温泉には魔物が棲んでいる
「あぁ゛~溶ける~溶けちゃう~。」
お風呂入るの、いつぶりだろうか。目の上にタオルを乗せて、瞼の裏でこれまでのダンジョンを回想する。
1層は暑く乾燥したサバンナ、体を拭くにも泥臭い川しかなかった。
2層はアマゾンのような熱帯雨林、緑と生き物の匂いが染み付く。
3層は砂漠、無論水など無い。
4層は雪原で、師匠をおんぶする時、汗臭くないかかなり気になった。
そして、ミーシャ達と出会った5層。ここまで戦闘がほとんど無かったが、それ以上に歩き続けていて汗臭いのが自覚できた。
6層に至り、ナメクジにあわや食われる始末だ。全身生臭くなり、最悪だった。
戦闘での昂りからの反動。安全さの象徴とも言えるお風呂。長らくお湯につかっていなかった私にとって、まるで天国にいるような快適さをもたらしていた。
意識が溶けていくのを感じる。このまま寝ちゃおうかな、そう思っていた時、私の背後から手が伸びてきた。
ん……?
ああ、そうだ。ミーシャも一緒に入ったんだった。長らく回想していたせいで、ついつい自宅のお風呂にいる気持ちになっていた。
目を開けるほどでもないが、何となく髪を触られているのがわかる。だだっ広い浴槽……室内プール...に居るのは私とミーシャだけだ。どうして髪の毛をそんなに触っているんだろう。
ああ、黒髪が珍しいのかな...。沸いた疑問を、眠たい頭でぼんやりと考える。この地の人は、男性は茶色い髪だったが、女性は白~白金の髪をしていた。
自慢じゃないが、身体強化を経て、髪や肌が格段に綺麗になった。いや、どう聞いても自慢か。
骨格などは変わらないが、皮膚と髪がすべすべサラサラになり、鏡を見ても驚くほどなのだ。女性はみんな、ダンジョンに籠るかもしれない。
髪を指でとかすように触られ、くすぐったい。そのミーシャの指がだんだんと首筋に降りてくる。その手が首から肩までを何度も滑る。
ふわり
風呂の湯気に紛れて、背後から甘い香りが漂ってくる。甘酸っぱい花の香りに、ほんの少し蜂蜜とミルクを混ぜたような柔らかい香りだ。
これがミーシャの香り?汗臭い私と違って、天使か何かなのかな。そう思うと恥ずかしくなって、ちょっと離れようとすると、するりと腕を取られる。
一緒にいて欲しい、のかな。ミーシャも怖い経験をしてきていた。気丈に振舞っていたが、彼女は私と変わらない年頃の女の子だ。
Ég skal þvo bakið á þér…
ミーシャが耳元で囁く。
手が私の背中へ回され、優しく撫でてくれる。ナメクジのヌメリとは異なる、別種のぬるぬるとしたローションを塗られているのだとわかった。
なんだろ、これ。何度も背中全体を触られるうちに、ちょっとだけ変な気持ちになってくる。背中を丸めて、流れる温泉に顔をつけるようにお湯をブクブクさせて気を紛らわせる。ミーシャって、こんなに積極的にボディタッチする子だっけ……出会って1日しか経っていないが、妙だ。
背中から、脇腹。脇腹から、腰。
ぬるぬるするローションをつけて、丁寧に撫でられていく。お風呂に入っている快感と、また別種の快感が芽生えそうに、私の理性にコツコツとノックする。
さすがにそれはダメだよ...! うーん、と目を瞑り、邪念を意識外に追いやる。私が寝ぼけているのだろうか。。
Þú getur sofið.
