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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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首落ちる死合

( ๑❛ᴗ❛๑ )しにましたぽよ。

柳生隼厳、剣道十段。現在生き残っている唯一の十段の位を持っている不老の剣士。剣道十段とは、1957年に初めて発行され、史上6()人に授与された後、事実上廃止されている幻の段位である。何故、十段の位が授与されていないのか、その理由はただ1つであった。


『彼の人が生きているのに、私には同じ十段を名乗る資格が無い。』


隼厳以降、剣の術を極めた達人の全員が 、全日本剣道連盟からの十段授与の打診を拒絶したからである。


まあ、スキルによって剣の腕が可視化されてしまった現代において、新たに段位を授与する文化自体が廃止されようとしているのだが……。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【柳生隼厳】

主な称号:[剣神]

主な保有武器:童子切安綱、鬼丸国綱

保有スキル:夢想無限流柳生隼厳Lv10、剣振不老(剣振らば老いず)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


人類最高峰に鍛えられた兵士は、間違いなくデルタフォースの面々だ。しかし、剣技に置いての至高は間違いなくこの老人である。ともすれば単独戦力でも……。


魑魅魍魎の類いじゃないか、噂に尾ひれがついただけなのでは、弟子が言っているだけで実戦では使えない、ヤラセ、非現実的すぎる。


そう言われてきた伝説も、ウィンドウ発現によって白日の元に晒された。


・大いなる情報体が、人類に干渉する以前に、人の身でありながら神格を得ていた。

・天下五剣のうち二振りを手にしている。

・システムに認められたスキル名にはその名前が刻まれている。

・現在確認されている唯一のLv10に至ったスキルを保有している。

・剣を振っている間、体が老化しないスキルを有している。

・その齢、百を超える。


( ๑❛ᴗ❛๑ )噂以上に化け物だったってわけぽよ。


( ๑❛ᴗ❛๑ )で、この化け物お爺さんと死合いするってことぽよ。


( ๑❛ᴗ❛๑ )タスケテ。


(´・ω・`)ぽよちゃん、師匠は斬り合える相手を作るために夢想無限流を開いたこも。


( ๑❛ᴗ❛๑ )えっ、こもじ!


(´・ω・`)こもは、イマジナリーこもじこも。


( ๑❛ᴗ❛๑ )いまじなりー……


(´・ω・`)あんなに上機嫌な師匠は初めて見るこも。本気出さないとやばいこもよ。


(´・ω・`)またねー、こも。


( ๑❛ᴗ❛๑ )なんなの……。



柳生隼厳と見合って数秒、拡張された知覚による脳内会議が勝手に始まり、勝手に終わっていた。イマジナリーこもじめ、今度出てきたら色々してやる。


「奥義伝承である。今この場に居るもの、そのまま座しているべし。」


決して大きくは無いが、厳かな声だった。夢想無限流に限らず、どの剣術の流派においても奥義を大勢に見せることは無い。修行の果てに、認められた極わずかな門下生にのみ伝授するのが奥義なのだ。


しかし、その御業を視ることが許された。道場に座しているのは、その1人1人が自らの流派を開けるほどの実力者達である。


垂涎の時間を前に、全員が息すら止めて正座していた。その最前列に居るのは、先程免許皆伝を受けたばかりの片倉春宗、練られた闘気そのままにジッと私に視線を送っている。大丈夫、おかげで私も不壊の剣術を教えて貰った。せいぜい頑張るよ。


そう思うと、私の内に占めていた焦りや不安といった感情がどこかへ消えていく。


「それでは、始める。帆世静香どの、全力で来られよ。」


「はい。胸をお借りします。」


すぅーー、はぁーーーー。


吸気より呼気を多くとる。対峙する隼厳の全身から目を離さず、集中力を練り上げる。次第に五感のうちから味覚・嗅覚が喪われていく。残った視覚・触覚・聴覚にリソースが振られて、極まった感覚は第六感を呼び覚ます。


脳内ではフルスロットルで、体験した不壊の剣術を何重にも追憶していく。基礎が練り上げられた、正道をいく剣の型。剣を知らぬ体に、その基礎を叩き込んでいく。


足りぬ技量はフィジカルでごり押す。

スキルは使わず、ピタリ正面から木刀を振り下ろす。


ガッ!


隼厳の木刀に弾かれる。袈裟斬り、逆袈裟斬り、切り上げ。


ガッ カッ カ……


私があらゆる角度から打ち込み、隼厳が全て弾いていく。手に伝わる衝撃がどんどん少なくなり、最小の力で対応されだしていく。


「ホホッ。小さな身体に、良く力を練り込んだようじゃ。」


隼厳が語りかけてくるが、私にその余裕は無い。だが、剣を受けられる度に、少しずつ正しい型へ導かれているように感じた。正の方向への変化は、脳にとって強い快感を与える。


憤ッ 体重を乗せた袈裟斬りを放つ。肉まで当たらずとも、木刀を叩きおってしまえ。


「善き哉。じゃが、これで一本。」


二本の木刀が触れた瞬間、その手応えが無いことに強い違和感を覚える。私の木刀に乗せられた力が、添えられた刀によって緩やかに殺される。


くるり


完全に勢いが死ぬ前に、隼厳によって2人の木刀が円を描くように軌道を変えられる。水が流れるように、自然に静かに滑らかに、刀が大きく1周する。


円を描き終わり、木刀が地面と水平になった時、隼厳の木刀に新しい力が加わった。


ガツン!


私の木刀が真上へ弾きあげられた。今までは剣の背中をぐーーーっと押されるように滑らかだった力が、銃で撃たれたような別種の衝撃に突如切り替わったのだ。拳法でいえば、寸勁ッー


剣をめいいっぱい振り上げてしまった姿勢、つまり胸から腹までがら空きの隙を晒してしまった私。


隼厳の木刀が霞む。


『斬ッ』


道着の表面だけを、正確に袈裟斬りされる。肉どころか皮も斬られていないが、確実に命を1つ失ったのだ。


それでも!

死んだくらい、なんだ。真上に剣を振り上げているのだ、命脈絶たれたとしても、一刀は足掻いてみせる。


「まだまだァ」


渾身の力を込めて、真下へ木刀を振り下ろす。

隼厳は愉快そうに目尻に皺を寄せると、腰を落とし下から木刀を振り上げる。


するり


「善き哉。二本目。」


腰を落としたまま、腕だけで剣を振り上げ、同時に左足を半歩引く。刀がぶつかる瞬間、左手を離すように力を抜いて受け流しが成立。私の刀は空振り、道場の床を強烈に叩く。


受け流しが成立したと同時、隼厳は腰を上げるだけで刀が頭上に構えられている。


『斬ッ』


逆袈裟に道着を斬られる。命が2つ喪われた印を刻まれた。ギリっと歯を食いしばる。目の前の相手の構えは、まだ終わっていない。ここに来て初めて殺気を感じた。


「終いの三本。奥義を伝える。」


隼厳の練り上げられた気が立ち昇り、いつの間にかその手には()()が握られている。


木刀では無い。

ギラリと輝く玉鋼の刃が、私の首に迫ってくる。


【瞬ッ


無意識下で発動を念じたスキルよりも速く


私の首に刃がめり込み、頸動脈を切断。


頚椎が折れ、首が宙を舞う。私の意識が途切れ、闇へと落ちゆく中


両腕が蠢くように感じた。






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