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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
86/163

英雄の戦場結成 イラスト三枚

~議題1つ目~


私は今、ファーテベネフラテッリ病院の最上階に位置する特別病室にいる。


ヴァチカン市国のすぐ隣、ローマの中心を流れるテベレ川の中州――ティベリーナ島に建てられた歴史ある大病院である。

多くの要人が利用することから、ここには最先端の医療設備だけでなく、情報漏洩を防止する厳格なセキュリティ体制が敷かれている。さらに、現在この病院の最上階のフロアを完全に貸し切っているというのだ。


一泊いくらかかるのか、恐ろしくて聞けないほどに広い部屋を用意してもらっているのだが……その部屋が手狭に感じるほど人が集まっていた。


壁際のソファには、エリック隊長が静かに腰を下ろしている。

艶のあるダークグレーのスーツに、ノータイで第一ボタンだけ外したシャツ――力を抜いたようでいて、計算された装いだ。

その隣にはアイザック。真っ白なスーツを何の違和感もなく着こなし、脚を組んでいる。スーツの質感が、彼の盛り上がった筋肉を逆に引き締めていた。


向かいのベッドの上では、レオンが胡坐をかいて座る。黒いスーツに、右腕には銀と黒を基調とした義手。そのまま見せているのが、彼らしい。

隣にはルカが並び、黒地に赤いラインが入った礼拝服を端正に纏っている。姿勢はきちんと、妙に気合の入った瞳が私の一挙手一投足を追いかける。レオンと並んで座ると、どこか兄弟のように見える。


窓際の椅子には、リリーさんが腰を掛けている。

清潔な白衣が光を反射し、彼女の存在をどこか神聖なもののように見せていた。


私はふうっと息を吐いて、ベッドの背にもたれかかる。

着替えたばかりの純白の戦闘服が、病院という静謐な空間には不思議とよく馴染んでいた。

隣にはこもじ。街で買ってきたというお洒落なポロシャツを着ていてかわいいが、力を入れたらシャツがはじけ飛ぶんじゃないだろうか。


総勢7名、黒聖堂を攻略した全員が顔を合わせていた。文字通り死人が歩き悪魔が躍る地獄のなか、こうして生きて顔を合わせられたことに感謝するしかない。まあ、誰に感謝しているのかいまいちわからないが。


「話したいことはいっぱいあるんだけれど…とりあえずエリック隊長、いい?」


エリック隊長が一呼吸おいて、静かに告げた。


「ああ、私…この面子なら俺でいいか。俺から話させてもらおう。我々デルタ第一特務部隊は、従来のデルタフォースから独立し、新たにクラン: Limen(リーメン) Hounds(ハウンズ)を結成する。」


パチパチパチッ

ルカやこもじは良く分かっていないが、皆に続き拍手を送る。


「色々思うところはあるが…政治家のあれこれに付き合っている場合ではないと判断した。中国のダンジョンに続き、ヴァチカンでも静香たちに助けられたんでな、我々自身もっと成長しなければならない。今後は独立クランとして任務にあたるつもりだ。」


デルタ部隊が黒聖堂に挑んでる間に、アメリカ合衆国は戦争を起こしかけたのだ。

それ以外にも、エリック隊長のもとには様々な依頼が飛び込んでくるのだと思う。私にだって各国からバカげた要請が舞い込むのだから、心中察して余りある。


「ありがとう。そして私も、新たにクランを設立しました。エリック隊長率いるリーメンハウンズと、私の結成した“こもじと愉快な仲間たち”は同盟を結ぶことにします!」


(´・ω・`)待て待てぃ!


クラン同盟の宣言に待ったが入った。何やねん。


(´・ω・`)同盟の前にクラン名を変えてほしいこも。


「なによー、文句あるなら言いなさいよー。」


(´・ω・`)ずっと言ってるこも。


抗議の声を上げるこもじ。

かわいくてユーモラスで実態を表している良いネーミングなのに。


「俺も、ちょっと言い出しづらかったが……まあ、もうちょっと締まりのある名前があってもいいかなとは思ってた」


エリック隊長が笑いをこらえつつ肩をすくめる。


「まあ、エリック隊長が言うなら……ルカはなんか思い浮かばない?」


話を振られたルカが、驚いたように背筋を伸ばす。

クランメンバー募集の通達に、真っ先に手を挙げたのがルカだった。彼の申し入れにしばらく悩んだが、その日のうちに了承。クランメンバーの3人目として迎え入れたのだ。

日頃からスポーツで鍛えられた体、優秀な頭脳、なにより悪魔の拷問にたった一人で耐え続けた強靭な精神を評価したのだった。レリックを使いこなせるのもルカしかいないし、戦力になるまで鍛えるつもりだ。


「えと…俺は帆世さんの意見でよいかと思いますが…」


(´・ω・`)!?


