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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第一章 顔合わせから始めましょう。
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邂逅の始まり

リスキル許すまじ。

【場面が変わっております。ここから先は主人公:帆世静香視点で続きます】




私、帆世静香は前世の記憶がある。看護師として5年間大学病院で働き、その後は死ぬまで研究に勤しんだ1人の女の記憶だ。前世の記憶があるというのは、かなり珍しいが唯一無二の特性というわけではない。社会的な成功にかかわらず、何かしら強い意志を持った人の一部が後世に受け継がれるのだ。


要するに、キャラが濃いなあ…みたいな人は高確率で前世持ちだったりする。


私の前世である彼女も、ご多分にもれず変人だ。

趣味はサバイバル。研究テーマは災害看護である。災害大国である日本において、各地を飛び回り緊急時の医療指揮を執った際の論文を複数発表。国際的なガイドラインの作成にも大きく貢献し、医療の歴史を進めたと称賛された。


しかし緊急時だからと、従来の慣習や法律さえも飛び越えた彼女の判断は、周囲の理解を置き去りにすることも多かった。必然的に日本の看護界と対立を深める結果となる。彼女自身の多大な功績は、他の糾弾を許しはしなかったが、彼女のほうから国内に愛想をつかして海外へ移住。

そこから先は世間に知られていないのだが、世界中を気ままに旅行したり、旅先の紛争地帯で活躍したりとせわしないものであった。従軍経験さえある。



さて、問題はその彼女のナース服が目の前にあることだ。いつまでも下着姿でいるわけにもいかないし、草がおしりにあたってチクチクする。 調べた限り、持ち物は、【はさみ、駆血帯、アルコール綿、優肌テープ、ピッチ、ナース服上下、下着、ナースシューズ。】


なんだかんだと文句を言っているが、この靴は良い。


看護師はとにかく仕事中は早歩きだし、医療用の針や器具を扱うため非常に丈夫に作られている。

今のように屋外で活動するとなれば、丈夫な靴は欠かせない必須アイテムと言える。


私は持ち物を確認すると、迷いなくハサミを手に取ってスカートをバッサリと短く切った。

膝が隠れる程度に短くなったスカートの側面に、さらに深いスリットをいれるように切り裂く。見た目はかなりアレだが、これなら動きやすい。


立ち上がって動きやすさを確認すると、何となくチャイナドレスのようだった。

そうこうしていると、ウィンドウにログが更新される。


ついに始まったか。


≪システムメッセージ:クエスト“邂逅”を進行します。≫

参加者:7名-6世界

達成条件:[現在開示できません]()()()()()()()()()()()()()()()()()()

達成報酬:【代表】権限の上限解放


ログも少し変わっている。きな臭いわね。

説明は続く。


≪10RP付与しました。以下の条件で使用してください。 ≫


身体強化:1RPにつき身体Lv1上昇

武具創成:任意のアイテムを生成する


“あなたたちの世界の可能性を示しなさい。”




ゲームチックな説明になっているのは、このウィンドウの作成者によるカスタマイズのせいだ。


2月初旬、北海道に現れた巨大な羆事件に日本中がパニックを起こす中、それ以上の出来事が起きた。


全人類の手元に、この半透明のウィンドウが出現したのだ。このウィンドウは当初一方的な通信を受けるだけだったが、日々新しい機能が実装されたり、使い勝手がブラッシュアップされていった。


