(3) 誰かの家
廊下を歩き、ルーナたちが入ったであろう正面の部屋の扉を開けた。
すると目に飛び込んできたのは……何もない部屋だ。本当に何もない。
先ほどまでいたノックスの自室とは異なり、まったく家具が置かれていない。どうやって生活を……?
「これって……家具とかはないの?」
「全部売ったの」
「売った? どうして?」
「お金がないっていうのと……見てると思い出してつらかったの」
「ルーナの部屋も一緒よ。布団しか置いてない」
「リュンヌ! ほんとなの!?」
「わざわざそんな嘘をつくわけないでしょ? ほらこっち」
今度はリュンヌに続くように廊下へと出た。
すると廊下に出たところでちょうど自室から出てきたノックスとはちあわせた。その手には服を持っている。
……まぁ今の服装は、あまり地球では見ない服装だしね。みんなが待ってるって言ったからとりあえず持って出てきたのかな?
「あれ? どこ行くの?」
まさか廊下にいるとは思わなかったのか、驚いた顔をしたノックスが問いかけてきた。
「ルーナの部屋!」
「え、リビングはいいの?」
「あー……見たらわかると思うけどなにもなくて。ルーナの部屋はどうなってるか見に行くところ」
「なにもない? 家具とかは?」
「……売ったの」
「売った?」
ノックスは理由が思い浮かばないようで、不思議そうな顔を浮かべている。ルーナがたどたどしく理由を説明すると、ノックスは驚きの感情をあらわにした。
ノックスが親の遺産があるから金銭的には余裕があるはず……とぽつりと言ったとき、リュンヌが怒りをにじませながら声をあげた。
「あなたが行方不明になるからでしょ! 口座の管理はあなたがしてたのに!」
「あ……そうか」
ノックスは納得したようにうつむいた。
とりあえずこのまま廊下で話すわけにもいかないし……
「積もる話はあると思うけどとりあえずルーナの部屋行こ!」
このまま話し合いが始まってしまいそうだったので思わず声をかけた。少し不穏な空気になりつつも、ルーナの部屋へと歩き出した。
先頭を行くのはリュンヌだ。ふわふわと浮きながら案内してくれる。
そしてルーナの部屋の扉がリュンヌによって開かれた。その小さな背中越しに見えたのはがらんとした部屋だった。
部屋の中にはリビングと同様になにも家具がなく、あるのは布団といくつか洋服などだげだった。
「これは……」
「見たらわかるって言ったでしょ。なにもないの。部屋にも……私の中にも」
ルーナが自嘲するように笑った。
「ルーナ……」
「シエル! 私の家に行こう!」
「リリィ?」
どう声をかけようか悩んでいると、リリィが急に言い出した。
その表情から私と考えていることがなんとなく同じだと感じた。やはり落ち着いて話せる空間が必要だよね。
となりにいたノックスの手を握り、リュンヌを抱き締める。目の前でリリィがルーナの手を握ったのも見えた。ソレイユとシエルも察してくれたようで私達の手を握ってくれた。
「じゃあリリィの家にー?」
「「しゅっぱーつ!」」
「「「え!?」」」
目の前の風景が揺らめいた。
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気がつくと、見覚えのある部屋の中にいた。
「ここは……」
「リリィの家だよ!」
「寒っ! 先に暖房つけるね!」
さっとスリッパを履いたリリィがパタパタと音を立てて、リビングの方へかけていった。
「……誰かの家って感じだ」
「……そうだな」
ルーナとノックスがそれぞれポツリとつぶやいた。
その気持ちが少しわかる気がする。私も父親がいなくなり、母にもかまってもらえなかったときの家は、ただの建物であり家とは感じなかったのだ。
そのときオババの家に行くたびに……暖かいけれど誰かの家だと強く感じたことを覚えている。
「あれ? みんな入ってきて大丈夫だよー?」
リリィがリビングの扉を開けて、こちらに声をかけてきた。
いけない、なんだか感傷に浸ってしまっていたようだ。私らしくない! 努めて明るい声を出しながらルーナとノックスに声をかける。
「よし行こう! ゆっくりしてって!」
「ここ私の家だけどね? まぁ本当に家だと思ってくれて大丈夫だから」
「「さすがルキアだ」」
「え?」
ちょっとバカにされたような気もしなくもないが、とりあえずリビングのソファーへとみんなで腰かける。
「よし! とりあえず居心地の良い場所ゲットー!」
「それよりみんなそろそろ変身解きましょー」
「「「あ」」」
シエルの言葉で、まだ変身を解いていなかったのを思い出した。
それぞれが変身ステッキを取り出し、変身を解除した。そして現れたのは、ただのルキア、ただの白銀百合、ただの月影遥だ。
「あ……白銀さん」
「えっと……月影さん」
「うーん。距離感が遠すぎるね。百合と遥で!」
「「うん」」
変身を解いたことで、今まで仲良く話していたはずなのに距離があいたように感じた。まぁいつの間にかそんなこと忘れるぐらいに仲良くなれるはず! そういえば……ノックスは……。
思わずノックスの方に視線を向けると、彼もこちらを見ていたようで目があった。驚いたように目を丸くしたあと、にこりと微笑んだ。
ドキッ!
……なんか変な鼓動が……え、病気!?
心臓に手を当てながら考えていると、ノックスが口を開いた。
「改めて……月影 聖です。遥の兄で……良ければ仲良くしてくれると嬉しい」
「兄さん……もう独りにしないでね。そして独りにならないでね」
「うん」
「よろしくね!」
「よろしくお願いしますー」
「ソレイユもシエルもよろしく」
「仕方ないから仲良くしてやっていいわ。一応遥の兄だしね」
「……リュンヌ。遥を支えてくれてありがとう」
「当たり前よ! これからも遥の一番は譲らないんだからね!」
「俺も努力し続けるよ」
「……仲良くなれるように努力はします……」
「百合のそれはデフォなのね」
「……わかってるよ! ……仲良くします」
「ゆっくりでいいよ」
「それで……」
「「「「……」」」」
気がつくと皆の目がこちらに向けられていた。
「え?」
「ルキアちゃんが一番に話さないなんて珍しいね。」
「え、あ! あっ! も、もちろん仲良くするよ! よろしくね!」
「うん。よろしくルキア」
「なんかルキアちゃん顔赤くない?」
「風邪引いたんじゃない? バカは風邪引かないって言うけど……槍でも降る?」
「ソレイユ! 言葉の意味はわからないけど、バカにしてるのはわかるわよ!?」
ぼーっとしてしまっていて反応が遅れてしまった。やっぱり風邪? とにかく失礼なことを言うソレイユにはお仕置きしなきゃ!
ソレイユを追いかけ始めた。その周りでは百合や遥、聖が笑っている。暗い空気はどこかに行ったように楽しげな空間が広がる。
少し離れた場所でシエルとリュンヌがこんな会話をしていた。
「あれって遥の兄にルキアが惚れたんじゃないの?」
「まだ恋ではないように感じますけどねー」
「あのメンツ、誰も気づいてないの!? 鈍感ね! ……遥はともかく。」
「みたいですねー。かわいいじゃないですか」
もちろんその会話は騒いでいる私達には聞こえていなかった。
ピンポーン!
チャイムが鳴った。……誰か来たようだ。




