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第100話:情報屋、『k』の深淵に触れ、掲示板の世論を操る

今回は『ジョウナン』視点になります!

 

◇ 『ジョウナン』視点・第11スフィア


「……はぁ、はぁ……マジで心臓止まるかと思った……」


 第11スフィアの岩陰に身を隠し、俺は、どっと噴き出した冷や汗を乱暴に拭った。


 俺は『ジョウナン』。

 またの名を『jyounannjima98』。


 掲示板のドンと呼ばれ、それなりに修羅場を潜ってきた自負はあったが……実際に会うと、恐ろしいなんてもんじゃない。


 なんだあの『k』の底知れない眼光は。

 「舐められないように」と思って強く出たつもりだ。


 だがこちらの思考からシステムの内外まで、常に見透かされているようなあのヒリつく感覚。


「他のプレイヤー達と、あまりにも次元がちげーよ……」


 世界が危ないとかっていう話の真意は、今はまだ意味が分からない。


 だが、確かなことが一つある。


「俺は今、このゲーム(世界)で一番ヤバい連中と繋がった……!」


 恐怖と同時に、ベテラン情報屋としての血が沸騰するような興奮が湧き上がっていた。


 俺はあの『k』に、強烈な畏怖の感情を抱いたのだ。


 なんとかして、『k』に俺の価値を認めさせないとな。


 世界を救うとかは正直に言うとどうでもいい。

 だけど、あの『k』に認められれば、俺は正真正銘の情報屋になれる。


「カイザーや、ガードガールのいるカオス・アトリエなら絶対に欲しがると思ったぜ……。あの不気味な奴の情報ならな」


 昨日俺が、『境界堂』の話の真意を見極めるためにタヴの町で探っていた時のことだ。


 ——【回想】——

◇第6エリア タヴの町 解放30分後


 俺は、噂の『高級ポーション』や『店に入ると、なんか買わないといけない気がする』という掲示板の情報を聞き、あるお店にやってきた。


『境界堂』。

 街のメインストリートから少し外れた場所にある寂れた……いや、ド派手なショッキングピンクに塗られ、何故か看板には魔物(?)の翼が生えている店だ。

 あとは、何故か屋根にマカロンのフィギュアみたいなものまである。


 店の前には行列ができ、とてもじゃないが並ぶ気が起きない。


 俺は大人しく、掲示板に「今からあそこに並ぶのは無理」とでも書き込もうとしていた。


 人だかりが鬱陶しかったので、境界堂から道を3本ほど外れた、人気の無い薄暗い路地の壁に寄りかかっていた時のことだ。


「……あー、分かってるよー。ケテルを倒してもダアトの扉にはさー……」


 路地の奥から、誰かと会話をする声が聞こえた。

 俺は息を潜め、そっと路地の奥を覗き込む。


 そこにいたのは、エキシビションマッチの後、姿を消したはずの『聖刻の円卓』の指揮官、『俺もお前も俺』だった。


 だが、おかしなことに、彼の目の前には誰もいない。

 完全に無人の空間に向かって、一人でボソボソと喋っているのだ。


 俺は即座に、自身の基本職『情報屋』のスキルを起動した。


「【情報屋スキル:思考の三叉路(キーワード・ツリー)】」


 ——【Key Word Log】——

▶︎対象:『俺もお前も俺』


 1:ケテル (成功率80%)

 2:ダアト (成功率0%)

 3:分かっている (成功率20%)

 —————————————-


(うわー、なんだよこれー……。

 ケテルなんて、この世界の王様の事だって情報はもう出回ってるしなぁ……。

 ダアトは成功率0%ってことは情報がロックされてる。

……3番しかないか……)


 俺は空中のUIの『3』を選択した。


 ——【information】——

 3:分かっている

 の情報を開示します。


・その内容を既に知識として持っている、あるいは理解・把握している状態。

・対象への返答。

・抽出不能……Error

 ———————————-


(おいおい、Go〇gle検索じゃねーかこれ。対象?VCか?

