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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
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デルタ 其の1 

3月某日、私は人生初の軍用輸送機の中でこの記録を記している。京都府航空自衛隊基地より出発し、陝西省(せんせいしょう)の山間深くに出現したダンジョンへと向かっているのだ。狭い座席に深く腰を下ろし、これから向かう地の情報を吸収する。WiFiが無くとも常に最新の情報が更新されるウィンドウは人類の歴史を確かに進めた発明に違いない。


「その人類の歴史ってやつも、滅亡と隣り合わせなんだけどさ。」


脳裏をよぎるのは、巫さんのいた世界の記憶。情報を共有されただけではなく、実際にその有り得た世界に一度足を運んでいる。

彼女の世界は、1ヶ月毎に出現する討伐種とダンジョンに対して、その全てに対処することができなかった。結果として世界に徘徊する魑魅魍魎の類がじわじわと増えていき、生存圏の縮小を余儀なくされていたのだ。


私の隣に座る大男は、2本の刀を大事そうに抱えて居眠りに興じている。邂逅の時と同じ道着を、少し着崩して楽な格好をとっていた。私自身、支給された特殊繊維のインナーを着用しているが、該当のように白衣を纏っている。この白衣は、例のナース服を素に、裁縫し直した一張羅である。


どうも、武器同様に衣服にも格というものが存在していた。激戦経てボロボロになったナース服だが、初めはハサミで簡単に引き裂けた繊維が、今では小型のハンドガンくらいなら貫通しないほどに強化されている。使い続けろ、ということだ。


かといって、半袖スカート姿で戦場を渡り歩く気はサラサラない。マントのように羽織れる、白衣は使い勝手がよかった。


さて、あと数時間後に到着するダンジョンの情報を整理しよう。


☆D1 奈落(ならく)獣喰(けものぐらい)

推定3層で構成されている。

上層:“狩場”。比較的危険度の低い、広大な山状区域。マッピング完了済、最短ルート徒歩にて2日の行軍要する。

主な敵対生物

・狼のような異形の群れ

→10-20程の個体で構成。知能が高く、リーダー格を優先して討伐するべし。


中層:“産声の洞”。円柱状に下へと伸びる穴であり、ダンジョンのコア部分。異形の獣を産み続ける、巨大な肉の繭が中央に存在する。しかし、その周辺には大型の生物が観測されており、初の死者を出してしまった。


下層:“饗宴の骨海”。産声の洞、最下層をドローンにて調査した記録。無数の獣骨が重なっている。それ以上の情報無し。


調査隊員一覧

デルタ第1特務部隊

隊長:エリック・ハウザー

工兵:アイザック・モレノ

狙撃:レオン・ヴァスケス

医師:リリー・ベネット


米陸軍が誇る対テロ特殊部隊、通称デルタフォース。

わずか1000人ほどで構成される精鋭中の精鋭部隊であり、幾度となく歴史を変えた実績を持つ。


通常では4人1組で活動し、近接戦闘等のほか、現地の語学に精通するなど頭脳面でも高い水準が要求される。隊員1人が、陸軍歩兵200人に匹敵する働きをすると言われる超人達である。


そして、隊員紹介には興味深い一文が記されていた。

「デルタ第1特務部隊は、全員が複数スキル保有者である。」と。



--------------------------------------------------------------------------------------------------------------------



雲を抜けるように下降した先に、即席の飛行場が顔を出す。

機体の振動が止まり、ランプが点滅する中、私は軍の基地に足を踏み入れた。深い山中に機材を運び込むことは難しいのだろう、そこには軍用テントが張られている。


テントの横で、火を囲むように4人の軍人が談笑していた。男3人、女1人。彼らが今回のパートナーである、デルタ第1特務部隊だろう。全員が完全武装しているというのに、まるで遠足にでも来たかのように気さくに笑っている。


そのうちの1人と目が合った。

金髪を短く刈り込んだ、やや痩せ気味の白人の男。彼は一瞬、私を値踏みするように見つめたあと、降格を歪ませる。


「Hey, アイザック!」

「俺たち、いつからツアーガイドになっちまったんだ?」


アイザックと呼ばれた黒人男性が反応する。唯一黒人である彼は、黒光りするスキンヘッドと、軍服がはち切れそうなほどに発達した筋肉が印象的だった。


「レオン、俺を巻き込むんじゃねえよ。」


「だが、そうだな……ツアーっていうなら、てめーらアジア人の方が詳しいんじゃねえのか?」


「まったくだ。"デス・キャニオン"とか"ファング・フォールズ"とか、たっぷり案内してやるぜ。」


HaHaHaHa——


あまり歓迎するという空気ではない笑い声が、空気を不快に揺らす。

考えてみれば、当たり前の反応ではある。世界屈指の精鋭である彼らに、何のゆかりも無い私達が突然加わるというのだ。戦場において、無能な味方は有能な敵よりも厄介である。


