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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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空高く砂漠

よーし、やってやろう!!

一日で三階層踏破を掲げるは、齢百を超えた生きる伝説その人である。弟子になった以上、師匠が行くと言えばその歩く道を整備して、背負ってでも行かねばならぬ覚悟があるのだ。


ずしゃり。

三層、砂漠の階層へと足を踏み入れる。人体でも最も薄いとされる目の周辺、そして頬でカラッカラに乾いた灼熱の大気を感じる。太陽は正中に陣取り、大気は僅かな水分を奪いさろうと吹き付けてくる。遅れて、両足が不安定に崩れゆく砂の大地を踏み、靴の中にジャリジャリと細かい砂が混入して不快だ。


ビリビリと、テントに使っていた布を引き裂き、頭に巻いて灼熱の陽光を遮断する。激しい赤外線を防ぎ、容赦なく奪わてる水分を顔の付近に留めてくれる必須措置だ。


本来であれば、おしっこを布に染み込ませて、頭部にこもる熱を放散させるべきなのだが……


師匠の目の前でおしっこをして、それを頭にかぶれというのか?


さすがに厳しい。

おしっこを被るだけで人の尊厳が失われるとは思わないよ?人間の尊厳とは、愛するべき人を守る精神に宿るのだ。とはいえ、異性の前で放尿はできない。しなければいけない状況に、まだ追い詰められていない。ぶっちゃけ、理由さえあればしてしまうのが私であるとも言えてしまうが。


「ところで、帆世どのは女子(おなご)であろうに、何故かような試練に自ら踏み入れる?」


「たまたまですよ。」


女子としての恥じらいを葛藤していた矢先、師匠から問いかけられる。榊原老師も似たことを言っていた。

何故、お前がこのような危機に関わるのか。


実際、邂逅に巻き込まれなかったら、今頃普通に看護師をしていただろう。看護師もめちゃくちゃキツい仕事なのだ、聞きたかったら一日かけて教えてあげたい。

人生、何故そうなったと聞かれればだいたい偶然のせいだ。人間は自分の人生すらコントロールできるほど優れていない。しかし、()試練に挑んでいる理由は別にある。


「理由をつけるなら……友達を救いたいんですよ。」


ありきたりですけどね……。

そう、巫唯依ちゃん。じわじわと生存圏をおいやられ、種の滅亡に瀕している終わった世界の住人。しかし、終わったを今なお存続させている、全人類の希望を背中に背負う人間を知っている。


巫さんは、そんなに大それた人間じゃない。喋っていると目を閉じて笑い、味方のピンチには身をていして守ろうと備え、人一倍心を痛めている1人の女の子なのだ。甘いものが好きだし、おっぱいは大きいし、ちなみに揉むともじもじと我慢しちゃうタイプだ。悪い男を彼氏にしてしまいそうで、常に隣にいて変な虫がつかないか見守りたくなる。


そう。

隣にいたいのだ。私がバカやって笑っている間、巫さんは心を殺して人を守っているにちがいない。


『何かあったら呼んでね。必ずいくからね。』


今の自分が行ってどうするのか。せめて、助けに行くだけの力をつけたい。巫さんだけを救えたら私は満足だ。しかし、巫さんはその世界の全員を救うことを心を守るトリガーにしている。


「師匠。とにかく、何をしてでも強くなりたいんです。」


砂に叩かれながら、左腰にさしている銀爪に手をあわせる。いつもより、刀が近くにあるような、不思議な感触を伝えてくる。


「剣の才はあまりない。しかし、剣の心はあるようじゃな。」


「はい。」


真面目な話をする時、師匠も真面目に答えてくれる。剣の才は無い……ズキリと心が痛む。昔から、勉強も運動も才を感じたことはなかった。


友達が1時間かけて覚えた。私は3時間かけて覚えよう。人が5時間かけて走りきった、私は1日かけて歩いていこう。


ゲームも、遊びも、勉強も。全て勝ちたかった。

その才能はどこにもなかった。

だから、何事にも狂ったように時間をかけて、挑んで行った。小学生にして、毎日10時間は勉強していた。友達もできず、遊んでる彼らを見下していたこともあった。でも、真に下に見ていたのは何時だって自分の才能だ。


そうすることで分かったこともある。考えて考えて、人よりも数歩早く判断することが私の特技。もちろん、早く判断するため考えがズレることや、間違えることもある。それでピンチになり、痛みを被ることだって常だ。


間違えてしまった痛み、それは自分の身で受け止めるしかない。間違えを恐れるくらいなら、その痛みを覚悟でねじ伏せる。脳みそをフル回転させ、数歩早く動くことが私に特権を与えてくれる。