「そうですね。僭越ながら、“白衣の天使十字軍”でどうでしょう。」


……神妙な顔で、堂々とルカは言い切った。

しかも、全くふざけていない。本気だ。

意外とその場に反対の空気がなく、なんならリリーさんがちょっと感心したような顔をしている。

このままだと――決まりそうな雰囲気だ。まずい。


「却下で。私がクラン名を言うたびに笑われるわよ」


きっぱりと言い切った。どうも、白衣の天使の帆世静香と申します~って言えるかァ!

わいわいと話していると、こもじが横から口を出す。


(´・ω・`)もう、アレでいいじゃないっすか。


その表情には、やれやれと書いてあった。たぶん声にも出ていた。

こもじの言うアレ、そうかアレか。

私とこもじが初めて出会った場所、魂が宿るほどやりこんだ仮想の現実。


「ええ、では改めて――」

私は椅子から立ち上がり、皆の視線を集める。

純白の服が微かに揺れた。


「クラン名は、“英雄の戦場”にします。」


改めてクランが発足。同盟相手のエリック隊長と硬い握手を交わした。



--------------------------------------------------------------------------------------------



議題2つ目


「さて、ここに居る7人だけど。無限回廊に挑む組と、進化の箱庭に挑む組に分けようと思うの。」


本題だ。

無限回廊には入場制限が儲けられている。真人はある程度存在を知っているようだが、未知のダンジョンには違いない。初見攻略を目指すには相応の人選が不可欠だ。


進化の箱庭は1層からの攻略となり、ダンジョン内に都市国家を作るという無茶を押し通すための露払いを行わなければいけない。過酷な道中になることは間違いなかった。



「俺は、何でも大丈夫です。少しでも力になりたいッ」


最初に発言したのはルカだった。

この中では最年少、戦闘の訓練や経験もない青年だが、その顔に宿る覚悟は本物だった。ルカに関しては、既に決めてある。


「ルカ、貴方の回復と拘束のレリックは重要な戦力になるわ。それでも、自力で戦えないとこの先には進めない。」


「……ッ!」


一拍おく。ルカが唇を噛んで、それでも真っ直ぐと私の目を見て訴える。信じてくれ、強くなりたい、そういう男の子の目だ。


「だから、私の信頼する師匠を着けて送り出します。彼らから存分に学んで、鍛えてもらって、強くなった姿で再開しましょ。」


「……はい!」


「って訳で、師匠1号こもじ、ルカをよろしくね。」


(´・ω・`)ほーい


「よろしくお願いします!」


こもじが居れば、10層まで戦力で困ることはあるまい。それに、師匠はまだまだ用意している。


「静香、俺達も箱庭に挑戦してもいいかな?」


エリック隊長、アイザック、リリーさんが続けて声を上げる。実は、3人には既に話を通してあった。

エリック隊長なら集団を指揮できるし、基地設営にアイザックの技量が物を言う。怪我人に対しては、リリーさんの治療とルカのレリックが相乗効果を発揮する。


「ええ、皆さんの力が不可欠な任務です。1層で基地を構築後、6層を目指して進んでください。準備が整えば10層まで戦力に困ることは無いでしょう。」


「承知した。親切な先人が地図を書いた道だ、背中を追いかけて必死に走るさ。」


「坊主は俺たちが面倒見てやるぜ!鬼のエリックをまた見れるなんてな」


エリック隊長に続いて、アイザックが了承する。

鬼のエリック……その話は以前聞いたことがあった。昼はとにかく肉体を鍛える訓練、エリック隊長との果てしない組手、夜になれば山にように積まれた教科書との格闘だ。

驚くべきことに、全ての教官はエリック隊長が行う。デルタに選ばれた兵士が赤子のように泣くと恐れられているのだ。


「ルカ、大丈夫よ。どんな怪我をしても、死なせはしないわっ。短い間かもしれないけど、医師免許取っときましょう!」


リリーさんが精一杯の励ましを送るが、むしろルカの顔が引きつっている。箱庭に医学書を持っていくことが決定した。


「ルカ、デルタ……いえ、リーメンハウンズの皆は私の師匠でもあるの。しっかり食らいつきなさい。」


「はい!!頑張ります!!」


