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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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翔けろ雪原RTA

アマゾンを焼き進み、砂嵐に耐えて迎えた4層目。

足を踏み入れた瞬間、膝上まで雪に埋もれてしまった。右、左、歩くだけで体が雪に沈み込むため、底なし沼を歩くかのように体力を削られる。


「雪が溶けておるわい。」


「歩きにくいったら、ありゃしないですね。」


太陽は遠く高いが、確実に雪を溶かすだけの熱量を与えていた。汚れひとつ無い白銀の世界、日光が乱反射して目を開けていられない。


足は雪に沈み、目は光に潰される。雪以外の物は無く、これならモンスターでも居てくれた方がマシである。

定石では、こういう雪に対しては昼間に行動しないことだ。一晩経てば、夜に雪が凍って足が沈まなくなるからだ。しかし、それにも問題は付きまとう。夜は寒いし、クレバスがあった場合に気が付かず落ちてしまう危険性が高い。


どうにもこうにも、厄介な地形だ。ここを数十km進まなければいけないのだ、きっと一般人が進化の箱庭に挑んでも1-4層を突破できないんじゃないだろうか……。


「ま、ここは私の()()が効くんですよ。」


「師匠、荷物全部捨てちゃってください。おんぶですよ、おんぶ。」


ほれほれ、とその場にしゃがんであげる。大きなリュックは、完全に使い捨てだ。ここで捨てるつもりだったので、道中見つけた素材などは一切持ってきていない。


「ふぅむ。ま、儂も年寄りじゃからの。若人の親切は素直に受け取っておこう。」


夢想無限流の面々が見たら、腰を抜かすかもしれない。厳格にして最強の座に君臨する柳生隼厳が、まさか20代そこそこの女の子におんぶされているのだ。


忘れ物が無いかチェックする。

固有武器をロストするのは馬鹿らしい。大丈夫そうだ。


背中に師匠を乗せ、後ろに回した手から蛇ちゃんがにょろにょろと出てきて固定する。うむ、邪なイタズラが思いついたが、師匠にするわけにはいかない。


「行きますよー。つかまっててくださいね。」


【ファストステップ】


私の全身を淡い光が包み、本来ありえない加速の力を与えてくれる。私が最初に覚えたスキルであり、毎日練習を欠かしていない。もう魂にしっかりと刻み込まれたスキルである。


このスキルの特徴は、足が何かに接触さえしていれば発動することであり、その際に反動が生じない。故に、ファストステップで蹴りを放ってもダメージを与えることはできない制約になっている。


この場では、その制約が特権に変わってしまうから面白い。


タッ タッ タッ


反動が無いということは、溶けて柔らかくなった雪面を蹴っても足が沈まない結果をうむ。私は光になった様に、雪の鏡面を反射するが如く移動することができるのだ。障害物が無い場所での加速は、ほとんど上限無く加速することができるはずだ。自身の身体が耐え切れる程度に加減しないと使い物にはならないだろうが……


未だ音速を超える加速はした事が無いが、雪原を蹴ること1分、今なら新幹線にも追いつけるほどに加速が乗っていた。


「ハッハッハ、この歳でも未知なる体験が残っておるものじゃな!」


背中にいる剣の神様は、大変上機嫌だ。

しかし、そろそろ壁が怖い。不可視の壁までの正確な距離など知らない。


「ししょーーーー、かべに、ぶつかるまえにーーーーーとまりましょーーーかーーーーーッ」


「いらん!童子切をよこせ!」


行けと言うなら、行きましょう。どうせ激突しても、怪我する程度で死にはしないと思う。衝撃で異空間にダイブするのがオチだろう。


蛇ちゃんが器用に動き、師匠の腰に刺さる“童子切安綱”を引き抜いて渡す。白銀の世界でも、最も鋭く、明るく、美しく輝く刃だ。


「ここじゃろう!童子切ッッ」


斬ッ!


背中におんぶしている師匠の一閃。私が壁に激突する寸前、その空間を斬り裂くように、片手で刀を振るったのだ。猛スピードで翔ける私の前方を、刀で斬り裂く速度とは一体……。


私の時速は300kmを超えている。つまり秒速は80mを超えており……師匠の一閃は視認すらできないのではないだろうか。計算するだけで、変な気分になってくる。


何はともあれ、RTAのような速度で4層を踏破し、師匠の斬り裂いたゲートを通って5層へとなだれ込んだ。


結局1-4層は全て、円形マップの中心にスポーンさせられたわけだ。どの方向でもよいので、その極限環境において数十kmは移動する能力が求められたということだ。


進化の箱庭を抜ける条件は、そのフロアの生物を全て殺すこと。一切の敵対生物を殺した場合、そのフロアには帰還用ゲートを設置することができる。


1-4層は、あまりに広大であり、帰還用ゲートを設置することはほとんど不可能に近い。よって、今後の挑戦者も1-4層を連続踏破することが必須条件といえる。


しかし、5層には広大なマップは存在しない。というか、記憶通りであるならば、5階層毎にボスモンスターが出現するのだ。そこで1区切りつければ、帰還できる。


進化の箱庭の最前線を攻略する場合、攻略班は初見のフロアを4つ攻略し、初見のボスに勝たねば帰ってくることが出来ないということだ。


進化の箱庭の攻略が進まない原因になると思っている。余程実力のあるPTが攻略し、情報を後勢に共有するより他に手はない。


私たちはその先遣隊の覚悟のおかげで、今こうして5階層に辿り着くことができた。レンガで作られた暗い空間、まるで牢屋のような環境である。一望するだけで全て見渡すことができ、戦うべき相手とも目があった。


「趣味が悪いですね。」


「そうじゃな。」


その相手とはー





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