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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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戦装義手イクリプス・コア※


ザザーン  ザザーン――。


海の波がゆっくりと打ち寄せ、濡れた砂浜に細かい泡を散らす。肌にまとわりつく湿った潮風と、焼けた珊瑚の欠片の匂い。目を細めるほどの陽光が、水平線の彼方からあふれ出していた。


「帆世様、この度はお疲れさまでした。レオン様も、つい先ほど。」


「そう。数日休むから、飛行機の手配をよろしくね。行き先は日本よ。」


「かしこまりました。」


ダンジョンの門のすぐ横で待機しているUCMC職員に声を掛けられた。

赤道に近い南国だというのに、黒いスーツ姿で武装もしっかりとしている。こんなにスーツを好む人種は日本人位だ。たとえば国際学会に出席した時も、スーツ姿でうろうろしているのはほとんど日本人だけなのだ。


彼の案内する先、急いで作られたのだと分かるロッジハウスに、人影が見えた。潮風にたなびく上着、軽く外した義手の手甲を指で弄びながら、海を背に、レオンが待っていた。上着を着ているが、その下にはカラフルな水着が見えている。


私は、砂を踏みしめて歩き出す。細かく柔らかい砂が、足を包み込んで少し熱い。

二年間も穴倉生活をしていた私たちにとって、どこまでも見える青い海は、その雄大な開放感を与えてくれていた。


「レオン、お待たせ。」


「おう、新しく貰ったスキルだが調整にしばらくかかりそうなんだ。それまで飛行機にも乗れねえ。静香が良ければ、しばらくバカンスってのはどうだ?」


軽くウェーブのかかった金髪を後ろに流し、南国の太陽にも負けない明るい表情でレオンが誘ってくれる。飛行機にも乗れない、というのが引っかかるが、バカンスという提案には大賛成だ。


「私の水着はあるのかしらん?」

「おうおう、着替えよーぜ!」


私はレオンに軽くウィンクを返しながら、ロッジハウスの一室へと歩を進めた。木の柱に葉で葺かれた屋根、南国特有の濃い緑の蔦がおしゃれに編まれている。入り口には既に準備されていたらしいカラフルな水着がハンガーに吊るされていた。


「ちょっと派手じゃない?」

「せっかくのバカンスだ、目立ってなんぼだろ?」


レオンは片目をつぶって笑う。その無邪気な笑顔に、思わず肩の力が抜けた。


数分後――


波の音に誘われるように、私は水着姿のまま海へと駆け出す。太陽の光を受けてキラキラと輝く海面。足を入れた瞬間、心地よい冷たさが全身に広がった。


「ふぁーっ、気持ちいいっ……!」


首まで海に沈んで、思わず声が漏れる。潮の香りとともに、長らく忘れていた開放感が胸を満たしていく。遠くではレオンが義手を脱いで、片腕でクロールしている姿が見えた。器用すぎる。そもそもあの義手、外す必要はあるんだろうか。2年間血にまみれていても錆一つないというのに。


しばらく海で泳いだあと、冷たいシャワーを浴びる。

水道は通っていないため、巨大な真水タンクを取り付けているようだ。本来無人島であるこの島に、急遽設備を備え付けたのだから、湯舟がないことを責める気にはならない。


視線を窓の外にうつせば、ヤシの木越しに紺碧の空が広がっている。2年間、ずっと土と石に囲まれた世界で戦っていたんだ。いちいち鮮やかな色彩が目を引き付ける。


風呂上がり、コテージの縁側に用意された食事に目を見張った。


「なにこれ、ビュッフェ?」


焼きたてのステーキがジュウジュウと音を立て、南国フルーツと一緒に彩り豊かに並べられていた。グリルされた魚に、冷たいスープ、サンドイッチ。そして私のオーダーで赤ワインのボトルが3本。


