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7 影から飛び出す黒い噴水

 第一形態の怪物に変身した鏡太朗は、牛鬼の背後に太陽が見える位置に回り込んだ。

「ぎゃははははっ! この角度なら俺の影はお前と反対側に伸びるぜ! お前に俺の影は届かねぇだろ!」

 鏡太朗は牛鬼に向かって真っ直ぐ駆け出し、牛鬼の顔の前に跳び上がった。鏡太朗の影は、牛鬼には届かない背後の砂の上に投影されていた。

「だあああああああああっ!」

 鏡太朗は空中で、牛鬼の鼻と口の間に左右の拳を連続して叩き込んだ。

「ぐわっ!」

 牛鬼は何事もなかったかのように鏡太朗を右の掌で払い、鏡太朗は砂浜に強烈に叩きつけられた。鏡太朗は、口から流れ出した青い血を右手首で拭って立ち上がった。

「全く効いてねぇってか? このバケモンが!」

 牛鬼の角が赤く光ると、牛鬼の口から赤い光の塊が吐き出され、鏡太朗に向かって飛んで行った。鏡太朗は身を屈め、直径二メートルの赤い光の塊を避けた。

「ぎゃははははっ! お前の攻撃なんて、俺には簡単に避けら……」

 鏡太朗はハッとして目を見開いた。赤い光の塊は鏡太朗の後方二十メートルの砂浜を直撃すると、砂浜に大きな穴をつくりながら炸裂し、爆風とともに広がったその強烈な赤い光は、牛鬼の足元まで届く鏡太朗の長い影をつくり出していた。牛鬼は足元にある鏡太朗の影に足を踏み降ろした。

「水流砲!」

 カッパの姿の河童(かわわらわ)のじーちゃんが、牛鬼が足を踏み降ろす先の砂を強烈な放水で吹き飛ばし、牛鬼の足は水流の中に突き刺さった。

「じーさん! 助かったぜ!」


 赤い光が消えた時、鏡太朗は牛鬼には影が届かない場所まで移動しており、宙に浮くライカを見上げた。

「ライカ! 俺に雷玉を当て続けろ!」

「どうする気じゃ? 第一形態に変身したお前は信用していいのか?」

「俺を信じろ! エネルギーと感情が高まっていつもの鏡太朗ではいられねぇが、かろうじて人間の心は保っているさ。急げ! 悪霊どもが俺の心を乗っとる前に、このバケモンを始末するぞ!」

「いくぞ! 雷玉じゃあああああっ!」

 ライカの両前足から放たれた二つの雷玉が命中した鏡太朗は、雷に包まれて絶叫した。

「ぎゃああああああああああっ! い、いいか、雷玉を当て続けろおおおおおおおおおおおおっ!」

 雷に包まれた第一形態の鏡太朗は、牛鬼に向かって駆け出した。

 牛鬼は再び鏡太朗の後方に赤い光の塊を吐き出し、炸裂した赤い光が一帯に広がった。ライカが砂浜を見て叫んだ。

「鏡太朗が雷で包まれて強い光を放っているから、砂浜には影が映らないんじゃ!」

 鏡太朗は次々と打ち込まれる雷玉に苦しみながら跳び上がると、雷に包まれた拳や足を牛鬼の脚や胴体に打ち込んだが、牛鬼には全く反応が見られなかった。

「全然効かねぇ! こうなりゃあ」

 鏡太朗は牛鬼の背に跳び乗った。

「そこなら牛鬼の足は影に届かないんじゃ!」

 ライカは鏡太朗に雷玉を打ち込むのを止めた。

「ぎゃははははは! 効かねぇのなら、効くまで一点を殴り続けてやるぜ!」

 鏡太朗は、左右の拳を足元の牛鬼の背中の一点に連続して叩き込んだ。牛鬼は上半身をひねって左手の甲を鏡太朗に向けて振り放ったが、鏡太朗は牛鬼のしっぽの付け根まで後退してそれをかわし、元の位置に戻ると再び拳の連打を牛鬼の背に打ち込んだ。

