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第4話 料理の美味しい宿

「カード化スキル……か。教会の記録にもないくらい珍しいスキルって事よね。管理者(あのひと)も祝福がどうとか言っていたし、きっと使えるものだよね。ナビーはこのスキルについて何か知ってる?」


 教会を出た私は小声でナビーにそう問いかけるが、予想外にもナビーはいつもの調子で語ることはなく「うーむ」と唸っていた。


「正直、俺様が知らないスキルがあるとは思ってなかったよ。さっきの人が言っていたように使ってみて調べるしかないんじゃないか?」


 出会ってから初めて弱気を見せるナビーに私は少しばかり親近感を覚えて微笑む。確かに私もすぐに検証をしたいと思ったのだが、先ずは暫く過ごすための拠点宿を決めなければならず情報収集のために目の前にあった露天商の店主に声をかけることにした。


「ご主人、串焼きを二本ほどくださいませんか?」


「はいよ。銅貨二枚だ。熱いから気をつけて食ってくれ」


 私は店主に料金を支払うと串焼きを受け取りその場でかぶりついた。


「美味しい!」


「そうだろ、そうだろ。うちの串焼きは新鮮な肉しか使ってないからな。ところで君はこの辺りでは見かけない顔だが他所から来たのかい?」


「ええ、つい先ほどこの町に着いたばかりで今は教会に行っていたのですが、どこかでお昼を摂りたいと思っていまして……。どこか良い食事処を知りませんか?」


「女性が好む美味い食事を出す店か……。そうだな、俺の知り合いに美味い飯を出すいい食事処があるんだが、一度覗いてみてはどうだ?」


「美味しいご飯が出る店ですか、それはいいですね。何処にあるのでしょうか?」


 やはり、食事に関しては美味しいのはありがたいとばかりに私は店主の男性に場所を尋ねた。


「あー、ちょっと説明には分かりにくいかもしれんな。もし良ければ案内をしても良いが……。いや、こんな若い娘さんにそんな事を言っても怪しいだけだよな」


 本心から親切で言っているのだろうが、串焼き屋の主人はそう言って頭を掻く。


「えっと、だいたいどの辺りかとお店の名前を教えてくだされば周りの人に聞きながら向かいますよ」


「お、おお。そうか、その手があったか。じゃあちょっと待ってろ」


 串焼き屋の主人はそう言って紙に店の名前と大まかな道順を記したメモを渡してくれた。


「俺の姪が給仕をやっている店で『からっと』という店なんだよ」


「ありがとうございます。是非とも行かせて頂きますね」


 私は串焼き屋の主人からメモを受け取ると、お礼を言ってから地図に記された方へ向かって歩き出したのだった。


 ◇◇◇


「――食事処からっと。見つけたわ、このお店ね」


 串焼き屋の主人が休憩時間で案内をしてくれると言っていたのでそれほど遠くではないと思っていたが歩いて十分くらいの場所にそのお店はあった。


「大通りから少し中に入った場所にあったから見つけにくいだけで、彼は迷路の中にあるような言い方をしていたけどそれほど難しくは無かったわよね?」


 ナビーに小声で話しかけると肩から同意の返事が返ってくる。私はそれを聞きながらも宿を見つけた喜びのままにお店に入って行く。


 ――からんからん。


 小気味の良い音が店内に響き渡り、奥のカウンターから元気な声がかかる。


「いらっしゃいませ! お好きなお席へどうぞ」


 カウンターの前で両手に注文の品を持ちながら声をかけてくれたのはまだ十五〜十六くらいの女性だった。給仕の仕事をしているのだろう。


 時間帯が少しずれていたからか、客はまばらだったので私は店内を見回して一番奥にボックス席を見つけそこへと向かう。


「ご注文は何にしますか?」


 私が席につくとすぐに彼女が注文を取りに来たが、まだメニューもろくに見ていないタイミングで来られても困るなと思いながらも何となく待たせるもの悪いかと思い彼女に言う。


「初めてこのお店に来たのでオススメの料理をお願いしますね」


「分かりました。最高のものをお出ししますね」


 よく言われることなのか、お任せ料理をと言った私に戸惑う素振りもなく彼女は笑顔を振りまきながら厨房へ向かって行ったのだった。


 私は食事を注文すると待っている間に先ほど受けた鑑定内容を思い出しながら呟く。


「教会の持っている情報の中に無いスキル……か。あの管理者が最後に残した言葉では少しだけ加護を付加しておくと言っていたけれどカード化とはいったい……」


「お待たせしました。じゅうじゅう揚げ定食になります」


 私が考え事をしていると急に声をかけられて現実へと引き戻されると同時に目の前にはなんとも美味しそうな唐揚げ定食が運ばれて来ていた。


「こ、これは唐揚げ定食!?」


「いえ、じゅうじゅう揚げ定食ですよ?」


「料理の名前なんてどうでも良いですよ。それよりもなんて美味しそうな匂いをしているの?」


「うちの店で一番人気の定食ですからね。熱いうちに食べてくださいね」


 彼女はそう言うとぺこりと頭をさげてからくるりと背を向けて奥へと歩いていった。


「ふうん。なかなか美味そうな料理だな。俺様にも一つくれよ」


 運ばれてきた料理を見てナビーがそう話す。リスの見た目でから揚げを食べるなんて出来るのかと思いながらも私はナイフでから揚げを小さく切ってテーブルの上に小さく広げたハンカチの上に置いてあげる。


 はむっ……。はふはふはふ。


 私の肩から降りたナビーが切り分けたから揚げをふんふんとしているのを横目にアツアツの肉を口に頬張ってみた。


「んー。もう少しスパイスが効いているともっと美味しいのだろうけどこれでも十分に満足出来るレベルだわ」


 私は夢中で食べ進めて気がつけば全てを平らげていた。


「あとは食後の紅茶でもあれば最高なのだけどな」


 私がそう思いながら先ほどは見る暇も無かったメニュー表を手にとって眺めてみる。


「飲み物は……香茶? 紅茶ではなく?」


 私がメニューを見ていると先ほどの彼女が寄ってきており笑顔で話しかけてきた。


「当店自慢のじゅうじゅう揚げ定食はいかがでしたか? お客様は初めてのご来店と言われておりましたのでお飲物のサービスをさせて頂きたいのですが何が宜しいですか?」


「え? えっと、この香茶? というのはどんなものなのですか?」


「香茶はその名のとおり、香りを楽しむお茶で少し苦みを感じる方もおられますが身体の疲労回復に良いお茶とされています。そちら、お試しになられますか?」


「は、はい。宜しくお願いします」


 私はそう言ってメニューを置く。


「では少々お待ちください」


 彼女はそう言って食器を片付けてから奥の厨房へと戻って行った。


「ねえ、やっぱりカード化について何か知らないの?」


 給仕の彼女が奥に消えたのを見送ってから私はナビーに小声で再度問いかけた。


「知らないものは知っているとは言えないな。だが、名前から推測するに『何かをカード状に変化させるもの』であることは間違いないだろう。ただ、それを実行するためのキーワードが不明なのとどんなものが出来るのかも分かっていない状況だ。まあ、焦る気持ちも分からなくはないが、宿の部屋をとってからじっくりと調べるのが正解だろう。俺様も出来る限りデータベースから情報を探してやるから心配するな」


 私の気持ちを代弁するかのようにナビーはそう言うとテーブル上にちょこんと座りこんだのだった。

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