いや、VCは会話として対象にされないって、実装直後に検証したばっかだしな……あれか?)


 俺の脳裏に、かつての[聖刻の円卓 vs カオス・アトリエ]の試合の記憶が蘇った。


 今まで散々、「見えない攻撃が来る」「いきなり斬られる」などの意味のわからない情報だけが書き込まれていた、『6人目』の円卓プレイヤー。


(……あいつが、そこに居るのか。

 それにしても『ダアト』ってなんだったんだ……。

 なんか『セフィロトの樹』について調べた時に、見た気がするけど……)


 一旦、現実に帰らないとダメだな。

 絶対関係あることだろうし、調べる必要がある。


 そう思い、静かに路地から立ち去ろうとした、その時。


「あ?まじでー?」


 その瞬間、『俺もお前も俺』が、身体はそのままに顔だけをこちらへと向けた。


(やばい、気づかれた!!)


 一瞬のことだった。


 俺は自分の武器である【蓄積の万年筆】を強く握りしめ、スキルを発動した。


「【写し身(コピー&ペースト)】!……ペーストの記憶選択[カイザー・ライトニング]!!」


「【どこでも空中ジャンプ!僕様の華麗なるジャンピン!】消費!!」

(※システム名称【八脚の(クオンタム・)多重存在(スレイプニル)】)


 タンッ!

タンッ!


 タンッ!

タンッ!!


 このスキルは、虚空を8回蹴り上げて空中の連続ジャンプを可能にする移動スキルだ。

 これなら、屋根を飛び越えて一気に距離を空けられる!


 俺はそう確信した。

 だが……。


 ヒューーーーー!


「……え?」


 5回目を蹴ることは叶わず、足場が消え失せる。

 俺の体は境界堂の一つ手前の道にある民家の屋根の上へと、真っ逆さまに落下を始めた。


「うおわああああ!?くそっ、便利だと思ってコピーしたけど、特殊職業になったせいで、男スキルの効果半分じゃん!!8回飛べねぇーじゃあああん!!」


 カイザーからコピーした技は、俺のデバフのせいで威力が半減し、ジャンプ回数が見事に『4回』に減らされていたのだ。


 ドンッッッッ!!


 境界堂の一つ手前の道にある民家の屋根に、無様な音を立てて叩きつけられる。


「いってえーー!!……でも、なんとか離れられたか?」

 ————————————-


「……あれは痛かったな……」


 落下した屋根から転げ落ち、結局その後、メインストリートまで逃げることによって追撃は逃れた。

 追ってきていたかは定かじゃないが。


 まぁとにかくだ。

 この情報は、今考えれば神からの贈り物だぜ。


 おかげで俺は、不遇職でありながら一番の成り上がりを見せているあの『k』に近づけた。


 だが、本格的に取り入るには至っていない。

 俺には彼からの依頼テストがある。


『ここから先のプレイヤーの進行を遅らせろ』


 試されている。

 だがそれと同時に、彼の『何かの作業に追われている』『周りより先に進まなければならない』という焦りのような気持ちから、俺を頼っているようにも見えたんだ。


『真核』システムをいち早く見つけ、リリース初日から蹴っ飛ばしてた、あの人。

 直々の。やるっきゃねぇ。


「……まずは、掲示板を操作しますかー」


 エネミーやプレイヤーと直接殺し合いの戦闘をするわけでもない。


 だけど。


「俺の戦場は、ここだからな」


 首を左右にボキリと鳴らす。

 スイッチオン。


 アバターの関節が軋む音とともに、捲り上げた腕の血管が、戦闘態勢を告げるように青白く明滅した。


『jyounannjima98』としての時間だ。


 ——【掲示板】——

【第6エリア・タヴ攻略スレ Part45】

 11:名無しの冒険者:ID:hamaki52 /xx月xx日 (日) 14:44

 > > 1 とテンプレ貼った人乙ぅ

 > > 第11スフィア中ボスいねぇーー

 > >

 12:名無しの冒険者:ID:uui819

 > > 1 乙!