私は肉を一口頬張り、そのジューシーな味わいに思わず笑みがこぼれた。続けてサンドイッチを頬張り、喉を鳴らすようにスープで流し込む。


「あああ……人間に戻っていく……」


レオンが、空のグラスを掲げる。


「ここまで来たんだ、乾杯しとくか。」


「うん。生きて、出てこれたことに――新たな冒険に。乾杯」


乾杯の音は、波の音とともに、夕焼け色の空に溶けていった。



せっかくなので黒服の職員さんも全員呼び、みんなでワインを空けていく。最初こそ遠慮していたものの、ここは無人島。誰が怒るというのか。

お酒が進み職員さんとも打ち解けていく。彼らは志願してダンジョン攻略補佐に就いていたようで、私たちのダンジョンの話にはかぶりついて聞いてくれた。夢想無限流に入門し、いつかダンジョン攻略に参加できるよう鍛錬を積んでいるらしい。


そんなこんなで夜も更け、全員が寝静まったころ。私は夜風を求めて海辺のビーチに出てきていた。

あんまり砂を被るとシャワーを浴びなきゃいけないので、ちょっと高くなった草地の上に腰を下ろす。

思い返すのは、大いなる存在:アクシノムの話だ。一体何のために戦うのか、その方針が決まったことが何より重要だと思う。


「…真人には話せないわね。」


私のぼやく声は波音に吸われ、新たな覚悟を胸に刻んだ。

試練は今後も確実にクリアし、少しでも強くなって巫さんを救う。その道の続きに、この世界の命運やら諸々があるんだろう。つまり、手探りでこれまでやってきた努力が、大体正しかったということだ。


バリッ——!


突然、大気を引き裂くような炸裂音が耳を打ち、同時に夜空が青白い閃光に染まった。

それは地上に落ちた雷を想起させたが、空には雲一つない青天だ。


「……ッ!」


異常事態に、外套をはためかせて現場へ急行する。

青白い残光を追った先、島の反対側で騒動の主を発見した。


「たはは…悪ぃ、俺だ。」


そう言って苦笑いを浮かべるレオンの右腕からは、白い煙が上がっている。

なんとなく状況が読めてきた。


「我慢できず、貰ったスキルの試し撃ちしてたら、思った以上でびっくりした、ってとこかしら。」


「一言一句、俺の心の声を当てないでくれ。」


「一体どんなスキルを貰ったのよ。」


「ああ、実は——」


レオンの語るスキルの詳細は、思った以上に難解な性質を持っていた。

義手と、愛用のCheyTac M300の金属パーツを分解。一つ一つを細胞に見立てた生体金属として、再び義手の形に加工したという物。

何を言っているのか難しいが、オーバーテクノロジーな義手を手に入れた 、ということだろう。


義手の名前は、「戦装義手:イクリプス・コア」

その能力は周囲のエネルギーを吸収し、変換するというもの。変換先は電気であり、一定の操作が可能。


「腕は腕として動かせるの?」


「ああ、問題ねえ。ただ、エネルギー吸収と、電気の利用が難解でな。その調整をしたかったんだ。」


「たしかに、そりゃ飛行機乗れないわ。」


飛行機の中で電気が暴れるとか、街中で落雷を落とすとか、さすがに危ないどころの話ではない。

こうして無人島にいる間に制御してもらうのが賢明と言える。


「あ、レオン。ついでにウィンドウ出して。」


「ほれ。」


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【レオン・ヴァスケス】

主な称号:[雷腕の狙撃手][無限の踏破者]

所属クラン:リーメン・ハウンズ

固有武器:戦装義手イクリプス・コア

主な保有武器:デルタ標準装備一式

保有スキル:特殊精密射撃Lv6、空間把握Lv4、近接戦闘Lv4、イクリプス・コアLv3、隠密行動Lv3、作戦立案Lv2、瞬歩Lv1

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「めちゃくちゃかっこいい称号が生えてるわね。」

「それに、やっぱり近接戦闘がだいぶ上がってる。あと射撃が変わってるわね。」


「無限回廊で得た経験値やスキルレベルは失ったようだがな。あの時の自分が、本当に夢の中の自分みたいで不思議な感じだぜ。」


「スキルレベルは全部は戻らなかったみたいね。肉体や魂に引っ張られて上がった部分は消えて、純粋に会得した技術は残っているような感じ。ついでに【瞬歩】生やしといたから。」