「ぎゃははははは! お前が悲鳴を上げるまで、何万発でも拳をぶち込んでやるぜ!」


 突如、砂浜の上の牛鬼の影の一部が盛り上がり、そこから影の塊が飛び出した。それは牛によく似た体をしていたが、首から生えている頭部と胴から生えている六本の脚は牛鬼とそっくりだった。影の塊はやがて実体化して牛鬼と同じ色になり、砂浜に着地したその体は、胴がタタミくらいの大きさだった。

「鏡太朗! 牛鬼の影から、牛鬼の分身みたいなのが出てきたんじゃ!」

「何だと?」

 鏡太朗が砂浜の上の牛鬼の影を見下ろすと、影の塊が次々と飛び出し、鏡太朗に接近していた。影の塊は十体の牛鬼の分身に変わり、鏡太朗に迫った。

「何だ、こいつらは? うわあああああああっ!」

 牛鬼の分身たちは鏡太朗に向かって次々と頭から衝突し、鏡太朗は叫び声を上げながら大きく吹き飛ばされた。

「鏡太朗! な、何じゃ?」

 最初に出現した一体目の牛鬼の分身が、ライカに向かって頭から突進していた。

「水流砲!」

 河童(かわわらわ)のじーさんが水流砲でライカを吹き飛ばし、牛鬼の分身は放水の中に頭から突っ込んだ。

「雷玉じゃああああああああっ!」

 ライカが、放水を突き抜けた牛鬼の分身に雷玉を放つと、牛鬼の分身は雷に包まれて苦しげな様子を見せた後、鏡太朗に向かって飛んで行った。


 牛鬼の分身たちは、砂浜に落下した鏡太朗を狙って次々と頭から飛び込み、鏡太朗は飛び起きて牛鬼の分身の攻撃をかわした。牛鬼の分身たちは砂浜に頭から突き刺さったが、六本の脚で体を持ち上げると、再び鏡太朗を目がけて飛び立った。

「うわああああああああっ!」

 牛鬼の巨大なしっぽの先の尾びれが鏡太朗の背面を打ち、鏡太朗は大きく吹き飛んだ。鏡太朗が砂浜に倒れた瞬間、牛鬼の分身が次々と頭から飛び込んだ。

「ぐわあああああああああああっ!」

 牛鬼の分身が連続して鏡太朗に激突し、鏡太朗は勢いよく砂浜を三十メートル転がった。一体の牛鬼の分身が、動きが止まった鏡太朗の上半身と両腕を六本の脚で背後から捕らえ、牛鬼本体に向かって飛び立った。その先では、牛鬼が巨大な口を開いて待ち構えていた。

「鏡太朗が食われるんじゃ!」

「ライカさん、大変だ!」

 河童(かわわらわ)のじーさんの叫び声に振り向いたライカは、目に映った光景を見て呆然とした。牛鬼の影から、夥しい数の影の塊が黒い噴水のように飛び出し続けていた。影の塊は牛鬼の分身に姿を変えると、丘に向かって林の上を飛んで行った。

