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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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午前中の事務作業

「これで穴はねえはずだ、俺ぁ寝るぜ」


夜通し行われた誓約書の編纂作業。

レオンの情報処理能力の高さが光りほとんどの作業を行ってくれた。そのおかげもあり、私は質問に時折答えるだけでよかった。

終わってみれば、文字数は10万文字を超え、これだけで本にすると一冊分に相当する量である。


銀爪ベルフェリアを抜き、そこに宿った悪魔へ声をかける。


「おはよ。」


『おはようございます。私の主。

私のために用意してくださり、深く感謝しておりますわ。』


「結構、外の様子は見えてるのね。誓約書作ったから、これに従うよう誓ってもらえる?」


『もちろんでございます。では——』


細部にまで及ぶ行動の制約は、もはや“契約”の域を超え、封印と呼んでも差し支えないほどだった。

それでも――ベルフェリアの口調からは、一片の迷いも読み取れない。


では、と口にするのと同時に、ウィンドウに記されていた文字列が空中へと浮かび上がる。

白を基調とした病室の空間に、緑に輝く文字が、まるで神経の網のように広がり、天井から床までを覆っていく。


無数の浮遊する文言はやがて、ベルフェリアを内包する銀爪の刀身に吸い込まれていった。

乾いた大地に雨が降るように、一文字ずつ確かに染み込み、同化していく。


数分の沈黙の後、最後の一文字が刀に吸収され、ベルフェリアの魂は完全に手中におさまった。


「どう?ベルフェリア。何か変わった?」


『いいえ、何も。』


「そう。あなたが刀に宿る利点や弊害はあるかしら。」


『まず、弊害から申し上げます。

私の魂はまだ完全には滅しておらず、静香様の魂へと還元されてはおりません。

大部分は“テネブラエル”に封じられておりますが、もし全てを還元すれば――静香様の魂の器を、十分に満たせるだけの力になるかと存じます。


つづいて、利点でございます。

私ベルフェリアの持つ知識や感覚は、一定範囲で静香様と共有可能でございます。

大いなる情報体による制限がございますゆえ、すべてをお伝えできるわけではありませんが……


また、私の特性。すなわち“不滅”は、この銀爪にも宿っております。

さらに、静香様が抱く「悪魔を討つ」という強い意志が、加護となって刀に付与されております。』


刀を通して声が聞こえるのも不思議な気持ちだが、その情報はだいたい知っているものだった。

嘘はついていないと思う。


「ありがとう、ベルフェリア。言葉は飾らなくて大丈夫よ。」


『分かりましたわ。いつか可能でしたら、テネブラエルへ訪れてください。

私の本体をもって、必ずや力になりましょう。』


「門でみたアレかしら。うーん、ぞっとしない話ね。また呼ぶから、それまで待ってて。」


納刀、いつまでも病院で抜き身を晒すわけにもいかないだろう。

それに…そろそろウィンドウに溜まったメッセージを処理していかないといけない。


仕事を風邪で休んだ後、得意先や上司から届いた未読メールの山を見るような、そんな嫌な気持ちでウィンドウを開く。

案の定、数百に及ぶメッセージが届いていた。その中から重要性の高いものをピックアップして処理していく。


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☆【重要】進化の箱庭関連報告書

・現在の攻略中PT一覧

・6層住人へのウィンドウ付与結果

・今後の進化の箱庭攻略計画について


最初に目に飛び込んできたのは、やはり進化の箱庭に関する報告だった。

現在、攻略中のパーティは計12。内訳は、夢想無限流チームが7、アメリカ派遣部隊が2、中国、ロシア、そしてEU混合部隊がそれぞれ1つずつとなっている。


攻略への挑戦には、まず第4層までの特殊環境を踏破できるかどうかの厳しい身体能力テストが課される。それを突破した者だけが、UCMCによる審査を経て“箱庭”への挑戦権を得るのだ。すでに情報が出揃っていること、敵を倒すことで超人的な力を得られることから、今や各国から挑戦の申請が届けられていた。


