(12) 流れてきた記憶
プロローグに少し大事な情報を足しました。一文なのでそこまで大きなものでもないですが……一応ご報告です。
ざわめきの中で彼の声がハッキリと耳に届いた。
その声でなんとなく眺めていた風景から視線を動かした。彼は困ったような笑みを浮かべている。
「なぁ聞いてないだろ」
「え、あぁうん」
「おい」
「なーに? 寂しくなっちゃったの?」
「ちげぇよ!」
口調は怒っているようだが、醸し出す雰囲気には全く怒気を感じられない。なんとなく言葉を返しただけなんだろう。
「どうかした?」
「あー……ちょっとさ」
なにか言いたげだが、うまく言葉が出てこないように見える。ちゃんと聞くよという意思表示のつもりでじっと彼の目を見つめる。
その目の圧に負けたようで、静かに言葉が紡ぎだされた。
「約束しないか?」
「約束……?」
周りの音が遠ざかり、まるで静寂の海に包まれたような感覚になった。彼の深紅の目が私を貫く。
……約束? 今はしばしの休憩でまたこれから戦いに身を投じることになる。そのために生き残るための約束とか……かな。
彼のことだから、ピンチになったら俺のことは置いていけよ的なことでしょう。……私が認めるわけないけど。
「各地に置いた忘れ物を回収するのを忘れないこと」
「え?」
彼が言ったことを瞬時には理解できなかった。忘れ物?
「なに? なんかどこかに忘れ物してきたの?」
「まぁそうなんだよね」
「はぁ? ドジねー。ってなんで私があなたの忘れ物を回収しなきゃいけないのよ」
「たくさん忘れてきちゃったからさ、俺1人だとすべて回収するの難しいんだよ」
彼は悪びれた様子もなく、笑っている。なにがおかしいんだろうか。
怪しんで見ていたところで、私の頭の上に何かを乗せられた。驚いて頭の上に手を持っていき、触れたものを取る。……これは花かんむり?
ピンクや白、黄色など様々な花で作られた花かんむりだ。これを私の頭の上に乗せたであろう人物へと視線を向ける。
そこには青い目をした彼女が笑顔を浮かべていた。
「うまくできたからプレゼント」
「なるほど……? ありがとう」
「それで2人は何の話を?」
「あっ! 聞いてよ。○○○が忘れ物をしたらしくて」
「忘れ物?」
彼女は不思議そうな顔をしている。忘れ物と聞いて、彼に何を忘れたのか聞いている。
「あ……ペンダントとか」
「とか? 他にもあるの?」
「うん。指輪とか」
「ペンダント……指輪……」
彼の忘れ物の内容を聞いて、彼女は何か考えこむような表情になった。場所に心当たりがあるのだろうか。
「そのペンダントってあの青色の宝石がついたやつ?」
「……そう」
「ねぇ○○。○○○になんて言われたの?」
彼女は今度は私に質問をしてきた。よくわからないが彼に言われた約束を答える。
「なーるほど。なんとなくわかったわ」
「え? なにが」
「察しがよくて助かるよ」
私以外の彼と彼女はこの意味のわからない約束がわかっているようだ。彼女は私ににこりと微笑んだ。
「ねぇ私とも約束しよう?」
「あなたも?」
「そう! そうねぇ……。じゃあ私は色々な人に伝言を頼んでいるからそれを伝えてほしい」
「伝言? 直接言えばいいじゃない」
「どんな風に伝わるか楽しみたいってことで! 約束ね」
「……わかった」
よくわからない約束が増えてしまった。
「みんな何の話?」
「「「ファタール!」」」
花をたくさん抱えたファタールがこちらに歩いてきた。
なんでそんなに花を持っているのか疑問に思ったが、遠くの方で仲間たちが花をたくさん摘んでいるのが見えたため納得した。みんなで花かんむりづくりとかをしているのだろう。
「今よくわからない約束させられてて」
「よくわからない約束?」
私は2人から言われた約束をファタールへと話した。ファタールは最初はきょとんとしていたが、次第になにかを理解したかの表情へと変わった。
「え? もしかして私だけ理解できてない感じ?」
「まぁ○○はねぇ」
○○○は少しバカにしたように笑う。
「……じゃあ僕も約束しようかな。忘れ物や伝言を揃えてまた集まろう」
そう言ってファタールは静かに微笑んだ。その一言でみんなが言っていた約束の意味がやっとわかった。
「えぇ。約束するわ。いくら時間をかけてでも集めてみせる。だから待ってて」
「○○もわかったみたいだね。俺も約束する。少しファタールは待たせちゃうかもしれないけど待っててくれ」
「私も約束する。待ってて」
永い時間を生きるファタールには少し待っててもらうことになるかもしれないけど、必ずこの約束は果たすつもりだ。
「アクアー!」
「はーい! じゃあ約束ね! みんなにも伝えてくる!」
そういって仲間に呼ばれた青い目の彼女は走っていった。彼女が勢いよく駆けていくことで散らされた花の花びらが彼女の軌跡を形作っていった。
その姿を見届けて、私たちも仲間たちところへ向かおうとしたとき後ろにいたファタールがなにかを呟いた。
「今なにか言った?」
「いや?」
振り返って問いかけたがファタールはなにも答えなかった。疑問には思ったが、私と彼は仲間たちの方へと歩き出した。
「ルベル……エル……ありがとう。待ってる」
そのファタールの呟きは花たちだけが聞いていた。
・
・
・
ずいぶんと長い間、なにかの記憶を見ていた気がする。
意識がはっきりとしたとき、目の前には目を丸くしたノックスが立っていた。木々のざわめきが耳へと届く。
「今のは……」
「ルキアも同じもの見たみたいだね」
「たぶん。……約束」
「忘れ物と伝言か」
ぽつりとノックスが言った言葉で同じものを見ていたと確信した。
「ファタールがいたね」
「そうだな。……あれが前世だとしたら……ずっと待たせてるんなだな」
「うん。まだはっきりと思い出せたわけじゃないけど……ずっと待たせてるのはダメだね」
なんとなくあれが前世だとわかる。もしかしたら今後もっとはっきりと思い出すかもしれない。……もし思い出せないとしても友人であるファタールを悲しませたくない。
きっとノックスも同じ気持ちだ。目を見ればわかる。
「とりあえずなんの忘れ物があるかぐらいは思い出せれば……」
ガサガサ……
忘れ物を思い出そうとノックスがしたとき、近くから草木をかき分けるような音がした。
私達は話をやめ、警戒の視線を向けた。




