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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
88/163

囚われの街 剣聖都市■■■■■

ここは進化の箱庭第六層——というらしい。


私達の日常が大きく変わって、ちょうど3カ月になるだろうか。ある日を境に、突然私たちの村は透明な壁に囲まれてしまった。それから程なくして、湖から巨大な化物が襲ってくるようになり、私は幼いミロと一緒に殺されてしまったはずだった。


気が付いた時には、薄暗い空間に閉じ込められ、彼女と出会った。白衣の外套に身を包み、あっという間に村を襲った化物を退治して去っていった救国の英雄だ。


彼女が去っていったあと、私達は残された人々を集めて生活を立て直し、外敵から身を護るために城の修復を行っていた。忙しい毎日だが、度々襲来する湖の化け物を相手に、戦えるようになってきている。


さて、話を戻すことになるけど、ここは進化の箱庭という特殊なダンジョンの一部に取り込まれているらしいのだ。白の英雄…帆世静香様と柳生隼厳様が旅立ってから10日、私たちの目の前に薄緑色の不思議な窓が現れたのだ。


この窓…ウィンドウをかざすことで、帆世静香様が残してくれた手紙を読むことができるようになったのだ。

手紙にはこの世界の理が詳細に記されており、その文字と文字の間から、私達のことを心から心配してくださっていたことが読み取れた。


ウィンドウの扱い方も、文字の読めない人にとっては困難を極めたけれど、今ではなくてはならない物になっている。遠く離れた人とも、まるですぐそばで話しているようにやり取りができる。このウィンドウのおかげで、救われた命がいくつあっただろうか。


「ミーシャ様、旅人様が!ラウガルフェルト湖の対岸にいらっしゃいましたッ」


遂に来た!

緊張が走ると同時に、心が沸き立つのを感じる。


「詳細を報告して!船と馬の準備を。警護隊から10人、ついてきてください。」


「おそらく6人、例のトロールと交戦している様子ですッ」


湖の対岸に棲む、大型の魔物:トロールの姿はこれまで何度も報告されていた。今まで透明な壁に阻まれ、私たちの村にやつらが来ることは無かった。


“ミーシャへ。私たちはこれより先、7層へ向かいます。

今後私達のようにここに訪れる人がきっと来ます。ミーシャ達に力を貸してくれる人を、必ず送ります。

もしかすると、透明な壁で区切られた土地が広がり、新しい化物も同時にくるかもしれません。

私も必ず帰ってきます。どうか、それまで…お互い無事に再会しましょう。”


手紙に残されていた事を考えると、その旅人は帆世静香様を知っている。

彼らを殺させるわけにはいかない!


「私も行きます。彼らの救出を第一に、城に残る人は厳戒態勢を。」


集まった兵士を連れて馬に飛び乗る。

湖に到着すると、報告をくれた兵士が、陸に引き上げていた船を湖に入れているところだった。

金属を好んで喰らう湖の化け物のせいで、船の保管には気をつけなければいけないのだ。


三隻に分かれて乗り込み、対岸へ向けてオールを漕ぐ。幸いなことに雲はなく、風も穏やかなため操舵に問題は無かった。

キラキラ光を反射する湖面に目を細めると、徐々に対岸の様子が見えてきた。極端に縦長の湖は、全長数十㎞はあるというのに、横幅はたったの500mほどしかない。


「船を岩陰に、着岸したら3人は残って。いつでも船を出せるように待機。私達は旅人様の救援に向かうわ。」


槍を握りしめ、全員に指示を飛ばしていく。

兵長と副長がそれぞれ率いる二隻も、同様に着岸した。


「ミーシャ様、ご武運を。」


船に残る兵士が胸の前で祈りをささげる。


「大丈夫よ。私達には白の英雄がついているわ。」


あの日、城壁に立って剣を掲げた白の英雄の姿が瞼の裏に焼き付いている。

貴女の姿が、私に勇気を授けてくださいます。非力で何も守れなかった私に、貴女は進むべき道を切り拓いてくれた。


「進めッ!」


天に掲げた槍が、陽光を反射して煌めく。

ラウガルフェルト鉱石で鍛造した槍は、並みの鋼を貫くほどに硬く鋭い。

ミーシャ隊4人、さらに兵長と副長がそれぞれ3人隊を組んで喧騒の方向へ走る。


ゴァアア゛——ッ


3mはあろうかという毛むくじゃらの巨人が、大きな丸太を振り回して暴れていた。相手をしているのは、8人の人間だ。明らかに恰好の異なった6人の男達が、かの剣の英雄と同じ形をした剣を振るっていた。残る2人はボロボロの服格好で、気を失って地面に倒れているようだった。


