(3) アトランティスの人々
私達が連れられてきた場所には、たぶん石でできた建物が建っていた。
「ここ私の家ー! 入って入って!」
女の子が明るく話しながら扉を開けた。扉を開けた先には私と同じ年ぐらいの女性が立っていた。女性は女の子の後ろにいる私達に驚いた顔をしつつも、優しい声で女の子を迎えた。
「おかえりネロ」
「ただいま! お姉ちゃん! この人たち勇者様たちだよ! 私が見つけたの!」
「勇者様? ……とりあえず中へどうぞ」
女性は軽く手を動かして、私達を招く動作をした。
どうにも敵意は感じないし、遠慮なく私達は家へと足を踏み入れた。
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招かれた家は質素な雰囲気だった。広くはないが、至るところに生活の痕跡がみえ、人の暮らしている気配が漂っている。
全員分の椅子はなかったので、じゃんけんで勝った人だけが座っている。私はもともとじゃんけんというものは知らなかったが、リリィが教えてくれたので覚えたのだ。
この世界の人も知らないらしく、ネロと呼ばれた女の子とお姉さんは不思議そうに教わっていた。
「とりあえず自己紹介しよっか」
軽く自己紹介をすることにした。私達の名前と……地球という場所から来たということ。
この家に来る前に、リリィから地球にはアトランティスに関わる伝説があると聞いたため、なにか反応があるかと思ったが……。2人は地球というのは聞いたことがないとのことだった。
2人の自己紹介もしてもらった。私達を最初に見つけた女の子はネロ。その姉のレイラ。2人が暮らすこの世界はアトランティス。海底に広がる世界だ。
「アトランティスって本当にあったんだ……」
「逆に地上に人間が生きれる場所がある世界があるのですね。」
リリィは興味津々の様子でレイラと会話している。レイラも地球のことが気になるのか楽しそうに質問している。盛り上がってるな……。
「勇者様これみてー!」
ネロが嬉しそうにルーナに何かを見せている。あれは絵本?
気になったので近寄り、覗き込む。ノックスも気になるようで一緒にルーナの肩越しに絵本を覗き込んでいる。
どうやら絵本の内容は冒険もののようで、舞台はどうやらこのアトランティスのようだ。この世界にある遺跡?のような場所から怪物が現れ、人々を襲っている。
悲しみに嘆く人々の前に突然現れる4人の人物。女神様が残したとされる伝説の道具によって召還されたらしい。
4人は様々な魔法を使い、この怪物を倒した。そして世界に平和が訪れた。のちにこの者たちは勇者と呼ばれ、また別の世界を救うためにこの世界から立ち去ったという物語だ。
「あの場所にいたし、お姉ちゃんたちは勇者様たちだよ!」
「「「あの場所?」」」
ネロがルーナの膝の上で言った言葉に、私達は聞き返した。
それが聞こえていたようで、リリィと話していたレイラが説明してくれる。
「あの場所というはたぶん約束の砂浜のことでしょう。」
「約束の砂浜? ……確かに私達がいた場所は砂浜だった気も……」
私達が落下した場所は砂が多くある場所で海らしきものも見えただ。
不思議に思ったのは頭上に海が広がっているのに、地面と続いている海らしきものが存在していることだった。
レイラにそのことを質問すると、このアトランティスは巨大なドームのようなものに包まれていると教えてくれた。そして約束の砂浜にある海は沖の方へと向かうとドーム外へと繋がっているらしい。
ドームに少しの切れ目のようなものがあるということかもしれない。
「ねぇ! 勇者様! またこの世界を救って!」
「こらネロ! 無理言わないの!」
ネロが突然私達に助けを求めてきた。咎めるようにレイラは言葉を発した。まるでランと私のやり取りのようにも見える。
……それにしても世界を救う?
「ネロ、どういうこと?」
「この絵本みたいに、怪物が出るようになったの……。私の友達にもいなくなっちゃった子がいて……。たぶん怪物が連れてっちゃったんだよ!」
ネロが嘘をついているようには見えない。思わずレイラに視線を向けると、最初は黙っていたがやがてためらいがちに口を開いた。
「世界の中心から均等にいくつかの神殿が存在しているのです」
「神殿……? まさかこの絵本の遺跡のような?」
神殿と聞いて、ノックスがレイラに質問した。
「えぇ、その通りです。そして……そこから怪物が現れるようになりました」
悲しげに目を伏せてレイラは語りだした。
ここ何百年ほど怪物は出なかったらしい。神殿には人が溢れ、女神様の恵みを受けていたようだ。女神様の恵みといっても具体的に何かを賜るわけではなく、平和な日常が続くことへの感謝を示すことだったようだ。
あるとき神殿の周りに紫色の花がたびたび咲くようになったらしい。珍しいと放置していたところ、あっという間に世界中に花が咲くようになったという。
それと同時期に怪物が神殿から出てくるようになったらしい。怪物はたびたび人をさらい、神殿へと連れ去ってしまうらしい。
「こういった具合です」
「怪物を倒せばいいんじゃない? あっ! もしかして魔法が使えないとか……?」
「いえ、魔法は皆さん使えるんです。ですが……反対する方々がいらっしゃいまして……」
「「「「反対!?」」」」
具体的に被害が出ているのに反対する人がいるのかと、私達は驚きで大声を出してしまった。
「……聖メーテル教会というのですが、この怪物は女神様が与えし人間への罰だと言うのです」
「反対することは……?」
「強大な影響力を持っている方々のため、誰も反対しないのです。反抗しようとした者もいましたが……」
そのままレイラは口をつぐんでしまった。ネロの方をちらりと見ていたので、もしかしたら小さい妹には聞かせたくない話なのかもしれない。
それにしても怪物に紫色の花。……闇魔法が関わっていると思う。
♪~♪~
「「なに!?」」
私のポッケから着信音が鳴り響いた。突然聞こえてきた音にネロとレイラはとても驚いたようだ。悪いことをしたなと思いつつ、画面を見るとファタールの文字。
ちょうどいいタイミング! 聞きたいことたくさんある! 軽くみんなに謝罪のポーズをしてから、スマホを持って外へ出ようと歩き始めた。




