(11) 謎多き人ファタール
「やぁ」
ファタールは片手を軽く上げて、にこりと笑った。やはり掴み所のない人物だな……
「いつの間に?」
「まぁまぁ、そんなことより……」
「えぇ……?」
ファタールはなんてことないように話を続けた。
「妖精界が闇の魔力で汚染されてるね」
「やっぱりそうなんですね」
「あ、敬語使わなくていいよ。僕とルキアの仲じゃないか」
「え? いや別にそこまで関わり深くないですけど……。まぁ敬語苦手だし、いっか」
「うんうん。……それにしてもこんなに汚染が進んでるってことはエウロに何かあったのは確実みたいだね」
「そうね。管理者たる彼女がちゃんと仕事をしてたらこんなことにはなってないはずよ」
「おや、リュンヌ久しぶり」
「えぇ、お久しぶり」
ファタールはリュンヌと知り合いのようだった。妖精と知り合いということに驚いたが、ファタールは1000年以上生きてるって言ってたし、そんなこともあるのだろうと納得した。
ソレイユやシエルとも知り合いなのだろうか? そういえばさっきファタールの話題を出したときも、特に驚いた様子はなかったように見えた。
それに急に現れたファタールにも驚いた様子を見せずに、なんだか慣れている様子にさえ見えた。
「ファタールはソレイユたちと知り合いなの?」
「うん。古い知り合い。一緒に旅したこともあるよ」
「一緒に旅? どこへ?」
「うーん……。まだ内緒」
「えー! というか、まだ?」
「いつか話すときが来るよ」
そう言ってファタールは笑った。前にもソレイユに話せないことかあるって言われたことがあったな。……いつかすべてを知る時が来るのだろうか。
「そういえばルキア。彼らを紹介してくれるかい?」
「あ、もちろん! みんなこっち来てー!」
ファタールに声をかけられ、思考の海から意識を戻した。
みんなを紹介するために聖たちの方へと視線を向けると、彼らもファタールが気になっていたらしく、すぐにこちらへとやってきた。
「ルキア! この人が?」
「そう。さっき連絡してきた人で……よくわからない人」
「紹介、雑じゃない?まぁいいか。僕はファタール。よろしく、魔法少女たちと……ノックス」
「どうしてその名前を……?」
「あぁ、これだよ」
ファタールがみんなに見せるようにスマホを取り出した。
「スマホ? それがいったい……」
「ん、ちょうどいいタイミングだ」
みんなでファタールのスマホを覗き込むと、とある映像が映し出された。
どこかの森の中のようだが……見覚えがある。
あれ? ここってもしかして、いつも私がモンスター討伐に行く村近くの森?
「ファタール、ここって! 私の世界の!」
「そう。ルキアの言うとおり、地球とは違う世界だよ」
「へぇー。確かに地球とは違う植物が生えてますね」
「見て、変わった動物がいる。」
「あっ! アイスベア!? ……あれは動物じゃなくて、モンスターだよ」
「ルキア、焦った顔してるけどそんなに強いモンスターなのか?」
まさかアイスベアが出るなんて……しかも複数体。大型のモンスターということもあり、同時に複数体討伐するときにはいつもギリギリで勝てているのだ。
もちろんみんなの実力を疑っているわけではないのだが、私という戦力が欠けた状態での勝敗がどうなるのかわからないのだ。
その心配が表情や声色にも出てたらしく、聖に指摘された。
説明をしようかと思ったが、それをしている時間があるならば元の世界に帰ろうと考えた。
「ごめん! 説明はあとからするから! 妖精王エウロに話し聞くの任せて良い? 私、帰らないと!」
「えっ! ルキア自力で帰れるの!?」
「わかんない! けどがんばる!」
みんなに帰る宣言をし、バタバタし始めたとき、私の頭に優しく手がのせられた。
この手は……ファタール?
「え? なに?」
「落ち着いてー。大丈夫だから。」
「えっ!? そんなこと言ったって!」
「いいから映像の続き見てて」
軽く頭を撫でられたかと思えば、すぐにその手は離れていった。
……初めて男の人に頭を撫でられたかもしれない。幼いころにもしかしたら父が撫でてくれていたかもしれないが、記憶がないため実質初めてだ。
心に何か温かいものが広がり、少し落ちつくことができた。けれどどこか恥ずかしい気持ちがあり、思わずうつむいてしまう。
「あっ! なんか武装してる人たちが出てきたわね。」
ルーナの一言で、顔をあげて映像へと視線を向けた。
そこに映っているのは討伐隊のみんなだ。
「ルキア、この人たちは?」
「一緒にモンスターの討伐をしてる人たち。みんな強いのよ」
「へぇ! それなら安心だね!」
「……そうだと思う。でもアイスベアが複数いるからな……」
「あれ?こんな小さい子も参加してるんだ」
「え? 聖、どこ?」
「ほら、ここ」
「あっ!」
聖が指差した場所にはランの姿が映っていた。
まさか討伐隊に参加してるなんて……! 確かに前に一緒に訓練したときは少し強くなってたけど、まだ参加するには早すぎるよ!
思わずファタールへと視線を向ける。行く必要はないなんて言っていたけれど、これは行く必要があるでしょう! そう目で訴える。
ファタールはその視線に気づいたようだが、小さい子を見るような目をしながら笑いかけてきた。少しムッとすると口に何か放り込まれ、また軽く撫でられた。
……子供扱いされてないか?
不満に思いながらも、口の中にある甘み……たぶん飴を味わいながら映像へと視線を向けた。
そこに映っていたのは、ランが風魔法でアイスベアを一掃したところだった。
「ほら心配いらなかったろ?」
ファタールが楽しげに話しかけてきた。
ちょっとむかつく。飴が口に入っていて上手く話せないので、ファタールの足を軽く蹴っておいた。




