水辺の封印洞窟 其の4 迷宮洞窟
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質問が徐々にたまってきたので、邂逅イベント終わった時に質問返しします。
戦いの余韻が、まだ微かに残っている。静寂の広場に、黒き蛇の亡骸が横たわる。だが、その肉体はただの残骸ではなかった。
「できたワ。皆、早く集まるノ。」
ハラフニルドが、静かに、しかし嬉しそうに告げる。
私たちは顔を見合わせながら、彼女のもとへと向かった。あたり一面がやけに奇麗になっている。蛇の死体が、飛び散った血が無くなっている。
だが、その代わり。フニちゃんが私たちに4体の蛇の皮を見せる。
私は、それを見た瞬間に、"尋常ではない風格"を感じた。生きているとさえ感じる。漆黒の1mばかりの亡骸が、その鱗1枚1枚が濡れたように月光を反射させている。
「……これは?」
私は、ハラフニルドの顔を見つめる。
彼女は、にやりと微笑んだ。
「唯依ちゃんなら、わかるじゃろウ?」
巫唯依は、皮の気配をじっと感じ取りながら、小さく息を呑んで答える。
「……試練、もしくは領域に現れる強大な生物を倒すことで、稀に特別な素材を得ることがあります。」
「その素材で作った道具には、異能と呼べる力が宿るのですが……」
「ですが、こんなに…」
巫さんの手が震えている。モンスタードロップみたいなものだろうか。当たり前だが、死体はポリゴンになって消えないし、素材どころか丸っとすべてが残る。そのなかでも、レアドロップと呼べる素材があるらしい。
フニちゃんは、その説明をうんうんと聞きながら、説明を続けてくれる。
「試練に限らんゾ。」
「人も動物も、死ぬ時に魂の一部をこびりつかせるのじゃが、今回はそれを手伝ってやったのじャ。」
フニちゃんの説明は、彼女の世界の理である。しかし、その言葉を借りるならば“魂をこの世にとどめ、その肉体に固着させた。”ということだった。
それも、通常であれば魂の欠片にすぎないものを、フニちゃんの力で100%引き継いでいるという。
「"千蛇螺の魂を宿した武器"を作れるってことね?」
ハラフニルドは、にっこりと微笑んだ。
「その通りじゃノ。誰か、手を出してミ。」
「さ、こもじ。出番よ。」
(´・ω・`)「っス…」
ハラフニルドが、こもじの差し出した左手を取る。
その細い指と、ごつごつとしたこもじの手は対照的だった。関係ないか、ごめん。
黒く滑らかな皮は、まるで生きているかのようにしっとりと手に馴染む。
——そして。
"動いた。"
皮が蠢く。千蛇螺の残響が、そこにまだ息づいているかのように。
皮はこもじの左手首から先へと這うように広がり、やがて形を変える。
そのまま、ぴたりと手袋のようにフィットした。
こもじは、無言で指を動かす。
拳を握り、開く。
異常なほどにしなやかで、まるで元から自分の皮膚だったかのように馴染んでいた。
「こもじの分は終わりじャ。次はどっちにするかノ?」
(´・ω・`)「籠手っすね。かたじけないっス。」
初の防具獲得に、こもじは嬉しそうだ。
「はいはーい。私もほしいです!フニ先生!」
めちゃくちゃほしい。私はフニ先生としばらく相談し、指先から両腕全体を薄く纏うように作ってもらう。異能は、固着している魂と使用者の意思が交流する過程で徐々に芽生えるらしい。私次第ってことだ。
「よろしくね♡」
ちゅっと新しい装備にキスしてあげる。千蛇螺の籠手が微かに脈動した。
しばらくして、巫さんとフニちゃん自身もその手に千蛇螺を宿していた。
これは、ただの防具じゃない。私達4人の“繋がり”を微かに感じた。
一つの魂を、複数の体で共有していた千蛇螺の特性のためだろうか。それとも、再会したいと願う気持ちのせいだろうか。ちょびっとだけ、感傷的な気分になる。お揃いに装備、かっこいいじゃん。
「じゃー、検証するわよ!こもじ~」
(´・ω・`)「っス…」
私とこもじが軽く組手を行う。こもじの突きをあえて受けるが、微塵も痛くない。続いて、斬撃。
キキィンッ——
