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東京、行ったことある?

この町の冬はとても寒い。そんなこの町には珍しく少しだけ暖かいの海風が頬を撫でる二月も終わりに近い日の午後、姉弟は海岸沿いを歩いていた。小学5年生のミライは、肩に届くか届かないかの黒髪を耳にかけ、波の音に耳を傾けながら少し考え込むような顔をしている。隣を歩く小学3年生のユウキは、ランドセルから水筒をぶら下げ、波打ち際でダラダラと色とりどりの石を拾っていた。今日は父も母もいつも通り朝から仕事にでかけている。両親は役場の庁舎で働いている。夕飯の時間には父も母も必ず笑顔で帰ってくる。学校な帰りにここの海岸に二人だけで来るのはいつものことだった。

「ねえ、ミライ姉、東京ってどんなとこかな?」ユウキが石を拾いながら口を開いた。ミライはちらりと弟の方を見た。「どうしたの、いきなり?」ユウキは水筒を手に持ったまま、空を見上げて言った。「学校で友達がさ、春休みに東京ディズニーランドに行くって自慢してて。新しくできたファンタジースプリングス?とか行くみたいで。東京行ったことないよ、僕も行ってみたい!」ファンタジースプリングスというのはたしか昨年2024年に出来たばかりの新しいエリアか何かだったと思う。ミライは笑って答えた。「東京かぁ。テレビによく映ってない?大きい街だよね。ビルがいっぱいあって、人も多いし、地下鉄とかあって……私はディズニーランドよりも109とかに行ってみたいかな」

ユウキが「へえー」と目を輝かせていると、ミライが海岸沿いの遠くに目をやった。波の音に混じって、ひときわ寂しげな影が視界に入った。鉄骨がむき出しになったボロボロの建物が建っている。窓も何もかもない。鉄骨がぶら下がっていて階段も崩れている。ボロボロの何か材質も分からないような建材が風に揺れている。その割に鉄骨の塗装は鮮やかで、目を引く。「あれ、何だろう?」ミライが呟くと、ユウキが目を細めて見た。「ボロボロの建物じゃん?なんであんなボロボロの建物残してるんだろう、変なの……」少し嫌がるユウキを尻目に、ミライは「ちょっと見てみようよ」と歩き出した。ユウキは「えー、やだよー、鉄骨落ちて来たらどうするのー」などと言いながらも、姉の後ろをついて行った。

建物の真下は薄暗く、潮の匂いが混じった湿った空気が漂っていた。ミライがどんどん奥に進み、崩れかけの、ほぼぶら下がっているような階段を登って行く。「ミライ姉、そもそもこんなとこ勝手に入っていいわけ?」上の階に登りきると、古い机を見つけた。上に埃をかぶった女性物の腕時計が置かれている。細い銀色のバンドに小さな文字盤が付いた、どこか懐かしいデザイン。ガラス面には細かい傷が刻まれ、針は止まったままだ。「これ、誰のかな?」ミライが手に取って眺めると、ユウキが近づいてきた。「古いね。おしゃれだけど、動かないの?」そう言ってミライの手の上の時計にユウキが手を重ねた瞬間、カチッと小さな音が響き、針が動き出した。

「え、何!?」驚く間もなく、眩しい光が二人を包み込んだ。身体がふわっと浮くような感覚に襲われ、ユウキが「ミライ姉ー!」と叫んだ次の瞬間、耳に飛び込んできたのはけたたましい電車の走行音と、ざわざわした人の声だった。



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