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第99話:観測者、情報屋の罠に落ち、新たな手駒を盤面に引き入れる

 

◇ 第11スフィア


「単刀直入に聞くぜ、『k』!! 『Archeアルケ』って分かるだろ?」


 僕ら以外の口から絶対に出るはずがないと思われていた単語が出た途端、僕たちの表情は見事なまでに一つに染まった。


 あのIQ3のぽよんさえもが、驚愕した顔でジョウナンを見つめた。


「ハハッ!やっぱね。

 このゲームの名前は『World(ワールド・) of(オブ・) Arche(アルケ)』だ。

 別に略称で『アルケ』って言ってもおかしくないですよねぇ?」


 ジョウナンは、見事に「してやった」という顔でニヤリと口角を上げた。


 その表情を見た瞬間、メンバー全員の顔がピクッと引きつる。


「あっ……お前、騙したのか!?」


 ドドンパが声を荒げて尋ねる。


(……しまった。

 そうだ、タイトルからして『アルケ』という単語は普通に出てもおかしくない……。

 だが、僕らの中で『アルケ』という単語が、勝手にあのシステムAIモジュール『Archeアルケ』に変換されてしまっていた……!)


 完全に、情報屋の罠(アンカリング)にハマった。


 スッと横から視線を感じると、まち子が僕の顔を見てきている。

 何を話すつもりかは知らないが、彼女はジョウナンと交友もあるし、基本はジィサンや僕と同じ側の考えを持っているはずだ。

 こうなってはもう隠せないと判断し、僕は頷いた。


「ジョウナン……それを私たちに、何故聞きましたの?」


「あー!待って!ごめんごめん!俺、敵じゃないから!!この話は誰にも言っていない!」


 弁明するジョウナンに対し、僕は冷徹に切り捨てた。


「敵じゃないかどうかは、僕たちが判断する。

……お前の言う『アルケ』は、何を指す」


「………システムAIモジュール『Archeアルケ』だよ。そして、それは『今』知ったよ」


「……は?」


 僕は思わず眉間を寄せた。


「どういうことだ。今知ったにしては、随分と確信めいた顔だったが……」


「うわー、さすがっすね、『k』。ええ、確信してましたよ。

……俺のスキルで、そこの『ぽよんちゃん』から選択肢を出しましたからね」


 ジョウナンが、僕の隣でポカンとしているぽよんを指差す。


「ぽよ〜?な、なんの話なのだ??」


 当のぽよんは首を傾げ、全く身に覚えがないという顔でロン君を揺らしていた。


(……ぽよんから情報を引き出した、だと?)


 僕は頭の中で、断片的なピースを繋ぎ合わせた。


(掲示板のドン……先ほどの女性プレイヤーたちの異常なほどの従順さ……特定の性別に対する精神干渉系のスキルを持つのではないかという推測……)


「……お前の職業はなんだ」


 僕が鋭く睨みつけると、ジョウナンはわざとらしく肩をすくめて見せた。


「ほえええ、やっぱ『k』すげぇ……。ネットで

『史上最高峰の頭脳』だの『高速演算機』だの『大魔王』だのって言われてるだけあるっすねぇ」


「ハッハー!ヒドい名前だナ!人間k!」

「なんか、キラーーい!」


「あはは、すいません……。いや、マジで敵じゃないんですよ俺!ファンです、マジで!!」

 ヘラヘラと笑うジョウナンに、僕は冷たい視線を向けた。


「……御託はいい。他所のビルド(職業)構成を聞くのはマナー違反だとは分かっているが、お前は僕達から強制的に情報を引き出した。……そもそも、スキルとして人の精神に干渉し、思考(情報)を奪い取るなんて代物……そんな理不尽で非道徳的なものが許されていいのか」


 僕がそのスキルの非道徳性を正論で糾弾した。


 だが、その瞬間。


「「「「「…………」」」」」


 カオス・アトリエの全員が、信じられないものを見るような目で、一斉に僕の方を向いた。


「いや……お前が言うか、それ?」


 ドドンパが、呆れを通り越した顔でツッコミを入れる。


「イオリ君って、案外さ……自分が見えてないよね」

「抜けてますよねっ!」


 シロロとルナールからの容赦ない追撃が刺さる。


(……ルナール、お前にだけは言われたくないが……)


