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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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特訓する鉄山

ブックマーク・☆評価よろしくお願いいたします。

「ホッホ!体が軽いのぉ!」


白髪をたなびかせ、鉄の岩肌を駆け上がっていく師匠を追いかける。草木1本生えない急峻な鉄の山、岩陰から擬態した岩蜥蜴(ロックゲッコー)が飛び出すが、先行する師匠を止めることはできない。


私たちは8層に至っていた。

え、7層はどうしたのかって?


7層は地下に掘られた迷路、といえば1番分かりやすいかもしれない。地下の迷路と言えば、“水辺の封印洞窟”の2層目、迷宮洞窟を思い浮かべてしますが()()()()


大きなムカデや、逆翼のいた洞窟は天然の産物である。一方で、7層に現れたのは非常に作為溢れる迷路であった。四角く丁寧に作られた迷路が、右へ左へ上へ下へ……行き止まりも数多くあったのだろう。なんあら松明さえ置いてある。


直角に曲がったと思えば、実は少しだけ角度がついていて、気がつけば元の位置に戻されている。

露骨に松明が多い道に進むと行き止まりがある。

松明の光に隠れて、影に通路が伸びている。

地面を歩いているだけなのに、実は少しだけ坂になっていて上下の感覚も狂っていく。

足元も地味に歩きにくいように砂の層が厚くできていて……。


私が気が付かなかっただけで、まだまだ無数に地味なトラップがあるに違いない。モンスターが配置されていないし、即死トラップなんかも無い。


ただ、精密に計算された迷路の配置。人の意識の隙をつくように仕組まれた地味ーな罠。


これを作った人とは仲良くなれそうだと感じた。多分モンスターや即死トラップなんかの、コストのかかる罠を設置するだけの力が無かったのだろう。だから、地味でせこくて頭を一生懸命使って迷路を作ったに違いない。


足りない力を頭で補う。私だってそうやって頑張ってきたつもりだ。私にとって、この7層はシンパシーを感じるような場所であると言える。




……で、その迷路をどう攻略したのか?


言わなきゃいけないよね。

無数のそういうトラップを見抜いて、製作者の頭脳を完全に凌駕する事で踏破した...?

いやいや、右手の法則に従って全通路をマッピングする力技で迷宮を解明した...?


違うのよ。私はたしかに、そういう冒険をしたかった!

モンスターと戦うよりも、迷路を介して製作者と対話するような冒険が好きだ。

邂逅も、人が死なないゲーム性・最初のポイントの割り振りとか、そういうルールがあったから楽しく挑んだ気がする。


現実はこうだ。


私たちが7層に足を踏み入れる前の日、彼が一足早く訪れていたのだ。師匠に尻尾を斬り飛ばされ、半狂乱になって逃げてきた鉄の竜。


()()()()()()()()()()()()()()ブレスを吐き、ただただ迷路を直進した。


人よりも遥かに大きな図体を持ち、目の前の壁を溶かして進み続け、遂には透明な次元の壁に到達してしまった。


最初は迷路をウロウロと歩いていた私たちだが、見覚えのある粘液まみれの道を見つけてしまった。


私と師匠は、その粘液に導かれ、溶かされた壁のトンネルを歩き続けた。その結果、いつの間にかゴールまで辿り着いたというわけだ。


なんだろう……、先を急ぐ私にとっては好都合極まりない展開なのだが、どうにも心が痛んでしまった。だから、この場で記録するだけにとどめさせて欲しい。


そのうち別の人のチャネルで、しっかり攻略させてもらう。製作者さんがいたら、ごめんね?


帰還用ゲートが作動できなかった事から、一応7層のどこかにナニカが居るはずではあるのだ。隠し部屋にモンスターを匿っているのかもしれないが、なんとなく製作者が一人ぽっちで震えていたような気もする。




……気を取り直して、第8層。

ここも所謂環境系のフロアといえる。モンスターよりも、その環境が牙を剥くようなフロアだ。


草も木も生えていない鉄の岩山が、見渡す限り連なっている。川は流れているが、全て鉱物に汚染されており、赤茶色に染まっていた。とても飲めそうには思えない。

それに、モンスターも全く居ない訳では無かった 。岩陰からは1-2mほどのトカゲが顔をだし、飛びかかってくる。ゴツゴツした皮膚が環境に溶け込んでおり、硬い鱗に鋭い爪は十分に脅威だ。


「もそっと成長せぇ!奴はどこにおるのかッ。」


しかし、顔を出す度に師匠が斬り飛ばしていく。

ダンジョンを進み、凶悪に進化したラウガルフェルト・ドレーキとも闘ったことで師匠の身体に変化が生じていた。


過去、デルタチームが感じていた変化と同じだ。目がよく見える事に始まり、ダンジョンという異界に浸る度に体が強くなっていくのだ。もちろん、ただ過ごすだけでは意味が無いが。


