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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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閉ざされた土地 交わる島

ブックマーク、☆評価よろしくお願いいたします。

厚い石の壁に囲まれた城の食堂は、朝の冷たい空気に包まれている。黒色の木材でできた長テーブルの上には、粗く削られた木の皿と角製のスプーン、そして今まさに運ばれてきた朝の食事が並んでいる。


席に着き、ライ麦パンを手に取るとまだ温かかった。どうぞ、とバターを用意してくれるのは、後ろに待機していたミーシャだ。彼女も朝ごはんは食べてないはず。そのまま手を取って隣に座らせる。


パンにたっぷりのバターを塗って、1切れ口に運ぶ。塩気の聞いている発酵バターがじわりと染み込んでいる。いつも食べている牛のバターじゃない…少し酸っぱい香りと、ほのかな牧草のような風味に、獣臭も混じっている。ラム肉を食べているような、そんなイメージだった。


「美味しいわね。それで……これは?」


呟きながら、テーブルに広げられた地図に目を落とす。全員の目が私に集中し、すこし気まずい。

テーブルクロスのように随分大きく、また精緻に作成された地図だ。海に浮かぶ島、その海岸際はギザギザととがっているのが特徴的である。


窓の外に目を移すと、高い山に白く雪が積もっていた。随分と寒い環境だし、もしかすると、あの海岸線はフィヨルドなのかもしれない。


窓の外から視線を戻し、もう一口ライ麦パンを頬張る。んぐっ…のどにパンがつまりかけ、ミーシャがミルクを渡してくれる。ぴったりのタイミング、見習わないといけない気配りだ。

ありがとね、とミーシャをみるとにこにこ微笑んでいる。かわいい。


「儂らの居る城は、ここじゃな。」


師匠が指差すのは地図の端。

赤い線で区切られた楕円形のエリア、その際に城のマークが記されている。その隣に伸びるように長い湖が横たわっている。位置的に、ラウガルフェルトというナメクジ達が現れた湖のことだろう。そうすると、この赤い丸印もピンとくるものがあった。


「この赤い線は、透明な壁のことかしら。」


「そうじゃ。ナメクジ共を追いかけて、儂が確認した。」


「楕円なのが気になりますね。」


「壁の先に都市がある様じゃが、詳しいことは分からんわな。」


言語の壁というやつだ。日本語とか英語とかの話ではなく、根本的に通じない異世界の言語に思える。

このウィンドウを共有さえできれば、意思疎通ができるのに。というか、師匠は普通にコミュニケーション取れているのがすごい。


「師匠、なんか馴染んでますね。」

「これからどうします?」


「わしゃ何でもええぞ。その相談じゃ。」


私と師匠ばかりが喋っているようだが、この部屋には結構な人数がいる。

食べたお皿をさっと下げてくれる人。師匠の背後には兵士達がずらり。私の隣にはミーシャちゃんがいる。そういえば、ミロちゃんはどこいったんだろ。


私達が7層に進むとする。ここにいる人たちは、今後どうするのだろうか。

広い地図の、ごくわずかに限定された場所に閉じ込められている状況だ。ラウガルフェルトのナメクジ達も、まだ湖にいるだろう。

湖に沿って、だいたい半径数十キロの円が二つ重なったような地形で…

私達が最初にスポーンした場所を、ウィンドウのマップをつかって照らし合わせてみる。


「アッ!」


その時、私の中に一つの仮説が閃いた。一つ分の円の中心と、私たちがスポーンした場所が重なっていた。そういうことか!!

5層にいたミーシャ達は、実は6層の住人だったのだ。彼女達を連れて進んだ先の6層で、新しいエリアが生まれた。いや、彼女たちが5層に転移した時点で、6層が決定していた可能性が高い。それがこの1つ分の円としたら…


5層を攻略したのは私たちのほかに1チームあるのだ。それが二つ目の円なのではないだろうか。





「6層が、チャネルの交差点かもしれない。」




進化の箱庭は、挑戦者毎に独立したチャネルに入る形式だ。今攻略しているのは、私がPTリーダーなので≪進化の箱庭:帆世チャネル≫の6層ということになる。私がモンスターを殲滅したとして、別の人が挑むときには別のチャネルに入るためモンスターは健在しているというわけだ。


挑戦者ごとに無数に展開されるチャネルだが、そのチャネルが交わる場所がココなのかもしれない。

だとすると、挑戦者が増えるほどにミーシャ達の世界が広がる可能性がある。そして、広がった場所に新たに強力なモンスターが湧いてもおかしくない。というか、試練なのだからモンスターが発生するのだろう。


師匠や兵士達がしゃべっているが、その声が遠い。閃いた仮説を検証するため、脳が高速に動き始めた。このまま別の挑戦者が5層に到達すると、6層から転移させられた人が殺される可能性が高い。

6層に進んだ場合でも、新しい脅威が誕生し、それがミーシャ達のいるエリアとも重なるなら危険だ。もっというなら…疲れ果てた武装集団が、この豊かとはいえない土地で略奪に走る可能性だって十分に高い。




この現状をミーシャ達に伝えて、対策を練ってもらわなければ。でも、どうやって伝えたらいいの?

