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第27話 予想外の事態

 次の日、開店二日目からは順調だった。商業ギルドからフィーとその同僚が応援に来てくれたからだ。もちろん、彼女たちの賃金はちゃくちゃくと借入金に上乗せされているようだが、今はそんなことを気にしている場合ではない。


「――ありがとうございました」


 昨日の忙しさが嘘のようなスムーズな流れ。さすが、商業ギルドで鍛えられた接客能力は伊達じゃない。物珍しい売り方と美人のギルド受付嬢が接客するお店として開店から一週間ほどは大盛況に進んだ。これは誰もが順調に軌道に乗ったと思われたのだったが……。


「あれぇ? いきなりお客が減ったんだけど……」


 開店からの一週間は人々の関心も高く、話題になって大勢の人が来ていた私のお店だったが、それを過ぎると急に客足が遠のいてしまった。


「初見のお客様はだいたい落ち着かれたようですね。これならば、もう私たちが居なくてもお店を回していけそうですね」


 派遣要員をしてお手伝いをしてくれていたフィーがそんなことを笑いながら言う。


「笑いごとじゃないんだけど……」


 私がジト目で彼女を見ると「あはは」と冷や汗をかきながらフィーは視線を逸らす。だが、確かに客数が激減しているのは明白である。普通に戻ったと考えるか飽きられたとみるか。前者なら兎も角、後者だと次の戦略を考えないとジリ貧である。


「たった一週間でこうなるなんて……」


 私は開店からたった一週間で商売の厳しい洗礼を受けることになったのだ。


「これは、なんとかしないと駄目ね」


 まばらになった客を見ながら私は次なる打開策を考えた。その夜、お店を閉めてから久しぶりにナビーの好きなクッキーを準備してから今度の方針について打ち合わせをする。


「ねえ、ナビーはこの状況を覆らせる方法を思いつくかな?」


「俺様のデータベースから商売のやり方を検索しているが、リアと同じスキルを持った者が居ないからな。確実と言える方策はないな」


 いや、そんなドヤ顔で言われても困るし、むしろウザイ。あれれ? ナビーって優秀なサポーターじゃなかったっけ?


 あまり役に立ちそうもないナビーから好物のクッキーを取り上げながら私は候補にある案を片っ端から吐き出させたのだった。


「うーん。一番使えそうな案はやっぱりこれかな? 仕方ない、明日は店を休みにして行ってみよう」


 私がそう決心していた頃、ナビーは私から取り上げられたクッキーを大事そうに隠しながら頬張っていたのだった。


 ――本日休業。


 さすがにこの状態で何も対策を取らないわけにもいかず、私は思い切ってお店をお休みにして冒険者ギルドに向かっていた。


 ――からんからん


 ギルドのドアを開くと中に居た冒険者たちが一斉にこちらを見る。


 「うあ……」


 その視線に思わず声が出た私だったが、来たからには何もしないわけにいかないので真っ直ぐに一番端の受付へ向かって歩き出す。


「モルの冒険者ギルドにようこそ。ご依頼ですか?」


 さすがに私の服装を見て冒険者登録をやりに来た新人には見えなかったようで、依頼で来たのだろうと声をかけられたのだ。


「えっと。依頼……というかお店の宣伝をしたいのですけど、そういったことって出来るのですか?」


「お店の宣伝ですか? そういった案件ならば冒険者ギルドではなく商業ギルドになるかと思うのですが……」


 まあ、お店の宣伝といえば確かに商業ギルドの領分だろう。だけど、今回はお店の商品を冒険者の人に知ってもらって買って貰えるようにするのが目的だ。ただ、単にお店の宣伝とは意味が違う。


「いえ、お店自体の宣伝ではなくてお店で取り扱っている商品を冒険者の方々に宣伝したいのです」


 うまく説明を出来ない私はあたふたとしながら商品となりえそうなカード化した品物を鞄から取り出すと彼女に見せる。


「例えば、これはパンになりますが、こういった形で運べば嵩張らないし腐ったりすることがないので外に出かける冒険者の方には便利なのではないかと思いますがどうでしょうか?」


 受付嬢はそのカードを見て、頷きながら言う。


「ああ。最近オープンした雑貨店の方ですね? 仕事が忙しくてまだ行けていませんが、話は聞いていますよ」


 カードを手にしながら彼女はそう言って物珍しげにカードを眺める。


「そうですね。ちょっと上に相談してきますのでお待ち頂けますか?」


 受付嬢はそう告げると私を窓口に置いたまま奥の部屋に向かって行った。


「上手くいくといいな……」


 五分も経っただろうか、先ほどの受付嬢が戻って来て相談室へ来て欲しいと告げられた。どうやら、ギルマスと面会するようにとのことらしい。


「この部屋で待っていてくださいね。今、お茶を出しますので」


 受付嬢はそう言って私をソファに座らせてお茶の準備を始める。


「どうぞ」


 彼女がお茶を私の前に置くと同じくらいにドアが開き壮年の男性が部屋に入って来るのが見えた。


「あ、ダムラス様。こちらが先ほどの件で相談がある方です。えっと、そういえば名前を聞いていませんでしたね」


「あ、商業ギルド横で雑貨屋を始めましたリアといいます。この度は話を聞いてくださってありがとうございます」


「これは、ご丁寧に。俺はこのギルドを管理しているダムラスという。それで、さっそくだが詳細を聞かせてもらおうか」


 ダムラスは前に座ると私に説明をするように要求してきた。さあ、プレゼンの時間だ。


「冒険者の方は依頼で町の外に出かけることがありますよね? 討伐だったり、配達だったり、商人の護衛だったり。そういった時には必ず消耗品、特に食料品は必須です。ですが、荷物になるような大きなものや腐りやすいものは持っていくことは出来ません」


 私はそう言いながら鞄に手を伸ばし、数枚のカードを取り出す。


「これは、左からパン・スープ・肉料理となっています」


 私の説明にダムラスはそれぞれのカードを手にしてじっと眺める。私の店が開店してからこのギルマスは訪れてはいないのでこのカードがどういったものかは知らないはずだ。


「これが一人前ですが、それぞれ復元してみましょう。解放――」


 私は彼からカードを受け取るとその場で料理の復元をする。時間劣化のない特別なスキルである。パンはともかくスープと肉料理はアツアツ出来立てのものが復元され、その湯気を見たダムラスが驚きの表情となる。


「こ、これは……?」


「このカードはこういったものです。どうぞ? 試に食べてみられますか?」


 プレゼン用の料理である。もちろんお金を取るつもりはない。これで彼の心を掴めるなら安いものだ。


「う、うむ」


 ダムラスは私からスプーンを受け取るとスープをすくって口に運ぶ。そんなに怖がらなくても腐っていたりはしませんよ。


「これは……オオドリ食堂のスープと同じ味だ。しかも作りたてのように熱いまま」


「よく分かりましたね。そうです、この料理全てオオドリ食堂から卸してもらったものです。私が直接お店に行って作ってもらったものをその場でカード化したのです」


 実は、やると決めたものの中でこれが一番面倒だった。食べ物関係は基本的に出来立てが美味しいものが多い。そうすると当然ながら配達して来てもらうわけには行かず、定期的に私がお店に足を運んでその場でカード化していたのだ。


「まさかとは思うが、町の外でこれが食べられるということか?」


「そうです。ただ、今のままだと私しかカードの復元は出来ませんので魔道具を使ってひと手間かけないといけませんけどね」


「――これは、かなりの需要があるだろうな」


 出された料理を全て平らげたダムラスは真剣な表情でそう告げたのだった。

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