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英雄の戦場~帆世静香が征く~  作者: 帆世静香
第二章 現実の過渡期を過ごしましょう。
31/163

英雄の帰還

本日より第2章です。

≪邂逅が達成されました。≫


≪源流世界【代表】の権限を上限解放しました。≫


≪達成者:帆世静香 こもじ≫


花粉が飛びかう3月の上旬。冬が最後の抵抗とばかりに、関東に雪をつもらせていた。黄と白の粉に、都会が嘆きの声をあげる。

そんなある日、人類で最も多忙な男の叫び声が部屋を満たす。


「うわっ!なんだこりゃ……」


[国連危機対策理事会]座長 真人鷹平 その人である。

国連は従来6つの主要機関を設置していたが、結局地球の平和に寄与していたのか疑問の声が尽きない。しかし、今では真の意味で人類を救う盾となっていた。


日本に現れた巨大すぎる羆のような生物を皮切りに、人類には様々な試練と異能が与えられるようになった。1個人、1国家では到底対処困難である試練に対して、人類が一丸となり団結する必要が生まれたと言える。

そして、全ての人にメッセージを届けるウィンドウが、その団結を可能なものとした。強制的に通達されるメッセージを契機に、真人が新しい組織を作ることを宣言する。


そうして出来た組織が、国連に新しく設置された、7番目の主要機関。国連危機対策理事会:通称UCMCである。


UCMCの座長は、日本人であり、人類の代表を名乗る真人鷹平氏。そして、加わるメンバーは196の全ての国から選出された精鋭である。


彼らの職務は、大別すると以下の通りだ。


【討伐】

1ヶ月に1回、凶悪な()が出現する。

→早急に討伐する必要があり、その発見と討伐が目下最優先事項である。


【領域】

1ヶ月に1回、ダンジョンが出現する。

→発見が困難な、異界へと繋がるダンジョンの管理権取得を目指す。


【進化の箱庭】

日本京都府に出現した、100層からなるダンジョンである。

→危険性は無いが、攻略を推進している。


【クエスト】

日々無数に出現する。

→危険性は無いが、1国家で対処できないものを請け負う。


【異能者発掘】

稀にスキルを発現させる者がいる。

→優先的に雇用し、必要な組織へ派遣する。スキルを用いて悪行を為す場合の対処を検討する。



この全ての業務は、真人の保有する膨大な情報を元に行われる。末端の地域組織→国家→国連へとウィンドウを用いた迅速な組織体系を確立した。


当初、座長を強く希望したアメリカや、参加辞退を拒絶した幾つかの国と大いに揉めた。しかし、協力しない場合はウィンドウを剥奪するという真人の宣言により争いは終息に向かった。まだ燻っている問題は多々あるが。


人類に対して明確に不利益な主張は受け入れられない。強制的な、人類種からの村八分である。表立って逆らえる者など、そうは居ない。


しかし、100億人の人類を纏めあげるには大変な苦労があった。元来ヘスティアHDという会社を経営していた若き敏腕社長であったが、何もかも規模が大きい話だ。

海千山千、老獪な人間達が利権や国家の誇りのために主張するのだ。一見正論にも聞こえる弁論と争うことも難しい。


真人含む、ヘスティア幹部陣へ暗殺者が仕向けられた事も数しれない。UCMCは京都府を本拠としており、その為に作られた施設は核攻撃にも耐えうる要塞である。真人はその中でも、進化の箱庭の1部を使って生活していた。ダンジョン内であれば、管理者権限によって敵の排除に非常に都合が良い。


進化の箱庭は100のダンジョンが連続する造りだが、1フロア全ての敵対生物を排除することで、真人がその人物を転移にて帰還させることができる。


その権能を利用して、ダンジョン内に侵入した敵対する人間であれば一瞬で排除できるのだ。そして人間しかダンジョンに入ることはできない。


話が逸れたようだ。

目下、中国山間部にて発見されたダンジョンの攻略会議が難航していたのだが、そこに全く新しい情報が飛び込んできたのだ。


「邂逅……帆世?こもじ?」


脳内に鎮座する情報体へと接続し、邂逅とは何か探る。人類の代表が集まるクエストだと……そもそも代表は自分じゃないのか!?