「ぽよ〜!メガネー!」


 トドメとばかりに魔王(IQ3)が乗っかってきた。


 こいつは最近、分かっていないのに周りに便乗して、程度の低い煽りをしてくるな。


「……それで、お前は何がしたいんだ?」


 僕が無理やり軌道修正して鋭く問うと、ジョウナンは腕を組んで首を傾げた。


「俺が今見た情報……ストーリークエスト23が『世界とおやつを守る』って、どう言うこと?」


「ん……?おやつ?」


 ぽよんの脳内は常におやつらしい。

 事なきを得た……と思ったが、そんなことは無かった。


「ぽよ〜!」


「Vtuberの設定的変換って見たけど……そもそもストーリー23って何よ?それに『世界』って大ごと過ぎないか?」


(……流石に気づくか。

 だがこいつは本当に、対象の考えを『選択肢』として視覚化して引き出すスキルのようだな)


「お兄さんは、それを知ってどうするの?」


 シロロが小首を傾げて問いかける。


「ん……そうだな……有益な情報なら流す。だけど『世界』とかって単語が聞こえた以上は、俺の情報を読み取る力が使えるんじゃないかと思ったんだけど」


「……すまないが、お前が信用に足る人物か、判断をする材料があまりにも少ない」


 僕が冷たく切り捨てると、ジョウナンはニヤリと笑った。


「そりゃそうっすねぇ……なら、これは?『聖刻の円卓』の現在の動向」


「何だと?」


「ドウ言う意味ダ」


「何か知ってるの!?」


 僕の反応をよそに、まち子が声を荒げて反応し、カイザーに至ってはいつものふざけた顔が消え、声のトーンが数段落ちた。


「やっぱ、元・聖刻の円卓だった二人も知らないんだね。

……『俺もお前も俺』、見たよ」


「どこでだ!!!」


 カイザーが鋭く踏み込む。


「落ち着いて!タヴの町だよ。なんか『境界堂』って店の裏路地で見かけたんだ。

ほら、なんか騒ぎがあったでしょ?高級ポーションが売られてるとか、魔力の宿る石があって攻撃力が上がったとかって。

……まぁ『選択肢』見る限り、君たちくさいねそれ」


 ジョウナンが、ニヤリと女子陣に視線を向ける。


(……お前は『女性プレイヤー』であれば、容易く脳内を覗けると言うことか)


「kおじさん、早く行かないと僕の能力弱くなっちゃうよ」


「おお、すまないな、ミツルマン」


 ジィサンが孫の頭を撫でる。


 ミツルマンの剣に付いた『勇者の休息_五時鐘_』という効果により17時を過ぎると能力が大幅に下がってしまう。

 彼はソロプレイ扱いな以上、僕たちも先へは進めない。


「ジョウナン、フレンド登録をしておこう。

『俺もお前も俺』についてはメッセージでまとめ、詳しくは今度VCなりで話せ。それ次第では考える」


 こんな怪しい奴をフレンドにするのは非効率だが、情報は命だ。

 やむを得まいと僕から切り出した。


「マジか!あの『k』がフレンド欄に載るのかー!俺も大物になった感じするな!」


 僕はジョウナンにフレンド申請を送り、彼は即座に承認を押した。


「すまないが、先を急ぐ必要があってな。

……最後に一つだけ依頼をさせろ。お前の能力を見たい。

ここ第11スフィアより先の情報を、少し遅らせてくれ」


「え?何で?」


「お前が情報を流したんだろう?ここまで来るのは正直、今の全体のプレイヤーレベルでは大変なはずだが」


 ジョウナンは少しだけ目を丸くし、肩をすくめた。


「なるほど、まぁそれは言えてるけど。カオス・アトリエじゃなくても強いプレイヤーは沢山いるっすよ。まぁ君たちは異常すぎるけど。……んで?何で進ませるのを遅らせたいの」


