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第25話 事後報告と開店前夜

 結局、ギルドマスターの名前を出したことが信用の決めてとなり甘味処での交渉は上手くいった。その成功体験から私は雑貨屋、武器屋、食事処、薬屋、食料品屋と手当たり次第に契約店を増やしていく。


「さすが、商業ギルドのネームバリュー。どこのお店でも簡単にオーケイを貰えちゃったわ」


 丸三日かけて町のあらゆるジャンルの店で交渉をしまくった私はニコニコ顔でカロリーナの元に報告に行く。


「お店に置く商品の仕入れ交渉をしてきました。皆さん快く引き受けてくださいましたよ。さすが商業ギルドですね」


 執務室で書類の山に埋もれているカロリーナの前で私は笑顔でそう報告をする。その反面、カロリーナの顔色があまり良くないことに気が付いて私は彼女を気遣う言葉をかけた。


「お忙しそうですね。顔色もあまり良くないようですが、少し休憩を取られては如何ですか?」


 私の気づかいに感動してくれるかと思いきや、プルプルとペンを持つ手が震えているカロリーナに私は可愛く小首を傾げて見せる。


「一体、誰のせいでこんな事になっているか分かっているのですか?」


 怒鳴るでもなく、静かにそう言ったカロリーナは書類から顔を上げ、私の方を睨むように見るが、その目には涙が浮かんでいた。


「なんのことですか? ギルドのお仕事に私は関係ないと思うのですけど……」


 そんな私の言葉にカロリーナの頭からプチンと何かが切れるような音がした次の瞬間、堰を切ったように彼女の口から愚痴が溢れてきた。


「この書類。全てあなたのお店関係のものよ! いったいどれだけのお店と契約を結んで来たのですか! 商品代金もそうだけど、全てのお店が一度商業ギルドを経由する契約になっているから、めちゃくちゃ面倒な手続きが山積みになったのよ!」


 一気に愚痴を吐き出したカロリーナは「はあはあ」と息をしながら涙目でため息をつく。


「まさか、ここまでやるとは思わなかったわ。リアさん、分かってないようだから言っておくけど、あなたの開店準備金の貸付は金貨千枚を超えているわ。これは相当な利益を出さないと一生ギルドへの返済が続くことになるわよ」


「え? 金貨千枚以上!? それ、本当ですか?」


 自分で契約をしておいて金額の把握をしていないとは。私としたことが、お店を充実させるのが楽しすぎて完全に失念していたようである。


「あー。やっちゃいましたね。てへっ」


「てへっ。じゃないですよ。本当にもう知りませんからね。確かにリアさんにはギルドの倉庫係と荷物運搬の依頼をするために縛りつけておこうとは思っていましたけど、これだけ盛大に自爆をしてくれると流石の私も可哀想な娘に見えてきました」


