(21) 悪友
なにとは言わないが、いたるところから不快な臭いが漂ってくる。それに眉をひそめながら足早に進む。ちなみに順番はノックス、私、ルーナの順だ。
たまにすれ違う人たちは大通りとは違い、少しおかしい様子の人が多い。あまり目を合わせないように歩く。
「どこまで行ったんだ?」
「これで建物とかに入ってたら厄介よ」
「うーん……。ソール!」
「ちょっ! そんな大声出したら目立つ……」
「呼んだか?」
どこかにいるであろうソールの名を呼ぶと、案外近場から声がした。周りを見渡すとこの通りにしては立派な建物の窓からソールが身を乗り出していた。
「「「ソール!」」」
「あれ? ここは危ないから来ない方がいいよ?」
「あんたが突っ走るからでしょーが!」
「あ、なるほど?」
ソールは悪びれた様子も見せず笑っている。……問題児だ。
一瞬引っ込んだかと思えば、ソールは笑顔を浮かべながら建物から出てきた。笑顔ってことは……レイラの居場所がわかったのだろうか。
「ついさっき姉ちゃんを見かけた人がいた!」
「ほんと!? よかった……」
ルーナが大きな声を出して、安堵したように息を吐き出した。
「おい! ソール知り合い?」
「あ、出てくるなって言ったろ!」
「まぁいいじゃーん。お、可愛い子たちいるじゃん」
ソールの後ろから男性が出てきた。年齢は私達と同じぐらいだろうか。ソールと仲が良いのか肩を組むように腕をソールに乗せている。ただこちらを値踏みするようにジロジロと見てくるのは少し不快だ。
「あなたは?」
ノックスが私とルーナの前に立つようにして問いかける。
「俺ー? ソールの友達」
「ほんとに?」
「ほんとほんと! な、ソール!」
「うーん、友達だけどあんま良いやつじゃないし無視していいよ!」
「おい!」
そのままソールと男性は軽く言い合いを始めた。なんだかその姿を見ているとそこまで悪い人ではないように思える。
「それより! レイラはどこなの!?」
ルーナがしびれを切らしたようで、ソールに詰め寄る。けれどその前にはソールの友人? が立ちふさがって応対する。
「落ち着きなよー」
「落ち着いてられるわけないでしょ!?」
「おー、こわ。まぁ俺も心配だしね。場所はこっちだよ」
そう言ってソールの友人は歩き出した。それに並ぶようにしてソールも歩き出した。思わず私達は顔を見合わせたが、このままだと置いていかれると思い慌てて追いかけた。
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スタスタと慣れたように歩く2人の後を追いかけていると、いつの間にかあの治安の悪い通りは抜けていたようだった。いくつも細かく曲がったこともあり、私達だけではもとの大通りには戻れそうにない。
そして前を行く2人が立ち止まった。
目の前には大自然が広がっている。……どこか見覚えがあるような?
「ここは……蜃気楼の森か?」
「お、正解。ノックス来たことあったのか?」
「あぁ、前に迷い来んでね。な、ルキア」
「そうだったね! 道理で見覚えがあると思った!」
「彼女は覚えてなかったみたいだな」
「逆に覚えてるノックスがすごいのよ!」
蜃気楼の森。前に色々とあった場所だ。少し私達の間に緊張が走る。けれどその緊張を察していないのか、ルーナがソールとソールの友人を追いこして森へと1人で入っていこうと走り出した。
だがその腕をつかむ人がいた。ソールの友人だ。
「ちょっと! なんで止めるの!?」
「心配なのはわかるが、ちょいと先走りしすぎだ。まるでソールだぜ?」
「おい、俺ここにいるんだが?」
「というかあんたいったい何なのよ!」
ずっとイライラしていたのか、一気に怒りがふきだしたようにルーナは彼に怒鳴る。
それに彼は飄々とした態度で答える。
「あー、自己紹介してなかったっけ? 名前はライン。ソールの友達」
「あっそう! そんなことは別にどうでもいいわ」
「悲しー!」
全く悲しいと思っていない顔を浮かべている。
あー、またルーナのイライラポイントが溜まっていそうだ。ルーナの肩が怒りからか震えているのが見て取れる。
「どうして止めるのかって聞いてるの」
「あー、それはそこの2人もわかっているんじゃないか? それにソールが飛び出していかない理由を考えてくれよ」
そう言ってラインは私とノックスへ視線を向けながら、ソールへと寄っ掛かった。
視線を受けて、あのときのことを思い返す。
「幻覚を見せる……か」
「確かに俺たちは本当は通じていない場所に迷い混んだりしたよ。幻覚だったのか、それとも場所の位置がおかしくなったのかはわからないけどね」
「その通り。だから俺とソールみたいに慣れた人間についてかないとあっという間に迷子になるぞ?」
「……なるほどね。兄さんとルキアがそう言うならそうなんでしょ」
ルーナは納得したようで今にも走り出しそうだった雰囲気は霧散している。
「まぁ俺もよく迷子にはなるんだけどな」
ソールがニカリと笑った。……そんな自信満々に言うことではないと思うんだけど……? でもちょっとそんなソールの気持ちもわかる自分がいるのが悔しい。
「とにかく迷子にならないようについてきてね」
「レイラはこの森にいるの?」
「あぁここに向かっているところを見た人がいる」
「…………信頼できる情報なんだろうな?」
ノックスが厳しい目をラインへと向けた。ラインは一瞬目を丸くしてからニヤリと笑って口を開こうとした。けれどそれよりも早くソールが割って入って言った。
「信頼できる!」
その目は疑うこちらがおかしいと思わされるほど真っ直ぐだった。ノックスは一瞬言葉をつまらせてから軽く謝った。
ラインはソールの表情を見て先ほどまでのうさんくさい笑みを消して、驚いたような表情を浮かべていた。……どうしてだろうか。
「とにかく行こう!」
ソールは先陣を切るようにして駆け出した。いや駆け出そうとしたがラインに首根っこをつかまれて止められていた。
2人がギャーギャーと何か騒ぎながら前を歩くのを私達も追いかけて歩き出した。




