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(8) 雨宮真冬という男


「えっと雨宮さん……。少しお話伺っても?」

「もちろん。僕からも質問したいことがいくつかあるのですが」

「あっ! そうですよね……」


 確かにこんなに人気がない森に、突然フリフリの服を着た人たちが現れたら疑問に思うよね。……どこまで話していいんだろうか。


 ちらりといつの間にか遠くへ行っていたソレイユへと視線を投げた。

 けれども視界に入ったのは、クッキーを満足そうに頬張っているソレイユの姿だった。一緒にいるルーナも目尻を下げて幸せそうにクッキーを口に運んでいる。……だめだ。


 リリィとシエルは……と目を動かすと、壁にある本棚に夢中になっている2人の姿が見えた。リリィもだけど、シエルも意外と本好きなんだよな。よく部屋で読んでいるところを見かける。

 ここにある本はリリィによるとどうやら貴重なものらしいし、夢中になるのも仕方ないのかもしれない。……だめだな。


 意見を聞けるものはいないのかと諦めかけたとき、リュンヌと目があった。リュンヌは神妙な顔でうなずいたあと、こちらへと飛んできた。味方がいた!


「もしかして作戦会議でもしますか?」

「あ、はい。……そうですね。少しお時間いただいても?」

「じゃあ良ければお菓子でも召し上がりながらどうぞ。えっと……席はあちらは埋まってしまっているようなので、こちらのテーブルをどうぞ」


 雨宮さんが勧めてくれた席はソレイユたちとは別の席だった。ありがたくそちらの席を使わせてもらう。リュンヌと共にそちらへと移動した。


 席についたところで雨宮さんがクッキーをはじめとしたお菓子が入ったカゴを持ってきてくれた。そのすぐあとに湯気が出ているコップを2つ持ってきてくれた。

 何の飲み物だろうかと覗き込むと、真っ黒な液体が見えて思わず渋い顔を浮かべてしまう。


「ルキア……あなた顔……」

「いや……うん。頑張れば飲める」

「あ、すみません。苦手でした?」

「大丈夫です! 飲めますよ! ほらっ!」


 ぐいっとコップを持ち上げて、コーヒーを飲み込むが……やっぱり苦い!


「良ければお砂糖とミルクいれてみてください」


 雨宮さんがおいてくれた砂糖とミルクをコーヒーへと投入する。みるみるうちに真っ黒な液体から茶色の液体へと変化した。そのまま一口飲んでみると……飲める。


「飲める! リュンヌ飲めるよ!」

「まぁそんな致死量の砂糖とミルク入れたらね」

「飲めたってことが大事なのよ!」

「良かったですね。ではまたしばらくしたらお話伺いにきますね」


 そう言って雨宮さんは私達の席の近くから立ち去った。


「雨宮さん良い人だね。……話しても大丈夫そうじゃない?」

「まぁ良い人に見えるわね。でも……警戒するにこしたことはないわ」

「リュンヌは心配性ね」


 リュンヌはついっと雨宮さんを細めた目で見た。


「あのね、あなたやソレイユが能天気すぎるのよ。まぁルキアの方がソレイユより何倍もましだけれど」

「相変わらずソレイユに辛辣……。それにしてもなんで警戒?」

「そうね。人間としては良さそうな感じが出てるけど、そういう人間こそが時に恐ろしい一面を持っているものよ」

「そうなのかな」


 そっと視線を動かして、雨宮さんを見る。今は本棚の前にいるリリィと話しているようだ。会話の内容は聞こえてこないが、双方に笑顔が見えるため楽しげな雰囲気が伝わってくる。シエルは少し離れたところで本を読んでいる。