 > > 最前線、11スフィアなの?1日で?すご

 > >

 13:名無しの冒険者:ID:mujyuru77

 > > 12 そうだよ

 > > でもほぼ我らがドン『ジョウナン』のおかげ

 > >

 14:名無しの冒険者:ID:jyounannjima98 [ジョウナン]

 > > 情報さえあれば繋ぎ合わせられる。

 > >

 > > 11 新情報、『11スフィア』の中ボス既にポップしたの倒されたそうだ。

 > > 『枯れた樹』発見したけど、混雑するので別時間に送る。

 > > 次のポップはこれまでのことを考えると1〜2時間後だが……

 > > もしかすると、ポップスケジュール決まってる

 > >

 15:名無しの冒険者:ID:nudist09

 > > 14 お、ドンお疲れ!

 > > まじで?どこで掴んだ?

 > >

 16:名無しの冒険者:ID:jyounannjima98 [ジョウナン]

 > > 15 タヴの普通のNPCだったな見た目は

 > > 徘徊系のNPCで『守衛のエネミーがいない時がある』

 > > って言ってた。

 > > もしかすると、『朝』数回、『昼』数回、『夜』数回

 > > 今の時間はこれまでのNPCの感覚でいくと昼帯は終わってる

 > >

 17:名無しの冒険者:ID:bitoutyann29

 > > 16 噂のドンさんだ!

 > > ストーリークエスト3ってどこで受けれますか?><

 > >

 18:名無しの冒険者:ID:nudist09

 > > 17 スレ遡りなよ、3なんだから最初に書いてあるでしょ?

 > > これテンプレ入れね?めんどいべ

 > >

 19:名無しの冒険者:ID:jyounannjima98 [ジョウナン]

 > > 17 いいよ、覚えてるし。

 > > タヴの町のフィールド側出口を背中に2本目の道を右に200m

 > > 1、2と同じNPCね

 > >

 20:名無しの冒険者:ID:renntosai57

 > > 16 まじですか!そしたら一旦休憩するかなー。

 > >

 21:名無しの冒険者:ID:bitoutyann29

 > > 19 そうなんですね!ドンさんありがとう><

 > > 18 そうですね!テンプレあると第6到達した人は助かる!

 > >

 22:名無しの冒険者:ID:pi_tikupa_tiku13

 > > 16 ドン情報なら確定か……波乗ってたんだけどな

 > > 次まで後3時間もあんの。しんど。

 > > はい、最前戦攻略勢一旦お疲れぴー

 > >

 23:名無しの冒険者:ID:resutorei86

 > > 16 すっごい!了解です!!

 > > 掲示板のドン『ジョウナン』さすがですっ!

 > >

 24:名無しの冒険者:ID:uzurano38

 > > 16 ドンありがとー!好き

 > >

 25:名無しの冒険者:ID:biosu777

 > > 16 まじかよ、噂のスキルで掴んだんでしょ?

 > > なら、情報系職業じゃない俺らじゃ掴めん情報やな

 > >

 26:名無しの冒険者:ID:nudist09

 > > 25 そう言う事だなw

 > > ドン、サンキューいつも

 27:名無しの冒険者:ID:jyounannjima98 [ジョウナン]

 > >うい!今行っても、無駄な湧き時間待ちしてポーション使うだけだからな。

 > > 10個制限取ってくれって感じ

 > >

 28:名無しの冒険者:ID:pi_tikupa_tiku13

 > > 27 今、何クランくらいいるんだろうな最前線。ドンわかる?

 > > ドンわかる?

