(18) 買い出し
ブルーフォレストから出るともうすっかり昼らしく、たくさんの人が通りを歩いている。
「はぐれないように手でも繋ぐ?」
隣を歩くノックスがニヤリと笑って言った。どうせ断られると思っているんだろう。
……なんだかいつも振り回されているような気がして癪だ。
何も言わず差し出された手を握った。
まさか素直に握ると思わなかったのか、ぎょっとした顔で見てくる。
「なに? ノックスが握ろって言ったんだよ?」
「……なんかルキア変わったね……」
悔しそうな表情を浮かべているノックスに、こちらもニヤリと笑みを返す。
「そう? いつもやられっぱなしじゃいられないからね!」
「別に俺はいつも勝ってるつもりはないんだけど……」
「そうなの?」
「それより……いやなんでもない」
「え?」
「そろそろ店着くかも」
なにかノックスが言おうとしたようだったけど、いつの間にか目的のお店に着いていたようだった。話していたからあっという間だった。
私はノックスが歩く方向に着いていっていたら目的地に着いていた感じだった。なんだかやっぱりノックスのほうができる人間な気がする。
やっとちょっと見返せたと思ったのにな……?
私が考えごとをしているうちに気がつけば隣にはノックスはいなかった。思考の海から帰るとノックスが扉を開けてこちらを見ているのが視界に入った。手はいつの間にかほどかれていた。
急いで扉の方へと向かった。
近寄るとなにか香辛料のようなものの匂いが鼻につく。
そういえばここは何のお店なんだろうか。
中へ入ると、粉が入ったの瓶が壁いっぱいに並んでいるのが目に入った。なんだかアクアの両親がやっているポーションのお店に来たような感じだ。
お店の中には私達の他に誰もいないようだ。
「ねぇ、ここには何を買いに来たの?」
「あれ言ってなかったっけ。調味料だよ」
「調味料?」
「たぶん塩とか砂糖とかと似たようなものだとは思うんだけど……」
そう言いながらノックスはメモを取り出した。そこにはノックスの字で書かれた品物の名前らしきものと簡易的な地図が描かれていた。
・ステラパウダー
・ブルーパウダー
・ムーンダスト
「このムーンダストってやつはパウダーってついてないけど、ここで買えるの?」
「たぶん? 他のとこは言われてないしなぁ」
「ムーンダスト買えるよ」
「「え?」」
突然見知らぬ声が聞こえてきて、私達は勢いよく声の方へ顔を向けた。
先ほどまで確かに誰もいなかった。けれど今はカウンターの向こうに女性が座っている。アンナさんと同じぐらいの年齢のかたに見える。店員さんだろうか。
その女性がカウンターの下の方から3つの瓶を取り出した。
「これがステラパウダー、こっちがブルーパウダー、それでこれがムーンダストね」
「「え!?」」
私達が買い求めているものだ。
……でも不思議だ。私達は確かにムーンダストの会話はしたが、ステラパウダーとブルーパウダーはメモを見ていただけで声に出していないのだ。
「心が読める魔法とか……?」
「確かに……?」
「あはは! そんなものないよ! 長年店をやってるとね、顔を見れば何が欲しいのかわかるんだよ」
「えー! すごい!」
「すごいな! って違うだろ! 俺たちがブルーフォレストの使いでやってきたってわかってたんじゃないですか?」
「せいかーい。よく買うのはだいたいこれだからね」
女性はにんまりと笑った。……私は素直に驚いたのに!
「アンナのところに昨日来てたの見てたからさ」
「え? いたんですか?」
「あぁ。あそこで飲む酒が一番うまい!」
昨日の飲んだくれていた人たちのうちの1人だったようだ。それに……アンナと呼び捨てにしていることからアンナさんと親しいのかもしれない。
「じゃあ買ってくかい?」
「あ、はい!」
「まけとくよー」
「「ありがとうございます!」」
ノックスはカウンターに数枚コインを置いた。見たことがないコインだ。
いつの間にコインの種類とか教えてもらったんだろうか。私もあとで教えてもらわないと……
「じゃあありがとうございました。……えっと……」
「あぁ、エルザだよ」
「エルザさん! ありがとうございました!」
「ありがとうございました」
私とノックスはエルザさんに礼を言って店を出た。
「それにしても……ムーンダスト? アンナのとこで使ってたかな?」
1人になった店内でエルザは考え込んでいた。
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「これで今日の買い出しは終わりだな」
「こんな簡単でいいのかな」
「もともと俺たちがいなくても店を回してたぐらいだし、そこまで仕事は余ってないのかも」
「なるほど?」
「この調味料もすぐに必要ってわけじゃないみたいだし」
簡単に仕事が終わってしまったことに申し訳なさを感じていたが、ノックスがいうことも一理あると思って少し安心した。
それならこのあとは……観光? お金はまだないし……
「どうするどこか見てまわる?」
「そうだな。お金はあんまりないけど、ちょっと店でも見てこうか」
「お金少しあるの?」
「うん。買い出しついでに好きなもの買ってきなよって言われて」
「えぇ!」
「さすがに給料の前借りにさせてもらったけどね」
「よかった! さすがにね!」
ノックスが小さな袋を見せてくれる。覗き込むと先ほど見たコインと一緒にいくつか似たコインが入っている。
軽くノックスに教えてもらって、私もコインの価値をわかるようになった。これで安心して買い物できる!
通りを歩いていくつかのお店で商品を買った。よくわからない動物の肉の串焼きや、みずみずしい見たことがないフルーツ。世界が変わるとやはり住んでいる動物や植物が変わってくるようだった。
アルテルや地球では食べたことがないものばかりで私達は驚きながら楽しんだ。
「美味しいー!」
「これ唐辛子に似てるけど甘いって頭バグりそうだな」
「こっちは逆にマシュマロに似てるけど酸っぱいよ!」
「ほんとだ」
「おーい! 良ければ見てかないか?」
色々と食べ比べをしていると、横に出ていた露店のおじさんに話しかけられた。
商品は……装飾品がたくさん並んでいる。ネックレスや指輪。キラキラと輝いている。
「寄ろうか」
「え? でも高いんじゃない?」
「見るだけでも楽しいんじゃないか?」
「確かに?」
私達は露店へと近寄った。