6層に住むミーシャ達に対して、真人は早急に対処してくれたらしい。交信は不可能だが、彼女たちにウィンドウを付与することに成功したと報告書に在る。これで次会った時には、会話することもできるはずだ。そう思うと、今すぐにでも日本に帰って箱庭に潜りたくなってくる。


そして、最後に載せられていた箱庭攻略計画書はなかなか壮大な資料であった。

6層までの環境が地球に類似している点に着目し、1層から順番に人間が住める都市をつくって行こうという計画だ。南極に基地をつくる人類だ、たしかにダンジョンにだって住めるのかもしれない。

たしかに、ダンジョンに街を作って運営することができれば、そこで安全に訓練しながら先に進むことができる。


うーん、それは思いつかなかったなあ。よし、返信を…


⇒帆世:返答遅れておりますが、これから順次回答していきます。

・6層まで進むPTについては厳選する方針のままでお願いします。6層の治安悪化等、懸念されるPTに関しては弾いてください。

・6層住人にウィンドウを付与された件、ありがとうございます。

・進化の箱庭攻略に関しまして、素晴らしい案だと思います。攻略部隊とは審査基準を変えて、人を募っても良いかと思います。ただし、1層には比較的強力な力をもつ個体が居ました。他の階にも同様に上位個体が居る可能性があるため注意が必要でしょう。対策を兼ねて幾つか案をまとめて添付しておきます。


[進化の箱庭攻略計画_帆世静香_2045.5.19]


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送信っと。


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☆【最重要】ダンジョンと討伐種に関する報告書 By真人鷹平

帆世静香様


このたびは、黒聖堂の攻略という未曾有の任務を遂行していただき、誠にありがとうございました。

デルタフォース隊長エリック様の報告により、静香様が重篤なご負傷を負われたと伺っております。

その身をもって人類のためにご尽力くださったこと、関係者一同、深く感謝申し上げますとともに、心よりご快癒をお祈り申し上げます。


さて、黒聖堂に関しまして、現在までに判明いたしました事項を下記にご報告申し上げます。

≪極秘≫下記情報は公開していますが、大いなる情報体から齎された情報です。


2月討伐種  :黒銀ノ羆

2月ダンジョン:奈落の獣喰


3月討伐種  :腐敗と病のモルビグラント

3月ダンジョン:黒聖堂


4月討伐種  :静寂ノ森梟※

4月ダンジョン:無限回廊※


5月討伐種  :黒鐘の戦王 アスファルトゥス

5月ダンジョン:灰の帳


「なるほど…」


報告書を読みながらうなる。5月の討伐種とダンジョン、これは黒聖堂の内部で戦ったものだ。あらかじめ予定されていた試練ではなく、後付けとして試練達成扱いとしてくれたようである。相当に困難な敵であったが、5月に新しい試練が追加されなかったのは朗報と言えた。


そして、4月の討伐種とダンジョンに関しては、全くの初見である。

なになに…あぁ、4月討伐種はアメリカがロシアに爆撃を行った時の個体みたいだ。すっかり忘れていたが、それで戦争になりかけてホワイトハウスに殴り込みに行ったんだった。


4月ダンジョンは、無限回廊…場所はソロモン諸島に浮かぶ無人島。へぇ、発見するだけでもすごいと思うわ。このダンジョン、なんと詳細も判明している。


無限回廊:内部での時間経過が緩やか。戦闘は少ないギミック系ダンジョン。3カ月以内に攻略しない場合、()()()()


