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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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黒聖堂決着

「ルーカくん。ベルフェリアと会話してはだめ。何も許してはだめ。ただ祈りなさい。」


私の指示に、ルーカは小さく頷いた。彼の手にはレリックが握られている。その重さは、金属のそれではない。信仰の重さだ。迷いが一つでもあれば、その祈りは届かない。


私が先頭を歩き、左右にアイザックとエリックがつく。後方をリリーとレオンが守る。ルーカを中央に据えた五芒陣のような布陣。


瓦礫が飛び交う暴風雨の中心に、標的はいた。 その中を進む。ベルフェリアの視界に入り、踏み入った瞬間、空気が変わった。

四方八方から叩きつけられる石片。鋭く、重く、魔力が帯びている。 私は右腕の銀爪で、アイザックはライオットシールドで、エリックはアサルトライフルとナイフを両手に持って撃ち落とす。


(´・ω・`)余所見してんじゃねぇよ


腰を低く溜めた一閃。


こもじの振るった《雲黄昏》が、ベルフェリアの胸元を正面から斬り裂いた。

黒き稲妻を纏ったその太刀筋は、虚空を引き裂く音と共に、空中に浮かぶ瓦礫のほとんどを吹き飛ばしていく。


斬られたはずのベルフェリアは、その場に佇んだまま、微笑みを崩さない。

だがその笑みに、血の気が混じる。斬撃は、確かに届いていた。


『元の肉体であれば、その刃も弾けますのに…

こうも奇麗に斬られると、新鮮で気持ちが良いですわ。』


こもじとベルフェリア。お互いに致命傷を与える術を持たず、拮抗してじゃれ合っているような戦闘だ。うちのこもじに色目使いやがって、許せんぽよ……


「ルーカくん、やっちゃって。」


私は小さく言う。

彼の後ろに立ち、風が邪魔しないように、その震える両肩に手をのせる。


ルーカは迷わなかった。懐からレリックを取り出す。

白銀の十字が光を帯び、信仰を力に変えて奇跡を発現させようとしていた。


——【レリックオブバインド】——


ゴッ、と空間が鳴った。


レリックが接地した瞬間、大地に突き刺さる。一瞬で身の丈ほどに巨大化したレリックが、甲高い音を立てて光の輪を生み出した。


ピィィン——


黄金色の光が円盤状に広がり、音もなくベルフェリアの体に触れる。

どんな生物だろうと、光の速度で迫るそれを躱す方法は持っていないだろう。


ベルフェリアの身体が一瞬、硬直する。


続けて、天より聖なる鎖が降り注ぎ、地よりそれを迎え打つように光の蔦が伸びる。

四肢を絡め取るその動きは、まるで天地が挟み込むようだった。

抵抗の余地すらないまま、ベルフェリアの手足は封じられた。


『ガッ……この気配は——

干渉してくるのは、ズルいんじゃないかしら。』


私がエゼキエル・ディ・サンティスに使われた時、ここまで激しい拘束ではなかったはずだ。


ベルフェリアの細くしなやかな膝が、ギギッと軋む音とともに地へ沈み、彼女が初めて膝をついた。

その姿は皮肉にも、神に祈る敬虔な信者のようである。


「こもじ!しばらくは動けないはずよ。」


(´・ω・`)合点承知——【神刀の型 悪魔祓い】——


その言葉と同時に、空気が変わる。

古流居合術の型の一つであるが、これは本来敵を斬るためではなく、場を清める儀式として伝承されているのだ。ゆえに、その所作一つひとつには正確さと精緻さが求められる。刀の軌道、足の位置、呼吸のリズム。どれか一つを誤れば、技は失われる。