 > > 『k』のクラン、もう20とか行ってそう。

 > >

 29:名無しの冒険者:ID:mutturi81

 > > まだストーリークエスト7なんだけど

 > > 中ボス小さすぎん?探すのバカ時間かかった。

 > >

 30:名無しの冒険者:ID:jyounannjima98 [ジョウナン]

 > > 28 うーん、俺が誘導した限りでは7クランの中規模

 > > 第1スフィアでカイザーとかジィサンみたいな

 > > ランキング1、2位いるしなぁ

 > > 11スフィアのボス倒したのも『k』達かもね

 > >

 31:名無しの冒険者:ID:dodonnpa100 [ドドンパ]

 > > あ、カオスアトリエの者です。

 > > 16 さん合ってますよ多分。朝、昼、夜ですねぇ

 > >

 32:名無しの冒険者:ID:nudist09

 > > 31 名乗ってるの草 ドンくらい匿名性なくて草

 > >

 33:名無しの冒険者:ID:pi_tikupa_tiku13

 > > 32 でもこれでドンの情報が確定事項になったね

 > > 16 これ確定したので、さっきのストーリークエ受注先と一緒にテンプレ入れよ!

 > >

 34:名無しの冒険者:ID:jyounannjima98 [ジョウナン]

 > > 31 ありがとうございます。了解です。

 > >

 ———————————

 シューー……。


 俺のアバターを、淡い光のオーラが包み込む。


 掲示板で俺の書き込みに「ドンありがとー!」「さすがドン!」と感心した連中の反応をシステムが検知し、俺の【高慢なる審美眼(マウント・プライド)】の自尊心プライドゲージがギュンギュンと満たされていく音だ。


「……これで俺の防御力もカチカチだぜ。今いらんけど」


 一人ごちながら、俺は空中に展開されたウィンドウを見つめ……思い出したかのように背筋にゾクりとした悪寒が走る。


「……にしても。『k』、天才かよ」


 俺のフェイク情報に対して、わざわざ本物のクランメンバー(ドドンパ)をスレに投下し、俺の名前(信頼度)の乗った情報に対して完璧な『確定』を打ち込んできやがった。


「……恐ろしー」


 これで、第12スフィア以降へ向かう攻略勢の波はピタリと止まる。

 18時まで、『k』の進行を邪魔する他プレイヤーは完全に排除されたというわけだ。


 俺はフゥッと息を吐き出し、フレンドリストから先ほど登録したばかりの『k』のアイコンを開いた。


 そして、昨日得た『俺もお前も俺』の目撃情報を詳細にまとめたメッセージを作成し、送信ボタンを叩き込む。


 ピロン♪

 軽快な送信音が、静かな安全地帯に鳴り響く。


 掲示板の世論操作は完了し、特大の手土産(情報)も渡した。


「……さあ、見せてくれよ『k』。あんた達の言う世界の危機を、どうやって乗り越えるのか」


 俺は情報屋として不敵な笑みを浮かべ、今まさに最前線を駆け抜けているであろう彼らの行く末に、強い期待を寄せていた。

祝・第100話!! (正確には0話含め101話ですが)

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます!!


記念すべき第100話は、まさかの「掲示板のドン」ジョウナン視点でした!

彼の極端なスキル仕様が明らかになり、『俺もお前も俺』「6人目の円卓」の目撃情報の詳細がイオリへと渡りました。

『ダアト』とはなんなのか…。


そして後半の掲示板パート! ジョウナンの見事な嘘ロジックに、ダメ押しの確定ハンコを押しにくるドドンパ。

イオリの盤面操作のえげつなさに、ジョウナンもすっかり心酔してしまったようです。


これで18時まで邪魔者はゼロ! イオリたちの爆速攻略、次回へ続きます!!


〜次回予告〜

3/11 【朝8時10分】に投稿ハック致します!


少しでも「100話おめでとう!」「ジョウナンいいキャラしてる!」「ドドンパの書き込み有能!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!


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