるぞ」
僕はカオスすぎる空間に舌打ちをし、重装甲の中ボスへ向かって歩き出した。
◇ 第11スフィア ボス討伐後 枯れた樹[狭間の石碑]
「アルカナと転送用の枝も落とすなんてラッキーだったぜ。あと一個か!」
「ああ、スケジュールに書いてあったので知ってはいたがな」
僕たちは第2スフィアの中ボス同様、プールを作り出し、中ボスを生き埋めにして討伐。
結果、『空白のアルカナ大』に加え『枯れた樹の枝』もドロップし、二つのキーアイテムを確保した。
「先へ進もう」
僕たちはいつもの様に精神防壁を狂気で抜け、石碑前でアルカナを使おうとした、その時だった。
——【Official_Info】——
[境界の旅人たちへ]
過酷な精神の防壁を越え、深淵の半ば(第11スフィア)に至りし冒険者たちへ。
運営チームでは、皆様のここまでの軌跡を記録するため、「国勢調査」を実施しております。
各プレイヤー個人の現在の強さを示す【職業】と【レベル】を入力してください。
ご回答いただいた皆様には、システムよりショートカット転送用の『枯れた樹の枝×1』を特別報酬として配布いたします。
▶︎ 職業:
▶︎ レベル:
[ 回答して報酬を受け取る ]
———————————
僕がウィンドウを確認すると、テキストの手入力ではなく、チェックボックス形式で表示されていた。
——【System】——
▶︎ 職業:
[ ] 観測士
[ ] 深淵の観測者
▶︎ レベル:[ 59 ]
——————————
「イオリ君ー?これ何?入力していいのー?」
「なんでこんな調査するんでしょう……?」
「国勢調査ですから、職業分布などと同じで第6エリア到達プレイヤーの情報を開示したいのでしょう」
シロロとルナールの疑問に、まち子が静かに推測を口にした。
「……調査?なぜこんな『国勢調査』などする?」
「イオリ、どうする?」
僕の呟きと、ドドンパの言葉。
それと同時に皆の視線が僕へと集まった。
(プレイヤーのステータスを把握したいなら、データベースから直接覗き見れば済む話だ。
それをわざわざ……)
「ハッハー!イオリkヨ!僕様は、最初は『戦士』だったのダガ、武器を手ニシてカラ『時空剣士』ノミになったノデ、選択画面に一つシカ出なイノだガ!!」
カイザーの言葉に、まち子以外の全員から驚愕の声が漏れる。
「ちょっと待て……基礎職業がないということか?」
「半ば強引ではありましたが……サクラとしての任務を決めた時の事ですわ。『俺もお前も俺』からあるヘッドギアを渡されたんですのよ、カイザーだけ。……そこからログインしたら、データはそのまま『武器』が変わり、基礎職業は『上書き』に。詳しくは聞くなと添えて」
「ちょっと待って、どういう事?」
「ぽよ〜?」
「ほっほ……今はその『へっどぎあ』はどうなったのかの?」
「ハッハー!僕様の家はセキュリティが厳重なノデ回収には来ていナイ!」
「カイザーさんもおぼっちゃまですもんね……あ!またリアル情報を……ごめんなさい……」
「ハッハー!気ニするナ!フェンサー妹ヨ!隠シてなどいナイ!」
「カイザーと俺もお前も俺は私たちより付き合いが長いんですのよ。カイザーに渡す際は『お前の区切って話す口癖をトリガーにこの職業の特殊MPが貯まる仕様だ、カタコトで喋ってみろ』と言われていましたの」
「!!!???」
立て続けに交わされる会話から明かされた事実。
VRデバイスの音声認証キーの件に、僕は思わず戦慄を覚えた。
「私の『カワイイ指数』と同じ感じかなー?」
「え、お前普通に喋れんの?」
シロロとドドンパの疑問に、僕は一人納得していた。
カイザー達、聖刻の円卓組が加入した日の事だ。
僕と二人きりになった際、彼は真面目なトーンで普通に喋っていたのだ。
だがその痛いロールプレイに、そんなシステム的な意味があったとまでは予測できなかった。
