(14) 試練に挑むもの
彼女が顔を晒したことで会場内にいるすべての者が息を飲んだ気配がした。整った顔立ちとあふれでる魅力のようなもので視線をそらせない。
しかしながら不思議なことに、前に見かけたときは妖艶な雰囲気を纏っていたのに今は清らかな雰囲気を纏っている。
……彼女の真っ直ぐな視線と私の視線がぶつかっているような気がする。
!?
彼女がゆるりと口角を上げた。その瞬間に雰囲気がガラッと変わった。清らかな気配は霧散し、艶やかな気配が彼女を彩った。それに驚いている間に視線はそらされた。
何度かまばたきをしてから再び彼女の方へ視線を向けたが、今度は視線がぶつかることはなかった。
……今の雰囲気の変化は……? それに今はまた妖艶な雰囲気は鳴りを潜めている。
「皆様……お集まりいただきありがとうございます。この度また女神さまにより挑戦者が選出されました」
「「「おぉー!」」」
彼女が発した言葉で会場中の人々が大きな歓声をあげた。
そして歓声の中で前方のローブの集団の方へと歩き出す人間が1人だけいる。他の参加者? が座っている中で1人だけ歩いているのはとても目立つ。
「あれが挑戦者か……?」
隣でノックスもそうポツリと呟いた。……やはりそうだろう。歩いている人物は若い女性のようで後ろ姿に特に見覚えはない。遠目から見ているだけだが、少し震えているようにも見える。
やがてゆっくりと壇上へと上がり、こちらへと顔を向けた。やはり知らない顔だ。顔は無表情だが、目に怯えのようなものが見える気がする。
「このノエルさんが挑戦者に選出されました」
「「おおー!」」
「がんばれよー」「試練を乗り越えるのよ!」
熱い声援が至るところから上がる。けれど純粋に応援しているというよりは何か娯楽の賭け事でのかけ声のようにも聞こえる。……少し気分が悪い。
壇上では挑戦者のノエルへと何かが手渡され、耳打ちされているのが見える。その耳打ちによってサッとノエルの顔が青ざめていった。
「さぁ皆様で送り出しましょう!」
神殿らしき建物の扉がゆっくりと開かれる。中には明かりなどなく暗闇がこちらに口を開いている。
ノエルは1歩ずつ暗闇へと近づいていく。会場内は拍手で包まれている。……異様な雰囲気だ。
挑戦者である彼女は怯えているように見えた。……助けにいかないと。
立ち上がろうとしたとき、肩にノックスの手が乗せられた。
「ノックス!?」
「どこに行こうとしてるの?」
「こんなの止めないと! あんな怯えている女の子がシャドーが出るかもしれないところに1人で行くなんて!」
「いや今は下手に動かない方がいい」
「なんで!?」
ノックスも助けることに賛同してくれるかと思ったのに、止められてしまった。思わず抗議の目を向ける。
頑張ればノックスを振り払ってでも行けるけど、ここまでちゃんと止めるということは何か確信していることがあるのかもしれないし。
「まず敵の出方がわからない。どれくらいの強さを持っているかもわからないしね」
「そうね。でも私達なら倒せるはずよ」
「別に俺たちの強さ疑っているわけじゃない。ただどんな卑怯な手を使ってくるかわからないってことだよ」
「たとえば?」
「んー、魔法を使えなくする道具とか魔法があるかもしれない」
「それもそっか……」
ノックスに言われてその可能性に気がついた。そういえばレイラがこの世界は魔法があるって言ってたし、どんな魔法が発展していてもおかしくない……。
「それにあのノエルって人は耳元で何かを囁かれて、表情を変えてた。なにか弱みとかを握られててもおかしくない」
弱み……。家族とかに危害が加わるとかそういったものかもしれない。全然そこまで頭が回ってなかった。
「確かに。また突っ走っちゃうところだった。止めてくれてありがとう」
「いいや。本当なら俺も止めたかったけどね」
私達が見つめている中で、ノエルを飲み込んだ暗闇は閉じられていった。
周りの参加者たちは楽しそうに話に花を咲かせている。
「ではこれで見送りの式典は終了です。また7日後にお会いしましょう」
あの綺麗な女性が式典の終了を告げた。その声で続々と周りの参加者たちは立ち上がった。
「俺たちも行こう」
人の流れに乗るようにして会場の出口らしきものへと向かう。ざわめきの中で様々な話が聞こえてくる。
『やはり神子様は相変わらずお美しい。本当に。この間もみすぼらしい老人に慈悲を与えていたよ。美しくて優しいなんて……本当に女神さまの使いだ。』
神子様……? あの妖艶な女性のことか。気になる単語を拾い、会話に耳を澄ます。
『今度の挑戦者はちゃんと戻ってくるといいね。いや死んでしまうんではないか? どうせ貧民街の住民だろう、ならそのまま神殿に沈んだ方が幸せなんじゃないか? ……○○さんそれはおひどい。』
暗い感情がこもった会話がクスクスと笑みを含みながら行われている。
パサッ
「え?」
思わず不快さを顔に浮かべていると上から布がかけられた。……これは……?
「これで少し聞こえにくくなっただろ?」
「……ありがとう」
私達は会場をあとにした。
会場を出る私達は、壇上の彼女が妖艶な笑みを浮かべながら手を振っていたことに気がつかなかった。
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カラン……カラン……
「「「「おかえりなさい」」」」
ブルーフォレストの扉を開けた私達を迎えたのは暖かい言葉と仲間たちだった。
さっきの場所とは天と地の差だ。思わずノックスと目を合わせて笑みを浮かべた。
「たくさん収穫してきたよー!」
仲間たちのもとへと駆け寄った。




