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【代表】は貴方です 其の2

 日が傾き始め、森の奥深くにひっそりと佇む(たたずむ)別荘が夕闇に包まれようとしていた。

 ヘスティアHDの社長として忙殺される日々の中で、ここは俺が唯一気を抜ける場所だった。とはいえ、完全なプライベート空間という表向きの名目の裏には、別の意味もある。


 ——会社が巨大になるにつれ、絡んでくる利権とともに厄介な人間も引き寄せる。


 そのため、この別荘は単なる隠れ家ではない。

 「最重要機密拠点」として機能するよう設計されている。といえば聞こえは良いが、休日も快適に安全に仕事をするための場所だ。社長になってから365日、常に頭の片隅には仕事が居座っている。

 物理的に堅牢な建物、外部と完全に隔絶された独立サーバー、会議室を併設した管理棟。

 電気・水道・通信インフラも整備され、一年間の籠城すら可能な環境が整っていた。

 この場所を正確に知るのは、俺の最も信頼する右腕——中西聖一だけだった。

 食材を買い込み、数日間の籠城にも耐えられるよう準備を整えたころ、駐車スペースに黒塗りの車が滑り込む。


 ヘスティアのロゴが入った黒いパーカーを着た小柄な男と、対照的に高級なスーツをパリッと着こなした精悍な男が降りてくる。


「……で、社長。こんな緊急招集、いったい何があったんです?」


 パーカーの袖をまくりながら、どこか恨めしそうに問いかけてきたのは斎藤達爾(さいとうたつや)

 次世代送金システムの開発というヘスティアの命運を握る新規事業を一任している取締役の一人だ。

 今やつの部署は、ようやく完成したシステムのキックオフの真っ最中だ。呼び出されたことに対する不満が、顔にありありと出ている。


「よほどのことなんだろう、斎藤。我々が集まるのは、いつだってそういう時だ。」


 そう返したのは、スーツ姿の男——諸葛隼人もろくず はやと

 経営戦略室のトップであり、政府や外国との交渉を任せられるヘスティアの顔だ。 普段は飄々としているが、こういう場面では驚くほど冷静に能力を発揮する。

 ちなみに、彼は「もろくず」と読む苗字を「しょかつ」と呼べ**と常日頃から主張しているが、見た目はどちらかといえば趙雲の方ではないのか、と俺は思う。


 これに加えて、懐刀の中西聖一が揃った。

 俺たちは、大学時代からの悪友でもある。




________________________________________





 俺は息を整え、今伝えるべきことを精査する。

 何から話すべきか?

 まずは、最も簡潔で、最も重要な一言——


「まず、お前たちには信じられない話をすることになる。だが、俺自身の体験として、これは紛れもない事実だ。」

 三人の視線が俺に集中する。


「俺は"人類"の【代表】に選ばれた。狂ってはないぞ。」

 ——静寂。

 数秒間の沈黙の後、斎藤がため息をついた。


「……まあ、社長らしいですね」

 俺は思わず睨みを利かせる。


「どういう意味か、後でじっくり聞かせろよ。」


 斎藤は肩をすくめながら、軽く手を上げる。

 ……いい。こいつらには、このくらいの反応の方が合っている。

 俺は続けた。


「この世界には、俺たちが知覚できていない"おおいなる情報体"が存在する。」

「【代表】とは、識別コードみたいなものだ。【代表】のタグを付けられた俺に、その情報体がアクセスしてきた。」

「何がきっかけなのかはわからんが、人類の進化を促す為の超常の介入だ。」


 一気に話すと、斎藤が手を上げて制止する。


「話が突拍子無さすぎます。先ほどの話を事実であると前提して…まず、"代表"というのは社長だけなんでしょうか?」


「ああ、それは間違いない。俺がしないといけない、と強く感じている。」

 斎藤は頷く。とりあえず話を進めようという意思を感じる。


「何をするんですか?介入、というのは?」


「近く、この世界の常識が変わることになるだろう。極論だが“UFOが来て、エイリアンがドバドバ侵略に来る”とか、ベタな映画が現実に起きてもおかしくない世界になる。その世界で人類が絶滅しないように、無理やり進化しろと尻を叩く仕事だ。」


