水辺の封印洞窟 其の5 迷宮洞窟
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フニちゃんの示す先。そこには、"蠢く山"があった。
近づくほどに、その正体が明らかになる。
それは、蝙蝠の糞に群がる巨大なムカデやヤスデの群れだった。ここまで散々戦ってきた虫達だったが、すでに人間よりも大きいサイズとなっている。ヤスデのほうには対して攻撃手段がないので脅威ではないが、ムカデは非常に強力な顎と毒を持っている。
そして、自然と山の頂点…否、その天井を見上げる。そこに在ったのは、牛ほどの大きさの蝙蝠が1匹。
ж水洞の下級蜈蚣ж
洞窟の奥に生息する地下性ムカデ。目が退化し、体色は白い。長い触覚と、巨大な顎を持ち、その体躯に不釣り合いなほど強力な毒を持つ。
ж水洞の下級馬陸ж
洞窟の奥に生息する地下性ヤスデ。目が退化し、体色は白い。腐食特性をもち、どんなに硬い装甲であっても時間をかけて溶かして食べる。
ж水洞の逆翼ж
水洞の逆翼は、夜の捕食者である。永遠の寿命を誇り、自らの体よりも大きな獲物さえ襲うことがある。逆翼の食べ残しや排泄物により洞窟内の生態系が形成される。
(´・ω・`)「蝙蝠だったっスね。」
「なによ。それよりも、アレって倒す必要あるのかな?」
「先に進む道、どこにあるんでしょう。」
第2層、洞窟迷宮のボスは巨大な蝙蝠みたいだ。色々疑っていた自分が恥ずかしい。
しばらく考えたが、そもそもあの蝙蝠がどうやって餌を取りに行っているのか、という疑問があげられた。というか私が言った。
「ねぇ、あの蝙蝠が餌を取りに行くのを見てたらわかるんじゃないかしら。まさか、私たちが来た道を戻ったりしないでしょ。」
「名案じゃナ。どうもココには蛙の魂が漂っておル。あの湖に繋がる道があるはずじゃノ。」
「蝙蝠には、ここにいる魂共が大層憑りついておるワ。離れていても、見逃しはせんヨ。」
大きく展開しているウィンドウを見る。刻々と更新されている時間は、深夜を通り過ぎて3日目の早朝に突入していることを告げる。
既にダンジョン攻略に入ってから、湖の1層と洞窟迷宮の2層を踏破してきたのだ。適宜休憩は挟んでいたが、ここらで待つのも良いだろう。
私たちは、少し通路を戻って、洞窟の天井から水が滴っている場所で休むことにした。地面を流れる水を飲む気はしないが、天井から流れる水はキレイだった。
「しかし、ここは背中が痛いノ。どうにも、体が休まらんワ。」
洞窟の中は、壁がゴツゴツとしていてもたれ掛かることができない。それに、地面と触れる面積が増えると、体温を奪われるのだ。そういう時は、良い方法がある。
「フニちゃん。こっちこっち。座ってみて。」
そう言って、座るフニちゃんの背中に、ぴとりと私の背中を合わせる。二人で背中合わせになって座る形だ。お互いの背中はすべすべしているし、温かい。さらに、普段はじゃまなので着ていなかったエプロンを外套のように二人ですっぽりとかぶる。
「はぁ~、これは良いノ。ぽよちゃんヤ、しばらく背中を借りるゾ♡」
体格的に、私とフニちゃん。そして、こもじと巫さんがペアになる。
しばらくの休憩。お互いに、お互いの世界について語り合う。
フニちゃんの世界も、巫さんの世界も、旧い歴史はだいたい一致している。どの世界にもキリストは生まれていて、西暦の概念もあった。そういえば、サンティスもおもいっきりキリスト教徒だったけど、別世界なんだ。
異なるのは、人類が不思議な力に目覚めたところからだ。フニちゃんの家は長らく死者蘇生の研究を大真面目に行っており、それが成功したらしい。言い伝えでは、“その禁術は世界の意思に触れ、封印されるに至った。” その禁術を研究し、全く新しい概念として再び形にしたのがフニちゃんだ。世界の意思は禁術を封じる代わりに、魂という概念をより強固なものとして世界の摂理に加えた。それを使いこなし、数百年。今ではこうして代表に選ばれ、膨大な知識を流し込まれ、どうにか意識を保てるようになったと思ったら邂逅というこの地に転送されてきたという。
巫さんは、古くから神に仕える家の生まれだ。神というのは土着神らしく、善良な存在もいれば悪霊や怪異と呼ばれるものも存在する。そうした神と語らい、その力を借り受けることができる巫女さんだった。遡ること20年、当時の当主だった男性が人類の代表に選ばれ試練が始まる。土着神の力を借り、当主自ら最前線で戦うことで人類は繁栄していた。しかし、毎月世界中に現れる試練という敵に、人類は生存圏を失っていく。最悪だったのは、当主が最上の神と呼ばれる神にある願いをして、その後亡くなってしまう。貴重な戦力を失った人類は衰退し、権能を受け継いだ巫さんを中心に日本を最後の地に防衛している。
“世界の意思”や“最上の神”というのは、私達で言う“大いなる情報体”と同じものだろう。そういう世界線をまたいで人類に干渉している超常のなにかがいることは分かっている。
皮肉なことに、なんの特殊な力を持たなかった私たちの世界は、地球を覆いつくさんばかりに繁栄している。結局、試練が始まってしまったが、どういう差があったのだろう。
いつしか会話は終わり、2人ペアのうち1人が警戒。もう1人がうとうと休むことにした。フニちゃんの体温が気持ちいい。
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「ム、動きそうじゃノ。」
邂逅が始まって3日目の、すでに夕方。洞窟の主である、水洞の逆翼が動き始めた。
慎重にその巣へと向かう。
「いたわね。ようやく夕方になったし、お食事の時間かしら。」
「そういうのは、蝙蝠と習性が変わらないのですね。」
巨大蝙蝠は、ばさりとその翼を広げ、天井の裂け目へと飛んでいく。そうか、そこから外に通じているのね。
(´・ω・`)「これ、どうするんスか?俺、あそこまで行く自信無いっスよ。」
こもじの言う通りだ。天井の裂け目を飛んで通過するには、人間はあまりに無力といえる。私だけなら、気合で壁を走れるんだけど、その間に襲われたらどうしようもない。
「つまり…そういうことじゃノ。」
フニちゃんがどや顔で私の顔を見ている。あっ、そうか。考えてみれば、その手しかないわけだ。
「フニ先生!あの蝙蝠をヤッちゃえば、もしかして飛べますか!?」
「ぽよちゃんヤ、私を誰と心得る。可能じゃノ ^^」
キャッキャと二人で手をとる。結局蝙蝠を討伐することになったが、休憩したせいかモチベーションは高い。それに、彼はお食事に出かけて今は留守だ。
「私が居ながら、留守にするなんて…楽しくなってきた。」
こういう自由度の高いゲームでこそ、私は楽しく遊ぶことができる。ましてや、ここは現実だ。なんでもアリなのだ。
「こもじ~。お仕事よ。」
(´・ω・`)「…っス。」
主が帰ってくる前に準備を終わらせないといけない。忙しくなってきた。
(´・ω・`)「モンスターより人型いないんスかね。」