「それは……詳しくは僕たちもわからない。説明することができない。だが、お前がぽよんから抜いた情報はあながち間違いではないんだ」


 ジョウナンはしばらく考えた後、切り出した。


「俺がそれを成功させて、渡す情報が重要だと感じたなら、俺も手伝わせてくれるんすよね?」


「…………ああ」


「了解。ただし止めておける時間は限られる。自分で探す奴もいるからな。……ストーリークエスト23なんて存在するのか?何かしらユニーククエストに移行したのか?今、最前線と言われているのはストーリークエスト『No.11』で、ここ第11スフィアだ」


(……こいつ、なかなかに頭が切れるな)


「恐らくこの世界は『セフィロトの樹』を模した構造になってる。つまり、22の小径パス……スフィアがあると思っている。だがそれなら、クエストも22個なはずだ。23はセフィラに突入したのかと思ったが、ここにいるのもおかしいし、塔まで行ったならクエスト名変わりそうだしなぁ」


「ねぇ、イオリ君みたいだよこの人。しかも武器が万年筆じゃない?あとそれ、盾なの?インク瓶だしー!ウケる!」


 シロロが無邪気に指を差して笑う。


(情報が多過ぎてスルーしていたが……一応、見ておくか)


「――【詳細観……」


「待って!!!!!!」


「……ん?」


 僕がスキルを起動しかけた瞬間、ジョウナンが血相を変えて両手を前に突き出し、後ずさった。


「何か鑑定スキル!?いや、観測士だよな『k』は!観測スキルを使わないでくれ。PTを組んだ状態じゃないと少し厄介な事情があってな。信用に値すると思わせられたら見せるからさ!」


(……制約デバフ下なのか)


 対象が男性かつ敵対行動(観測)を取られると、何か致命的なペナルティでもあるらしい。

 僕はスキルを途中でキャンセルした。


「ほっほ!すまぬイオリk君……もうすでに14:30だ、行こうじゃないか」


「……すいません、そうですね。ジョウナン、今は辞めておくが、メッセージの件頼むぞ」


「おっけーす!んじゃまた!皆さん止めてすいません。では」


 ジョウナンはそう言うと、万年筆とインク瓶の武器を手に持ち、足早に去っていった。


 僕は、遠ざかっていくその背中を静かに見送った。


(突如として現れた、掲示板のドン『ジョウナン』……)


 ただでさえ『Arche』の介入や『聖刻の円卓』の残党といった不明な要素が多い中、これ以上の不確定な「変数」を抱え込むのは非効率であり、面倒なことこの上ない。


 だが、あの男が持っている情報の一つ、『俺もお前も俺』の現在の動向や、対象の思考や深層から強制的に「情報を抜き取る」あのスキル。


(……あれは今後、僕の盤面ロジックにおいて重要なピースになるかもしれない)


 この第6エリア『タヴ』に足を踏み入れてからというもの、僕たちは明らかに通常プレイではあり得ない、裏側に直結する異常な状況に陥っている。


 運営の目を盗み、ロン君を隠れ蓑にして僕にスケジュールデータを横流ししてくるAIモジュール『Arche』。


 そして、その裏で蠢く、何か巨大なシミュレーションを行おうとしている運営の思惑。


 盤面はすでに、単なるゲームの攻略の枠を大きく逸脱している。


 情報は、『命』だ。


 ならば、あのジョウナンという男に利用価値があるのなら、手駒ツールとして徹底的に使い倒してやるまでだ。


「……『Arche』。お前が僕を『特異点』として選んだその真の狙い、必ず暴き出してやる」

第99話いかがだったでしょうか?


「アルケ」という言葉を使ったジョウナンの見事な罠!


ジョウナンの極端なスキル仕様(男性から観測されると致命的なデバフ)も垣間見え、ついに『俺もお前も俺』の目撃情報がもたらされました。


そして、イオリが「他人の思考を奪い取るなんて非道徳的だ!」と正論を言った瞬間の、カオス・アトリエ全員からの氷のようなツッコミ(笑)。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


〜次回予告〜

3/10【夜20時10分】に投稿ハック致します!

次回は『ジョウナン』視点になります!


少しでも「イオリの特大ブーメラン笑った」「ジョウナンの能力面白い!」と思っていただけたら、ぜひ画面下の【ブックマーク】や【☆☆☆☆☆】で応援していただけると、執筆の最大の励みになります!


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