私の気持ちを知ってか知らずか、些細な抵抗を打ち砕くように後ろからミーシャが抱きつく。素肌と素肌が重なり、背中にミーシャを感じる。リルファな私のと比べて、ミーシャのラウガルフェルトはもうすぐドレーキになりそうなほど成長していた。巫さんほどドレーキではない、って何を言っているんだ私はッ
丸まった背中に胸を押し付け、ミーシャの両手が私の胸に触れる。決して強く揉んでいるわけじゃないが、確実に意図して胸に触れている。
ひぅ……
声が漏れる。
胸周りは、例のナメクジ共の粘液に1番触れていた場所だ。だいたい治ってきたとはいえ、皮膚の浅い所が溶かされたことで、ジンジンと熱を持っているのだ。
haa……Aumingja strákurinn, þú slasaðist vegna okkar……
耳元で吐息が聞こえる。
先程よりも、もっとしっかりと胸の周りを愛撫するように手つきが変わった。双丘の先端に指が触れる度、私の脳内にまで電流が走る。漏れそうな声をタオルを噛んで誤魔化す。
ミーシャちゃん、そういうことなのね!?
何でこうなったかわかんないけど、そういうことなのね!?
拒絶して彼女を傷つけたくない。
それに、ミーシャちゃんとなら……アリかもしれない。
幸い後ろから私を抱いているため、顔は見られていない。薄く目を開けると、少し濁ったお湯の中で、ミーシャちゃんの指が先端部分を触ろうとしていた。
...ッ!!!
慌てて目をかたく瞑る。ほどなくして、そっと優しく撫でるようにつままれた。優しくされる方が、むしろある種の感覚だけを刺激してしまうため我慢ができない。
いっそ強く揉んでくれたほうが...ひぅっ!
1度ではなく、丁寧に繰り返し先端を撫でられる。その度に声が漏れ、感情が際限なく昂っていく。
もう、ダメ...ダメ...あ...
頭が真っ白になる寸前、ミーシャちゃんの指が離れ、すすすーとお腹の方にうつっていく。遠のいた快感の波にひと時の安堵を得る。
「み、ミーシャちゃん、私は...」
なんとか伝えなくては。特に彼氏など居らぬ身ですが、ですが、ミーシャちゃんにはミロちゃんという可愛い娘さんもいますし……あ、ちょっとそこはッ
ミーシャの指が段々と下へと移動している。その先はダメだ、絶対にダメ!
今触れられては絶対にダメな場所。そこがどうなっているかくらい、自分の事だからわかっている。侵入されないよう、慌てて足を閉じる。
その拍子に、顔からタオルが湯船に落ちた。
ザバ...とミーシャが立ち上がり、落ちた布を絞ってから私の目の上にのせる。
そして、彼女の気配はそのまま私の前に座り、そっと閉じた足に手をかけた。つま先から撫でるように上へ上へ...
ピタリと合わせている膝を解すように離すと、ついに太ももに指を這わせる。全然抵抗できないまま、なされるがままに足を開いてしまう。
彼女がこんなに積極的とは思っていなかった...ッ
内太ももを撫でる際、ソコに触れそうになる度、私の脳が痺れ体が反射的に動きそうになる。右太ももの次は左……あと残るのは……だ。
一瞬、彼女の指が体から離れる。その時間が永遠に感じられた。目を瞑っていても、研ぎ澄まされた感覚が、ミーシャの気配を捉える。
左手に持っているなにかを取り、それを右手の指ですくう。今私が見ているのは、現実の世界なのだろうか。それとも私が勝手に見ている夢なんじゃないか……。蛇ちゃんも居ないのに、目を閉じていても見える気配の世界。
真相は分からないが、そのまま右手がお湯に入り、ちゃぷんと音がする。やはり現実みたいだ。
そして、その手が私の足の根元へとゆっくりと伸び、熱い粘液が皮膚と擦れる音が聞こえた気がした。
バシャッ!!
もう我慢出来なかった。お湯から立ち上がるように身を乗り出し、目の前で温泉に浸かっている彼女の両頬に手を添える。
私の突然の行動に、ミーシャが反応できるわけがなかった。身体強化に極ぶりし、さらに何故か感覚が研ぎ澄まされている今、私より早く正確に動ける者などいない。
目を瞑ったままでも分かる。ミーシャの両頬を手に取り、その薄い唇を重ねる。
~~~!!!