「なんてことを言うのですか!? 私は儲かると信じて仕入れをしたんですよ! それをやる前から失敗すると言うなんて……酷いです」


 私はカロリーナの言葉に傷ついたふりをしてさめざめと泣きマネをする。


「泣きたいのはこっちの方よ」


 積み上げられて終わらない書類の山に愚痴が続くカロリーナだったが、いきなり一枚の書類を私に渡すと追い払うように部屋から追い出したのだった。


「なにこれ?」


 部屋を追い出された私は渡された書類を見て驚くことになる。そこに書かれていたのは私のお店の開店日。その日付は……なんと明後日だった。


「――やってくれたわね。絶対に嫌がらせよね?」


 商業ギルドを出た私は大急ぎで隣に立つ私のお店(予定)に飛び込み、そして絶句する。そこには、大量の売りものが雑多に置かれていた。


「うそー! これ、全部売り物じゃないの! なんで、こんな事になっているのよ!」


 私は悲鳴のような声をあげ、足の踏み場もないような状態の端から順に急いでカード化をしていく。


「まさか、食べ物も一緒に置いてないわよね? 甘味とか置きっぱなしだと全滅じゃないの!」


 私は焦りながら目の前の品物のカード化を急ぐ。どうか食品だけでも来ていませんようにと祈りながら。


「――お、終わった……」


 日が傾いて辺りが暗くなり始めた頃、お店の中にあった商品のカード化が終わりを告げる。運が良かったのか、当たり前とみるのか置かれていた商品に食料品は無かった。


「良かった。食料品関係は明日私が直接受け取りに行こう」


 そう思った私は疲れから食事を摂ることも忘れてベッドに沈み込んだのだった。


「すみません。商品の受け取りに来ました」


「ああ、準備は出来ているよ。請求は商業ギルドにしたら良いんだね?」


「はい。宜しくお願いします」


 出来たばかりの甘味や料理を次々とカードにして専用のカードケースに仕舞っていく私を見ながらどの店主もニコニコ見送ってくれる。そりゃあ支払いはギルドが保証してくれるのだ、私の店で売れなくともこの店の売り上げは確実に上がるのだから機嫌も良くなるはずだ。


「ありがとうございました」


 私は商品を預かると急ぎ自分の店に走る。まだ、余裕のあると思っていた開店が明日に迫っているのだ、のんびりしている暇はない。


 自分の店に到着した私は特注で作ってもらったガラス板の嵌った棚に丁寧に一枚ずつカードを並べていき、その前に商品名と値段を書いたプレートを置いていく。参考にしたのは前世であったカードショップそのものである。実際に手にとってみたい商品は私に言えば食品以外は元に戻して確認してもらうことも出来る。懸案だった器の返却割引サービスについても説明書きを良く目のあたる箇所に貼る。準備は順調に見えた。


「ここまできて忘れていることは無いわよね?」


 全ての商品を並べ終わった私は、その爽快さに心を躍らせながら最後のチェックをしていた。なんだか、外が騒がしいと思っていたらいつの間に準備してくれたのか、表に店の看板が掛けられていた。その看板にはこう書いてあった。


【リアのカード工房】


 正直、自分の名前が入った店の看板を見るのは気恥しいが、嬉しさが込み上げてくるのも分かった。


「凄い、本当に私のお店が始まるんだ……」


 看板を見上げながら呟く私の目に飛び込んできた文字。それを見て私は苦笑をする。そこにはこう書かれてあった。


『雑貨、武器、食料、薬等の販売をしています。大きな荷物を手軽に持って帰る依頼は商業ギルドにご依頼ください。なお、このお店は百パーセント商業ギルドからの借入金にて運営していますので、他の商店からの嫌がらせ等ありましたら商業ギルドが相手になります』


 さすがのカロリーナである。開店前からしっかりと牽制をしているが、ギルドの隣にある店に嫌がらせなんてする奴なんているのかな?


◇◇◇


――久しぶりに夢を見た。それは前世の記憶だったのかもしれない。夢中で追いかけた夢を叶えていくサクセスストーリー。希望の光が輝いて見えるその光に手を伸ばしたところで夢が覚めた。


「ついに来たんだ。今日から、私の物語が始まるのよ」


 時計の針はまだ起きる時間を指していなかったが、目が覚めた私は傍にいたナビーに声をかけた。


「ねえ、ナビー。私がこのお店を成功させることが出来る確率って何パーセントかな?」


「零から百の間だな」


「なにそれ。そんなの誰でも言えることじゃない」


 私が少し呆れ気味にそう言うとナビーは笑って答えてくれた。


「冗談だ。俺様がサポートについているんだ、百パーセントに決まってる。だが、俺様にも計算出来ないことはあるから油断はするなよ」


「ありがとう。自信が出た」


 私はそう言ってベッドから降りると「んー」と大きく伸びをしてからお店用に新しくあつらえた制服に着替える。やはり、専用の制服を着ると気分が上がる気がして自然に笑みがこぼれるのが分かった。


「よし! 気合をいれて行くわよ! リアのカード工房、本日開店!」

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