ルカの目に光が戻る。

よしよし、やる気が出てくれて良かった。

もう1人取っておきの師匠を用意しているのだ、続けて発表しよう。


「そして、進化の箱庭攻略班としてもう1人師匠をつけるわ!私の剣の師匠、柳生隼厳師匠よ。お願いしたら快く引き受けてくれたわ!」


(´・ω・`)「えっ!!!」


「わっ……びっくりしたー。どしたのよこもじ、師匠も一緒について行ってくれるって。」


(´・ω・`)...マジっすか……鬼の隼厳が来ちゃうんすか...こもじダンジョン組に行ってもいいすかね。


鬼がよく居る世界なのね。

確かに触ったら斬られそうな雰囲気こそあるものの、師匠との攻略は楽しかった。


「んー、私と行った時、そんなに怖くは無かったけど……。精々殺気で首斬られたり、胴体真っ二つにされたり、数時間全力で走り続けたり……そんなもんよ。」


「「……。」」


「なぁ、隊長……訓練って俺は違うよな?」


「アイザック、良い機会じゃないか。ルカと一緒に鍛えて貰えるよう頼んでおこう。」


ルカに当てがった師匠は、

こもじ、エリック隊長、アイザック、リリー、柳生隼厳師匠


以上の5人だ。人類最高峰の先生達、どうせ攻略には時間がかかるのだからみっちり鍛えて貰えばいい。


「さて、残った私とレオンで無限回廊に行くわよ。パートナー、なってくれる?」


「……俺でいいのかよ。」


病室の空気が少し下がった気がする。

レオンが義手になった右腕を私に向ける。腕を失ったスナイパーが、戦場に居ていいのか、そう問いかけて居るのだった。


「愚問ね。私にはレオンが必要よ。ねえ、エリック隊長、レオン借りていい?」


「ああ、こき使ってやってくれ。」


「そういうことよ。よろしく、レオン。」


手を差し出す。

観念したように頭をかくレオン。

1拍おいて上げた顔は、いつもの自信家の表情に戻っていた。


「ったく、よろしくな相棒。」



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~議題3つ目~


「残ってくれてありがとう。」


一旦解散した私達だが、こもじとルカを呼び止めたのだった。

クラン:英雄の戦場、発足メンバーである。


(´・ω・`)どしたんすか?


「二人にプレゼントしようと思ってね。」


じゃーん!ご覧あれ!


挿絵(By みてみん)



「クラン英雄の戦場のマスコット、ぽよちゃんでーす!」


(´・ω・`)ふーん


「ふおおお!!!!

家宝!!家宝に致しますッ!!!」


同じものを見たとは思えないほど、二人の間でテンションに差があった。

こんなにかわちいのに。


「これを見せたら、大概のお店をタダで使えるわよ。UCMCの本部に行くんだし、これが有ると無いとじゃ手間が断然違うんだから。」


このぽよちゃん、実は大変なハイテク技術を使っている。

ウィンドウを司るヘスティアHDの中枢、その開発部と連携して作成した絶対に複製が作れない画像データなのである。進化の箱庭が位置するUCMC本部には無数の認証ゲートが存在し、そこを普通に通過するだけで1時間は余計にかかるだろう。それを、ぽよちゃんカードをみせることで素通りできるのだ。


「それと、こもじの絵も描いてみました。これも後々大事になるからね。」



挿絵(By みてみん)



(´・ω・`)イタいおっさんの手配書みたいなんできとる…



「ほんじゃま、本題。ルカ、ちょっとウィンドウみせて。同期していい?」


「なんでもしちゃってください!」


この子、詐欺とか引っかからないかしら。

知らない人に暗証番号教えたり、パスポート見せたりしそうで心配だわ。


「まずはステータス見るわね。ついでに、ああしてこうして…」


——【スキル操作】——

ルカにも回避のスキルを植え付ける。

クランメンバーには付与していきたい。

リソースを考えると、あと付与できて数人だろうという気がする。


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【ルーカ・ディ・サンティス】

主な称号:[魔を退ける者]

所属クラン:英雄の戦場

固有武器:十字架の聖遺物“回復”、“拘束”