ジワリと滲んだ汗を、隣に座っているミーシャが拭いてくれる。心配そうな、でもそれを隠すような淡い笑顔。



「よし、決めたわ。ここ6層を私たちのシマにしましょう。」




ダンジョンの一角ではなく、一つの国として機能させる。

この土地を侵す生物は斬り払う。この土地を脅かす人も斬り払う。ここを襲うということは、私帆世静香に楯突く行為だと宣伝する。どんどん身内を送り込んで、この土地を解放していく。武力を持った集団には心当たりがあった。



「ということで、師匠。夢想無限流の皆さんに協力していただきたいのですが…」


「善き哉ッ。もとより、夢想無限流にとって都合がよいわい。」


「じゃあ、急いで7層へ出発する準備よ!その前に、紙とペンあるかしら。」



最速で10層まで攻略し、真人を巻き込んで6層を解放・保護するために準備を進めたい。帰還した後も6層に戻ってくることは簡単だ。

それまでの間、別の人が来る可能性がある。彼らに渡してほしいメモを作成していく。



【ミーシャへ】

「いい?困ったらこれを見せるのよ。」

・最優先保護対象である。

・この子に手を出したら、ぶち殺すぞ…的なことを書いた手紙を渡す。


【城の人へ】

「壁だけは超えないようにしてください。」

・ダンジョンの仕組み、空間が断裂した壁の先には進まないこと。

・私たちは戻ってくること。…など長々とした攻略情報を日本語で書いていく。ウィンドウを付与さえできれば、この手紙も全て読めるだろう。書きながら身振り手振りで伝えたため、なんとなく伝わってそうである。


「これを、置いてゆこう。」


ごとり、師匠が腰に差さっている刀を一本引き抜いて机に置いた。ラウガルフェルト・ドレーキを斬って撃退した童子切安綱である。これからダンジョンを攻略するのに、いいのだろうか?


「刀置いて行っちゃうんですか?」


「鬼丸もあるしの。それに、童子切は使える状態じゃないんじゃ。」


そう言って、刀を抜いて見せる。刀身が変色し、パッと見ても分かる刃こぼれもしていた。かなりボロボロの状態である。


「うわっ…そんなに強敵でしたか…」


「鍛えた鉄をも溶かす、忌々しい敵じゃ。じゃが、その分楽しみなこともあってのぉ。」


ラウガルフェルト・ドレーキのブレスの如き攻撃を思い出す。地面を一瞬で融解させていた液体だ、それを何度も斬っていた刀がボロボロになるのも納得だった。そういえば、ブレスを掻い潜って天を斬り裂いた奥義、あれについても今度聞いてみたい。


変わり果てた国宝を眺めつつ、脳裏では師匠の【夢想無限流 地蹴蒼月(あおきみかづき)】の光景を思い浮かべていた。そんな私の目の前に、さらに見知らぬものが積まれる。




なにかしら?

時々露店で売っている紫水晶の置物に似た印象を受ける。表面はゴテゴテと結晶のようにとがっているが、反対側は鏡のようになめらかな切断面だ。色は黒のなかに青が僅かに混じっていて、奇麗な見た目をしている。

その置物を撫でながら、師匠がにやにやと笑っている。手に入れてよほどうれしいらしい。


まあ、見てみればいっか。私は万能の図鑑のような魔導書を持っているのだ。

師匠を真似て、それに手を触れながらウィンドウを開く。


半透明のウィンドウに、未知なる情報が記されていた。


жラウガルフェルト鉱石ж

ラウガルフェルト・リルファ、ラウガルフェルト・ドレーキから採取できる鉱石。

個体や生息環境によって性質が大きく異なる特徴がある。背中の甲羅に近いほど上質な金属である。



ああ、あのナメクジ達のか。ぱっと手をはなすと、ミーシャがハンカチを渡してくれる。私の思考が読めているんじゃないか、というほどタイミングがいい。


切り口がやたら滑らかなのは、師匠が斬り落としたからに違いない。どうするのか聞けば、この鉱石で剣を造りたいそうだ。童子切を置いていくのも、この鉱石で修復することを見越しているらしかった。

夢想無限流に籍を置くものには造刀を生業にする人も多いらしい。彼らをどんどん送る計画を立てているようだが、本人に確認しなくていいんだろうか。夢想無限流において、師匠の言葉は絶対のものとして扱われている傾向にある。


「師匠、ラウガルフェルト鉱石というらしいです。背中の方が質がいいんですって。」


「なんと、あのデカブツを逃がしたのは失敗じゃったか。次は斬り伏せて見せようぞ。」


「すごい情熱ですね。」


「男は何歳になっても、新しい剣に惹かれる生物ということよのお。」


師匠がやる気なのはいいことだ。ところで、本当に何歳なんだろうか、この人。

7層に挑むための準備は、そんなに必要ない。革製のカバンと、いくらかの携帯食料を貰って準備完了だ。


またね。


見送りに来てくれた人達に手を振る。その中心にはミロちゃんを抱えたミーシャが居た。

師匠が透明な壁を斬り裂き、世界の裏側が可視化される。ちょいと仕事して、帰ってくるだけだ。


このダンジョンに挑み始めて、新たな使命感が肩に乗った気がした。前へ前へ、この先後悔しないように今は全力で前へ。




ぽよ組のシマを荒らしたら、(´・ω・`)を派遣します。

手出し厳禁ですよ。

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