戸惑った様子で、ミーシャがバタバタする。それも次第におさまり、代わりに舌が動きはじめる。ミーシャミーシャミーシャ……舌を絡ませながら、快感に支配される。
目を開くと、濡れてウェーブのかかった綺麗な髪が見える。
透けるように白い肌に、雪がつもるように白い泡が乗っていて……泡?
目をしっかり開いて辺りを見る。ミーシャの手には石鹸と、それを泡立てるための布が握らていて...。
そういうことか!
やけに積極的に肌に触れるミーシャの謎が解ける。
粘液まみれの私を流してくれていて、それを勘違いした...と...!
急に帰ってきた理性がようやく正しく状況を理解させる。急に襲われた彼女は、抵抗もできず今に至っていることになる。慌てて唇を離し、彼女に謝ろうとした。
ちゅく...ん...
しかし、それもつかの間。今度はミーシャから唇を奪われ、絡んだ舌を吸われる。舌を吸われた瞬間、全身が痺れ、動くことができなくなった。理性と快感に大きく振り回され、ポンコツな脳みそが呼吸を忘れてフリーズする。
ちゃぷちゃぷと、水が流れる音を聞き、私の意識はいつの間にか闇に落ちていった。
次に気がついたのは翌朝、小鳥の囀りとスープの香りに誘われて目を開く。
全身が軽い。疲労は微塵も感じず、肌はすべすべしており、痛いところなどなかった。ベッドはちょっと硬いけど、上質なシーツに包まれ、寒くは無い。
んん~~~!
大きく伸びをすると、掛け布団がはらりと落ちる。
あれ!?なんで裸...というか、ここはいったい……。
「ほよ!góðan daginn」
大きなベッドの中、こんもりと膨らんだそこから、見慣れた顔が出てくる。白金のロングヘアーに、青い目。鼻には少しそばかすが散っていて、薄い唇がにっこりと笑っている。
「ミーシャ!」
彼女の顔を見て、段々と昨日の記憶が蘇る。
はわわわわ...えっと、何をどこまで...この場合の責任ってあるのかな...?
ベッドの横には、私の着ていた服や装備が綺麗に畳まれていた。ミーシャを見ると、既に服を着始めており、私も急いでそれにならう。
こういう時、言葉が通じなくてよかったと思う。
なんて声をかけたら良いか分からないもの。
ミーシャに連れられて部屋を出ると、廊下の先で話し声が聞こえてきた。
焼かれたパンとスープの香りも漂っている。立派な食堂に案内されると、そこにいたのは何人もの女性を侍らせた師匠が座っていた。
何してんねん。
「おお、帆世どの!目覚められたか!」
「し、師匠。昨日は何が...」
「ナメクジ共は全て始末したわい。彼女たちは儂らを歓迎してくれておるようじゃ。」
なるほど。聞けば、窮地に現れた英雄として歓待されたらしかった。今は残された人で小隊を組み、辺一帯の調査とナメクジ狩りをしているらしい。
真面目な話に、頭の中に現実が帰ってくる。
「なるほど、片付いてから7層に入る予定ですか?」
「そうじゃな。じゃが、幾つか気になることがある。それを相談しようと、起きるのを待っておったのじゃ。」
パンパンッ
師匠が手を鳴らすと、待機していた兵士のおっちゃんが姿をみせる。手には地図が握られており、それを机に広げた。
言葉は通じなくとも、作戦会議というわけだ。まだ寝ている脳細胞を叩き起し、地図を見る。
真面目な会議を始めるとしましょう。だが、その前に、この記録に1文付け足しておきたい。
師匠、絶対あの女の人達とすることしたでしょ。ただのダンジョン攻略が、どうしてこうなったのか。
( ๑❛ᴗ❛๑ )記憶にございません。