『喋れるよ』
一切の濁りもない、無駄にイケボな、流暢で落ち着いた青年の声。
あまりのギャップに、全員が言葉を失い、完全に硬直した。
「ほっほ……変な感じがするの」
「なんか変ですよねやっぱ!現実と同じ喋り方くらいにしてください!」
「君たち・がそうしろ・と言った・んだろうっ!」
「変ねそれでも」
ジィサンやルナール達からの非難を受け、必死に普通の喋りを保とうとするカイザーだったが、フゥにはアッサリと否定されていた。
「そうか、そういう事か……。
時空剣士は最初から何かの実験に使う為の、試験的な『システム干渉』職業。だがなぜ、カイザーにそれを渡したのか……。
そこまでは分からないが、辞めるとMPが無くなる為、維持の必要があるんだな?」
「そうダ!イオリkは頭がいイナ!僕様も良く分カラなかッタのニ!最初!」
僕の推測に、彼がいつもの口調で大きく頷きを返してきた。
「情報が多すぎる……バラバラに撒かれた情報を繋ぎ合わせても断片的すぎる……今は進むしかない」
「とりあえず、基本職入力するぞ?俺らは」
「ああ、それでいい。報酬だが、『枯れた樹の枝』は先ほどの中ボスドロップを加えてクランで[30個]なので、9人分の報酬はミツルマンに渡そう」
ドドンパの言葉に同意し、僕は指示を出した。
「分かった!kおじさん僕の指掴んで選ぶのやって!怖い、間違えたら!」
「ん……ああ……」
僕がミツルマンの背後に回り、彼の指を掴んでウィンドウを操作し、今後のために丁寧に教え込んだ。
「いいか、ここにチェックを入れるんだ。
特殊職業の[勇者(少年)]は特別だ、ひけらかすな」
「分かったー!」
「お父さんになったらあんな感じなのかな」
「イオリ君の子供……」
「結婚できるか?まず」
素直に返事をするミツルマンの背後から、シロロ、フゥ、ドドンパの言いたい放題なヒソヒソ声が聞こえてくる。
「いなければもらってやるのだ〜!」
そこに投下された、ぽよんの爆弾発言。
「「!?!?」」
「ぽよ〜?」
まち子とシロロが硬直を見せる中、ぽよんは気の抜ける返事をしながら小首を傾げている。
だが、彼女の言葉に反応したのか、何故かロン君が王笏から体をニュルンと伸ばしてきた。
プォーン……♪
ベシッッッッ!!
「え?」
フゴッッッッ!!
「痛ェェェ!え?!は!?おいクソマカロン、なんで俺やねん!!」
理不尽な鋼鉄ビンタを顔面に喰らい吹っ飛ぶドドンパの姿に、周囲からどっと笑いが起きた。
「ぽよん、周りに合わせなくていい」
「ぽよ〜!」
僕の問いにぽよんが明るく返し、ロン君も激しく身を揺らす。
「さっさと行くぞ、第12スフィアへ」
「「「「「「「おー!」」」」」」」
カイザーのカタカナ混じり口調の真実が判明したが、運営の意図にはまだ何か決定的な裏がある気がしてならない。
その微かな予感が、僕の思考を深淵へと引き摺り込んでいく。
考えることが多すぎる。
だが、今は前へ進まなければならない。
ようやく半分を超えた時点で、僕らの未来はすでに確定していたのだ。
全てのスフィアを抜けた先で、カイザーの理不尽な能力が完全に封じられる運命にあるとも知らずに。
第101話いかがだったでしょうか?
ジョウナンから送られてきた『ダアト(深淵)』というワード。
これが意味するところとは一体。
そしてラストの不吉なモノローグ。第6エリアの仕様により、カイザーのチート能力が完全に封じられる運命……。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
〜次回予告〜
3/11【夜20:10】に投稿致します!
少しでも「ドドンパ不憫で草」「カイザーの口調そういうことだったの!と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の励みになります!