「魔物の子どもたちが! あの牛鬼の分身の数……、二百体以上あるんじゃ……」

 悪夢のような状況に直面したライカは、この世の終わりが来たかのような絶望感と無力感に陥っていた。


「ちくしょーっ、放しやがれーっ!」

 鏡太朗の叫び声を聞いたライカが我に返って声の方に目を向けると、牛鬼の分身が鏡太朗を捕らえたまま牛鬼本体の口の中に飛び込もうとしていた。

「水流砲!」

 河童(かわわらわ)のじーさんが放った水流砲が、鏡太朗を牛鬼の口の前から押しのけた。

「鏡太朗の代わりに雷玉を食うんじゃあああああっ!」

 ライカが牛鬼の顔の前まで飛んで行き、牛鬼の口の中に雷玉の連打を放った。牛鬼は獣の咆哮を上げて苦しむと、右手でライカを叩き落した。

「うぎゃあっ!」

 砂浜に叩きつけられたライカを狙って、牛鬼の尖った足の先が振り下ろされた。

「水流砲!」

 河童(かわわらわ)のじーさんが放った水流砲がライカを押し飛ばし、ライカは空高く飛び上がって牛鬼と距離をとった。

「うわああああああああっ!」

 河童(かわわらわ)のじーさんは十体の牛鬼の分身に連続して衝突され、三十メートル吹き飛んだ。

 牛鬼の角が光ると、牛鬼は口から赤い光の塊をライカの上空に向かって放ち、光の塊は雲の高さまで上昇した後、炸裂して爆風と赤い閃光を放った。赤い閃光は空高くで滞空しているライカの影を牛鬼のすぐ隣の砂浜に投影し、牛鬼がライカの影に足を振り下ろした。

「ライカーッ!」

 鏡太朗の叫び声が砂浜に響いた。


「こ、この声は何……?」

 海に向かって林を駆けていたさくらは足を止め、声が響く空を見上げて目を見開いた。二百体以上の牛鬼の分身が獣の雄叫びを上げながら、赤い光が広がった空を丘に向かって飛んでいた。

「魔物の大群が丘に向かってる……。あの子たちが危ない!」

 さくらは丘に向かって全速力で駆け出した。


 丘の上に並んでいる木や枝で造られた家の前では、緑色のカッパ姿の河童(かわわらわ)が、二十体の魔物の子どもたちに優しい笑顔を見せていた。

「ピラコちゃん、ちゃんとみんなと一緒にいるだきゃよ」

「あんな怖い怪物が出てきて、みんなのことが心配だったの……。だって、みんなに何かあったら……」

 河童(かわわらわ)は、泣き出したピラコの頭を優しく撫でた。

「ピラコちゃんは優しい子だきゃね。でも、大丈夫だきゃ。オラもみんなと一緒にあの怪物をやっつけて来るから、みんなは安心して待ってるだきゃよ。行ってくるだきゃ!」

 河童(かわわらわ)は子どもたちに優しく微笑んでから海岸の方を振り返ると、その瞬間に驚愕して目を剥いた。河童(かわわらわ)の目に映ったのは、二百体以上の牛鬼の分身が凄い勢いで迫って来る光景だった。

「な、何だきゃ、あの小さい牛鬼みたいな魔物の大群は? ま、守るだきゃ……。絶対に、絶対にこの子たちを守るだきゃああああああああああっ!」

 強い決意で叫んだ河童(かわわらわ)の体が青く光り輝いた。


 牛鬼は砂浜の上の影に足を突き刺した。その上方には、高く跳び上がってライカの下で両腕を開く第一形態の鏡太朗がおり、牛鬼の足は鏡太朗の影に突き刺さっていた。

「鏡太朗ーっ!」

 叫び声を上げたライカの下方にいた鏡太朗は、体が固まったかのように両腕を開いたまま落下した。砂浜に墜落した鏡太朗には影がなく、鏡太朗の影は両腕を開いた形のまま、砂浜の上で牛鬼の足先に突き刺されており、空全体に広がっていた赤い光が消えてもその影は鮮やかなままだった。牛鬼の尖った足の先端が砂浜から影を引き抜くと、第一形態の鏡太朗の体から、人間の姿の鏡太朗の魂の上半身が飛び出した。その姿は、現在の肉体と同じように上半身が裸だった。

「鏡太朗ーっ!」

「鏡太朗くん!」

 ライカが牛鬼の顔に向けて雷玉を連射したが、雷玉が命中しても牛鬼は平然としており、河童(かわわらわ)のじーさんが鏡太朗の影に水流砲を放つと、水流は影を通り抜けた。牛鬼が足先に刺さっている鏡太朗の影の塊を右手で掴んで口元まで運んだ時、鏡太朗の魂は一気に体から引き抜かれた。