保有スキル:レリックオブヒールLv1、レリックオブバインドLv1、瞬歩Lv1

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「やっぱりスキル生えてたのね。新しく瞬歩というスキルを付与しました。」


こもじ、ちょっとやってみ。

お前のステータス覗いたけど、まだ瞬歩Lv1とはどういうことなのか。

練習せえ、練習。


パッ(´・ω・`)三(´・ω・`)パッ


ややぎこちないが、しっかり瞬歩自体は成功している。

レベルを上げていくと、反射的に使用できたり、使用後の場所や体勢の微調整が可能になるなど奥が深いスキルなのだ。


「こういう風に、一瞬の間をおいて転移できるの。回避スキルと思って、毎日練習しなさい。」


「!!!!(…神)」


ルカに意図は伝わったらしい。

真面目そうな性格だし、きっと練習してくれるだろう。

実際に瞬歩が無ければ危なかった局面があまりに多いのだ。死なないためのスキルは何個あっても良い。


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サン・ピエトロ大聖堂 表——


明日の朝、私たちはそれぞれの飛行機に乗って旅立つ。

私はレオンと共に、遥か南半球ソロモン諸島までの長い旅路だ。

一方でルカとこもじは、進化の箱庭の攻略に向けて日本へと帰国する予定だった。


その出発を前に、私はふと、ヴァチカンの地で“やり残したこと”を思い出した。

だからこうして、サン・ピエトロ大聖堂まで足を運んでいた。

病院のあるテベレ川沿いを少し歩き、サンタンジェロ城をちらりと横目に見て、すぐの場所だ。道中、とんでもない数の人が川沿いに集まっており、私は人目につかないように瞬歩をうまく使って切り抜けた。


辿り着いたのは、かつて黒聖堂と繋がっていた場所。

数百人が命を落とし、悪魔が顕現した、凄惨な現場である。

整備が追い付かず、その記憶はまだ石畳に生々しく残っていた。


立派な寺院であるにもかかわらず、今は信じられないほどの静けさに包まれている。大聖堂に入る随分手前で、厳重に封鎖されているからだ。むろん、警察の封鎖くらい掻い潜ることに問題はない。

私は地の利に詳しいわけではないため、境内を少し歩き回りながら、ある“探し物”をしていた。


その時だった。

教会の奥に、一人の青年が佇む姿が見えた。


とっさに気配を殺し、私は足音を忍ばせて物陰に身を潜める。

この一帯は立ち入り禁止のはず――


「いったい、誰かしら。」


耳を澄ます。

静まり返った大聖堂の空間に、声が反響して届いてきた。


「おじいちゃん…お父さん…ここに眠る幾百もの

俺は誰一人守れなかった。俺は、無力な自分が恨めしい。」


それは、亡き者へ送る懺悔の言葉だった。


「ですが、安心して眠ってください。俺は、俺の神を見つけました。

悪を断つ刃を与えてくださいました。

皆さんの住まう天国へ、決して穢れが届かぬように、命尽きる日まで戦います。Amen」



カツン…カツン…



大きな柱の物陰で、ルカの足音が遠のいていくのをただ聞いていた。

彼の声には復讐の炎が宿り、その顔はどこまでも深く闇をたたえていた。


「ルカ…。今は復讐の炎が生きる糧になる。辛い戦場でも、心を守ってくれるわ。

でも、いつか復讐から解き放たれるよう、私も祈りを捧げましょう。」


挿絵(By みてみん)




