水辺の封印洞窟 其の8 旧き神の島
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邂逅イベント。
私達はそう呼んでいる、摩訶不思議な人類への試練の1つ。地球という星に生まれた人類が、滅亡と誕生を繰り返した果てに6つの世界線に分岐収束した。
【源流世界】代表真人/侍こもじ/ナース帆世
【巫女世界】代表巫
【幽世界】 代表ハラフニルド
【宗教世界】代表サンティス
【魔法世界】代表リアーナ
【鬼世界】 代表冥月
それぞれの世界から集められた人々。出会っては戦い、手を取り、別れる。
当初考えていた単なる殺し合いの試練ではなかった。こうしてかけがえのない友人を二人もつくることができたのだから。
(もしかしたら、サンティスやリアーナとも…)
いや、サンティスは論外か…。私達は人なのだ、明るい面があれば暗い面だってある。
そうして始まった邂逅、怒涛の4日間。その4日目にあたる昨日は、全員拠点で過ごした。パーティリーダーとして休むと言い張ったからだ。
ちょっと話がそれちゃうんだけど、身体強化Lv7は体だけが強化されたわけではないらしい。従来の私の体がペットボトルくらいの容量とすると、今の私はバスタブくらいの器に拡張されているんじゃないだろうか。なにが?うーん、存在としての格が。そこに、強敵との戦闘によって多大な経験が注ぎ込まれている。どうしても、急激な変化に何かがズレているような感覚があるのだ。各々、会得したスキルや道具の調整などを行い、1日休むことにして正解だったと思う。
そして、5日目の早朝。これまでにない、凄まじい咆哮が世界を揺らす。
グゥルオオオオオオ゛オ゛オ゛——
全員が飛び起きる。声の震源地とは距離があるが、巨大な何かが暴れまわる凄まじい轟音が拠点に届いていた。私は近くの木を駆け上がる。緊急時だ、壁だって走ってやる。
「全員注目——ッ。湖の対岸、距離約5㎞先。巨大な黒い獣と、青い龍?のような獣が激しく交戦中。」
それは激しい戦闘だった。5㎞の距離があっても、その姿がくっきり見えるほどに巨大なヒグマのような生物が、文字通り木々を吹き飛ばしながら暴れる。コイツは、テレビで見たことがあるぞ!?
対する青い龍は、いわゆるドラゴンというよりは中華的龍と呼べるその生物は、さらに巨大だ。陸上では維持が難しいほどの大質量の体で、時折ヒグマすら力で押している。
どう見ても怪獣バトルだ。人類の邂逅が霞んでいる。
「皆さん!あちらの青い方…おそらくこの地の神です。」
「黒い方は、理由不明だけど私たちの世界の試練として現れたやつよ!」
緊急の作戦会議。何をするべきなのか、話し合う。何ができるのかは、いったん捨て置く、わからないものを論じている暇はない。
巫さん曰く。土着の“湖の神”というのは、本来領域最奥の主とは別の存在である。この領域を支える舞台装置のような存在であり、管理者不在のまま神が戮されると非常に不安定な力場となり危険である。
(´・ω・`)「つまり、あの龍に勝ってほしい、と。」
「はい。もしくは…この領域自体の管理権を取得して、巻き込まれる前に邂逅イベントを終わらせてしまうのがいいかもしれません。」
ぶっちゃけ、私達は邂逅をクリアして巫さんを、元の世界に帰すことが目的なのだ。あんな怪獣バトルに参加したいわけではない。
「じゃがノ、あの黒い方相当に強いようじゃノ。」
幽影を飛ばして戦いを見ているフニちゃんがそう言った。みたところ拮抗しているようだが、徐々に戦闘場所が変わってきている。ヒグマに引きずられるように、湖の神が森の奥へと動いている。水中戦なら比類なき龍でも、陸上では勝手が違うのだろう、激しい戦闘のなかでその体に傷が刻まれる。
「まず確定事項。私たちは何よりもダンジョンクリアを目指して、巫さんをもとの世界に帰す。」
これに関しては4人で意見が一致する。戦略的勝利は巫さんの帰還だ、次に決めるのは戦術の話。
最大の問題点は、ダンジョンクリアを目指すとして、誰がその対象者になるのか。邂逅の性質を考えると、クリアはその場の1人ずつを対象にしている可能性が高い。
つまり、クリアする場に巫さんが絶対にいてほしい。
「ねえ、巫さん。唯一の経験者としての予測でいい。この場合のクリアってどういうのだと思う?」
「十中八九、湖中央の社でしょう。そこで領域の核を探すために、仕掛けがあると思います。千蛇螺のような主との戦闘もあるかもしれません。」
「管理権の取得が、邂逅のクリア条件みたい。つまり、管理権を用いて転移なり帰還できるんだと思う。そしたら、その管理権はどうなるかな?」
「なるほど…転移帰還というのは、領域攻略時によくある仕掛けです。そうか、それで帰れるのか…」
「その場合、領域の核は当たり前ですがその場に残ります。形状は様々ですが、そこに触れることで領域の管理を行う仕組みですから。」
なるほど。ボスを倒した人に、目に見えない管理者権限が付与されるわけではなく。いわゆるコックピッドにいる間は操縦できるよってことか。
じゃあ、決まりね。
「作戦を伝えます。まず二手に分かれて、龍支援と領域攻略の同時進行を行います。よい?」
異論なし。緊急時には、独裁でよいのだ。数分で作戦が組みあがっていく。
【龍支援組】ハラフニルド&こもじ
⇒怪獣バトルにも食らいつける戦闘力。万が一、神が死んだ場合に一時的にでも魂を固着させられるかもしれない保険。そして、フニちゃんが帰ると湖を渡れない。
【領域攻略組】巫&帆世
⇒巫さんは固定。ギミックにも戦闘にも補助ができそうな私がサポート。最悪、巫さんさえ帰せば満足だ。
「よーし、決まり。クリアしたら真っ先に巫さんを帰すわ。だから、四人で顔を合わせるのは、これでしばらくのお別れよ。」
(´・ω・`)「頑張ってくださいっス。元の世界でも上手くいくといいスね。」
「な二、この籠手で魂は見えるワ。まずは、帰ることを優先するのじゃヨ。」
「皆さん…本当にありがとうございます。大切に、します。」
巫さんの声が震えている。湿っぽくなちゃったな。
「今度は、私達の方から巫さんやフニちゃんの世界に会いにいくわ!それじゃ、フニちゃんお願いできる?」
くいっと指を動かすと、幽影の体が膨らみ、逆翼の姿となる。
「気を付けてノ。」
「フニちゃんもね!」
私と巫さんを連れて、逆翼の影が天に飛び立つ。眼下では山のような怪物が今なお暴れていた。
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【源流世界】に遣わされた最初の試練。
参照権限無し——
次話は、古の社の攻略です。




