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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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ラウガルフェルト 其の3

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深い渓谷の底、最も狭くなっている場所に石造りの城がダムのように蓋をしていた。外敵から都市部を守るための難攻不落の城であるが、それは対人間...もしくは狼程度の獣を相手取ることを想定していた。


Risaormurinn við Laugarfeld var bara goðsögn!


Ósýnilegur veggur hefur verið reistur á Egilsstöðum og við komumst ekki inn....


何を言っているか分からない……でも、誰1人逃げようとしていないのが妙だ 。農民が半数近くおり、統率が完璧にとれているわけでもない。ましてや、目の前にいるのは人智を超えたバケモノの群れなのだ。


逃げ出せない理由があるのだろうか。


それでも、今は助かる。

城壁は高く広い、スキルをフルに使ったとして全域をカバーすることはできそうにないからだ。戦える人数は、そのまま守れる範囲を意味する。


城を持つ場合、戦力差が3倍程度なら防衛が可能だ。

あとは、戦力の分配を……。いやいやその前に、まずは、私たちが味方である事を示さなければならない。緊急事態を更に混乱させてしまっては意味が無い。


理想は、城壁の半分を現地の兵士たちに任せたい。残り半分であれば、カバーできそうだ。逆に壁を走っている間に、上から石をぶつけられると死に繋がる大事故になってしまう。それは勘弁してほしい。


足元の更に下から、金属が激しくぶつかる音がした。

少し遅れて異質な絶叫が渓谷に木霊する。


キッィィィン……Gya gya gya gya !


城門を削り喰っているラウガルフェルト・ドレーキに、師匠が斬りかかっていた。城門を覆い隠していたドレーキが、体を丸めるように地面へと転がっていた。全身に金属の鱗が生え、背中は山のように盛り上がっており、師匠の斬撃を弾いていた。


師匠の手が霞むように動き、長い火花の線を刻む。迫力満点の化け物退治、人間がドラゴンを狩る光景は絵になる!!


チャンスは今だ。城壁の際、最も高く目立つ場所に飛び乗って息を限界まで吸い込む。


スゥゥゥーーーッ


「全員ーー、注目ッ!!」


強化された身体能力をフルに使って、声帯を爆発させるように声を張り上げる。渓谷になっているせいか、大気がビリビリと震え、何重にも跳ね返って響いた。


すかさず腰から銀爪を引き抜き、天へと掲げて続ける。震える大気を銀爪が切り裂いたように争いの音が消える。

今は目立ってなんぼの仕事だ、壁に張り付いたリルファが私へ殺到するのが、足元に伝わる振動で感じる。


「よく今まで闘い抜いたッ。この場は、私が受け持とう。」

「ミーシャ、ミロ、さっきの兵士さん、そこの槍の方、カマを持つ人。」


言葉はどうせ通じない。それならば、と一人一人目を合わせ、剣先で指し示して呼びかける。私は、貴方に語りかけているのだ、と伝わったはずだ。足元の振動が大きくなる。


「この場は私が受け持つ。貴方たちには、右半分を守って欲しい!」


全員を指し示した剣を横に滑らせ、城壁の右へ行くようにジェスチャーで伝える。特に、最初にミーシャを預けた兵士のおっちゃんには意図が伝わったようだ。それでも、たった一人の部外者に重要な拠点を任せる判断がつかないのだろう。戸惑った顔で私と城壁を交互に見比べている。戦場を広くみて、その場を守ろうとする責任を感じているようだった。


大丈夫、意図さえ伝われば、あとは()()の問題だ。私に任せて大丈夫だと信じて貰えたら良い。

そろそろ先頭の子が足元に迫ってくるころだろう。

1番目立つ場所に立ち、声を張り上げ、何より彼らが欲している特別な金属と魂を持っているのだ。目の前にぶら下げられた餌に、ラウガルフェルト・リルファが群がってきていた。


~~ビョン


日光が遮られ、急に視界が暗くなる。


「「Hey, hann er fyrir aftan þig! !」」


目の前の兵士達が悲鳴をあげ、私の背後を指さしていた。振り向くと、1番足の早かったリルファが宙に飛び、私の体を影で包むように全身を広げている。3mはあるだろうナメクジのジャンプだ、気持ちが悪い……が、今この瞬間では好都合だ。


待ってました!

振り返った事で体が捻れ、その捻れた力を最大限引き絞るように銀爪を水平に振るう。


ラウガルフェルト達は大きさに関わらず、背中側に硬い金属を溜め込む習性がある。大きな個体であれば、金属は非常に固く分厚いため切る事が難しい。しかし、それは背中を切りつけた場合の話に限る。つまりー。


私に向かって飛びかかってきたのだ、鱗の生えていないお腹が丸見えだぞ?


斬ッ!