この製作者によると、直接脳内に情報を入れられること常人には耐えがたく、意図的に情報を簡略にして表示するシステムなのだと言っていた。


そして、羆事件は人間に課せられた試練の一つであるという。

であれば、私が直面している現状も、その試練のひとつに巻き込まれたと考えるべきだろう。



「ねぇ、これって殺し合いしろってこと?」


虚空に向かって問いを投げる。

参加者が1人になったら終わる、ということは、参加者を減らすために動けということだ。


≪貴女の行動は自由です。生存が困難になったと判断された場合、もとの世界に転送され、死亡することはありません。≫


聞いたら答えてくれた。

好きにしろ&死んでも死なない、ということらしい。


ようするに、殺す気でやれってことだと解釈する。

輪廻転生を果たした身であり、まあ死んでも死なないという超常現象だってあるんだろう。


今は混乱する時間じゃない。

色々疑問と不安が湧き上がるが、それを飲み下して先に進め。


「クリア条件が開示されてないんだけど、複数あるってことでいいかな?」


≪肯定します。≫


「報酬が代表に、って代表は私じゃなくて真人でしょ。どうして私なの?」


≪肯定します。プレイヤーに【代表】ではない者が2名いることを確認しました。報酬を再設定します。≫


聞きたかったのは、何で私がここに居るのかなんだけどな。まあ、こんなものだろうか。

意識を、10RPの扱いに集中させる。


身体Lvがいまいちわからないが、表記を見るに5RP使用してLvを5にあげる。残りのポイントで武器を作ることが最適解なのか?


それとも偏りを作った方が有利になったりするだろうか?


このポイント配分が非常に難しい選択を迫っている気がしてならない。

例えば、武器は任意に作成とあるが、1-10Pまで振れ幅があることが気になる。1RP使用して得た武器と、10RP使用して得た武器が同じ性能なはずがない。


下手にケチると()()()()な武器ができる可能性は十分にある。


その武器の性能や使い方を検証するために、十分な時間を作ることができるだろうか?


そもそも、武器を貰って使いこなせるかという疑問もある。

仮に、私に銃を渡されたとして十全に使いこなす自信はないし、ナイフを振り回す素人が、プロの空手家にあっさり対処される話はよく聞く。無用の長物ができても意味が無いだろう。


うーん、これって、全員が同じ条件でポイントを使った場合、私は大きな不利を背負うんじゃないか?

屈強な肉体を持った人や、武器の扱いに慣れた人がいた時、私は為す術なく殺されるだろう。死なないらしいけど。


つまり、普通にやっていてはだめ。

地力で劣ってる可能性が高い以上、与えられた条件以外で、なにか盤外の奇策を探すべきだ。


今からするのは、ありがちな殺し合い。

死なない、殺させないという条件が、逆説的かもしれないが殺人という行為を肯定し助長している。


ポイントというわかりやすい材料まで用意して、どうしても参加者に争わせたいらしい。


まあいいわ。そういう前提なら、そういう行動を取りましょう。ルールを否定したければ、その世界で成り上がらないと発言する資格すらない。一先ず足掻いて、それから考えよう。


で、あるならば。

使えるリソースは目に見えているものだけとは限らない。与えられたリソースは、このポイントと時間だ。


なるべく早く選択し、身の置かれた状況を把握し、他プレイヤーより優位をとる。そのための()()()()()()()()()を最大限使用する。


行動を決定した。

非常に偏った決断に、苦笑が漏れる。


「こういう特化ビルドは後半使えないのよね~。」


≪帆世静香:身体強化Lv7≫

さっさとポイントを割り振ってしまう。

一番使い慣れた道具はこの身体に他ならない。


身体強化はLv5まではそれぞれ1RPだったが、Lv6には2RP、Lv7には3RP消費した。


ま、全てのポイントを身体強化に全振りしたってことだ。

Q.武器がなくて大丈夫か?

A武器は奪えばいいじゃない。


乱暴な自問自答に、帆世は静かに笑みを浮かべる。


幸い参加者は少ないし、体さえ動けば何とかなるだろう。なんでもあり、は嫌いじゃないのだ。



その瞬間、目の前の不透明な壁は消え、視界が一気に開けた。

予想通り、なだらかな丘の上に立っている。眼前にはうっそうとした深緑の森、きらきら光る海が見えた。どうやらここは島らしい。


そして、この島を見渡すと、不透明な光の円柱が6本立っているのが見えた。

これは、間違いなく私以外の参加者がいる場所を示している。


「一番近くでも2-3kmありそうね。急がないと。」


何気なく駆け出して気がついたが、羽根が生えたように体が軽い。

凄まじい身体能力の向上に反して、何となくどの程度動けるのかは理解できる。


いいねいいね。

この身体の使い方なら、困ることは無さそうだ。


目指すのは最も近い光の円柱。

これから行うのは、“ゲームにおける最大のマナー違反”である。



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