(27) 堕ちた天使
現れたのは女性を型どったシャドーでその背中には大きな羽が生えている。まるでお話に出てくる天使のようだ。
一点天使と異なるとしたら、羽の色だ。よくある天使のお話では真っ白な羽を持っているのに対し、このシャドーは真っ黒な羽を所持している。
「まるで堕天使だね」
「堕天使?」
隣にいたリリィがポソリと言った言葉で、そういえばそういった存在の話も聞いたことがあるなと思い出した。なるほど、確かに天使よりは堕天使と言った方が適切だと思える見た目だ。
丸まるように背中を屈めていた大きな堕天使はゆっくりと上体を起こした。
そして見えた顔は……なんだか見覚えがある。でもいったいどこで?
「「シエル!」」
ソレイユとリュンヌが堕天使に向かって大きくシエルの名を呼びかけた。そうだ、シエルが中に取り込まれて……。
シエルの存在を探すために、シャドーの体に目を凝らしてみるが、堕天使には核のようなものが1つ存在しているだけだ。あれがあのシャドーの核だとしたら、シエルはいったいどこに?
シエルの反応を探しているとき、堕天使のシャドーがゆっくりと口を開いた。
「♪~♪~」
そしてなにか歌のようなものを歌いだした。
ただその口から流れ出るメロディーは私には不協和音に聞こえる。私の視界にはみんなが顔をしかめているのが見えるため、他の人からでも不協和音に聞こえるのだろう。
シャドーの口は1つのはずなのに、高音、低音、さまざまな音が同時に放たれている。
そして不気味なことに、不快な音だと感じるのにどうしてか歌だとわかるのだ。
「なにこれ!?」
「不快な音だね」
「うるさ……」
「見て! シャドーたちが!」
リリィの声で小さなシャドーたちへと視線を向けると、まるで恵みの雨を浴びたかのように喜んでいる。私達は思わず手で耳を塞ぐが、貫通するかのように音楽が頭に響いてくる。
やがて堕天使が口を閉じ、不快な音楽? は終わりを告げた。
「「「「終わった……?」」」」
そっと耳から手を外すと、周りは不気味なほど静寂に包まれていた。喜びに震えていたシャドーたちは動きを止めて、堕天使へと顔を向けている。まるでなにかの儀式のように見えて不気味だ。
すると1体のシャドーがピクリと動き出した。
そのシャドーの動きに共鳴するかのように、他のシャドーたちも一斉に動き出した。
「えっ!? なになに!?」
「なんか集まろうとしてる?」
ノックスの言うとおりシャドーたちは1ヵ所に固まるように集まってきた。そしてだいたい1つの塊になったかと思うと、強い紫色の光を放ち出した。
「「まぶしいっ!」」
目を覆っても、指の隙間から光が漏れてくる。それほどまでに強い光だ。
しばらく待つと光が収まったのがわかった。恐る恐る手を外すと、そこには巨大な変身ステッキがあった。……え?
「変身ステッキ……?」
「私達のものとは形が少し違うけど明らかに変身ステッキだよね。」
「えぇ、それに禍々しさもあるわね。」
巨大な変身ステッキは少し浮いたかと思えば、回転しながら堕天使のもとへと飛んでいった。
「まさかあれで魔法放つ気……?」
「まっさかー!」
「いや構えてるよ」
「やばい!」
明らかに強力な魔法を放とうとしているのがわかる。
私達は目を合わせてうなずく。これはあれしかない。私達は魔力を集め始める。
だんだんと魔力が集まってくるのがわかる。……先ほど改めて心を通わせたからか、いつもより強力な魔法が放てる気がする。
「「「フォスアロー!」」」
「繝輔か繧ケ繧「繝ュ繝シ」
私達が呪文を唱えると同時に、堕天使もよくわからない呪文を唱えた。堕天使からは紫色の閃光のようなものが放たれた。
白く輝くドラゴンと紫色の閃光が衝突する。あまりに強い光で、ドラゴンの形もわからなくなっていく。白と紫の光が互いに打ち消しあっているようだ。
するとその様子を見ていた堕天使がまた口を開いた。……くっ、またあの不快な音楽だ。
「!? あの音のせいで、紫の光が強くなってる!」
「私達も追加で魔法を放とう! フレイム!」
「うん! ルミナス!」
「私は……2人に魔力を渡すわ!」
ルーナが私とリリィの背中に手を添えた。じんわりとルーナの魔力が届く。これなら……。いやまだダメ……?
これほど全力を尽くしても、堕天使の魔力と拮抗している。私達、強くなったはずなのに……!
堕天使の歌がサビへと向かう。歌詞は聞き取れないが、なんとなくそんな感じがする。サビに入ったら押し負けてしまうかもしれない!
「♪~」
「アイスカッター!」
突然、歌が止まった。
ノックスが、変身ステッキを掴んでいた堕天使の腕を切り落としていた。歌が止まり、私達の魔法が堕天使の魔法を押していく。
「「「「いけー!」」」」
私達の魔法はまたドラゴンの形を作り、堕天使を飲み込んでいく。ドラゴンが口を開き、堕天使を丸飲みしていくように見えた。
ドラゴンの中心に紫色の球体が現れたかと思えば、真っ白に変わっていく。あれは……浄化されているということ?
そして完全に球体が真っ白になったとき、ドラゴンはゆっくりと消えた。
その場に残ったのは真っ白な球体のみ。
「あれは堕天使の核?」
「「シエル!」」
「ソレイユ、リュンヌ! 危ないよ!」
私達が様子を伺っていると、ソレイユとリュンヌが球体に向かって飛び出していってしまった。
慌てて追いかけて球体へと近づいたとき、球体は弾けた。そして弾けた光は私達の核へと飛んできて吸収された。
「今のは……吸収できたってこと?」
「それよりルキア見て!」
リリィに言われた方向を見ると、球体が浮かんでいた場所に女の子が浮かんでいた。
「女の子? ……って落ちてきた!?」
突然浮く力を失ったように空中から落ちてきた。急いで落下点まで向かい、女の子を受け止めた。
女の子に意識はないようだ。そして……あの堕天使と似たような顔つきをしていた。それに見たことがある顔だ。
「「シエル!」」
「え?」
私が抱いている女の子に、ソレイユとリュンヌがシエルの名を呼びながら抱きついてきた。
……この子はシエルなの?
明日更新のお話で第2章は完結の予定です。




