(23) 百合を取り戻せ
「なによ、この雰囲気。百合は?」
「……」
「え?」
「今そこは繊細なところだから……」
「なに? 喧嘩でもしたの?」
部屋に現れた遥はこの異様な空気をすぐに感じとったようだった。しかし困惑している遥には悪いが、何も言葉を返すことができない。
代わりにソレイユや聖が説明してくれているようだ。
「~ってことがあって……」
「なるほど。……バカじゃないの?」
呆れたような表情で遥が言い放つ。話す気力が湧いてこなかったはずだが、思わず反応してしまった。
「バカ!?」
「だってそうでしょ。明らかに百合の様子おかしいじゃない。操られてるんじゃないの?」
「でもちゃんと話は成立してたよ」
「ならわざとそういう感情を植え付けられてるのよ」
「植え付けられてる?」
「そう。私達が雨宮さんに無条件で良い感情を持つようにね。明らかにおかしいもの」
「おかしいって思ってたんだ」
「えぇ。私はあんまり人を信用しないほうだから……」
この言葉でソレイユと聖がこそこそと話しているのがわかった。おおかた自覚あったのかみたいなところだろう。……遥は気づいていない。
「それなのにまるで……親しい人みたいに感じるのよ? おかしいじゃない。それにリュンヌにも忠告されたしね」
「なるほど」
「とりあえずあのお馬鹿の目を覚ませにいかせないとね」
「お馬鹿……。うん。取り返してみせる」
遥の言葉で私の目も覚めた。
とりあえず百合の居場所を探さなければ……。百合が出ていってからしばらく経ってしまったし、近くにはいないかもしれない。
雨宮さんがいるあの森と研究施設の場所はよくわからないし……。ソレイユに頼るしかないか。
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ソレイユが百合の位置を探ろうとアホ毛を動かしている。ただすぐには発見できないのか、難しい顔をしている。
「おかしいなー。……あっ! そうか! シエルがここにいるから?」
どういう仕組みかは知らないが、ソレイユはいつも百合のことはシエルの位置で探しているようだ。まだ体調が悪いのか、シエルはまだ寝室から出てこない。
そういえば様子を確認しにいかなきゃ。この騒ぎで起きてこないってことはそうとう体調が悪いのかもしれない。
「ちょっとシエルの様子を見てくるね!」
まだ百合の位置を探ろうと奮闘しているソレイユと、見守るみんなに声をかけて寝室へと向かった。
コンコン
「シエルー?」
「……」
「入るね」
返事がないため、静かに部屋へと入る。
予想通りシエルは寝たままだった。ふーふーと荒い息をあげて、苦しそうだ。……そしてよく見るとシエルの核に少し紫色の魔力がまとわりついているのがわかった。
「これって!」
「……百合?」
「……違うよ。ルキアだよ」
「ルキア。……百合は?」
「出ていっちゃった。たぶん雨宮さんのところ」
「そうなんですね」
「ねぇ……雨宮さんの研究施設の場所を知ってたりしない? ……しないよね」
「わかりますよ」
「だよねー。……え!?」
急いでシエルを抱えて、みんなのもとへ向かう。
「みんな! シエルが研究施設の場所わかるって!」
「ほんとに!?」
一斉にみんながこちらを向いた。まだ百合の位置は特定できていなかったようだ。
「シエル、体調は大丈夫なの?」
「最悪です。でも百合のことの方が心配だから大丈夫です」
「じゃあシエル、ここに残って指示を……」
「いえ行きます」
「「「え!?」」」
さすがにここに残ってもらおうと考えたが、シエルはどうしてもついてくるつもりのようだ。目が物語っている。
「わかった。……でも無理しちゃダメだよ?」
「ありがとうございます。ではいきましょう!」
シエルと手を繋ぐ。みんなそれぞれ手を繋ぎ、おいていかれないようにひとつの輪のようになった。
目の前の景色がかわっていく。
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目の前が森へと変化した。無事についたようだが……森の様子がおかしい。
まるで妖精王エウロの部屋で感じたようなプレッシャーで空気が満たされている。聖も遥も、みんな眉をひそめている。
「これは変身したほうが良さそうね!」
「そうね。」「そうだね。」
「「メイクアップマジック!」」
私達の体が光に包まれる。身につけているものが1つずつ変わっていく。そしてフリフリキラキラの魔法少女の格好へと変身した。
「兄さん!?」
隣からルーナの驚きの声があがった。……あ、ノックスの格好か。ノックスはルーナに詰め寄られている。私にもした説明をしているのが聞こえてくる。
「なるほど。驚いた。……あれ? ルキアは知ってたの?」
「ちょっと前に知ったよ」
「なっ! ずるい!」
「いやいやほぼルーナと同じタイミングだから……」
「それでも先に知ったのはほんとでしょ!」
うわぁ、いつも百合してる言い合いみたいなのに巻き込まれた。……やっぱりここは百合の立場でしょ。
「聞いてるの!?」
「聞いてる聞いてる。それより早く行こう!」
私とルーナ以外のみんなは巻き込まれないように遠巻きにこちらを見ている。いや助けてよ! 特にノックス! あなたの妹さんのせいなんですけど!?
無理やり話を変えて、森へと向き合う。
「こっちよ」
シエルの先導で歩きだす。しんどそうにふらふらと飛んでいるので、慌てて腕に抱えて進む。
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「ミツケタ!」
「ツカマエロ!」
「タベロタベロ!」
しばらく歩いていると、いつの間にかシャドーたちに囲まれていた。
「大歓迎みたいね」
「やろうか」
「邪魔するやつらは倒すだけよ」
私達はシャドーへと攻撃を開始した。