こもじは静かに、ベルフェリアと向かい合うようにして正座する。

刀は未だ鞘に収められたまま。だが、あらゆる気配が収束していくのが分かる。


(´・ω・`)壱の太刀 東祓い


座した状態で、居合の構えをとる。

ゆるりと上体を起こし、左足を軸にして正面に向き直り、刀を抜き放つ。

鞘走りの音が一閃、空間ごとベルフェリアを真横に斬った。動き始めたと思えば斬撃が終わっており、緩やかに納刀する。


(´・ω・`)弐の太刀 西祓い


東向きからベルフェリアに背を向けて抜刀。

振り向きざまに袈裟に斬り、刀の残影が三日月のように美しく光る。

振り切った後、西を向いたまま納刀。


(´・ω・`)参の太刀 南祓い


西向きから体を捻るように、下から大きく斬り上げる。

刀がベルフェリアの体を通り、天に達すると、翻して斬り下げを放った。決迫の闘気が籠った太刀が、儀式の進達を伝える。


(´・ω・`)肆の太刀 北祓い


南から北へ、途切れることなく型が連続する。

こもじの真後ろに位置するベルフェリアの心臓へ突きを放ち、それから体を反転。

抉った心臓を引き抜き、最期の太刀を浴びせた。


四方から除霊の太刀を完遂する。

斬られたからだは融合せず、分断された四肢を飲み込むように光の鎖が伸びる。

それでもなお、ベルフェリアの微笑みは変わらない。


『全く忌々しい奴だわ。

ルーカ、神なんて存在しないのよ。気が付いているんでしょう。


今の貴方は、この世界に試練を振りまく存在から、私を殺すために力を与えられているに過ぎないのよ。

ここにダンジョンを作ったのも、彼の仕業。私は呼ばれてきただけなの。


盲目の信仰は捨てなさい。

神はいないし、次は助けてくれない。』


首だけになったベルフェリアが言葉を紡ぐ。

言葉の先に居るのは、レリックに祈りを捧げているルーカだった。


「ルーカくん。聞く必要は無いわ。」


ルーカに視線を移すと、涼し気に笑みを浮かべていた。

黙っていますよ、と頷く余裕さえある。意外なほど落ち着いているが、とりあえず良い事だ。


「ベルフェリア、いい加減死にましょっか。」


『ふふ…私は死ねるのかしら。』


知らん。ただ、もう随分と存在が薄くなってきている。

あと一歩、その背中を押してあげよう。


——【魔法錬成 エンシェント・ラーヴァ】——


最大出力。こもじの演武の間、1から詠唱を組み立てていたのだ。準備と射程を代償に、原初の炎そのものを顕現させる。今までは極小の時間に限定して使用していたが、今回は時間制限を取り払っている。


翳した両手から原初の炎が現れ、ベルフェリアの全身を飲み込む。

迸るエネルギーが熱・光・音になって空間を満たし、私以外の全員が部屋の端まで吹き飛ばされていく。直視すらできない光の塊、あまりの轟音に耳が麻痺し、床や天井に跳ね返った放射熱が肌を焼く。


「悪魔って、この世界に存在を弾かれるんでしょう。まだまだ、辞めないわよ。」


生半可な攻撃で滅することはできない。

光の鎖が千切れて消え、しかしそれでも太陽を握る。それは力の権化、生命の象徴。

絶大な破壊力と概念的な干渉を可能とする私の切り札だが、同時に使用者にとっても危険な魔法である。


最初に失ったのは視力、続いて聴力。真っ白で静寂に包まれた世界は、まるで雪原に一人立っているようだった。

残念なことに触覚は健全で、ビリビリとした熱を絶え間なく伝えてくれるため、雪原ではないことは分かる。


『帆世静香さん、もう十分よ。十分…。

嗚呼貴女と、もっとお話ししたかった。』


聞こえない耳に、やけにはっきりと声が響く。

実に悪魔っぽい囁きだ。これで攻撃を辞めたら復活するんじゃないだろうか。


「信じ無いぽよ。」


自分の声は聞こえないが、伝わるように両腕に力を籠める。


『えぇ……。悪魔は魂が巡り、いつか元の肉体に還るのだけど…

貴女は、このままだと本当に死んでしまうわ。』


「なるほど、殺す。」


『——■■■■、■■■■■。』


なんだって?ベルフェリアのため息が聞こえた気がした。

もう複雑な思考も回らなくなってきている。気合いだけで魔法を続けていた私の脳内に、もう一つの声が響いた。

今日はやけに話しかけられる日だな。


≪システムメッセージ:黒聖堂をクリアしました。≫

——クリア者:帆世静香、こもじ、エリック・ハウザー、レオン・ヴァスケス、アイザック・モレノ、リリー・ベネット、ルーカ・ディ・サンティス。以上七名


≪第三階級腐敗と病のモルビグラントの討伐を確認しました。≫

——討伐者:こもじ


≪第二階級黒鐘のアスファルトゥスの討伐を確認しました。≫

——討伐者:こもじ


≪第一階級微笑む福音のベルフェリアの従属を確認しました。≫

——征服者:帆世静香


≪実績解除≫

——異界の高位存在の討伐。代表:真人鷹平へ10RPを付与します。


≪システムメッセージ:運命の分岐路が確認されました。≫

——代表:真人鷹平の代表者権限の上限を解放します。



脳内がメッセージで埋め尽くされる。

読む気力は湧かないが、どうやら終わったらしい。

私はいつのまにか地面に倒れてしまったようだ。熱された石畳を背中に感じる。


きっと石焼きステーキってこんなかんじ…私の意識は安心とともに闇に堕ちていった。



——帆世さん!!!レリック、レリック、早く出ろ!


——急いで運んでッ 火傷の応急処置は私がするわ!


——また無茶しちゃって…食べたいものあれば作っとくっすよ。




「こ…こもじの豚汁…」




なんとか一言絞り出した。


(´・ω・`)えっ

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