(15) 覚悟を決めて
妖精王の部屋から出ると、たくさんの妖精たちが近寄ってきた。
「えっ!? なんかたくさんいる!」
「ありがとー!」
「助かったよ!」
「ありがとうございます!」
集まった妖精たちが口々に感謝の言葉を述べてくる。
「どうしたの?」
「みなさんが妖精王様を救ってくださっちゃんじゃろう」
多くの集まった妖精の中から、一際年齢が高いと思われる妖精が進み出てきた。周りの妖精たちは彼? が出てきてから静かに話を聞く姿勢になった。
妖精たちをまとめている村長やオババみたいな妖精なのかもしれない。
「あなた方のおかげで嫌な魔力が消えていった。白銀の木々も汚染から解放された。本当にありがたや」
「いえ、まだ危機は去ったわけではないわ。これは一時的な対処に過ぎないの」
ルーナが妖精たちの前へと立ち、宣言する。
その言葉で嬉々とした雰囲気を出していた妖精たちが、絶望したような表情へと変化した。さすがに不安を煽りすぎな言い方……!
急いで前に出て説明しようとしたとき、横からリリィがすっと前に出ていった。
「みなさん不安になる気持ちもわかります。けれど、私達はこの汚染の根源を浄化するように努めていきます! ……きっと解決してみせます。ね! ルキア!」
「うん! 私達に任せて! ちゃちゃーと解決してみせるから!」
「「「わぁー! ありがとう!」」」
リリィと私の言葉で、明るい雰囲気が帰ってきた。
「あ、良かったまだいた!」
私達の後ろからファタールが歩いてきた。確かに遅かったな。なにかエウロと話でもしてたのだろうか。
「ちょっとみんなにまだ話したりないところがあるから……」
「あぁ……私どもは退散いたします。本当にありがとうございます。」
ファタールがちらりと妖精たちへと視線を向けると、心得てるとばかりに解散し始めた。
最後に代表らしき妖精が立ち去ろうとしたとき、リュンヌが彼? に声をかけた。
「ねぇ、妖精王は……彼女はどうにか妖精界を守ろうと1人で耐えていたわよ」
「! ……もちろん妖精王様への感謝は皆、忘れておりません」
「違うわよ」
「え?」
「リュンヌが言いたいことは、あなたがたにもできることがあるってことですよー」
「……しかしながら私どもはしがない妖精でございます。できることなんて」
「一人一人は小さな力かもしれないけど、みんなで力を合わせれば大きなことができるんだよ」
ソレイユたちが代表らしき妖精にエール的なものを送っている。
思わずソレイユを抱き締める。
「ソレイユ! 良いこと言うじゃない!」
「ルキア! 苦しいよ!」
「なに? 経験談?」
「まぁそんなところ! ……だからピンチになったときに無力だからって無抵抗はやめなよね! あきらめないことが大きなチャンスになるから!」
ソレイユが念を押すように言うと、彼はハッとしたような表情をした。
「はい。肝に銘じます。私どもにできることを……」
彼は深く一度頭を下げて、遠ざかっていった。
「ったく、ああいう守られているだけのやつら嫌いなのよ」
「リュンヌ、そうは言ってるけど鼓舞するために声をかけたんですよね?」
「違うわよ。本当にムカついただけ」
「素直じゃないんだからー!」
「……」
「あれ? 無視?」
悪気はないのだろうけど、ソレイユはリュンヌの地雷を踏み抜く天才だと思う。ソレイユを抱いているから、リュンヌの冷たい視線が私にも突き刺さる。思わず苦笑していると、ファタールが口を開いた。
「じゃあこの場が僕たちだけになったということで……」
「そう、話ってなんなの?」
「地球にある闇の魔力の根源を浄化してほしいという話になったでしょう?」
「うん。まだ根源の場所がわからないって言っただろう?だから僕も地球を探索しようと思う」
「え? じゃあ一緒に来るってこと?」
「いや、僕は地球以外にもアルテルとかの様子も見なくちゃいけないから別に行動するよ」
「「「アルテル?」」」
アルテルという名に聞き覚えがないみんなはファタールへと聞き返した。アルテルは私の世界の名前だ。先に私が軽く説明する。
「あぁ、リリィたちは知らないわよね。アルテルは私の世界の名前よ。地球みたいなものかも」
「へぇー! そのアルテルという世界にも闇の魔力の根源があるんですか?」
「確信はないけどね。でもあの大樹の根っこがそれぞれ汚染されていることから、可能性は高いと思う」
まさか私の世界までも魔の手が迫っていたなんて……
でも確かにオババが前に勇者が闇を祓ったときにモンスターが出現しなくなったと話していた。……それなら今、モンスターが村の周辺に現れるということは……闇の魔力の影響だったのだろうか。
ドラゴンなども現れたし、アルテルでもだんだんと汚染が進んでいるのかもしれない。
「ねぇファタール!私は……どうすれば。アルテルに帰るか地球を守るか」
「……ルキア。そうだよね」
私が焦りを滲ませると、腕に抱いていたソレイユが優しく手をのせてくれる。
「そう、そのことなんだけど。たぶんルキアはアルテルに帰れない」
「……帰れない!? どうして!?」
「予想だけどルキアはエウロの力で世界を渡ってきている。けれどエウロは現在、力が弱まっている。そのためこの妖精界を維持するだけで精一杯だ」
「なるほど……。ルキアを戻すだけの力が残っていないんですね?」
「リリィ、話が早いね。そう。その証拠にアルテルにルキアの体が残っていない。世界の繋がりが切れているってことだ」
あまりの衝撃に目の前の景色が揺らめく。
何も声を出せなくなっていると、聖が静かにファタールに問いかける。
「あなたも世界を越える力があるのでは? それならルキアを連れていくことも可能なんじゃないか?」
「……確かに僕にも越える力があるよ。けれど自分1人しか越えることができない。エウロほどの力はないんだ」
「そ、そんな。……もう一生お母さんやラン、村のみんなに会えないってこと……?」
頭が真っ白になり、立っていられない。
「安心して。闇を祓えば、エウロの力は戻ってくる」
「……地球の闇を祓うことが帰る手段ってこと?」
「そう。それでも帰れなかったら……。ううん、そんなことはないはずだし、させないよ」
いつもにこやかなファタールが真剣な目で伝えてくる。
真っ直ぐなその目を見て、私は決意をした。
「うん。やるよ私。またアルテルのみんなに会いたいのもあるし、地球も守りたいしね!」
一生帰れないと決まったわけではない。それにここには大切で心強い仲間たちがいる。自然と笑みが浮かんだ。
「うん。やっぱりルキアには笑顔が似合うね。」
「そうよね! さぁみんな地球へ行こう!」
「「「「「うん!」」」」」
「じゃあ僕は別行動をするけど、怪しい地点を見つけたら連絡する」
「頼んだ!」
私達はそれぞれのお供の妖精の手を握った。
目の前の風景が変わっていく。笑顔のファタールが遠ざかっていった。




