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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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夢想無限流

試合開始ッ


流れるままに始まってしまった、木刀を持っての試合。空気が破裂するような、気合いの入った掛け声が道場に響く。


「七段 片倉 春宗、参ります。」


目の前の男が名乗る。ついでに、私も名乗ろうとしたが、意識しないまま言葉が紡がれた。


「不壊の刃……?」


「どうして、それを……」


どうして、と言いたいのは私の方だ。旧き神の島、禍ツ神を倒すため共に戦った英霊がいた。

不壊の刃・片倉宗春。名前が似ているだけではない、見たこともないかつての英雄と雰囲気が似ていた。


「いいえ、急にごめんなさい。私は、帆世静香。()()でいきます。」


彼の者は、己が剣が折れても立ち上がり、最後まで戦い続けた武人である。世界は違えど、ここで出会ったのは運命なのかもしれない。


【蛇喰・英霊ノ力】


役目を終え、今はスキル:蛇喰・致命ノ毒に内包されてしまった過去のスキル。わたしのスキル操作を用いて、今一度顕現させることができた。子孫の顔が見たいのだろう、私の両腕に力が宿る。


タンッ


軽く地面を蹴り、しかし人体で再現出来る限界の速度で間合いを潰す。真正面から、真っ直ぐ刀を振り下ろす。ただそれだけの斬撃。


「う゛っ!」


春宗と名乗る男が、額に血管を浮かばせて木刀を受ける。真正面から力で受け止める、正直な剣を使う男だった。


ガァン! ガッガッガッガッ!



木刀がぶつかり、空気が揺れる。お互いに弾けた刀だが、一部の無駄もなく次の刃が振るわれる。相手を殺すためではない、ただただ真っ直ぐ、色々な型を正しく打ち込んでいるのだとわかる。


完全に受けてに回っている春宗の口から血が流れる。血が流れるまで歯を食いしばって、剣戟の雨を凌いでいるのだろう。

実際に私の筋力は、見た目を遥かに超えている。多分ゴリラと握手しても、泣かせる自信がある。

そんな私に、過去の英霊が力と尋常ならざる技量を授けてくれているのだ。楽なはずがない。


長いような一瞬の時間。20を超える剣戟を経て、私の両腕から力が薄れていくのを感じる。そう、もうそろそろ終わりなのね。


「春宗ッ!視ておきなさい。」


ーこれが、不壊の刃・片倉宗春よ。


全身に燃えるような力が駆け巡り、刀をぶつける。


バギリ゛ッッッ


2人の木刀が、その一振を最後に砕けて弾け飛ぶ。木刀とはいえ、たとえ岩を殴ったとしても折れはしない。職人が魂を込めて打った刀なら、尚更だ。そんな刀がへし折れるとすれば、それは人間を超えた相手と戦っている時なのだ。

そう、昔の禍ツ神を相手にしてもそうだった。刀が根元から折れたんだった。


じゃあ、どうする。背中からは、幼い子の悲鳴が聞こえていた。守るべき国の民が、自分を信じて立ち上がっていた。刀が折れた剣士が、じゃあどうするのか。不壊の刃は、その本懐は。


「剣道に入門は、また今度でいいわっ。」


折れた刀を右手に、すっと後方へ引く。同時に左足を踏み込み、腰を落として完全に半身へ。相手との距離を0へ潰し、開いた左掌底を地面と水平に構える。英霊の腕を型どった千蛇螺の籠手が、ピタリみぞおちへ合わせられた。


不壊の刃は、刀にあらず。その全身を持って最後まで戦った精神に宿る。


憤ッ!


最期の英霊の力を左手に集約し、春宗の体を道場の端まで吹き飛ばした。轟音と静寂。剣術道場への入門を申し出ていたが、さすがにこれは反則だろう。剣技も私の技術ではないし、無手での掌底を放ったのだ。


誰も何も言わない。私は、ツカツカと弟子たちの間を歩き、倒れる春宗へと歩み寄る。弟子たちがザザっと道をあけ、まるでモーゼのようにその道を歩く。


立ち振る舞い的にも、その技量実力的にも、この道場では相当上位の序列なのだと思うんだけど。みんなもっと心配してあげないの?


「春宗。大丈夫かな?」


壁にめり込むように倒れる春宗へ、手を差し伸べる。がしっと、意外と力強く握り返された。うん、大丈夫そうだ。


「お手合わせ、ありがとうございましたッ。」


立ち上がるなり、その巨体をピンと伸ばし、気持ちの良い一礼を披露された。私も、作法は分からないけれど感謝の気持ちを込めて礼を返す。


パン パン パン パン


少し間の空いた、しかし力強い拍手があがる。その音の主は、最も上座に座る、柳生隼厳からであった。


続いて、道場が揺れるほどの拍手が湧き上がった。おおおおおお……と慟哭も聞こえる。目の前の春宗の目には涙が一筋流れていた。


私の最後の手、あれは英霊の残り香があったのかな。


スーーーーー


柳生隼厳が手をかざすと、ピタリと音が止んだ。しかし、辺りに漂う熱気は隠しきれていない。


「帆世静香どの。良い剣を見せて頂いた。我が夢想無限流へ、ようこそ歓迎いたすぞ。」


「そして、片倉春宗。この折れた刀を持て。」


いつの間にか、柳生隼厳の手には先程の試合で折れた2刀4本になってしまった木刀が握られていた。


「この刀を見て、何を想う。」


「私の誇りです。師匠。」


「うむ。我が夢想無限流・柳生隼厳は剣を扱う術である。剣折れた貴様を置いておく訳にはいかん。」


「はっ。」


「今日からは、夢想無限流・片倉春宗を名乗るがいい。()()()()とする。」


オオオオオオオオオオオオオオ

オオオオオオオオオオオオオオッ!!!



今度こそ、割れんばかりの大歓声が響き、道場がビリビリと揺れた。夢想無限流とは、古き型を伝える流派とは異なる。古流から伝わりし最強の剣術を、より練り上げて己が剣術を作り上げる流派である。


夢想無限流・片倉春宗


今日、新しい夢想無限流が歴史に刻まれた。


じゃがのー


「じゃがの、儂が教えず免許皆伝というのも些か申し訳が立たん。」


「帆世どの、もうひと試合、よいかな?」


齢幾つともしれぬ男が、その眼光に黄金の光を灯して私を見ていた。




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