管理者権限の上限解放というのも、これ以上無いほどに重要な情報だ。とにかく、もう何日も不眠の脳みそが飛び起きる程の事態であることに間違いは無い。


「緊急で理事会招集だ。全案件より優先しろ。」


「帆世およびこもじ、この2名の座標を送る。大至急、この会議に参加して頂くよう迎えにいけ!」


()()()()()()()()、だ。」


「何!?帆世静香の位置情報を更新する!一瞬で座標が変わった……?」




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー




「帆世様、こもじ様。このような事情で、お二人に至急ご参加頂きたく伺った次第でございます。」


約1週間に及ぶ、長い長いイベントを終わらせた私は、久しぶりの日本の地を踏んでいた。


服はボロボロのナース服。手には愛用の木の棒、分厚い魔導書、アクセサリーサイズに縮小している2本の十字架、そしてフニちゃん先生謹製の千蛇螺の籠手。

そして拾い集めた羆の毛と爪と牙。


ざっとシャワーを浴びて、お風呂につかる。

疲れが染み出ていくようである。


手頃な服に着替えると、ウィンドウに映し出される[こもじ]の座標を見つめる。


【空間転移】


( ๑❛ᴗ❛๑ )ぽよちゃんですよ。


(´・ω・`)うわっ、急に来るのやめるこも。


こもじの快い歓迎を受け、その家を占拠しにきたのだ。ここで自身の能力を改めて確かめるつもりであったが……


家に着いてすぐ、高級な黒塗りの自動車に家を囲まれる。白髪の品の良いおじいさんが現れ、「とりあえず来い。」という内容の非常に長い話をするに至った。


うーん、行ってあげてもいいけど。

隣のこもじをみると、めちゃくちゃ嫌そうな顔で刀を撫でている。あ、これ刀の手入れしたいのと眠たいので葛藤してる顔だ。お偉いさんの会議に出席する、その選択肢はどうも入っていないようだ。


「わかりました。それでは、()()()向かいましょう。」


「誠に御礼申し上げます。ですが、我々としましては、こもじ様にも……」


「必要な情報は私が持ってるのよ。それより、いいの?行くなら早くなさい。」


(´・ω・`)こも。らっきー。


そうして、私は真人の待つUCMCの本部へと通された。京都にあるんだ、めちゃくちゃ近かった。今後はこもじ家に入り浸りね。


やたらと設備が厳重な施設だ。ウィンドウをかざさないと、全てのドアが開かない仕組みになっている。これは、実際に襲われたのね。色んな仕組みが大急ぎで作られたとばかりに、過剰とも言えるルールの混在がちらほらと見える。苦労してそうな代表だこと。


その施設最奥、【進化の箱庭】の内部に進む。

ここは興味深いわ。存在自体は、巫さんから共有された知識で知っていた。近いうちに挑むことになるだろう。


そして、国連危機対策理事会と仰々しく書かれた扉を開く。

随分と大きなホールに、びっしりと人が居る。


「帆世静香さん、だね。私は真人鷹平と申します。ここの座長を務めさせていただいています。」


人の良さそうな男が挨拶してきた。

名前は知ってるぞ。人類代表、真人鷹平。


どうしたものか、と思っていると中央の席へ案内される。会場全員の視線が私へとつきささっている。

そんなに好意的じゃないのは、気のせいではないだろう。

一同を見渡し、私は状況を理解していく。そもそもUCMC自体は、邂逅以前から散々ニュースされていたのだ。真人の居場所については一切知らされておらず、まさか京都にいたとは、と驚く。


壇上へ登り、挨拶をする。


「えー、帆世静香です。邂逅をクリアしてきました。急に呼ばれて来たのですが、いささか居心地は良くないですね。」


ふん、とばかりに態度を大きく見せる。案の定、すぐに釣れた。


「Hey hey hey!なんだねその態度は!」

「私は呼んでないぞ!忙しいんだ!」

「説明責任を果たすべきだろう!」

「邂逅とはなんだね!説明しろ!」


会場が蜂の巣をつついた様に騒がしくなる。その様子をじっと見つめる。先程の真人は頭を抱えて唸っている。まあまあ、となだめようとする人が3割。周囲と相談してるのが4割ほど。あとは、アメリカやヨーロッパ系の人達3割程がキレ散らかしている。


この場での最高権力者である真人であっても、集団を完全には制御でてないみたいね。大きな組織だもの、膨らませすぎ?

UCMCは、確かに人類にとって重要な組織であり、救世の役割を担っている。だが、覚えておいてほしい。自分に正義が有ると思っている人は、簡単に理性のタガが外れてしまう。


人類を担う組織が、暴走する正義と化すのは好みじゃないわね。


ちょっとずつテンションが上がっていくわ。


加減がむずかしいのよね。こういうのは。


私は無言で壇上を降りる。そして、ツカツカとアメリカ代表の座る席へと近寄る。


「なんだね君は!私は合衆国代h……」


唾を飛ばす白人の胸ぐらを掴んで、宙に浮かせる。

スパンッ


音だけよく鳴るように、ビンタをくらわせた。

無言の蛮行に、会場が呆然とする。


そして間髪入れず、会場を支える太いコンクリート状の柱を渾身の力で殴りつけた。


ドゴォ!