3人とも押し黙る。真っ向から否定したり、オウム返しのような質問をしないあたりはさすがだ。ただし、真っ先に疑われるのは俺の精神疾患だろうが……


「社長の妄想かどうかは、証明する方法はあるんでしょうか。UFOを目の前で呼べるとか。」


「ここまで話して申し訳ないが、現状なんの権限も無いんだ。」


全員から、どうすんねんコイツ……みたいな目で見られる。


「そんな目で見るのはやめてくれ……俺だって困ってるんだ。だからな、今、俺が唯一できる異能を見せてやる。」


社長の仕事って知ってるか?部下に仕事を投げることなんだよ。さあ、一緒に悩んでくれ。


 ——≪共有≫


俺の中に存在している情報を図書館と表現したが、その中に、3人を招待する。不必要な情報に関しては、あえて隠した。全てを一度に開示してしまうと、情報の波に飲まれて廃人になってしまう可能性が高いからだ。

直後、部下たちの目が見開かれた。上手く共有できたみたいだな。俺の時と比べて、随分調子が良さそうじゃないか。

 

「……山道を爆走する車の中で、PC作業をやらされた後のような気分です。」(中西)

「濃いカフェインだけを栄養に3徹した時のような……腸がひっくりかえろうとする気持ち悪さですね……。」(斎藤)

「これは信じざるを得ませんね。労災要求します。」(諸葛)


2人が既にグロッキーだ。諸葛は平気そうな口調だが、その顔は青い。数時間前の自分を思い出し、俺は苦笑しながら頷く。


「意識した情報が無限に出てくる。情報を遮断しろ!とかオーダーすると、ある程度融通が効くぞ。」

どうも、膨大な情報を管理している存在がチラつく。ここ数時間の体験から、部下たちにアドバイスを送る。


「少しでも落ち着いたら風呂と飯だ。体を休めつつ、脳内を整理しておけ。明日、再度会議を開く。この敷地から出るなよ。」

 部下たちが席を立つ中、俺は諸葛を引き留めた。


「諸葛、お前は少し残れ。」


 朝から飯食ってないんですよ、と小言を挟みつつも、彼は聞きたかった疑問を投げかけてくる。


「社長、この話はどこまで公開しますか?」


―ズバリだ。既に状況を理解したようだ。極秘に3人を集めた理由を語る。


「ちょうどその話をしたかったんだ。」

おおいなる情報体ってやつは、かなり強引な方法を取ろうとしている。

この世界に()()()()を与えて、上手くいく世界があれば良い、位に考えているのだろう。まるで子供のする実験のように、気軽に世界を扱っている。

その刺激の大部分の情報が空白だ。隠されているわけではなく、決まってないのだろう。しかし、見えている部分だけでもとんでもない試練が待ち受けているのだ。エイリアンというのも、ただの比喩ではない。


「試練、始まってますよね。」


「ああ、そうだな。俺は一体、何をしたらいいんだ...」



《試練:敵対生物の討伐》

達成条件:敵対生物の討伐。

敵対生物:黒銀ノ羆 1体。

特記事項:初試練達成時、100RP付与。


意図的に制限された情報。しかし、【代表】に植え付けられた本能が絶えず警鐘を鳴らしているのだ。

現在閲覧可能な試練

●【邂逅】

対象者:近隣世界の代表たち

1ヶ月後開始


●【討伐】

1ヶ月に1体、人類に敵対する者が生成される。


●【領域生成】

1ヶ月に1つ、領域が生成される。


●【進化の箱庭】

100階層からなる特殊空間。挑戦者は常に観測されている。


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