真横一文字に振るった刃が、滑るようにリルファの体を両断していく。間違いなく致命傷だ。本来、攻撃は地味に、小ぶりに、隙を作らないようにする事が理想とされている。だが、これは演出なのだ、もう少し派手に行きたい。


ついでとばかりに、もう一回転、体を捻って回し蹴りを叩きこむ。3mの巨体が斜め下方に吹き飛び、城壁に激突。体液を撒き散らし、後続のリルファを巻き込んで60m下の地面まで落下していった。数秒を経て、ガァンと音がして地面のシミを増やす。


「さァ、早く!!」


1連の()()が効き、兵士のおっちゃんが周辺の人を連れて移動を始める。その横にはミーシャがいて、同じく人を説得してくれていた。


集団を動かすには最初の1人が肝心なのだ。

1人が動けば3人が動く。3人が動けば12人が動き、それだけで集団全体が1つになって行動しはじめる。私と行動を共にしていたミーシャや、状況を広く見ていた兵士のおっちゃんが最初に動いてくれて楽になった。


さて、ようやく戦う準備が整った。最近、アドリブで知らない人を焚きつける事ばかりしてる気がする。行き当たりばったりでの行動が多いせいかな。


ざっと見渡すと、だいたい7割ほどのリルファが私目掛けて左城壁へと密集している。城壁を粘液が滴り落ちており、悪夢を見ているような非現実的な光景だ。

中央城門前では、師匠が暴れる親玉ドレーキを抑えるように立ち回っている。

右城壁には残りのリルファが集まっているが、こちらから増援が行けばなんとかなるだろう。


トンッ……


城壁から飛び降り、落下しながら銀爪をふるう。背中に当たった時は弾かれるが、顔面に生える触手は切り落とすことができた。ここが弱点か!触手に集中して斬りつけると、反射的に丸まって地面へと落ちていく。


飛び跳ねる事が出来るリルファ達だが、密集している事が仇になったようだ。お互いに体が重なり合い、蠢くようにしか進むことができていない。斬、斬、城壁を蹴って姿勢を調整。考えるよりも、反射的に動く。


あえて群れの真ん中付近で立ち回る。そうすることで、全体が密集し機動力を殺せる。また、狙いを私に固定することで、城壁の上を目指さなくさせていた。


師匠の相対しているドレーキが親玉なのだ、できるだけ早く加勢にいきたい。


エンシェントラーヴァをうてば、群れの2割を消し飛ばす事ができそうだが……いや、城壁まで巻き込んじゃいけない。左手で刻んでいたスクロール操作を中断し、銀爪に意識を集中する。私から離れている個体ほど、油断して触手を長く伸ばしている。


【瞬歩】


この世界から姿を消し、0.5秒の間を経て移動する転移系スキル。転移の間も意識はあり、暗闇の異空間で斬撃の体制を整える。視界が戻った瞬間、目の前にいるリルファの触手を切断する。ヨシ、上手くいった。


ゴロゴロと転がり落ちる様子を端目に、次の標的を探していたところ、突然の叩きつけるような風に姿勢が崩れる。

ヤバッ……よろけた拍子に足を着いてしまったのが、リルファの体の上。足の踏ん張りが効かず、むしろ粘液に滑ってしまう。ひぃや、口から漏れる悲鳴は、体に覆いかぶさるナメクジに押しつぶされる。


ぐちゃりぐにゅぐにゅぐにゅ……四方八方、体の全身をヌメヌメとした軟体生物に覆われた。咄嗟に目を閉じ、鼻を手で隠す。


(群れの中に引きずり込まれた……ッ)


首筋やズボンの隙間から粘液が刷り込まれるように入ってくる。群れ全体で私を圧死か溺死させるつもりのようだ。銀爪は握っているが、腕もがっちり抑えられていて刀を振るうことができない。


瞬歩...も発動させるのは危険だ。瞬歩で移動できるのは、使用者の1歩分まで。この群れから脱出するのも難しいし、全身粘液まみれでは戦闘に復帰できるかも微妙だろう。


触手が私の首元に巻きついてきた。というか四肢全身に這っているのがわかる。触れる場所が燃えるように熱を帯びていく。

あの触手は腕というよりは感覚器……その根元にあるのは歯舌を有した口である。どこかのアダルトゲームのようにエロ展開が起きるというよりは、ヤスリのような歯で捕食される方が現実的だろう。


冗談じゃない!

いや、エロ展開になって欲しいわけじゃない。全身がカーーと燃えるように熱くなっているのも、発情しているのではない。単純に毒で皮膚が焦がされているのだ。あんまり時間をかけると、やばい。


転んでもいいタダでは起きない。食べられたら腹の内から蹴破るのが人類の伝統だ!

銀爪を手放し、右手を無理やり上に向ける。自分がどっちを向いているか分からないが、とにかく自分の体から離れた方向へ掌を突き出した。


【魔法錬成 エンシェントラーヴァ】


バシュゥウゥ……!!!