「うわああああああああああああっ!」

 鏡太朗の魂が絶叫した。


「金剛甲壁!」

 河童(かわわらわ)は、二メートル四方の金剛甲の壁を背後に出現させた。

「みんなはこの後ろに隠れているだきゃ。オラがみんなを守るから安心するだきゃ」

 怯えている魔物の子どもたちに優しい声をかけた河童(かわわらわ)は、凄い勢いで迫ってくる牛鬼の分身の大群を睨んだ。

「水流砲ーっ!」

 河童(かわわらわ)は頭から飛び込んで来る牛鬼の分身に次々と水流砲を放ち、水流が当たった牛鬼の分身は勢いよく吹き飛ぶと、後ろの牛鬼の分身に当たって一緒に後方へ飛んで行った。しかし、次々と迫る牛鬼の分身の夥しい数に放水が間に合わず、牛鬼たちはどんどん河童(かわわらわ)の近くまで接近し、水流砲で吹き飛んだ牛鬼の分身たちは、体勢を立て直して再び河童(かわわらわ)目がけて一直線に突進してきた。

「うぎゃああああああああああああああっ!」

 牛鬼の分身が次々と衝突した河童(かわわらわ)は、背後の金剛甲壁に叩きつけられた。

「きゃあああああああああああっ!」

「どうしただきゃ?」

 河童(かわわらわ)が牛鬼の分身に押し潰されながら、悲鳴が聞こえた頭上に目を向けると、金剛甲壁の後ろに回り込んだ一体の牛鬼の分身が、六本の脚でピラコを捕らえて海に向かって飛び立ったところだった。

「ピラコちゃん!」


「うわああああああああああああっ!」

 鏡太朗の魂が影の塊に引き寄せられた瞬間、その背後で大きく口を開いていた牛鬼が驚きの表情を見せた。鏡太朗の魂の下半身は、黒い雲に包まれて第一形態の鏡太朗の体と繋がっており、その雲の表面では夥しい数の大小様々な青白い亡者の顔が蠢いていた。

「あの女、死ねばいいのに……」

「あいつにも同じ苦しみを与えてやるのさ、へへへ……」

「みんな呪い殺してやる……呪ってやる……みんな死ね……」

 その蠢く顔が口々に呟く呪いの言葉が砂浜全体に響き渡り、怯えた表情を見せた牛鬼の右手が緩んだ瞬間、黒い雲と鏡太朗の魂は、引き戻されるように鏡太朗の体の中に消えていった。牛鬼の足に突き刺さっていた鏡太朗の影の塊も、砂の上に戻った。

「十万体の悪霊が、鏡太朗の魂を牛鬼に渡さなかったんじゃ……。うわあああああああっ!」

 ライカが、一体の牛鬼の分身に六本の脚で捕らえられた。


 移季節(うつろうきせつ)神社の本殿で、老神主がもみじに言った。

「牛鬼は一度狙った者をどこまでも追い続けて絶対に逃さない。たとえ牛鬼から逃げ切れたと思っても、牛鬼は必ず再び襲って来る。今までに牛鬼に狙われて逃げ延びた者は、一人もいないと言われているのだ」


「ピラコちゃああああああああああああああん!」

 河童(かわわらわ)は、ピラコを捕らえて海岸に向かって飛び去った牛鬼の分身に右手を伸ばしたが、次々と飛び込んでくる牛鬼の分身に激突され、背中から金剛甲壁に叩きつけられた。

「邪魔するなだきゃあああああああっ!」

 河童(かわわらわ)は牛鬼の分身に向かって次々と拳を叩き込み、殴られた牛鬼の分身は影の塊になって砕け散っていった。

「きゃああああああああああああっ!」

 悲鳴を聞いて頭上を見上げた河童(かわわらわ)は目を見開いた。河童(かわわらわ)や金剛甲壁に衝突した牛鬼の分身たちは、衝突後に金剛甲壁の裏側へ回り込み、そこで身を潜めていた十九体の魔物の子どもたちを捕らえ、海に向かって飛び立っていた。

「みんな! うぎゃああああああああああああっ!」

 河童(かわわらわ)は牛鬼の分身に次々と衝突され、河童(かわわらわ)に衝突した牛鬼の分身には後ろから飛んで来た別の牛鬼の分身が衝突し、河童(かわわらわ)の体はどんどん金剛甲壁に押しつぶされていった。河童(かわわらわ)は衝突した牛鬼の分身に拳や肘、膝を叩き込んで粉砕したが、すぐに他の牛鬼の分身が次から次へと頭から飛び込んできた。