先程のビンタが霞む威力だ。柱に大きなクレーターを形成する。この場の力関係、お分かりか?

用済みとなった男を捨て、再度壇上に上がる。


「改めてまして、帆世静香です。もう少し冷静にいきましょ。この世界は、皆さんが考えているより危機に瀕しているのです。」


私の声がよく通る。恐怖政治をしたい訳では無い。

だが必要なことだ。


「このような組織ができていることは、今後の世界を考えて、非常に素晴らしいことだと思います。」


「私は真人さんの持っている情報を補完できる可能性があります。邂逅にまつわるレポートも順次作成しましょう。以後よろしくお願いします。」


その後の会議は非常に有意義な時間となった。

個人の利害、人類の利害、自由にすべき権利と、優先されるべき公共性。

その境をはっきりさせることで、初めて私達は会話をすることができるのだ。


情報は限りなく正確に、そして漏らさず伝えていく。

巫さんの情報や記憶は、私たちに降りかかる危機の対策にこれ以上ないほど有用だ。


そして、現状人類に足りない物を伝える。

それは恐らく個の力。私が出会った人達と、その世界が今度どうなるかを予想して話す。


たった今暴力を持って場を支配した私が、その暴力が決定的に足りていないのだと突きつける。


核?ミサイル?


どうやってダンジョンに持ち込むというのか。

ダンジョンには手で持っているものしか運ぶことはできない。


今まで人類が畏怖すら覚えていた兵器が通用しない可能性を伝える。禍ツ神を相手に、通常の物理攻撃など意味が無い。


目を(さま)せ。


手を取れ。


私たちは、()()だぞ。


おいアメリカ。お前の祖先は先の見えない海を渡り、未開の大地を拓いただろう。切り拓くべき地が新たにできたぞ。


目を背けるなベトナム。超大国を相手に戦い抜いた根性が、今1番大事なのだ。主役たれ。


日本、ロシア、モンゴル、イギリス 、ノルウェー、モロッコ、ニュージーランド、ツバルやナウル君たちも国だろう。


目につく国々の名前をあげる。これまで人類を連綿と続けてきた祖先をあげる。


その人類を次へ繋げる作戦を立てる。


最低限、ここにいる全員の心が燃えないとだめだ。

その炎が全世界に伝播しないとだめだ。

戦争だ。戦いだ。人類の存亡をかけているのだ。


戦うすべがない?君は何をしている人なのだ。


農民?結構。人を支え、一朝一夕には成し得ないクエストを達成するのが役目だ。


学者?結構。人類の住む世界は変遷の時だ。解き明かす者が必要不可欠である。


そもそも生きること自体が戦いだったはずだ。それを忘れていられたのは、人類史でもここ100年の話にすぎない。各々の役割は全て尊い。


喧喧囂囂(けんけんごうごう)の会議は日を跨ぎ夜を越し太陽が昇るまで続いた。




完全にやっちまったーー。新鮮な外の空気が、私を正気に戻す。

集団を前にテンションが上がった。疲労と不眠は、脳内に過剰なアドレナリンを充満させる。


こう、いい感じの気分になった私は各国の人間を焚き付けまくって会議場を後にしたのだ。


思い返すだけで、頭を抱える発言のオンパレードだ。

世界史が好きだったのがそれを助長させる。何を言っても大丈夫だし、みたいなパワーバランスではじめたこともいけなかった。


こうなっては、謎に盛り上がったエネルギーをそのまま真人に擦り付けることにするしかない。

彼は優秀だった。会議を通しても非常に理知的に進行する。だから大丈夫。うん。


私は人類をまとめる会議とかもう出たくない。

純粋に自分の強化に勤しみたい。

多分私がまとめられる数は、4人PTが最適なのだ。それ以上は難しい。


お互いに死なない、死なせない程に突出した実力を持つ4人を集めよう。私とこもじ、あと2人だ。


私の目標は、人類の救済などではない。そんな大層な役目をもった人間じゃないのだ。

私は救いたい人だけ救う。救える人だけ救う。救いたい人だけは必ず救う。


目下、世界を渡る術はない。正確にはできなくはないが、相手方の座標がわからない。


待っててね。巫さん。


つい先日別れた友を思い、私は帰宅した。



(´・ω・`)こもー。

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