瞬歩は、アクシノムに貰った大事な権利である。

レオンにスキルを与えられてよかった。


「おいおい、マジか。嬉しいけどよ、他に渡す相手選べって言ったじゃねえか」


「レオンは腕も進化したし、戦力は十分すぎるほど高いわ。それに、私の無限回廊の報酬が、そのスキルを他人に上げてもいいってものなのよ。」


「ハハッ 最高だ。限界まで鍛えこむぜ。ありがとな。」


「いえいえ。…やっぱりレオンはエリック隊長のとこ、リーメン・ハウンズに残った方がいいよ。その方が似合ってる。といっても同盟相手として一緒に最深部に潜ることも多いと思うけどね!」


「…何から何まで悪ィな。でもなんか理由あんだろ?」


「ええ、今は突出した戦力を固めるよりは、試練をクリアできるPTを増やしたいの。試練は積極的にクリアを目指さなければならない。」


「静香が言うなら、そうなんだろうな。」


今必要なのは、同時多発的に試練に対処できる体制だ。

進化の箱庭もダンジョンも、一か所の攻略に年単位でかかる可能性を痛感した。今回は時間の流れが違い、実際には2週間程度しか経過していないが、何度も都合がよいというわけにはいかないだろう。


「ありがと。あ、私のステータスはこんな感じよ。」


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【帆世静香】身体強化10P/武具創成0P

主な称号:[統べる者][変革の先導者][邂逅のクリア者][無限の踏破者][福音の支配者][クジラの運命印][ゴブリン・ベイン][コボルト族の英雄]

所属クラン:英雄の戦場

固有武器:千蛇螺の籠手、銀爪ベルフェリア、万理の魔導書

身体強化Lv7

保有スキル :ファストステップLv8、緊急回避Lv7、瞬歩Lv6、剣術Lv4、近接戦闘Lv2、蛇喰・致命ノ毒Lv2、魔法錬成Lv2、スキル操作

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「圧巻だな。腕一本変えたくらいじゃ追いつける気がしねえ。」

「なーに言ってんのよ。ただ、私達だいぶ強くなったわね。」

「だな。ついにエリック隊長から一本取れる気がしてきたぜ。」

「当たりダンジョンだと思うけど…これ人に勧める自信はないわね。」


さすがに難易度が高すぎる。少しでも不和を起こすペアで挑んだ場合、二人とも死ぬのが目に見えている。それに、私たちは7000回台のループで抜けれたが、それ以上になる可能性だって十二分に高いのだ。


無限回廊攻略を達成し、前に進んでいる私達であるが、歩んでいるのは私達だけではなかった。

世界は常に回っている。




——南アフリカピーターマリッツバーグ——

災厄呼ぶインカニヤンバが出現。人口50万の都市に瀑布のごとき雨を降らせて水没させる。

その豪雨に軍隊ですら近寄ることができていない。


——アメリカ合衆国デトロイト——

アメリカ屈指のスラム街に、巨大なダンジョンが出現する。

政府の管理を嫌う人々が殺到し、現在はキング・グリッドと呼ばれる男が支配している。

ダンジョンドリームに命を懸ける若者と、その裏に潜む黒幕が…


——進化の箱庭第一層・攻略都市コモジニア——

(´・ω・`)の顔が刻まれた旗がたなびく攻略都市コモジニア。ぽよちゃんが命名し、賛成多数 反対1で可決されたのだ。

都市の建設完了と、攻略組の出発を祝って≪第一回コモジニア☆バトルトーナメント≫が開催され、都市は熱狂に包まれていた。


——進化の箱庭第六層・剣聖都市ポヨジニア——

( ๑❛ᴗ❛๑ )の縄張りとなった剣聖都市ポヨジニア。そこに到着した片倉春宗の一行によって、とある問題ごとが舞い込んだ。

ヴァイキング海賊団の首領エギルが、単身トロールの巣に乗り込んでいた。彼を巡って、ミーシャが下した決断とは。





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