(13) 招かれた場所
姿を現したのはフードを深く被った人物だった。大きなローブのようなものを着ているため、男か女かはわからない。身長は私よりは高く、ノックスよりは低いぐらいだ。
……そういえば前に見かけた綺麗な女性と同じローブだ。
「えっ……」
謎の人物の身なりを観察していたところで、その人物から困惑したような声が聞こえてきた。いや困惑しているのはこちらもなんだが……。
声から察するに男性のようだ。年齢はわからないが若いような気がする。
しばらく無言で見つめあっていたが、男性は急にハッとしたような声を出した。
「あぁ、参加者の方ですか。ご案内しますよ」
「「参加者……?」」
どうやらなにかの参加者に間違われているようだ。
……なんだか怪しいし、参加したいが……。
ノックスへと視線を投げる。私の視線を受けたノックスはやれやれと呆れたような顔をした。そんな表情をしてるが、ノックスも探りたいという目をしている。
とにかく許可はとれたということで返事を返す。
「あー、そうです。迷ってしまって」
「なるほど。確かに蜃気楼の森と言われるぐらいです。迷うのもわけありません」
「蜃気楼の森……」
「えぇ。その名のとおり遠くのものが近くに見えたり、ありえない場所に見えたりする場所なんです」
フードの男性? は雑談をしながら迷いなく歩いていく。私達は返事を返しながら後ろを歩いていく。この迷いのない歩みから、この人はよくこの森に来るのかもしれない。
いくらか歩いたところでたくさんの人のざわめきが聞こえてくるようになった。私達が探していた声の発信源へと近づいているようだった。ざわめきが近くなることと同時に狂わしいほどの花の芳香が鼻へと届くようになった。
そしてざわめきは近づいたことでより鮮明になり、内容が聞こえてくる。今は何が流行だとか、どこどこの誰が結婚しただとか……そんな明るい話題の中にも声色にどこか不穏なものが混じっている。
嫉妬や侮蔑。そういった類いのものだ。
森が開けたかと思えば、なにかの庭園パーティーのような場所へと繋がっていた。複数の豪華なテーブルやイスには様々な人が座っている。
この場所にあったドレスやタキシードなどを着た人物がいるかと思えば、冒険者のような砂ぼこりがついていそうな服を着ている人物もいる。
そして注目すべきは私から見れば前というべきだろう場所に建っている建物だ。先ほど私達が空洞で見かけた神殿のような建物が建っている。
「もうすぐ始まりますからね。どこか空いている席があると思います」
男性は立ち尽くしている私達にそう言い残して足早に離れていった。その歩む先を見ていると、さまざまな服装の人が集まっているその先、同じようなローブを着た集団がいることに気がついた。男性はその集団へと紛れるように合流していった。
また会ったとしてもたぶん気づかないだろう。
とりあえず何かが始まるのに突っ立っているわけにはいかず、空いている席を探す。
ざっと会場? を見回すとだいぶ後方だけ少し空いている席があるのがわかる。
「ルキア、あそこに行こう」
ノックスがある席を指さした。特に希望もなかったし、軽くうなずき空いている席へと近寄り腰かけた。
「どうしてここ?」
「あぁ、なんか1番この臭い花が少ない気がして」
「なるほど」
ノックスが忌々しそうに見たのはこの場所をまるで取り囲むかのように咲いている紫色の花だ。単体で嗅げば良い匂いなのかもしれないが、大量に咲いているせいで鼻がもげそうなくらい強い香りを発している。
だがこの臭いを不快だと思っているのは私達だけのようで、多くの人が椅子に座りながらテーブルの上にのっている食べ物へと手をのばしている。さすがにこの臭いの中で食欲は湧いてこない。
私達と同じテーブルには他に誰も座っていないが、近くのテーブルの声がいくつか聞こえてくる。
楽しそうに人の不幸話を話しているのがわかる。……近くにそんな人はあまりいなかったから少し気分が悪い。
思わず眉間に皺を寄せていると、急に口になにかが放りこまれた。なにか甘酸っぱい……?
「ん!?」
「マリンベリー。こんなに摘んだんだから少しぐらい食べても大丈夫だよ」
ノックスがにこりと笑った。
……なんだかモヤモヤしていた気分が晴れた気がする。本当は周りの話を聞いてでも情報収集するべきなんだろうが、今はノックスと話すことにした。
「これ加熱しないと食べれなかったらどうするの?」
「え? たぶん大丈夫だと思うけど……。まぁルキアなら毒でも食べそう」
「失礼すぎるよ!?」
甘酸っぱいマリンベリーを口に含みながらノックスと話をした。まわりの不快な感情が入り込まないように。
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パパパー♪ パパパパー♪
「なに!?」
「あの前方のほうからだね」
突然聞こえてきた楽器の音は、神殿の前でローブの集団が鳴らしているようだった。……もしかしてレイラが言ってた儀式が始まるのかもしれない。
先ほどまでいたるところで聞こえていたざわめきが収まり、奇妙な静寂と鳴り響く音楽が不気味な対比を生み出している。
しばらく音楽が奏でられたかと思えば、ローブの集団が大きく2つへとわかれた。そしてわかれた真ん中には1人のローブを着た人物が立っている。
中心の人物はおもむろにフードをおろした。
「あれは……あのときの綺麗な人……」
現れた顔は見覚えのある女性だった。