100年以上生きている師匠は、今でも最強の剣神として崇められている。しかし、その肉体は全盛期をとうの昔に過ぎていたことも事実だ。徐々に衰えていく肉体を、磨き上げた技で補っていたということになる。


その肉体が、魂に引っ張りあげられるように全盛期の輝きを取り戻しつつあった。私も同様に、筋肥大はしないのだが確実に力が強くなっている実感はある。


魂強度×実肉体


が正しい理解だと思う。その比率がどうなのかは分からないが、実肉体も鍛えていかないといけないとは思う。


今更バーベルごときで筋トレもできないし、実肉体を鍛えるためにもダンジョン攻略にいくしか無いのかもしれないが。


考え事をしていると、思ったより師匠と距離ができてしまう。細かい砂利に足を取られて歩きにくい。できるだけ岩の上を蹴るように進むのだが、毎回都合の良い足場がある訳でもなかった。


【ファストステップ】


まあスピードだけなら、私に分がある。

黒一色の殺風景な世界で、白い外套に身を包み、淡い光を纏って疾駆する。遠い足場であっても、強引に駆け抜けることが出来るのだ。


「師匠ーッ、置いていかないでくださいよ!」


「おお、おお、すまん。」


「さっきから不思議な走り方してますが、どうやってるんですか?」


ザザッ ザザッ ザザッ


地を水が流れるように、不思議な歩法である。

常に中腰で、服に隠れて足捌きすら見えない。ステップを極める者として、是非聞いておきたいと思った。



「ーーほれ、よく見ておれ。地蹴という歩法じゃ。」

師匠はそう言うなり、すっと腰を落とした。

姿勢は低く、けれど窮屈さはない。あらゆる行動に繋がる基本の姿勢だという。


「右、右……左、左……わしの足元を見てみい。普通は右左と交互に動くじゃろ?

 じゃがな、こやつは同じ足で二度蹴るんじゃ。」


ーようはスキップ?


「スキップに近いが、体を浮かせてはいかんな。」


そう言って、師匠は右足を一歩、もう一歩と地面に当てた。二歩目は、地を滑るように音を立てず、まるで足が吸い込まれていくようだった。

同じ足で2回地を蹴るため、方向の微調整がスムーズに見える。


「応用すると、こうなる。1歩目で重心を前に、2歩目で強烈に蹴る。」


一瞬師匠の体が消え、ワープしたかのように数メートル先に現れる。


「うわー、これ難しいですね。」


真似てみても、ただのスキップになってしまう。が、師匠の歩法を見る時間はたっぷりある。山が連なり、単純な距離以上に起伏を移動しなければいけないのだ。


「重心を動かすでない!」

「上半身は常に刀を抜けるように備えるんじゃ」

「常に7割の速度を維持ッ」

「地面の起伏には下半身のバネで合わせい」


師匠が併走し、お叱りの言葉がとぶ。

障害物も多く、起伏も激しい環境は特訓に適していた。何も無い環境をただただ進むのも苦痛だし、少しでも強くなれるのなら頑張らねばならない。


ー地蹴ー

走るというよりは、地を蹴る。身体を浮かさないように素早く蹴って移動するため、足の筋肉への負担は大きい。マラソンのように常に持続させる走り方と言うより、いざという時の為の走法だと思う。



「地蹴から派生する奥義もある。はよう覚えい!」


奥義は気になるが、大腿筋が悲鳴を上げつつある。熱が籠って暑いし、岩に擬態しているモンスターが地味に集中力を削ってくる。6層のちょっとぬるい温泉が懐かしい。


その6層を守るために頑張っているんだった。

8層はこのまま走ればクリアできるだろう。9層は分からないが、10層にいたればボス戦だ。


そろそろ日もくれるし、9・10層は明日だ。進化の箱庭に潜入し、もう何日になるのか。地球時間とラグは無いだろうし、帰る頃には1週間以上経っていることになる。


しなきゃいけない事から取り組んでいるが、まだまだ課題山積だなあ。そろそろ4月だし、新しい討伐種やダンジョンが出てくる頃だ。


「ほれ、ボケっとするな!」


横から飛び出して来た岩蜥蜴を、師匠が掌底でかちあげる。


「すみません!」


「今日中に壁を見つけるぞ。それまで集中じゃ!」


はいぃぃ……右右、左左、右右、

無心で走り、ようやく形になってきた頃、遂に透明な壁にたどり着いた。

( ๑❛ᴗ❛๑ )えっほえっほ

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