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第19話 魔道具作成の依頼

「えっと。実際に見てもらってから説明をしたいのですけど……」


 私はそう言うと鞄からペンを取り出して彼の目の前でカード化する。


「圧縮――」


 私がスキルを発動させるといつものようにペンがカードに変わる。私にとっては見慣れたものだが、ドランには十分に驚くことだったのだろう。目を丸くしながら私から渡されたカードをしげしげと見入っていた。


「これが私の固有スキルなのですが、有用と言われていても実は欠点もあって私にしか元に戻せないのです」


「まあ、当然だろうな。特殊なスキルは発動した者にしか解除できないといった制約があることは多いことだ」


 私はドランからカードを受け取ると解放してペンに戻すと彼に言った。


「このカードから元に戻すスキルを付与する魔道具を作れませんか?」


「なんじゃと? 条件付きの解除スキルを付与するだと?」


「はい。それが可能ならば、このスキルは飛躍的に出来ることが多くなります」


「うーむ。スキルの付与を魔道具で補完する……か」


「やはり難しいですか?」


「いや、出来なくはないな」


「え! 本当ですか!?」


「ああ。だが、色々と実験的なことも必要だし金もかかる。その辺は大丈夫か?」


 ドランは当然のことを発すると私から視線を外し、ロイズの方を見る。


「その子についてはカロリーナに聞いてみないと分からないわよ。今のところはモルのギルドに所属しているみたいだから」


「えっと。実験に要する時間はどうにか調整しますが、お金の方は直ぐには準備出来そうにありません」


「まあ、そうだろうな。特注の魔道具制作にかかる費用は安くはないからな。しかし、興味はある内容だ。初めて作る部類の魔道具になるから実験台の研究とみれば素材費用だけで試してやっても良いかもしれん」


「本当ですか!」


「へぇ。ドランさんがそう言うのを聞くのは久しぶりですね。そんなに面白そうなのですか?」


 ロイズが興味深そうな表情で彼に問いかけるとドランは笑いながら頷いた。


「今までにこんな要求をしてきた奴は居なかったからな。ワシの予想を超えるアイデアは試してみたくなるものだからな」


「では、私はどうしたら良いですか? あ、でも今はギルドの依頼を終わらせないと駄目でした。ロイズさん。カロリーナギルドマスターから何か運ぶように依頼がされていませんでしたか? その依頼だけは終わらせないといけないのですが……」


 私の頭の中は既に魔道具のことで一杯になっており、とにかく頼まれた依頼を片付けてからカロリーナの許可を取らなくてはならないとロイズに迫る。


「ああ、モルから運んできてくれた品物のお返しだな。準備は明日にでも出来るが……。そうか、なるほど。確かに今言った魔道具が使い物になれば、商業輸送の基礎がひっくり返るでしょうね」


 ロイズはまだ私のスキルについて詳しくは知らないはずなのに、注文した魔道具の内容を聞いてすぐに私が思い描いている世界が見えているようだった。


「――そうね。カロリーナとも相談してみないといけないけれど、今回の件にうちのギルドも一枚噛ませてもらえないかしら」

「え? それはどういうことですか?」


「あら、言葉のとおりだけど。今回の魔道具が完成したら、あなたがモルを拠点にしている限りモルの商業ギルドは飛躍的に勢力を伸ばすことになるでしょう。だけど、こんな美味しい話をカロリーナに独り占めされるのは御免なの」


「どういう事だ?」


 ロイズの発言の意図が理解しきれなかったドランが彼女に尋ねる。その言葉に彼女は微笑みながら説明をしていく。


「いい? 彼女――リアさんのスキルは品物をカード化するもの。そうすることによって大きなものや重たいものでも軽く、沢山運ぶことが出来る。ここまではいいかしら?」


「ああ。それは理解できる」


「ただ、そんな彼女のスキルにもある欠点があり、それが『リアさんにしか元に戻せない』こと。その欠点を魔道具で補えるとしたら……」


「なるほど。本人が輸送先へ出向く必要がない」


「五十点ね」


「なんだと? 他にも利点があるのか?」


「ふふふ。ここからは本人に話して貰いましょうかね」


 ロイズはそう言って私を見る。それにつられてドランも私を注視してきた。そこまで理解されていれば誤魔化しても仕方ないとばかりに私は答えを述べた。


「運ばれた先でもカード化したまま保管しておけば保管場所も必要がありません」


「それだけではないですよね?」


「カード化している間は品質劣化を防ぐことが出来ますので、痛みやすい食品でも遠方へ運ぶことが可能になります」


 品質未劣化の話はしていないはずなのに、なぜかロイズは知っていたかのように誘導されていた。カロリーナギルマスからの手紙に何か書かれていたのだろうか?


「なんと!? そいつはとんでもない事じゃねぇか!」


「だから、カロリーナに彼女を独占されるのは黙っていられないのよ」


 自分のお店を持ちたいだけなのに、いつの間にかギルドの偉いさんから取り合いになる話に飛躍していることに焦りを覚えた私はロイズに自分の想いを告げる。


「あの……私は将来、自分のお店を持ちたいと思っているのです。なので、ずっとギルドの依頼をするわけじゃないです」


「ああ、それは良いことね。それだけの能力を持っているなら、自分の店を経営する夢を持つのは自然なことだわ。でも、自分の店を持っていても時々ならギルドからの指名依頼を受けることは出来るでしょう?」


 ロイズはそう言って微笑むが、その奥底には自分の持つギルドを発展させる駒を逃がさないといった欲望も見えた気がしたのだった。


「とりあえず、明日には運んで欲しい荷物を準備しておくからモルまでお願いね。その際にカロリーナに手紙を書くからそれも一緒に渡してください。あなたがこの町で魔道具を完成させられるように口添えをしておきますので」


 どうやら、私はモルに荷物を運んだ直後にまたセイレンへとんぼ返りをすることが決定したようだ。


 ◇◇◇


 次の日、カロリーナが依頼をしていた荷物が大量にギルドへ運び込まれ、私はそれらを順番にカード化させていく。


 かなりの量があったにもかかわらず一時間もかからずに全てカード化したところを見ていたロイズの表情は驚きを隠せなかった。


「本当に凄い能力ね。あなたにしか出来ないのが残念でならないわ」


 全ての荷物とカロリーナへの手紙を受け取った私はフィーや護衛の二人と供に一路モルの町へと帰路につく。道中、ロイズとの話をフィーにすると彼女は苦笑いをして「相変わらずですね」とだけ返してくれた」


 帰路は順調に進む、帰りは行きがけほど急いで進むことはせずに予定どおりに三日かけて戻って来たのだ。


「あー、やっと戻って来られましたね。暫くは馬車の旅はしなくても……って無理か。直ぐにギルドマスターに相談してセイレンにとんぼ返りしないといけないもんね」


 モルの町へ帰ってきた私たちは直ぐにギルドへ報告に向かう。依頼物の引き渡しに加えてロイズからの手紙の件もあることだし。


「とりあえず、私が先にギルマスへ報告して来ますね。リアさんもお疲れでしょうけど応接室にて待機しておいてください。お茶は別の子に頼んでおくので」


 商業ギルドに着いた私はフィーの指示に従ってギルド内の応接室へ案内され、そこでお茶を出されて一息をつくことに。きっとフィーの報告を聞いたギルマスが早々に顔を見せることだろうが、今は少しだけゆっくりさせてもらおうかな。

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