「みんなああああああああああああああああっ!」

 丘の上に河童(かわわらわ)の絶叫が響いた。


 河童(かわわらわ)のじーさんが高く跳び上がり、ライカを捕えた牛鬼の分身の頭を蹴ったが、牛鬼の分身は頭を激しく振られただけで、ライカを放さなかった。

「じーさん、どけええええええええっ!」

 第一形態の鏡太朗が河童(かわわらわ)のじーさんの隣まで跳び上がり、牛鬼の分身に右手の爪を突き刺すと、牛鬼の分身は影の塊になって砕け散った。

「鏡太朗、助かったんじゃ……。な、何じゃ?」

 両目を見開いたライカの前では、鏡太朗の全身から闇の塊が滲み出ていた。ライカが河童(かわわらわ)のじーさんに向かって叫んだ。

河童(かわわらわ)のじーさん、逃げるんじゃああああああああああああああああっ!」

 鏡太朗の全身が直径二メートルの闇の塊に包まれた後、闇の塊が人の形に凝縮し、全身が真っ黒な第二形態の怪物に変身した鏡太朗が姿を現した。闇でできた炎のようなその体からは細くて黒い煙のようなものが無数に立ち上り、頭部には赤く光る丸い両目と三日月のような形で笑みを浮かべる牙だらけの口があった。空中から落下しながら、第二形態の鏡太朗の右手の指が長く伸びた。

「ぐわああああああっ!」

 長く伸びた鏡太朗の五本の指が河童(かわわらわ)のじーさんの右胸を貫通し、河童(かわわらわ)のじーさんは砂浜に落下して動かなくなった。

河童(かわわらわ)のじーさん!」

 空中で叫んだライカに向かって、十体の牛鬼の分身が頭から飛び込んできた。

「うぎゃああああああああああっ!」

 牛鬼の分身が衝突したライカは空中を大きく吹き飛んだ。その時、砂浜に立つ第二形態の鏡太朗が左右の十本の指を伸ばして牛鬼の分身を突き刺し、十体の牛鬼の分身は影の塊になって砕け散った。

「鏡太朗、助かったぞ!」

 鏡太朗に笑顔を見せたライカに向かって、十本の指が伸びて襲いかかり、ライカは体をひねってそれを避けた。

「うひひひ……。忘れたのか? お前も俺たちの獲物だ」

 次々と指を伸ばしてライカを攻撃する第二形態の鏡太朗に、牛鬼が右掌を叩きつけ、鏡太朗は五十メートル吹き飛んだ。牛鬼の角が光り、口から放たれた赤い光の塊が砂浜で倒れている鏡太朗を直撃すると、炸裂した赤い閃光が一帯に広がるとともに、第二形態の鏡太朗の闇の体の破片が周囲に飛び散り、牛鬼が喜びの雄叫びを上げた。

「今じゃあああああっ! 雷玉の乱れ打ちじゃああああっ!」

 ライカが牛鬼の顔の正面に滞空し、大きく開いている口の中に雷玉を連射すると、牛鬼は苦しげな叫び声を上げた。

「止めじゃああああっ! 三日月(きょう)! 飛べ三日月き……」

 しっぽの先に三日月(きょう)を出現させたライカは、両目を見開いた。その腹部からは、一本の黒い指が飛び出していた。鏡太朗の右手の黒い指が斜め上に向かって長く伸びており、その中の薬指がライカに命中して体を貫通していた。ライカはゆっくりと振り返った。

「きょ……、鏡太ろ……」

 ライカは赤い血を流しながら、意識を失って砂浜に墜落した。

「うひひひ……。本当の俺たちの体になったら、お前の体も魂も全てを食らってやるからな。うひひひ……」

 赤い閃光が消えて青空が広がった砂浜で、赤い光の塊の直撃で体中がボロボロになっている鏡太朗は、不気味に嗤った。鏡太朗は自分の体に向けて口から闇の炎を吐き出し、全身を包んだ闇の炎が消えた時には、元通りの第二形態の姿に回復していた。


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