「消滅する?いい事だと思うけれど…続きがあるわね。」


同時に挑戦可能人数に制限あり、2人まで。

攻略成功者に報酬がある可能性が高い。現在UCMCで島を警護しており、私の意向を聞いてから挑戦者を選定したい——とのこと。


「なーるほど。じゃあ、旅行ついでに私は行こうかな。もう一人の選定だけど…一旦考えよう。」


⇒帆世:無限回廊攻略の依頼、引き受けようと思います。つきましてはダンジョンですので、不測の事態を考慮したメンバーを募ります。後ほどメンバーについては連絡いたします。

ヴァチカンに滞在しているため、飛行機の手配をよろしくお願いします。


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これでいいかな。そしたら、1人募集しようっと。


☆ダンジョン攻略参加者の募集

帆世静香です。


ダンジョン:無限回廊の攻略メンバーを1人募集します。

場所はソロモン諸島、往復の移動手段はこちらで用意します。ダンジョンはギミック系が予想され、戦闘は比較的少ないと思われますが詳細は不明。クリアに関して報酬がある可能性があります。


一旦メンバーを募り、その中から1人選定いたします。


「送信ぽちっと。あて先は私の顔見知りに広くおくった。こもじを連れていくつもりだけど…」


ぴこん♪

ぴこん♪

ぴこん♪

ぴこん♪


早速多くの人から返信が届く。ウィンドウの性質上、私からのメッセージが確実に目に入るため反応が早い。


☆(こ´・ω・`も)より

敵強くないなら、俺は不参加で


あ、こもじの名前を弄ったまま戻すのを忘れていた。

こもじは不参加かあ、残念。


☆ルーカ・ディ・サンティス より

行きたいです!!!


ルカくん、返信はやいなー。候補1ね。


☆柳生隼厳 より

活躍は聞いておるぞ、ごくろうじゃった。

夢想無限流は進化の箱庭の攻略にほとんど参加しておる故、今すぐ動ける者が少ない。

儂も6層に行こうかと思って居るが、必要であれば共に行く。


師匠~!師匠も候補1だけど、箱庭攻略にも参加してほしいなあ。

戦闘メインじゃないから、今はカバー範囲が広い人が好いだろう。


☆エリック・ハウザー より

お身体回復されたと聞いております。

我々第一特務部隊は、いつでも参加可能であります。

ただ、私個人の希望となってしまいますが、レオン・ヴァスケスを推薦させてください。


「ほぉ…」


当の本人は、私の隣のベッドで爆睡している。病み上がりなのに、徹夜で文章を作成したのが効いている。おそらく、レオンを推薦したのはエリック隊長の優しさや心配からだと思う。


レオン、レオンか。確かに彼は優秀だし、腕を失ったとはいえ悪魔と戦い抜くほどタフな身体をしている。今回のダンジョンにはうってつけかもしれない。


一旦、返信が揃うまで保留にして、次の報告書にうつろう。



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☆【重要】RPの使用方法について 帆世静香宛


これも真人からだ。

RP、これは非常に興味深い内容だ。邂逅で10RP得たが、その効果は計り知れないほどに有用だ。

大いなる情報体という超常の存在から与えられる、人知を超えた力の一端。


これまで私が知っているRPの効果は以下の通りだ。

身体強化:10RPでLv7に至る。正確には魂の器が拡張される、と言えばいいか。

武器:万理の魔導書(10RP)、神環の鈴(7RP)、雲黄昏&兼長(5RP)、十字架の聖遺物(4RP)

そのほか:人類へウィンドウを付与(100RP)、ファストステップ取得(5RP)、情報開示や隠ぺい(1RP)


使用用途は多岐にわたり、真人がやったように100RP使用すれば世界へ摂理の追加することすら可能となる。たしかに、使いどころの難しい問題だ。入手方法は限られており、不明瞭。

実績解除に伴って、ボーナスのように真人に付与される仕組みとなっている。


現在、真人が保有するRPは【21RP】。


「私に聞かれても困るなあ、RPを使ったことが在るのは3人だけだから、みんな困ってるんだろうけど…」


⇒帆世:RPは、非常に有用な戦力強化方法と言えます。ですが、現状のようにダンジョンが世界中にできる中、個人を強化するだけに使用するのは効果的ではないように思います。

