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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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お師匠さん

見慣れた黒塗りの高級車 が家の前に止まる。偉い立場になったものだ、運転手さんはいつもの品の良いおじいさんである。


車に揺られて、京の山道を進んでいく。人間国宝の刀匠が住む工房が見えてきた。


「おぉ~、帆世ちゃん。待っておったぞ。」


非常に稀な、刀匠スキル持ちの榊原老師が、わざわざ出迎えてくれる。白い玉石を踏みしめて、老師の元へ駆け寄る。


「榊原先生!銀爪ちゃんにはお世話になってます。」


「よいよい、鞘ができたぞい。」


今の銀爪は、白鞘という木の鞘に身を包んでいる状態だ。本来白鞘とは、刀にとってのパジャマみたいなものである。風通しが良く保存に優れている反面、造りは弱く衝撃に耐えられない構造だ。


一方でよく見る本鞘は、職人が精を出して創った外行きの衣装といえる。榊原老師が、私の銀爪にその衣装を着せてくれる。


パラコードで柄を巻き、純白の装いはそのままに鞘が象られている。美よりも機能性を重視した最新技術を結集した1品である。


「高そうですね、綺麗~」


「ハッハ、帆世ちゃんからはとらんわい。」


「今回、刀使ってみましたけど、大活躍でしたよ。こもじみたいに上手に使えませんけど、、」


実際、銀爪は素晴らしく性能を発揮した。ただ、私は刀を振り回すだけで十全に使えたとは言えなかった。


それならーーと老師が言う。


「こもじくんの師匠が京におるぞ。」


「おー、お師匠さん。」


「ちょっとアポとっちゃろ。」


上流階級の繋がりである。

こもじは中国に残ってしまったが、私だけでも伺っていいんだろうか。


「やぎっちゃん、元気しとるか。うん、うん、あー今うちの子がな、いやいや孫じゃないんじゃが……そう、帆世ちゃんゆー子がおってな。」


「そーかそーか、じゃあ向かわせるでな、優しくしたってくれよ。酷いことしたらお主のとこに刀造らんからな!お、おーそれじゃ、また。」


「帆世ちゃん、やぎっちゃんが面倒見てくれるっちゅーとるわ。お昼ご飯はうちで食べていき!おい、ばーさんや!」


( ๑❛ᴗ❛๑ )えへへへ



ご年配の方は、こちらが何か言う暇もなく、次から次に色々用意してくれる。

人間国宝がおじいちゃんとなると、出てくるものもナカナカ凄い。やぎっちゃんって誰?


かくして榊原邸にてお昼ご飯をご馳走してもらい、刀もあつらえてもらった。


はち切れそうなお腹を、なんとか車に乗せて。日が明るいうちに向かうのはやぎっちゃんなる、こもじのお師匠様の道場だ。


着くまでの数時間、お腹の中の消化に神経を集中させ、血液の足らなくなった脳みそがうとうとし始めた頃。


「帆世様、到着いたしました。」


低く、どこか安心感のある声が聞こえて、車が停車する。

やぎっちゃんなる人物の道場へと到着したのだ。


「柳生だったのね……夢想無限流・柳生隼厳(やぎゅうしゅんげん)。」


道場には夢想無限流と堂々と書かれていた。柳生という苗字が、剣術家にとって名門中の名門であること位は知っている。


広い敷地だ、入ろうか迷っていると、門下生らしき若い男が2人出てくる。


「帆世静香様でしょうか。お待ちしておりました。」


「はい...よろしくお願いします。」


「まずは道着にお着替えください。」


微妙に目を合わせてくれない。全身の筋肉が硬直したかのような、そんな2人に両脇を抱えられて道場へ案内される。こもじが着てそうな道着へと着替え、急かされるようにむかう。


扉の先には、ズラっと門下生が勢揃いしており、その上座に1人老人が座っていた。


柳生隼厳、その人である。数十人の門下生が、一様に目を向けてくる。威圧感が凄い。


「あのー、帆世静香です。剣術を習いたくて参ったのですが。()()()()お師匠様ですか?」


ザワザワ……

ザワザワ……


こもじの名前を出した途端、雰囲気が変わる。なんとなく、睨まれている気もする。居心地が非常に悪いんだけど、こもじ何したの!?


「儂が柳生隼厳である。」


「入門したくば、剣の腕を見せよ。」


すぅー。話全然通ってなくない?


困って立ち尽くしていると、ザザザーっと門下生達が道場のすみへと移動し、私の前に広い空間ができる。


どうぞ、とばかりに木刀を渡され、流れるままに立ち会いが始まった 。


「参ります。」


いや、来ないでください。未だに私が状況がいまいち飲み込めていないのを、君も気がついてるでしょう?


道場の隅に散らばる門下生は、チラリと老人の方へ視線を泳がす。その眼光に触れるや否や、私の方へ向き直って試合を進めようと押してくる。


あの老人が絶対君主のようだ。門下生に拒否権は無い、私にも拒否権は当然無い様子である。


そういう、無理やりな感じ嫌いなのよね。体育会系の上下社会も、否定はしないが属したくはない。


ハァーー


剣術なんて何も知らないんだわぽよ。

目の前の男は、ザワつく道場の中でも静かに真っ直ぐ見つめてくる。恥ずかしいぽよ。


いかんいかん、ぽよよ語が出てきちゃう。


私の心配はさておき、目の前には180cmはあろうかという巨体が、木刀を振りかざして立っていた。

死合開始である。そもそもこういうのは軽い竹刀じゃないのか。


ー試合開始ッ


多くの目が私を見つめる。流されるままに、始まってしまった。

(´・ω・`)こもじは、何もしてないっすよ。

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