倫理観、法律、くそくらえだ。才無き身で、分不相応な望みを抱くには、本来取るべきでない道を選ばなければ。


毒や奇襲は、本来使ってはいけない。勝利した際、その価値を毀損するのだ。しかし、力無き身では、そういう手段を脳裏に忍ばせていなければいけないということだ。


はぁ。話がそれちゃったね。

もう知ってると思うけど、私は思考がよく飛んでしまうのだ。皆さんにはご迷惑をかける。


「あ、そこ居ますよ。」


一応、目では現実世界を見ている。砂に覆われた世界で、頼りになるのは蛇ちゃんのピット菅がめちゃくちゃ役に立っている。


真っ赤に染まった熱源で、砂から1cm潜った場所に生物か隠れているのだ。主に蛇かサソリか……近くを獲物が通るまでジッと砂に隠れている。


生き物なので、太陽に焼かれた砂よりも遥かに体温が低い。その熱源を探知することで、有毒生物の地雷原をすいすいと歩いていくことができる。


それでも、この環境のボスと呼ぶべき災害は、突如発生した。砂が舞い上がり、太陽が隠れる。

風が螺旋を描いて、天を突き刺すように龍が昇る。


「砂嵐じゃ!」


砂を巻き上げる竜巻が、先程まで私たちが歩いていた場所を巻き上げていた。砂嵐を見くびってはいけない。

1993年、中国で起きた砂嵐、通称:黒風暴は100人以上の死者を出しただけでなく、地形すら変えた。通常の竜巻よりも、高い質量を持って襲いかかる暴力を前に、何をすべきか考える。


「荷物を置いて、毛布を出しましょう!」


水で質量がある荷物を固めて置き、その両サイドを私と師匠でかためる。そして、テントをつくるように毛布を2重に巻いて、ふたりが呼吸するスペースを確保する。

毛布が飛ばされては意味が無い、その地面との接合部を踏みしめ、風が入る隙間を潰すように閉じる。


ゴォォチチチチチ


強烈な風と、散弾のような砂粒が毛布を叩き始める。

砂嵐は移動速度もはやい、1-2時間耐えし延べばやり過ごすことができるはずだ。


「若い女子と2人きり。こもじに怒られてしまうわい。ワハハ。」


「こもじは、うちの嫁!他所にはやりませんよ!」


狭い空間で、二ッと笑う。

大抵の場合、生物よりも自然環境が人間を殺す。100層まであるうちの、たった3層目だ。弱音を吐く暇があれば、口角を釣り上げて、この試練を課してくる神を見返してやればいい。


【魔法錬成 アイシクル・シールド】


両手で毛布を掴んでいるため、中々発動が難しかった。石礫すら守る透明な氷が、私と師匠を覆い隠した。砂を弾くだけでなく、内部の温度を下げてくれるという、思わぬ副次効果もあった。


「うむ、面妖な術を用いる。我が夢想無限流へ取り込みたいものじゃ。」


師匠は魔法に興味津々だ。古き技術を伝えるだけでなく、道の技術や戦法を取り入れることが夢想無限流の根幹である。今よりも強く、そのための流派なのだ。


だから、不壊の刃の技術を体得した春宗が免許皆伝された。本来であれば有り得ぬ処遇といえる。


ザァァァアアアア


本格的に砂嵐が毛布を叩く。砂が貫通することもない。立っている地面が、強風にガリガリと削られていくが、これ以上することもない。


カカカッ


師匠が笑い、私も嗤う。

嵐がすぎるまで俯いていても仕方がない。疲労と目まぐるしく変わる環境というストレスに抗うため、脳内ではアドレナリンが絶えず流れ出している。


「師匠ーッ 今後出てくるかもしれない敵なんですがーッ」


轟音をかき消すように、声を張り上げて、これまでの戦歴の詳細を語る。1-4層は環境変化が最大の敵であり、モンスターは一般的な動物だ。しかし、今後出会う事になる敵は、常識を超えてくる。


サンティス→リアーナ→千蛇螺→逆翼&幽影→禍ツ神&黒銀ノ傷羆→鬼冥月→デルタチーム→胎守……


見事に格上ジャイアントキリングを達成しているなあ。いやー、この対戦カードおかしいでしょ 。よく死ななかったものだ。

話を聞く師匠の顔は、自分も行きたかったとばかりに愉しそうだ。


すっかり話し込み、嵐が明ける。通り過ぎた竜巻が、未だ天へと続くように伸びているのが見える。


残り少なくなった水を飲み、髪の毛についた砂を払う。次が4層目、雪原の地。

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