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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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デルタ 其の3 

ファンタジーを書きたいんですけど。

どうしてミリタリー山岳戦に?

「いいか、静香。作戦を立案する上で大事なことは2つある。情報と奇襲だ。」


焚き火の火は小さく揺れ、薄暗くなったテントの中に影を映し出していた。机の上には簡易地図が広げられ、現在地から山を越えた場所に赤いバツ印が刻まれている。エリック隊長チームの拠点を示しており、チーム決めの後移動してもらったのだ。


レオンがテキパキと作戦立案に要する初歩から教示してくれる。デルタフォース、彼らほど適任な教師はなかなかいないだろう。

情報と奇襲、この二つを重視するというのは納得だ。思い返してみれば、邂逅で戦ったほぼすべての戦闘において、私は奇襲攻撃に頼り切っていたのだから。


「情報には2種類あると考えてくれ。」


レオンは指を2本立てて、話を続ける。当初の軽薄で嫌味ったらしい雰囲気は微塵もなく、そこには先達として私を育てようとする先輩の面構えがあった。


「一つは、“固定情報”。」

「地形、天候、敵の装備、戦術の癖——事前に把握できるものだ。」


「もう一つは、"流動情報"。」

「敵のリアルタイムの動き、通信、隠された戦力、行動パターンの変化。」


今日知ることができる情報と、明日リアルタイムで更新される情報の掛け算というわけか。

それも基本的な内容であり、納得である。


「レオン、ありがとう。固定情報に関しては、既にほとんど共有してるわね。地形に関して、一つ提案があるわ。」


「ケッ、日本人ってのはすぐにThank you だ。照れるぜ。」


「HAHA、レオンはすぐかっこつける癖があるからな。」


「うるせーよ、アイザック。それで、提案ってなんだ。」


頭の切れるレオン、ムードメーカーであり鷹揚なアイザック。二人のおかげで、これまで感じたことが無いような円滑で無駄のない議論が進む。日本人の会議はどーも長ったらしくてイライラするのよね、こういうスピード感は気持ちがいいわ。


「このウィンドウ、情報の伝達手段としては文句なしの高性能商品よ。デルタフォースでも使ってるんでしょ?」


「間違いない。日本人の発明品としては最高の商品だ、ジョブズが天国で泣いてらあ。」


「ちょっと()()()()()()してあげるわよ。」


≪共有≫


なんせ、そのウィンドウの開発元と毎日顔を突き合わせて研究してたのだ。私はこの世界で二番目に、ウィンドウに詳しい人間になったといえる。

ウィンドウに関する知識を共有し、さらに三人のウィンドウを高度なレベルで同期させていく。


「Oh God…とんでもない情報量だな。」


「お互いの位置情報、地形変化、消耗度合いまで1秒の狂いなく同期されるわ。」


本来であれば過剰にすぎる情報量だが、デルタに属する彼らにとっては垂涎の武器にかわる。

そのうえで情報のアドバンテージを取りに行くのが私の作戦だった。


「私のスキルの詳細を開示してあるわ。さっきも見せたけど、移動・回避に偏った構成よ。」

「移動するだけに限れば、新幹線よりも早く動いて見せるわ。特に障害物だらけの夜の山なんかね。」


「うん。静香の動きは恐ろしく早かった。俺、実は全く目で追えてなかったからな。」


アイザックが冗談めかして肯定してくれる。

いや絶対見えてただろ、私の動きに常にドンピシャの手を打ってきたのを忘れていない。


「このウィンドウに関する情報だけで、CIAが腰抜かすぜ。やっこさん、今抱えてる人員の半分を日本に入れてるんだぜ。内緒な。」


「これでも今月にもう一度アップデート予定よ。」

「って、そんなことは良くって。私、今からこのフィールドの情報を塗りつぶしてくるわ。」


私の提案した作戦は、こういうことだ。

まず、ウィンドウを使って3人の情報を共有する。こうすることで、顔を合わせていなくても会議が進行可能となる。

続いて、私が先行して山中を走り回ってマッピングを完了させる。戦闘開始は明日6時からだが、それまでの作戦会議に制限は無い。仮に相手チームが同様の手に出たとしても、私であれば逃げ切ることが可能だ。

そして、工兵であるアイザックが私のマッピングした範囲でトラップを作成し、地図をさらにアップデートしていく。随時更新される地図を見て、俯瞰的な作戦を立案するのがレオンの役目だ。


「うんうん、レオン、これいいんじゃないか?」


「ああ、こうして顔を突き合わせているより建設的だ。」


暗くなった山中を、スキルも駆使して駆け回る。私の通過した周囲がマップに登録され、漏れがあればレオンから指摘が入る。

同時並行して各種トラップをアイザックが仕掛けて回り、レオンとの作戦会議も行う。3人が3つの動作を共有しつつ同時に処理していくことで、通常では考えられない速さで準備が整っていく。これが情報的アドバンテージでもあり、相手の虚をつく奇襲にもつながる。


現状の議題は以下の3つ。

・こちらの誰にGPSを取り付けて、将とするか

・相手の将に応じた対応パターン

・事前に準備できるトラップについて


どれも、本職のレオンとアイザックを主体に組み立てるほうが良いだろう。

しかし、相手方にいる隊長が気がかりだ。こちらの手を熟知されていると、二人がぼやいている。こっちはこっちで、意表を突く作戦があればいいんだけど。



そうして、準備を終えてテントへ帰宅する。幸いなことに相手方と鉢合わせることはなかった。

話し合われた問題は、エリック隊長とこもじの単独戦闘能力が非常に高いことである。1vs1でアドバンテージが取れないことから、私たちは多対1の形にするか、距離を武器にするしかない。


エリックチームが散開して行動するなら、1人になったところを複数人で襲う。

集団で行動するなら、分断を優先しつつ遠距離攻撃を主体とする。


狙撃手と工兵を揃えている私たちは、広域で作戦を展開できるし、情報速度から連携を決めやすい。実力の拮抗したチーム戦は、先に1人を落とした方が勝つ。


英雄の戦場、私とこもじがかつてPTを組んで戦ったVRゲーム。

4vs4のチーム戦だったが、回線落ちか何かで1人いなくなるだけで非常に苦しい戦いを強いられたものだ。


そして翌日。開幕の合図とともにGPSアンクレットがお互いの将の座標を通達する。






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