でもまあ、ジョークを飛ばすほどの人間味が残っていて頼もしいわ。

既に死人が出ているダンジョン攻略に、心が折れているのではと心配していたのだ。



「その位にしておけ。ガイドできるほどの仕事もできてねえだろうが。」


隊長の一喝に、二人が押し黙る。深い皺を刻み、金髪をオールバックになでつけた威厳のある雰囲気を纏った男だ。隊長に違いない。


「失礼した。私は隊長のエリック・ハウザーだ。そっちのひょろいのがレオン、禿げがアイザックだ。そして——」


「私がリリー・ベネットよ。リリーと呼んでくれていいわ。」


「どうも、ありがとうございます。帆世静香と申します。こっちの男の名前は、こもじです。」


(´・ω・`)ども。


隊長と握手を交わす。その右腕にある無数の切り傷が目を引いた。

4人部隊唯一の女性、医師資格を持っているリリーさんは、にっこりと笑うと歓迎のハグをしてくれた。姉御肌というのだろうか、包容力がある。



即席で組まれた6人。各々の戦力と役割を確認するところから作戦は始まった。

彼らはデルタとして長年ともに戦った絆で結ばれている。いつでもお互いの命綱を握りあえる素敵な関係だ。そんな彼らの中に、異物として私たちが入ったところで、邪魔にしかならないだろう。むしろ私達も二人で別行動するほうがマシとさえ思う。



そんな彼ら精鋭と手を組むために必要な儀式はなんだろうか。

今求められているのは、きれいに取り繕った、理路整然とした言葉の力ではない。もっと泥臭く、汗に塗れた肉体を介した言語で語り合った方がずっといい。


私が彼らに提案するのは、その手っ取り早い自己紹介である。


「3人ずつ2組に分かれて、模擬戦を提案します。」

「ダンジョン攻略に入るのは3日後の予定。それまでは問題ないはずよ。」


一瞬、空気が止まる。彼らの隊長エリック・ハウザーの瞳をまっすぐと見つめて提案する。

焚き火の炎が揺れ、世界最精鋭の軍人の顔が表に出てくる。彼らは訓練にも命を懸けるのだ、ぬるぬると平和ボケした社会で生きる少女には、到底理解できないだろう訓練を積んだ自負があった。


「とんだお遊びだぜ。嬢ちゃん、サバゲ―がしたいなら、もっと甘っちょろい奴を相手にしな。日本語で、オタクっていうんだったか?」


相変わらず、厭味ったらしく声を上げるのはレオンという男だ。こもじがイラついているのを背後に感じる。雲黄昏をチャキチャキ言わせるのは辞めてほしいものだ、なんで私は味方の方に神経をすり減らしているのか。


「いいじゃないの。入団テストみたいで懐かしいわ。」


それとなく応援してくれるのは、先ほどのリリーさんだ。アイザックが、隊長に目配せして指示を仰ぐ。


「承知した。実に我々向きと言える。」


そう言って隊長、エリックが地面に何かをぶちまけた。

刃渡り30cmほどのサバイバルナイフと、拳銃、そのほか様々な道具が地面に散らばる。これを使って、戦えというわけだ。


拳銃に装填されるのはペイント弾だが、従来の物と比較して火薬の量が違う。素肌に当たれば、簡単に肉が裂ける威力だ。


ナイフのほうは、刃が潰される代わりに特殊インクが塗られている。当然、こちらも刃が潰されているだけでまともに受ければ怪我すること間違いない。


ルールは単純。3VS3に分かれ、山中で戦う。それぞれ王駒を決めて、その人物を殺されたら負けだ。

人選にあたって、私とこもじは別々のチームに入ることにする。


「それでは私、帆世静香と。エリック隊長で、交互に人を選ばせてもらいます。」


「エリック隊長のチームには、こもじが入るので、私から先に選びますね。」



そうして出来たチームは……

(´・ω・`)ナイフより、日本刀がいいスね。


( ๑❛ᴗ❛๑ )ノリで決めたけど、どうやって戦おうかしら…

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