右手に太陽が宿り、触れた物を焼き溶かしていく。

アチチチッ

この熱自体は私に影響はしないが、溶けたリルファの体に触れると火傷した。急いで太陽を投げ、外に飛び出す。刺激臭のする白煙を払うと、焼け焦げたリルファがボトボトと城壁から剥がれ落ちていくのが見えた。


今の攻撃で、私のいる城壁は片ずいたようだ。それよりも、城門で暴れるドレーキが空を飛んで師匠を襲っていた。背中の内部に溜め込まれていた金属塊が体外に飛び出し、鉄の翼と化している。地上で散々斬られたドレーキは、天に居場所を求めて進化したのだった。


バシュ


バシュウウ


ぐるぐると天を羽ばたき、一方的に毒を吐いている。一切近づかないつもりらしいが、図体の割にあまりに卑怯な戦法だった。吐き出された毒は地面を溶かし、白煙をあげている。金属を好んで喰らうのだ、その毒を刀で受けることはできない。


グワァァァア


ドレーキの口が開き、大量の毒液が、まるでブレスのように広域にぶちまけられる。マトモに浴びれば骨も残らないっ。ここからだと、走っても間に合わない……! 師匠ーーッ!!!


『夢想無限流 地蹴蒼月(あおき みかづき)


ズパンッ……天舞うドレーキを、青く輝く三日月が穿いた。地面に近かった尻尾が斬り落とされ、半狂乱になった龍が吼える。


煙を切って現れたのは、白髪を逆立て闘気を立ち昇らせている師匠だった。こもじといい、なんでこの人達は殺気や闘気を現実に纏っているのか。日本人じゃなくて、戦闘民族の血でも流れているのだろうか。


『首を置いてけヤァ』


怖っわ。師匠、怖っわ。

近寄るだけで斬られそうな鋭い気配。それを正面から浴びたドレーキが、翼を使って山の方へ飛び去っていく。

ヘリコプターの真下に居るような暴風に、体が浮きそうになる。さっきの風はこれだったのだ。くそナメクジめ。


バキキキッー、山の彼方へ飛び立っていくドレーキが空に牙を突き立てていた。そこからヒビが走り、異空間が顔を覗かせる。その光景にあたりの人がどよめくなか、ドレーキが異空間へと消え、空いた穴もみるみるうちに修復された。


そうか、ドレーキは第7層へと旅立ったのだ。なにも、私たちだけが層を渡れるとは限らない。

一方通行の世界渡り、力をつけた生物が次々に先へと進むシステムになっているのだ。


取り残された私たち。リルファが未だに蠢いているが、その数もしれている。


「師匠ー!大丈夫でしたかッ?」


「すまぬ、そちらに迷惑をかけたようじゃ。面目ない。」


あわわ、頭を下げないでくださいよ~~~


そんな風に謝られると、私の方がドギマギしてしまう。落ちていた銀爪を拾い、残党狩りに向かおうとすると師匠に止められた。


「後は儂で大丈夫じゃろ。帆世どのは先に傷の手当をしておきなさい。」


「あ、ありがとうございます! ウィンドウは繋げておくので、何かあったら呼んでください。」


ぺこりと頭を下げ、私は城壁の上へと駆け上がる。多少の怪我は食べて休めば治るが、全身をぬるぬるとする粘液がこびりついているのが不快だ。


城壁の上では、リルファを撃退し終わった人達が、私たちの戦闘を見ていたらしい。ミーシャとミロが私に駆け寄ってきた。


Það er allt í lagi, stóra systir! ?


「ミロちゃん、ごめんね、触ると危ないから……」


抱きつこうとするミロちゃんを躱し、ミーシャの方を向く。

V( ๑❛ᴗ❛๑ )ドヤ顔ピース。


「親玉は逃げちゃったけど、仇は討ったよ。」


ミーシャの村を破壊したラウガルフェルト湖の異形。その親玉を斬ったのは師匠だし、逃げちゃったけど、それでも諸悪の根源が消えたことには違いない。

問題が全て解決した訳じゃないが、ひとまずこれで落ち着けるはずだ。


「ほ よ , Hey, komdu hingað. Ég er að undirbúa baðið!!」


ミーシャが数人の人を連れて、私を城の中に連れて入る。粘液に汚れた外套や服を次々に脱がされ、通されたのは巨大なお風呂だった。プールのような浴槽に、熱いお湯が滾々と流れている。お湯を新しく沸かしたわけではなく、流れ続けている様子だった。


「ふわぁぁ……これ温泉ね!」


日本人は遊園地よりも温泉を好む、変な民族だ。まさかダンジョンの中、異界の地で温泉に入れるとは思わなかった。


えっと、どこで体を洗えばいいの?


裸で連れてこられ、温泉を目の前にうずうずしてしまう。しかし、困ったことに体を洗う場所が見当たらなかった。部屋全体が浴槽なのだ。


どうしよう?と振り返ると、裸のミーシャが先に浴槽に入る。そのまま私の手を引いて、ざぶざぶ温泉に浸かる。


気持ちいい~~~


40度無いくらいのお湯に浸り、結っていた長髪を解く。外ではまだ師匠たちが戦っているだろうに、こんなに寛いでもいいものなのか……まあいっか……もうここから出たくないもの。




今思えば、この時の私は、心も体も油断しきっていた……。でなければ、あんな事には……。












舞台となった場所は、実は日本と並ぶほどの温泉地です。私も行きたい。

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