全人類対象の使用方法や、世界に干渉する切り札のように使用するのを推挙します。


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☆各国からの要請


うーん、この報告書は無視でもいいかな。

私やこもじを1武力として政治に使いたいらしい。くだらない。

さらに現状が見えていないのでは、と思うような要請書がまとめられている。


「新たに討伐種が現れる危険に備え、ダンジョンの類に潜入しないように要請」

「連絡を緊急でとれるホットラインを構築するよう要請」

「位置情報を共有するためGPSを携帯するよう要請」


ふざけているのか。襲われたらすぐに助けに来てほしいということだろうが、その不安を紛らわせるためにどうして私が手をつくさなければならないのか。


自分で危険を冒してでも強くなろう、民を守ろう、みたいな心がけをしてほしい。私は全人類を救いたい、などと思ったことはないのだ。


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☆各国インフラ整備状況


前回の会議で提案して、1-2カ月かそこらだ。それなのに良いペースでインフラ整備が進んでいた。

都市圏を壁で囲い、壁外で農地や工場を稼働させる都市国家構想だ。

その労働力にニートどもを使えと提案もしていたが、そちらはどうなっているか分からない。


特に整備が早かったのは、やはりヨーロッパだ。都市国家構想が生まれた地であり、実際にそのような形の都市が多数あるため整備が早かったのだ。一方で、無秩序に住宅が乱立する傾向にあるアジア圏では進捗が悪い。その分、山や河川を利用した独特な都市構想を展開しているようだ。


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☆クラン創設の依頼


これも私宛か。重要タグがついていないと飛ばしそうになる。

えーと、各地でスキル発現者や民間武装者の動きが活発化。特に銃規制を世界的に緩和するにあたって、武装する集団をUCMCと国が連携して登録していく方針としたようだ。

進化の箱庭や、ダンジョンに潜入するにあたっても、このクラン登録により管理するつもりらしい。

施行は夏頃を見込んでいるらしいが、先行して声をかけているとのこと。


「あー、めんどくさそうだけど、こういうのはやっておこうか。」


クラン…クランねえ。私とこもじは確定、それ以外に入りたい人はいるんだろうか。最低限、お互いによく知った仲でないと入れる気にはなれなかった。


とりあえず申請だけしちゃおーっと。ウィンドウに、たしかにクラン申請の項目が追加されている。


■クラン名:こもじと愉快な仲間たち(仮)

■クランメンバー:帆世静香リーダー、(こ´・ω・`も)

■拠点:京都府左京区

■スキル発現者:帆世静香、(こ´・ω・`も)

■所有装備:別途添付

■実績:別途添付


ついでに、コピペしてクランメンバー募集の案内もつけておく。


☆クランメンバー募集の案内

帆世静香です。


先ほどダンジョン攻略について募集した人へ、続けて案内を送付しています。

近々クラン創設を世界的に行うこととなり、つきましてはメンバーの募集となっております。


クラン参加にあたって条件は設けていませんが、

ダンジョン攻略を希望する場合、最低限死なない程度の訓練を行う予定です。


さぁ集え!こもじと愉快な仲間たち!


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送信っと。こういう事務作業を代わりにしてくれるメンバーは、確保必須だなあ。

進化の箱庭はまだ余裕をもって攻略しているが、黒聖堂はかなり厳しかった。足並みそろえてダンジョン攻略に行けるPTは、今後必須になるだろう。


思考を巡らせながら、ウィンドウをスクロールする。

必要な報告書をピックアップし、不必要なものを削除。ひよこ鑑定士になった気分で、タイトルだけみて消すものもおおい。


そうして何時しか日は高くのぼり、陽光に反して瞼が開かなくなっていた。


ぴこん♪

☆(こ´・ω・`も)より

ちょっと、クラン名変えるのねん。

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