さすがに居合を試す気持ちにはなれなかったが、雲黄昏の1刃を無傷で防ぎきる。残り数十匹の時点でも、私の攻撃を弾いたのだ。それをたった4人分に凝縮したその力は、計り知れない。それに、しなやかに伸びるおかげで、全く邪魔にならない。うん、気に入った。
「私は形を整えただけじゃからノ。各々、後で本職に誂えさせるといいワ。」
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奇麗な夜空と、静かな湖面に囲われた1層とうって変わって、私達は洞窟の中を進んでいく。もともと、洞窟にはいったんだけどね。
湿った岩肌、僅かに滴る水の音。
かすかな風が吹き抜け、暗闇を何かが蠢く気配がする。
広い場所と違い、ここではこもじが先頭に立った。頑丈だし。
洞窟の中は、当然のことながら真っ暗だ。都合よく光る苔なんて生えていない。
私たちは暗闇でも相当に目が効く。少々の光源があれば、十分に見えるだろう。私とこもじでウィンドウを可視化させ、めいいっぱい大きくしてみる。
思った通り、その明るさによって周囲をなんとか見渡せた。さらに、巫さんの光る結界、フニちゃんが倒したモンスターの魂を無数に周囲に漂わせることでも光源を確保できる。みんな、便利だね。
(´・ω・`)「敵襲っス。」
先頭を歩くこもじが警告を発する。微妙に緊張感のない声だが、いつもそうだ。
薄い明りに姿を見せるのは、1mほどの巨大なムカデが1匹と、30㎝ほどのヤスデの群れ。さっきから細長い敵とばかり戦っている。毒属性というのも被っている。
「こもじ、よろしく。」
言うより早く、こもじが足元で首をもたげるムカデを斬り飛ばす。即座にムカデが蠢き、切り離された胴体が癒着するが、こっちはフニちゃんの仕業だ。
ムカデが暴れまわり、周囲のヤスデをすり潰していく。数分で敵の群れは、フニちゃんの軍門に下った。魂を還元された彼らは、フニちゃんの命に従って、ぞろぞろと洞窟の奥に先行していく。
枝分かれした道も、フニちゃんには手に取るように分かっているらしい。止まることなく、どんどん先へ進む。
だんだんと異臭が鼻についてきた。湿った酸っぱいにおい、これは蝙蝠の糞のにおいだ。
1㎞ほどは進んだだろうか、次第に蝙蝠の糞が目立つようになり、同時にムカデ達の数も増えている。有機物が少ない洞窟では、蝙蝠の糞が彼らの栄養源なのだ。
そんな過酷な環境に、4人の有機物が侵入してきたのだ。そりゃ、おいしく映るだろう。必死に攻撃してくる。
頭上に気配。
ガンッ——
天井からも容赦なく襲ってくる。全身が白くなり、触覚が発達した異形の生物たち。光が無い環境で、目が退化した地下性生物が四方八方から襲ってくるのだ。
しかし、頭上には巫さんが結界を張ってくれている。その結界が彼らの毒牙を防ぎ、私とこもじが斬り伏せる。
死せる虫達は、フニちゃんによって短い仮初の生を授かる。便利なガイドさんだ。
この2層の役目は、この迷宮性だろう。複雑な地形は、攻略に大変な時間を要し、光源の燃料や体力を消耗させる。四方八方から迫る異形は、一匹一匹は脅威ではなくとも神経をすり減らされる。嫌な設計だ。
しかし、正しい道をフニちゃんが教えてくれる。不意打ちは巫さんの結界が防いでくれる。目に入った獲物は、こもじが一瞬で亡骸にかえる。
あれ、私、さっきから仕事してないような…。
「皆、そろそろじゃノ。送った虫共が一様に喰われたワ。ぽよちゃん風にいうと、ボスじゃヨ。」
歩くこと半日。淡々と攻略を進めていた私達は、ようやくゴールに近づいたようだった。
ねぇ、みんな。ナニが出てくると思う?
(´・ω・`)「蝙蝠じゃないっスか?道中出てきてないし。」
「領域最奥の主、と呼んでいますが、特異な能力を持っていることが多いです。今回は、こもじさんの言うように蝙蝠でしょう。」
「蝙蝠じゃノ。故郷にも沢山おったが、厄介じゃナ。」
みんな口々に蝙蝠だと予想する。まあ、間違っては無いだろうけど…なんか露骨に蝙蝠の存在を強調してきた道中が臭うのよね。ああ、その、怪しいって意味よ。くさいのは臭かったけど。
「聞いといて悪いけど、敵を断定する先入観は怖いわよ。さ、気を引き締めていきましょう。」
嫌なダンジョンですね。