 それにしても、リリィがとても楽しそうだ。リリィは私達といるとき楽しんでないってことではないんだろうけど、対等に本について語れる人と話せるのが楽しんだろうな。

 私がリリィの本の話を聞いても、根本的な情報が違ったりして深い会話はできていない気がするし……


 リリィのためにも雨宮さんが悪い人じゃないことを願う。


「それに……」

「ん?」

「こんな辺鄙なところに1人でいるっていうのもおかしな話よ」

「なんかの研究してるって言ってたから変じゃないんじゃない?」

「まぁね。でも位置情報から察するに、ここ一番近くの街までも車で1時間ぐらい離れてるわ」

「え、そんなところだったんだ」


 ソレイユの魔法で飛んできたから正確な場所の把握ができていなかった。最初に落ちていたときに見えていた地面が、街らしきところだったからここは街の外れの森とかかと思っていた。


「えぇ。ただの変わり者ってこともありえるかもしれないけど……。あまり詳しくこちらの事情を話すことはしない方がいいわ」

「そうだね。魔法少女っていうのも……まぁそれはいいか」

「そうね。仮に敵だとしても魔法少女という存在は認知してるはずでしょうし」

「ねぇ……ちょっと怖いこと思ったんだけど……」

「なに?」

「私達が呼ばれたってことはない?」

「……どうかしら。でもそもそもこの建物に寄ったのだって、ルキアが正体不明の卵に触れたからだけど?」

「……そうでした。じゃあ関係ないか」

「とりあえず簡単なことだけ伝えましょう」

「うん。あとは雨宮さんについて軽く質問しよっか」


 リリィと相変わらず仲良く会話している雨宮さんへと視線を送る。その視線に気がついたのか、こちらへと雨宮さんが振り返った。軽くリリィに断りのジェスチャーをしてこちらへと歩いてくる。


 リリィは少し名残惜しそうに雨宮に視線を送っている。別にリリィも一緒に話をしたらいいのに。

 リリィへと視線を向けていると、それに気づいたリリィが本を掲げて申し訳なさそうな顔をした。


 ……あー、本を読みたいってことね。任せてという顔でうなずくと、リリィが吹き出したのが見えた。失礼な!


「それで……お話はまとまりましたか?」

「あ、はい!」


 私達は魔法少女であるということを話した。もちろん存在は秘密にしてほしいとも。ここに来た理由はシャドーという存在を倒すためだと説明した。

 雨宮さんもシャドーに襲われていたらしく、シャドーの存在については疑問に思っていないようだった。そこまで話すと彼は納得してくれたようだった。



 逆に雨宮さんについても質問した。

 雨宮さんは地球の生態系を研究している人らしく、ここもその研究のための施設の1つらしい。今はあの卵について研究しているところと話してくれた。

 けれどもわかっていることは多くなく、まだ孵化したところも観察できていないらしい。


 そしてこの研究施設には雨宮さん以外も研究者がいるらしいが、ちょうどみんな休みをとっているようだ。

 研究については詳しく話せないと謝られた。まぁ聞いてもよくわからないだろうし、特に気にしていないと答えた。そこまでで質問タイムは終了した。


 聞きたいことは聞けたと思い、帰る支度を始めた。


「ありがとうございました。……すみません、あの卵が気になるのでまた来るかもしれません」

「えぇ大丈夫ですよ。そのときはまたここに寄って行ってください」

「考えておきますね。あ、お菓子美味しかったです」

「それは良かった」


 皆に声をかけて、立ち去る準備をする。

 研究施設の出口まで雨宮さんに見送ってもらった。


「「「「ありがとうございました」」」」

「いえいえー」


 さすがに雨宮さんの目の前で転移するわけにはいかないので、森へと歩み出した。少し離れたところで振り返ると、研究施設の入口でリリィと雨宮さんが何か会話しているのが見えた。


 リリィが会話を終え、小走りで近づいてきたので何を話していたのか聞いた。けれどリリィは照れくさそうに笑って教えてくれなかった。

 ……恋の予感か……?

 

 森へと入って、私達は転移魔法で移動した。



 施設の入口に立っている雨宮は1人呟いた。


「掴みは上々かな」


 眼鏡を外し、髪を軽く崩した彼は先ほどまでとは異なり軽薄そうな雰囲気を纏っていた。



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