(16) 深夜の密会
「私、妹がいるんです」
ポツリとシエルがこぼした。妹……私と一緒だ。
視線を海からシエルへと向けた。
「妹も妖精なの?」
「え? ……ぷっ! あはは! 違いますよ。人間です」
「あ、そうだよね! いやー、早とちりしちゃった」
なんだかシエルは吹っ切れたような表情になった。
塩辛い風が私達の頬を撫でていく。
「ずっと前に別れてから会えてないんです。……どんな大人になってたのかなぁ」
「どうしてか聞いても?」
「……旅に出たんです。でも……幼い妹を連れていくわけにはいかなかった」
シエルは私に話しているようで、実質独り言のように語り出す。
たくさんの妹さんとの思い出が語られる。どうやらシエルの妹さんはランとは違い大人しいタイプのようだ。けれど姉として共感できるエピソードもたくさん聞けた。
私の脳裏にランの姿が思い出される。
……全然会えてないし、会いたい。
やがてシエルの話はこれまでしてきた旅の思い出話へと移っていった。その中にはもちろんソレイユやリュンヌ、ファタールの名前が出てくる。
シエルの話し方が上手なのもあって、みんな今と変わらない様子でありありと思い出される。
「それでリュンヌが隠し持っていたお菓子をソレイユがなぜか発見してしまって……」
「あー、ソレイユそういう野生の勘は鋭そうだもんね」
「そうなんです。結局リュンヌがすごく怒ってしまって、どこかに飛び出していってしまったんです」
「出ていった……」
「えぇ、すぐにも探しに行きたかったんですが、ソレイユが意地を張ってなかなか出たがらなくて……」
その場面が目に浮かぶ。
ソレイユはソレイユだなぁ。本当に。でもリュンヌが喧嘩で飛び出していったって言うのはちょっと意外だ。
「やっと探しに行くってときにはもうリュンヌの姿は見えなかったんです」
「なるほど。よく行く場所とか探しに行った感じ?」
「それが……まだその場所には来たばかりで特に思い当たる場所がなかったんです」
「えぇ! じゃあ大変じゃん!」
「はい。最初は近場を探し回ったんですが、なかなか見つからなくて……」
そのときのことを思い返しているのか、シエルは心底困ったような表情を浮かべている。
「リュンヌが行きそうな場所ねー」
私も想像してみるが…………思いつかない。今ならルーナのいる場所に絶対いるんだろうけど、それ以外でってなると……
私が難しい顔をしていると、シエルが話の続きを話し始めた。
「思いつかないですよね。さすがにソレイユもまずいことになったと思ったようで、やっとファタールに相談したんです」
「やっと……? ファタールは知らなかったの?」
「ちょうど出かけてて。ソレイユは怒られるから黙ってようぜって」
「あちゃー」
私が思わず額を抑えるとシエルがクスクスと笑いを漏らした。
「ファタールは怒ったの?」
「いいえ。まぁちょっとお灸は据えられたみたいですけど」
んー、なんだかファタールのことだしえげつないことをしてそうだけど……まぁ今ソレイユが無事ならそこまででもなかったんでしょう。
「でもまぁファタールならサクッと見つけそうだね」
「私もそう思ったんですけど……」
「え? 見つけられなかったの?」
「いえ、そういったわけではなく。リュンヌの場所はわかっていたようなんですが、なぜか教えてくれなくて」
……ファタールのイタズラっ子のような笑顔が思い浮かぶ。
「あの人イタズラ好きだもんね」
「あはは……。まぁヒントはくれたんです」
「ヒント?」
「えぇ。よくかくれんぼでリュンヌが隠れる場所を探してごらんって」
かくれんぼ……? というかわざわざなんでそんな分かりにくいことを……
「私はどうにも思いつかなくて……でもソレイユはわかった! なんて言って走り出してしまったんですよ」
「ふんふん。それで?」
「しばらくしたあとに連れだって帰ってきました」
「おぉー! 良かった!」
「まぁちょっと寂しかったですけどね」
シエルが少し悲しそうな表情を出した。……うまくかける言葉が見つからない。
なんとなく手に触れた砂をいじりながら質問する。
「あ、そうだよね。……そうだ! 結局リュンヌはどこにいたの?」
「えっとですね。塔の上にいたそうです」
「塔?」
「だいたいあの辺にあるはずです」
おもむろにシエルが指差した。その先にはシエルがいう塔が建っているのだろうが、今は薄暗いためかよくわからかい。
……というか……
「えっ!? この世界での話だったの!?」
「ん? そうですよ」
「えー! ソレイユがこの世界のことは知らないとかいうから来たことないのかと思ってた。もう忘れっぽいんだから」
「あー。……忘れっぽいというか記憶がないんです」
「……? 記憶がない?」
いつの間にか私から海へと視線を移動させていたシエルが静かに言った。
記憶がないとはどういうことだろうか。今までソレイユと話しててそんな素振りは感じたことないが。いやたまに話を流されるときもあったか? どうだろうか。
私がいくつもの疑問を頭に浮かべていると、それを読み取ったようにシエルが語り出す。
「ソレイユやリュンヌも元は人間です。けれど……その体は今は失われている。正確には捕らわれているといった方がいいでしょうか」
「捕らわれて……もしかして前のシエルが取り込まれていたような?」
「…………えぇ。そうです」
シエルと同様にあの正体不明の組織に利用されているということか。
……取り戻さないと。
「この世界にはリュンヌの体があるはずです」
「え? わかるの」
「なんとなくですけどね」
そのシエルの言葉で部屋を出る前にリュンヌが魘されていたことを思い出した。
そういえばシエルの体が発見される前も、シエルが体調を崩してたし何か関係があるのかも……
思わず深く考え込んでいると、シエルが言葉を続けた。相変わらず視線は海へと向けられている。
「きっと体を取り戻せば失われている記憶が戻るはずです」
「そんなに失われているの?」
「すべて失っているわけではないんですが……」
「まぁそれでも記憶が無くなってるのは困るよね! よし! いっちょリュンヌとソレイユの体取り戻そう! あ、記憶も」
なんだか暗い気分に飲まれそうな気がしたので、勢いよく立ち上がり宣言をした。私達以外に人がいない砂浜に大きく声が響き渡る。
そして振り替えるとシエルは呆気にとられたようにこちらを見つめていた。けれどしばらくすると顔を伏せてしまった。
「あ、ごめん!? 楽観的すぎたよね!?」
「ち、ちがっ!」
私の言葉にシエルは勢いよく顔を上げた。その顔には笑顔が浮かんでおり、目尻には涙が溜まっているほどだ。
「え? なんでそんなに笑って?」
「いやなんかルキアが言うと、本当に出来そうな気がして」
「な! もちろん出来るよ!」
「あ、そうですよね」
……深夜の砂浜に2人の笑い声が響き渡る。