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思わぬところでルカの本心を聞いてしまった。

これは私の胸にそっと置いておこう。


さて、本当に人の気配が無くなったのを確かめてから、私は教会の奥へと足を進める。

やがて見つけたのは、地下へと続く重厚な石の階段だった。

…ここから出てきた時、私は意識を失っていた。あのときの記憶は、いまだ断片のままだ。


改めて見下ろすその階段は、深い沈黙をたたえ、空気がひやりと冷たい。

ひとつずつ足を踏み入れていくと、湿った石壁が両脇に迫り、天井は低くなっていく。

照明などは一切ないが、石造りの壁面には古の彫刻が刻まれており、わずかに神気の余韻が漂っていた。

十字架、葡萄の蔓、羊飼いと子羊。それらはまさに、この場所がかつて「聖域」として祀られていたことを物語っている。


しかし、しばらく進んだ先――

そこに待っていたのは、まるで地下に台風を閉じ込めたかのような、凄まじい惨状だった。


壁の一部は吹き飛び、天井は無残に崩れ落ち、通路のあちこちに瓦礫が積み上がっている。

支柱のひとつは中程からへし折れ、黒く焦げた破片がいまだ散乱していた。

床に敷かれていたはずの石板は、熱で捻じ曲がり、ところどころが溶岩に焼かれたように赤黒く泡立っている。


……まあ、これは、私がエンシェント・ラーヴァを放ったせいだろう。


聖堂地下の荘厳な沈黙に、微かな皮肉が滲む。

だが、これもまた“戦いの痕”として、記憶に刻まれていくのだろう。


頃合いだ。腰に差さっている愛刀に手をかけ、青く煌めく刃を引き抜く。


「ベルフェリア、お仕事の時間よ。」


『はい、なんなりと。随分懐かしい場所ですわ。』


「数日しか経ってないのに。ここからアスファルトゥスの遺した欠片が無いか探すわよ。」


『御意に。悪魔の気配でしたら、こちらから…』


銀爪ベルフェリアを闇に翳し、瓦礫の山をかき分けて進んでいく。

黒鐘の戦王アスファルトゥスが使用したスキルにより、ここら一帯がダンジョンとなったのだ。その主を殺したことで、得られた素材があるのではと思いついたのだ。


確認する暇もなく、その思考の余裕もなくベルフェリアと戦闘になったため、回収は無理かもしれないとあきらめかけていた。だが、こうして訪れてみれば確かに悪魔の気配がするというのだ。


悪魔の魂が不滅であるとすると、もしかしたら復活することもあるかもしれない。

重たい瓦礫は斬りはらい、一つ一つ除去して進んでいく。


「どうしてアスファルトゥスを呼んだの?」


『テネブラエルには多くの悪魔がおりますが、彼は一際優れた悪魔でした。

あの時私が呼び出せる悪魔の中で最も強かったのが彼です。


無数の悪魔を率いる手腕は見事。数だけでは私達原初の冠には及びませんが…

それ以下の悪魔でしたら、彼が負けることは無かったのです。』


「いやー、ほんとに強かったわ。もう少し手駒が多ければ危なかったかもね。」


『御冗談を。私はあの時から、主の姿に釘付けになっていたのでございます。』


「私についてくるのも、良く分かんないけどね」


『静香様とおしゃべりしたい、それが私が悪魔として願ったことでした。

福音と呼ばれる私の願いが因果となり、刀に宿ることができたのです。』


ガラリゴロゴロ


崩れた天井の瓦礫を押しのけ、ようやく目的のソレに到達する。

両手いっぱいほどの大きさ、鋭くうねった6本の角、アスファルトゥスが自らへし折った漆黒の王冠を拾い上げる。


жアスファルトゥスの角冠ж

第二階級黒鐘の戦王アスファルトゥスの角。

魔界の王が、脱ぎ捨てた王冠には魂の因果が宿る。

所有者の念によって姿を変える。


『これですわ。アスファルトゥスの魂も宿っております。』


「ほっといたら復活するの?」


『数千年の時があれば、魂の輪郭を取り戻すかもしれませんね。

滅してもいいですし、新たな輪郭を与えても良いかと。』


「新たな輪郭って?」


『道具としての使命を与えることです。

使用者次第ですが、アスファルトゥスの魂を調伏することで復活することは無くなります。』


これで剣なり、なにか作ればいいってわけね。

んー、道具というと目の前にもいる。


「道具って、ベルフェリアも復活できないってこと?」


『私の場合は、肉体が残っていますので、魂を戻すことで復活は可能です。

ただし、もちろん静香様の命なくば、そのようなことはできません。』


「アスファルトゥスの魂、調伏できるとおもう?」


『私の主の命に、一瞬でもためらうようなことがあれば、

このベルフェリアが未来永劫蘇らないように滅しますわ。』


「心強いわ。のーとー」


チンッ。なんか調子にのっていた気がするので納刀した。

漆黒の王冠をカバンにいれ、宿に戻る。


明日こもじに渡して、一緒に箱庭に潜ることになる榊原老師のもとに届けてもらうことにしよう。榊原老師も、まさか悪魔の角で刀を打つとはびっくりするかもしれないが。


どんな禍々しい刀になるのか、少したのしみだった。

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