「全員かなり負傷しているわ。副長は倒れている人を救助、兵長は周囲の索敵と警戒をして!」


全員が負傷しており、特に倒れた人間を庇うせいで動きが鈍くなっていた。

このままでは死人がでてもおかしくはない。私達は三手に分かれることにした。


「ミーシャ班、背後からトロールを攻撃します!私達が攻撃を受け持つつもりで、攻撃開始ッ」


私が先陣を切って駆ける。湖の化け物と戦ってから、率先して村の警備や湖の調査に出るようにしていた。そのおかげか、今では並みの兵士よりも体がよく動いてくれる。


トロールは無造作に木を振りかぶっており、私たちの接近に気がついてすらいない。

槍の穂先で地面を舐めるようにすくい上げ、大きくしならせるようにトロールの腋下に突き立てる。同時に、後ろに続いた兵士が剣でトロールの足の腱に刃を振るった。


「ッ……よし!」


私の槍が確かに手応えを残して抜けた瞬間、トロールの巨体がぐらついた。

木を振り回していた腕が跳ね上がり、大きくバランスを崩している。

続けて、後方の兵が斬りつけた脚から真っ白な腱が露出し、半分ほど切れていた。


「一旦引いてッ」


ゴォオオアア゛ァアッ!!


十分な痛手を与え、注意を引くことができた。距離をとる号令を出したと同時、トロールの持っていた丸太が横なぎに振るわれる。

巨体に秘められた力を爆発させた荒々しい一撃——


「ミーシャ様…ッ」


兵の一人が叫びながら私を突き飛ばす。

その直後、丸太が兵の身体をかすめ、その体を大きく後方へ吹き飛ばす。


「俺は大丈夫です!それより、ミーシャ様を守れェェ!」


吹き飛ばされながら、兵士が空に吠えた。

くそっ、思ったよりも遥かに力が強い。地面を転がるように距離をとり、逆光に黒く染まる巨体を見上げる。


「助かりました!お前らァ気合入れろ!」

「あなたがミーシャさんですか!?」

「ミーシャさんに怪我させてみろ、腹切りだぞ。」


兵士の声に、旅人達が強い反応を示したようだ。私の名前を知っているみたいだ。

トロールの注意が逸れた隙に、倒れている人の救助が完了する。


「かかれ!」


男の声が戦場に響き、トロールの体を刻んでいく。剣の一振りに魂をこめたような、渾身の斬撃が四方から浴びせられた。

遂にトロールが膝をつき、その首に刃が付き立った。私達も頭部に何度も剣を振るい、なんとか絶命を確認する。

その死体を見て驚くことがあった。私が最初につけた腕の下の傷が、既に塞がっていたのだ。足の傷も再生しており、恐るべき回復力を持った怪物だと認識する。


敵がこいつ一匹とは限らない。そう思っていると、先ほどの男が手をあげて近寄ってきた。


「このたびはご救援いただき、誠にありがとうございました。

私、夢想無限流に属する者で、片倉春宗と申します。

失礼ながら、あなたがミーシャ様でいらっしゃいますでしょうか?」


「ええ、私がミーシャです。…帆世静香様のお知り合いでしょうか?」


彼の名前は片倉というそうだ。

早くこの場を離れないといけないと分かってはいるが、つい帆世静香様のことが口からついて出た。


「はい!帆世さんの命でここを目指してきました。来て早々助けられているようでは、…たはは、面目も無い。」


そう言って深々と頭を下げる。

慌てて頭を上げてもらいながら、私の頭の中は彼女のことでいっぱいだった。

それから城に戻ったのだが、その道中何を話したのか記憶があやふやなほどだ。


「…シャ様…ミーシャ様!お気分が悪いのですか?」


「あ、いいえ、大丈夫です。どうかされましたか?」


帆世静香様からいただいた手紙をそっと胸に隠す。

はぁ、しっかりしないと。


「怪我をされていた方が目を覚ましたようです。片倉様達も集まって、話がしたいとのことです。」


「今行きます。」


道中、気絶してる彼らの服装を見て気になっていたことがある。

部屋につくと、まさに話は本題に至ろうとしていた。


「お頭を、お頭を助けてくだせぇ!」


「お頭はきっと今頃、トロールどもの巣に一人で行ってるんでサァ!」


二人の男が床に額を打ち付けて懇願する。

顔半分を覆う特徴的な顎髭、鎖が編み込まれたボロボロの服。彼らの正体に見当がついていた。


「あなたたち…ヴァイキングの一味ですね?」


この一帯では子供だって知っている有名な海賊団、ヴァイキング・エギル。

国や貴族でさえ敵わない圧倒的な暴力を誇り、彼らから街を守る為に作られたのがこの城なのだ。

長年の敵同士、その船員が再び額を床にたたきつけた。



「カシラを…どうかッ…お願ぇします!」

囚われの街 剣聖都市■■■■■

こっちの名前も、その内。

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